人気ブログランキング | 話題のタグを見る

ドリトル先生の楽しい家

 ドリトル先生シリーズもいよいよ最終巻。短編集として、ロフティングの死後まとめられ出版されました。

ドリトル先生の楽しい家
ヒュー・ロフティング/井伏鱒二:訳/岩波書店・岩波少年文庫
 
 ドリトル先生シリーズでは、各所に短編のようなお話や、動物たちが語る経験談が語られる。この短編・小話が面白い。ロフティングはこういう小さなお話を書くのが得意だったのではないかと思われる。ドリトル先生という大きな枠組みの物語を彩り、スパイスを与える沢山の短編。短いお話の中で、動物たちは生き生きと活躍し、彼らなりの視点で世の中を、人間たちを見ている。その鋭さと楽しさがいっぱい詰まっているのが、この最終巻です。


 お話は犬たちのこと、鳥たちのことなど。ドリトル先生の周りではいつも動物たちが巻き起こす楽しい「事件」が起こる。特に「船乗り犬」と名探偵犬・クリングの事件簿は飛びぬけた面白さ。船に乗り、船乗りと共に生活していた犬のローバー。そのローバーが船に乗っていた頃起こした事件と、ある一人の船乗りの少年との物語。前巻「緑のカナリア」のピピネラと窓拭き男と同じように、犬の言葉を全部正確に理解できなくても、動物と心を通わすことは出来る。信頼と絆が強ければ。再びそう感じた。一方「動物園」で出てきた名探偵犬・クリングも再登場。ドリトル先生の家の前で、男が一人倒れていた。意識を取り戻した男は、金を盗まれたと言っている。男を気絶させたのは誰なのか、盗まれたという金はどこへ行ったのか。そして事件の真実は…。怪事件の謎を次々と解いてゆくクリング。ドリトル先生は探偵小説としても楽しむことが出来たのです。クリングの捜査の腕・洞察力はベルギーで警察犬として働くうちに身に付けた。もし人間が警察犬の言葉を理解できれば、解決する事件も増えるんじゃないかと思ってしまう。


 さらに、うじ虫の大冒険とドリトル家にやってきたある子どものお話。うじ虫の話は、さすがロフティング。冒険ものは得意です。一方、これまでドリトル家に新顔の動物がやってくるのは良くある話だったのですが、これが動物ではなく人間だったら…というのが「迷子の男の子」のお話。ドリトル先生も動物たちもお手上げの騒動を巻き起こす迷子の少年。ドリトル先生にとっては、動物よりも人間と心を通わす方が大変なんだろうなぁ。


 以上、これでドリトル先生シリーズは最後です。動物の言葉を理解し、コミュニケーションできたらという夢を実現してしまったドリトル先生の大冒険もここで幕を閉じます。冒険ものであり、月へ行ってしまうSF要素もあり、ファンタジーでもあり探偵ものでもある。子どもたちがこれから読むであろう様々な文学のジャンルを広く扱い、文学への第一歩として楽しむことも出来る。また、一般的には児童文学と括られていますが、大人が深読み・更なる空想をするにも充分な面白さと深さがある。しかも、書かれたのは第一次世界大戦~第二次世界大戦の頃。読み継がれてきたのには元々の面白さもあるし、特に日本では井伏鱒二の名訳もある。ずっと後世に残っていって欲しい、私も語り継ぎたい物語のひとつだと感じました。

 これで最後と書きましたが、ブタのガブガブの番外編もあります。それはそのうちゆっくりと
by halca-kaukana057 | 2008-08-14 20:49 | 本・読書

好奇心のまま「面白い!」と思ったことに突っ込むブログ。興味の対象が無駄に広いのは仕様です。


by 遼 (はるか)
カレンダー
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31