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2019年 10月 07日 ( 1 )

 以前読んだ「人間をお休みしてヤギになってみた結果」の著者、トーマス・トウェイツさんのデビュー作「ゼロからトースターを作ってみた結果」。「ヤギ」は衝撃的だったが、全てはこの「トースター」から始まったのだった…。


ゼロからトースターを作ってみた結果
トーマス・トウェイツ:著、村井理子:訳/新潮社、新潮文庫/2015(単行本は2012年、飛鳥新社)

 著者のトーマス・トウェイツさんは、イギリス、ロイヤル・カレッジ・オブ・アートの学生。ふとしたきっかけから、トースターを原材料から手作りすることを思いついた。何故トースターなのか。電気トースターは近代消費文化の象徴で、「あると便利、でもなくても平気、それでもやっぱり比較的安くて簡単に手に入って、とりあえず買っておくかって感じで、壊れたり汚くなったり古くなったら捨てちゃうもの」のシンボルだと考えた。また、子どもの頃から読んでいたダグラス・アダムズのSF小説「銀河ヒッチハイク・ガイド」シリーズの「ほとんど無害」から、もし技術的に未発達な惑星に足止めをくらって、トーストを作るには…と考えた。トースターの構成部品と材料を調べ、現代であっても入手可能な道具だけを使って、原材料からトースターを作り上げ、その試みを記録すること。トーマスさんは一番安いトースターを買って分解し、使われている部品を材料を調べる。専門家に話を聞き、それらをどうすればゼロから手に入れられるかを訊く。そして、自分でトースターを作るためのルールを決め、原材料を調達し始めた…。


 この本を読みながら、そして読んだ後、私は身の回りにある「モノ」をじっと見た。それが何でできているか。その原材料はどこから来ているのか。それをどこでいくらで買ったのか。いつもどんな風に使っているか。もし壊れたり古くなったりしたら、新しいモノを買う前にそれをどうやって処分するのか。それが、単純(と思われる)な紙袋や布だったとしても。

 トーマスさんは、トースター作りを通して人間の文明の歴史を遡ることになる。鉄の前に青銅器が作られたが、何故その順番になったのか。それらに比べて歴史の浅いプラスチックは何故20世紀にならないと出てこなかったのか。歴史の授業でなんとなく学んだことが、本当になんとなくでしかなく、なんとなくしか知らない自分に落胆した。今この記事を書いているパソコンだって、中身はとてつもなく複雑なのに、私はその中身のことを知らない。分解してもう一度組み立てろなんて言われたら無理。でも、毎日の生活にパソコンは必要。でも、なんとなく使っている。文明に頼り切って、思考停止してしまっている。

 パソコンは作れないけれど、毛糸で編み物や、布と糸を使ってこぎん刺し(津軽地方の伝統的な刺し子)の小物なら作れるぞ、と思ったが、その毛糸はどうやって作る?ウールはまだしも、アクリルは?編み物に使う編み針は?しかも私が使っているのはかぎ針である。棒針だって簡単じゃない。
 こぎん刺しで使う布は、クロスステッチで使うような縦糸と横糸が等間隔で織られた専用の布。それは何から、どうやって作っている?糸は木綿…どうやって染めている?針は?小物に使う種々の金具は?それらをトーマスさんと同じように、ゼロから作るとしたら?
 …本当に「手作り」と呼べるのか、自信がなくなってきた。

 トースターを作り終えたトーマスさんの問いかけを読んでいると、文明や消費社会の中で「なんとなく」暮らしていると気づかされる。環境についてもそうだ。銅や鉄などは自然界に存在するが、それを製品の部品にするには手間も時間もかかる。採れる場所も限られる(今回のこのトースタープロジェクトで、原材料のある鉱山のうちのいくつかはイギリス国内にあることに驚いた。日本でやるとしたらできるだろうか)。そして環境に影響を及ぼす。ニッケルの章ではとても深刻な現実と、同じ人間でも国によって扱いが変わる現状にモヤモヤした。プラスチックの章も。製品を処分する際のトーマスさんの問いかけは重要なことだと思う。そのモノがどうやってできているのか。もっと知られてもいいと思う。

 トーマスさんのトースターはうまく動いたのか。トーストを焼くことができたのか。と気になるところだが、重要なのはそっちではなく、手作りトースターを通じて問題提起をすることだ。トーマスさんはアートを学んだ学生だ(だった)。アートが何を伝えられるのか。その意味でも興味深い、新しいことを知ることができた本だった。長く伝えられてきた名画の数々だって、芸術的に美しいだけでなく、人間や自然、社会の何かを伝えようとしたものだったのだから。

 しかし、「ヤギ」では「意味がわからないw」と連呼したが、「トースター」でも、「意味がわからないw」は変わらない。こっちの方が先なので、トーマスさんの原点を読むことができてよかった。自虐ネタを含んだ軽いノリの文章は面白く読みやすい。トースターを作る上でルールを決めたが…色々あるよね。ニッケルではまさかの荒技が。それでいいのか!と突っ込みたくなったw突っ込みたくなる箇所多数。公共の場で読むのは…いいけど笑って変な目で見られてもトーマスさんのせいにはしないようにw

 あと、マイカ(雲母)も出てくる。私も子どもの頃、電化製品(ラジオかラジカセか何か)の調子が悪くて分解してみたことがある。その時、薄いガラスのような板があり、これは何だろう?と思っていたのだが、あれが雲母だったのか。地学で学んだのに、それと結びつかなかった。もう一度見てみたい…いや分解はやめておきたい。私が分解した電化製品は…まぁ、思いつきで分解したら大体そうなるよねw

 トーマスさんの新作は出るのだろうか。期待したい。

人間をお休みしてヤギになってみた結果
by halca-kaukana057 | 2019-10-07 21:53 | 本・読書

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