人気ブログランキング |

春になったら苺を摘みに

 いつの間にか梨木香歩フェア開催中です。今回は梨木さんの初めてのエッセイを。

春になったら苺を摘みに
梨木 香歩/新潮社・新潮文庫/2006



 以前梨木作品のいいところは、「不思議なものを自然に、さらりと、ずっとそこにあったように書くところ」と書いた。不思議なものを大げさに取り上げず、そこに前からあって、私たちはその存在に今気付いただけのようにさらりと書く。それは梨木さん自身が、不思議なものに対して特別な見方をせず、理解できるもの・受け入れられるものとしてとらえているからなのかもしれない。このエッセイを読んで、そんな梨木さんの思考の内側に触れた気がした。

 梨木さんは学生時代をイギリスで過ごし、ウェスト夫人の家に下宿していた。ウェスト夫人の家には世界各国から様々な境遇の人が下宿しにやってくる(この下宿が「村田エフェンディ滞土録」のディクソン夫人の下宿に良く似ている)。例えその人が迷惑なことをしてウェスト夫人自身もその人の態度に参っていたとしても、ウェスト夫人はそれを受け入れる。
理解はできないが受け入れる。ということを、観念上だけのものにしない(230ページ)
ウェスト夫人の生き様を真似しようとしても、なかなか実行はできないだろう。だから、「観念上だけのものにしない」強さと優しさが際立つ。

 この世界には想像を超えるもの、理解できないもの、頭に来るもの、近づきたくないもの…そういう自分とは別の世界に置いておきたいものが数多く存在する。そういうものから受けるダメージは大きいので、なるべくなら近づきたくない。ただ、そこには受けたほうがいいダメージも存在する。例えば自分が避け続けている問題の根幹とか、厳しいけれども甘えを気付かせてくれる言葉とか。戦争や宗教上の対立、差別の問題もそれに含まれる。私たちはそれにどう向き合っていったらいいのだろうか。対話を重ねても理解できず、武力衝突に繋がることも多い。そんな「理解できない」時は衝突するしかないのか。理解できなくとも、同じ立場に立ったことはなくとも、味方に出来なくても敵にしないでそっと隣にいることは出来るはず。そっと隣にいて、ちょっと言葉を交わし、お茶でも飲んで同じ時を過ごす。会話が弾まなくてもそれでいい。対立しないで側にいることが出来たのだから。それがウェスト夫人の立ち位置だろう。

 このエッセイを読んでいると、色々な人に出会いたくなる。旅に出たくなる。観光地を回る観光旅行ではなく、人と彼らが暮らす国・町に出会う旅を。
by halca-kaukana057 | 2007-11-04 22:12 | 本・読書

好奇心のまま「面白い!」と思ったことに突っ込むブログ。興味の対象が無駄に広いのは仕様です。


by 遼 (はるか)
カレンダー
S M T W T F S
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31