2005年 09月 03日
麦ふみクーツェ
「麦ふみクーツェ」(いしいしんじ、理論社)
(私が読んだのは新潮文庫版)
いしいしんじの作品は、以前「プラネタリウムのふたご」を読みました。ファンタジックな世界を、きれいな言葉で描いているなという印象を持ちました。
猫の鳴き声のうまい「ねこ」少年は、幼い日のある日「クーツェ」という麦踏みをしている不思議な男と出会う。それ以来、何かのたびに聞こえてくるクーツェの足音。音楽にうるさい町の吹奏楽団のティンパニストの祖父、素数にとりつかれた父、用務員さん、目の見えないボクサー、チェリストとその娘などさまざまな人と関わりながら、音楽の道を志す。ねこや人々に降りかかる毎日は決して優しいものではない。それでも、音楽は鳴り止まない。
「プラネタリウムのふたご」と同じく、ファンタジックな世界をきれいな言葉で描いているのは変わりませんでした。ストーリーはより暗い意味を持ち、不思議さが増していますが。
この作品の登場人物たちは、どこか「へんてこ」です。その「へんてこ」について、ねこが音楽の師としたチェリストがこう語ります。
へんてこな人間は目立つ。だからいろんなひどいものに狙われる。へんてこな奴は“ひとり”で生きていくために、自分の技を磨かなければならない。へんてこさに誇りを持つための唯一の方法だから。
私も、よく「変わってるね」と言われます。他の世代の人から見たらそれほど変わっていないかもしれないけれど、同世代の女の子から見ると「変わっている」。私自身も、そう感じます。この部分を読んで、ほっとしました。
物悲しい雰囲気が全編に広がっていますが、どこか落ち着くところがある作品でした。
by halca-kaukana057
| 2005-09-03 20:44
| 本・読書