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2010年 05月 04日 ( 1 )

小説 日本婦道記

 山本周五郎作品は、入院中も読んでました。


小説 日本婦道記
山本周五郎/新潮社・新潮文庫

 千石の食録をとる武家の藤右衛門。彼の妻であるやす女は病に伏せ、息を引き取った。通夜は半通夜にして、夜は仏間には息子たちしかいないはずなのに、読経の声が聞こえてきた。読経をしていたのは…。そして、藤右衛門が知った妻の生活ぶりとは…を描いた「松の花」他11編が収められています。

 どの作品も、武家で暮らす娘や妻、姑など女性たちを描いています。武家の暮らしは、上級であっても厳しい。城主の死などで突然仕えていた藩が取り潰しになり、行き場を失ってしまったり、武士同士のいざこざに巻き込まれることもある。大きな事件が無くても、定めの多い武家で暮らすのは容易ではない。そんな武家で、夫や子ども、主君のために力強く、優しく、りりしく生きる女性たちが美しい。

 自害した夫の遺志を継ぐため、そして息子を立派な武士に育てるため懸命に働く「みよ」を描いた「箭竹(やたけ)」。突然離縁されたものの、離縁されても嫁ぎ先が自分の家であることには変わりは無い。正体を隠し姑を見守る「不断草」。そして最後に収められた「二十三年」には、誰かを慕い自身を捧げることへの想いの強さと哀しさを感じずにはいられませんでした。

 どれも、歴史の表舞台には立たない女性たちの、いつもの暮らしを描いています。何か困難があっても、信念を貫いて乗り越えてゆくのも日常であるかのよう。日常なのだと思います。男性だから…女性だから…という言葉を耳にすることがよくありますが、この作品を読んでいると性別は関係ないと思った。性別は身体的・社会的・精神的に与えられた役割であって、人はその役割の中で何を信念とするか、何を成し遂げたいのか、どう生きていたいのかを貫くことが、本当に大事なことなのではないかと。そして、その生き方を貫いている人は、時代が異なっていても美しく、カッコイイ。この本のどの女性たちも凛としていて、現代的に言うと「カッコイイ」です。

 ちなみにこの作品、第17回直木賞に推されるも、周五郎が辞退したことで有名です。直木賞を辞退したのは、後にも先にも周五郎だけ。選考委員の菊池寛と仲が悪かったからという説もあるらしいですが、読者の声こそが賞だという内容のことを言って辞退したのは、周五郎らしいと感じます。
by halca-kaukana057 | 2010-05-04 22:51 | 本・読書

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