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家守綺譚

 梨木香歩の作品から。以前読んだ「村田エフェンディ滞土録」とシンクロしているお話です。
村田エフェンディ滞土録

家守綺譚
梨木 香歩/新潮文庫・新潮社/2006

 時は100年ほど前。綿貫征四郎は駆け出しの物書き。湖でボートを漕いでいる最中に行方不明になった親友・高堂の家を管理しつつ、そこで生活している。高堂の家で綿貫は様々なものに出会う。季節の草木、不思議な生き物、そして死んでしまった高堂までやってきて…。

 梨木作品のいいところは、不思議なものを自然に、さらりと、ずっとそこにあったように書くところだと思う。不思議なものを大げさに扱わず、空気のようにそこにあることを教えてくれる。普段、私たちが気付かないだけで。そんな梨木作品のいいところがこの作品にはあふれている。亡き友・高堂の家で暮らす綿貫。高堂の家には四季折々の自然があふれている。庭に美しい草木・花々が植えてあり、さらに家の周りの自然も豊かだ。しかし、その自然が、現実を越えたいきものたちが、高堂の家へ、綿貫へ様々な想いを抱いてやってくる。さらに死んだ高堂までボートに乗ってやってくる。でも、それでドタバタする…のではなく、とにかく"自然"なのだ。高堂や隣の家のおかみさん、山寺の和尚、そして飼い犬のゴローがさらっと説明を入れてくれるからかもしれない(ゴローはしゃべりませんが)。はじめは驚いていた綿貫も、いつの間にか高堂の家の空気に馴染んでしまっている。この何気なさがいい。


 美しく、清楚で爽やかな自然と、人々と、いきものと、日本語。華美なものはあまり感じられない。あるのはささやかな美しさと、独特だけれども親しみやすい空気。高堂ら不思議な登場人物の個性も強烈なはずなのに、その空気で淡くなっている。時折高堂が見せる、"死んでしまったものの憂い"も、重苦しいのだけれどもこの空気のおかげで淡くなっている。生きている綿貫、死んでしまった高堂の間にあるはずの壁や隔たり。特に最後で、高堂が死んでしまった訳が明かされる部分。その隔たりはとても大きいはずなのに、小さくて済んでいるように思えるのもこの作品全体に漂う空気のおかげだと思う。

 私の身の回りの自然は、綿貫たちのいる世界のものとはちょっと違う。100年も経ってしまえば同じ日本であっても変化は大きいし、地域的な違いもある。それでも、我が家の庭や道端の草木、刻々と変わる空と風と空気、雨や川の水の流れをひしひしと感じていたいと思う。綿貫が見たように、自然の細やかさ、美しさ、はかなさを文字だけでなく、この身で感じ取りたくなる。梨木作品の言葉の美しさ、丁寧さ、優しさのおかげだろう。

 読書の秋にぴったりな作品だと私は思います。今の季節にオススメします。

 あと、この作品に出てくる植物の画像をまとめたサイトも見つけました。参考にどうぞ。
家守綺譚の植物
by halca-kaukana057 | 2007-10-08 22:30 | 本・読書

好奇心のまま「面白い!」と思ったことに突っ込むブログ。興味の対象が無駄に広いのは仕様です。


by 遼 (はるか)
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