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ドリトル先生と秘密の湖 (上・下)

 ドリトル先生シリーズ第10作。上・下巻に分かれています。

ドリトル先生と秘密の湖〈上〉
ヒュー・ロフティング/井伏鱒二:訳/岩波書店・岩波少年文庫


 月から帰ってきて、ドリトル先生は月のメロンを育て、不老不死の薬の研究をしている。しかし、メロンはうまく育たず、研究も全く進まない。落ち込んだ先生は、研究を諦める。そんな先生をなんとか励まそうと、トミーとオウムのポリネシアは、アフリカで出会ったノアの箱舟の時代から生きているカメのドロンコに先生を会わせようと考える。ドロンコが今どこにいるか、スズメのチープサイドと妻・ベッキーはアフリカに飛び、ドロンコのいた秘密の湖は地震で地形が変わってしまっていたことを先生に伝える。ドロンコは、湖の底に埋まっているかもしれない…。ドロンコを助け彼の話を聞くため、先生一行は再びアフリカへ旅立った。


 この物語に出てくるカメのドロンコは、「ドリトル先生の郵便局」の最後の方に出てきます。上巻ではアフリカへ旅立ちドロンコを助けるまで、下巻ではドロンコの見た有史以前の物語が語られます。

 このドロンコの物語は、新約聖書の「ノアの箱舟」のお話がベースになっている。大洪水が起こることを知らされ、箱舟を作り家族や動物たちを乗せるノア。しかし、ドロンコは洪水が起こる前に親切にしてくれた奴隷の少年・エバーと美しい声の奴隷の少女・ガザを助けるために箱舟を降り、2人を助け安住の地を求めて旅をする。基になった「ノアの箱舟」のお話に負けないぐらい壮大。エバーとガザが動物の奴隷になることも。「千の風になって」で知られる作家・新井満さんによる解説を読むと、第9作「月から帰る」(1929)を書いた後、ロフティングは物語を書かずにいた。「秘密の湖」が出版されたのは1947年。18年もかかっている。その長い休筆・執筆の期間は、第2次世界大戦と重なっている。第2次世界大戦で傷つけあう人間たちを見て、その警鐘としてロフティングは「秘密の湖」を書いたのではないかと、新井さんは書いている。月シリーズでも、人間(巨人のオーソ・ブラッジ)と動物・植物たちが平和に暮らしている様が描かれている。ロフティングは人間も動物も関係なく、仲良く平和に暮らせる世界を望んでいた。それを、ドリトル先生の物語の中で模索していたのだろう。もし人間が動物の奴隷になってしまったら、世界を動物が支配したら…。そう仮定して、言いたかったことをドロンコや彼の妻・ベリンダに託していたのではないかと思う。


 この物語でドロンコ以上に大活躍するのが、オウムのポリネシアとロンドン・スズメのチープサイド。2羽とも素晴らしい道案内役になっています。しかし、両者相性が悪く、事あるごとに軽口を叩き合う。実際は仲がいい…のかな。2人ともウィットに富んだ言葉で言い合う。楽しい。ドリトル先生シリーズには、こんな賢く話し上手な鳥が他にも出てくる。数学家でドリトル一家の参謀でもあるフクロのトートー。「郵便局」で出てきたツバメのスキマー。この「秘密の湖」でドロンコと一緒に旅をしたオオガラス。鳥に注目してこの物語を読むのも面白い。

 最後、ドロンコとベリンダがエバーとガザと別れるシーン、そして話終わったドロンコが洪水で沈んだマシュツ王国の宮殿を見つけるシーンでしんみり。世界を武力で支配し、その宝物を奪ってきたマシュツ王。彼の宝物を見て、持って帰れば大金になると言うアヒルのダブダブに対して、ドリトル先生がこう言う。
この宝石には、血がついておる。
(263ページ)
なんと重い言葉だろう。

 この「秘密の湖」を書いた後、1947年にロフティングはこの世を去る。ラストがしんみりしているのは、そのせいでもあるのだろうか、なんて考えてしまった。
by halca-kaukana057 | 2008-07-17 08:19 | 本・読書

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