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この鍵盤の向こう側

 ピアノの練習をしながら、考えたことがある。私にとってピアノを演奏することって、何なのだろうと。

 きっかけは、音楽を楽しんでいる人々を見て、私も音楽で楽しみたいと思ったから。ブルグミュラーを弾いていた友達、「クインテット」のアキラさんたち。聴くだけでも楽しいのだが、自分で演奏できればもっと楽しい。私もやってみたい。そのちょっとした感情がきっかけだった。

 そして子供の頃に練習嫌いで辞めたピアノにもう一度向かった。独学でも、自力でも近づいてみたかった。だんだん指が動いて、その曲の世界に少しでも触れることが出来た瞬間の感覚がやめられない。そこにたどり着くまでが辛いけど、それも己を鍛える試練だと思う。学ぶことも多い。テクニックや作曲家のエピソード、楽典などなど。ただ美しいだけじゃない。心を揺さぶられる秘密が曲の中にある。なかなか理解できないこと、習得できないことも多いが、最初から分かってしまったらそれはそれで面白くないので、このぐらいでいいと思っている。



 だが、ふと思う。私はあるひとつの曲が弾きたいのではなくて、その曲を通して音楽の世界に浸りたい、のではないかと。それぞれの作曲家たちが作った音楽の世界。音楽については素人である私だけれども、その世界を旅したいと思う。作曲家たちが言葉に出来なかった感情を託した曲に触れることで、彼らの人生・生き方・哲学に触れてみたい。そして、その曲にこめられた感情は、その曲を作った人だけの感情とは限らない。人類の歴史の中で繰り返されてきた日常と喜怒哀楽を、先人たちは文章や絵、音楽などの形にして表現し、未来に伝えてきた。その断片のひとつである楽曲に触れることで、人間の思想や感情、歴史にも触れることが出来るんじゃないか。それは今の私にも繋がっている。私と誰か過去の作曲家は全く別の時代・国に生き、違うことを考えて生きてきたけど、似たようなことを感じていたのかもしれない。美しい景色やモノに出会って感動し、親しい誰かを亡くして哀しみ、誰かに恋をしてときめきを覚え…そういう感情の根底にあるものは人類にとって普遍なのかもしれない。だから、過去の誰かが書いた(描いた)作品に触れて「美しい」「楽しい」「悲しい」「切ない」…と思う。その先人を動かした感情を、私も持っているから心を揺さぶられるのではないか。楽曲を通して、先人が体験したことを私も体験しているような不思議。それはその先人が体験したことと全く同じではないけど、楽曲を通して蘇ってくるような気持ちになる。


 だから、私にとってひとつの楽曲を演奏することは、"目的"ではなく"手段"ではないか。ある楽曲が弾けるようになることが"目的"じゃない。そこは私の目指しているゴールじゃない。その楽曲にこめられている感情と、楽曲を通して伝えたいことを表現する"手段"だと私は思う。言葉では表せないことを考え、伝えるベースとなるものであり、人間の感情を形にするひとつの方法。でも、楽曲が"手段"だからと言って、それを軽んじている訳ではない。その楽曲があってこそ、気がついた感情や想いがある。そして、その楽曲にこめられている感情を表現するためには、しっかりとした基礎や技術も必要。基礎や技術、楽曲理解が足りないせいで十分にその曲にこめられたものを表現できず、楽曲を台無しにしてしまうから。

 私にも、弾きたい曲はある。だが、その曲を弾けるようになることがゴールなのか、これまでモヤモヤを感じてきた。ただ「弾きたい」と言うのは楽。それを弾いて、どうしたいのか。これまで考えてこなかった。

 楽器を演奏して食べて生きている、プロの演奏家はそうはいかないかもしれない。でも、私のような趣味のアマチュア(しかも独学)なら、そんな考えを持っていてもいいかと思う。

 この鍵盤の向こう側にあるもの、この楽譜に繋がっているもの。それを自分に繋げるものが、音楽であり、楽曲であると思う。これまでモヤモヤとしていたゴールが、おぼろげながら見えてきた。


【追記】
はてなブックマークでのコメント、どうもありがとうございます。リンク貼っておきます。
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by halca-kaukana057 | 2007-10-29 22:06 | 奏でること・うたうこと

好奇心のまま「面白い!」と思ったことに突っ込むブログ。興味の対象が無駄に広いのは仕様です。


by 遼 (はるか)
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