カテゴリ:本・読書( 508 )

ヴィンランド・サガ2


「ヴィンランド・サガ 2」(幸村誠、講談社・少年マガジンコミックス)

 やっと2巻を読みました。

 イングランド北部で、ヴァイキング・デーン人がイングランド人の襲撃に遭う。その後、アイスランドのトルフィンたちの村に大きな軍船がやってくる。北海最強の軍団・ヨーム戦士団とフローキは戦士団首領の命令で、かつて大隊長だったトルフィンの父・トールズにイングランドとの戦争に加わるようにと伝えに来たのだ。トールズは戦の最中に脱走し、このアイスランドに逃げ隠れ暮らしていた。村の男たちは戦に興奮するが、トールズは村を巻き込んでしまったと落ち込んでしまう。再び逃げれば村が襲われる。逃げられないと覚悟し、トールズは戦に行くことを決心する。
 一方トルフィンは父の過去を知ってか、強くなろうと思いつめていた。子供同士の戦ごっこでも力いっぱい“戦い”、年上の子を骨折させるほどだった。そんな中トルフィンは家の中で短剣を見つける。おもちゃではない本物の刃に見とれるトルフィン。しかし、父トールズは「お前に敵などいない。傷つけてよい者などどこにもいない」と言い諭す。だがトルファンは父が人を殺しに行くことを知っていた。複雑な思いのトールズ。そして、トールズと村の男何人か、そして忍び込んだトルフィンも乗せ船は戦場へ出発した。トールズは途中で村の男たちは降ろし、ひとりで戦場に向かうつもりでいたが。
 そのトールズたちの船が一度立ち寄る予定の島にはフローキとヨーム戦士団、そしてアシェラッドの一味がいた。フローキはアシェラッドにトールズを暗殺するよう頼んでいたのだ。裏があると読みながら了承するアシェラッド。そしてトールズたちの船がその島に到着した。


 この巻でトールズの過去と死の謎、トルフィンとアシェラッドとの出会いが明かされる。とにかく、トールズが強い!!普段は穏やかなトールズの強さに圧倒された。しかし、そのトールズの「精神的な強さ」にさらに圧倒された。相手を殺すことで自分の強さを見せ付けるのではなく、それとは別な次元の「強さ」。戦士としての礼儀や磨かれた戦略、そして人間性。奥底には戦から逃げた過去の「弱さ」もあり、それがアシェラッドにチャンスを与えてしまう。それでも威厳あるトールズの死。…言うことなし。

 それにしても、幸村さんの「人間のドラマ」の巧さがたまらない。「プラネテス」にも通じるのだけど、近未来の宇宙であれ11世紀の北欧であれ、人間の生活やその中での想いが伝わってくる。舞台はフィクションでも、人間はノンフィクションに近い現実感。「ヴィンランド・サガ」は「プラネテス」よりも難しいんじゃないかと思う。「プラネテス」の方が現代に近いし、人の考え方も近未来とは言えそれほど変わってはいない。だが今回はずっと時代をさかのぼり、さらに北欧のヴァイキングと民族も違う。それなのにキャラクターの感情や考え方に説得力がある。生きている、現実感のある人間らしさがある。物語の舞台の設定や背景に「負けて」いない。中身もしっかりと充実している。そこが幸村さんの物語のよさだと思う。

 最後に個人的な見所。冒頭のトルフィンたち子供同士の戦ごっこが可愛い。死んだふりをするトルファンが「あーあ 戦場があっち行っちゃった」(8ページより)と言うところが特に。それから、ヴァイキングの人々が北欧神話の神々を信仰しているとわかるところ。先ほどの8ページでトルフィンの友達・ファクシの「天国にある戦士の館(ヴァルハラ:北欧神話の主神・オーディンの居城)では毎日お肉が食べ放題なんだってさ~~~」の台詞や、トールズがアシェラッドに決闘を申し込む時「全能のオーディンの名において貴様に決闘を申し込む」(174ページ)の台詞。ヴァイキングの人々にとって北欧神話はれっきとした宗教であったんだ。北欧神話はドロドロしていて怖いんだよなぁ…。巻末にある地図も北欧を知る手がかりになって興味深い。北欧の一つの側面としてこの漫画を読むのも面白い。


<追記>
 最初「少年マガジン」で連載されていたこの漫画、後に「アフタヌーン」に移籍したわけですが「アフタヌーン」と「少年マガジン」の単行本はサイズが違う。今後「アフタヌーン」のサイズの単行本で出したら1・2巻とサイズが合わないじゃないか…。ということで、「アフタヌーン」の単行本サイズで新装された1・2巻が8・9月に出るそうです。表紙も一新、さらにトルフィンの姉・ユルヴァがメインの4コマ「がんばれユルヴァちゃん」付き。…4コマ目当てで買います、マジで。あと、3巻は10月。楽しみ。

 もう一つ、この「ヴィンランド」というのは調べてみたらアメリカ大陸のことらしい。アイスランドの「サガ」の中にレイフおじさんのヴィンランド探検に関する記述があるそうだ。史実をもとにした漫画だったのね。面白そうだから調べてみる。
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by halca-kaukana057 | 2006-06-27 20:48 | 本・読書

せちやん

「せちやん―星を聴く人―」(川端裕人、講談社、2003)



 先日「竜とわれらの時代」で紹介した川端裕人。再読第1弾は宇宙がテーマの「せちやん」。以前一度読んで圧倒されてしまった。よく分からなかったところもあったので何度か読み返してみた。


 1970年代、中学生の「ぼく」(とおる)は膝を痛めて野球部を辞め、友達のクボキ、やっちゃんと放課後を過ごしていた。それぞれ家庭の中では息苦しさを感じ、なるべく家に帰る時間を遅らそうと学校の裏山で時間をつぶしていたのだった。その裏山で、ある日3人は不思議な家屋を見つける。パラボラアンテナに銀色のドームがある日本家屋。「摂知庵」と看板がかけられてあるその家の秘密を暴くべく、「ばく」たちはその家を見張り出す。何のための施設なのか想像をめぐらす中、ついに3人は家屋の主人と出会う。彼は摂津知雄、通称「せちあん」と名乗り3人に「せちやん」と呼ばれることになる。ある事情により仕事を辞めその家にひとり住んでいるせちやんは銀色のドームの中にプラネタリウムを作り、パラボラアンテナを電波望遠鏡にして「SETI」と呼ばれる異性人からの信号を探しをしていたのだった。一見冴えない中年男だが宇宙への夢を熱く語るせちやんにすっかり夢中になった3人は、学校が終わると「摂知庵」に入り浸るようになった。豊富な蔵書を読みふけり文学に夢中になったやっちゃん、大量のレコードを聴いてクラシックに興味を持ちせちやんが弾かなくなってしまったバイオリンを練習するクボキ、そして「ぼく」はプラネタリウムや異性人探しに夢中になった。ところが、ある事件をきっかけに3人は「摂知庵」に行くのを辞め、それぞれの道を歩むべく高校に進学。文学や音楽に夢中になっているやっちゃんやクボキと違い「ぼく」は再び野球を始めたが、それでもせちやんが教えてくれたことは色濃く頭の中に残っていた。そして「ぼく」の人生の様々なシーンでせちやんのことが思い出される。



 この物語全体に漂っている何かをつかもうとしてもつかめない虚しさ、孤独感に切なくなる。「ぼく」もやっちゃんもクボキも、そしてせちやんも登場人物それぞれ何かを追い求める。でも、それをつかめたとしても一瞬だけ。次の瞬間にはなにも残らない。まさに夢のようなはかなさ。どんなに手を伸ばしても天空の星まで手は届かない。この物語の「宇宙」はそんな位置にあると感じた。

 そして、「宇宙」に向き合う時は誰もが孤独だということ。例え分かり合っている仲間がいたとしても深いところでは結局ひとり。そこから生じる不安や淋しさ。それをごまかすかのように、人間は何かに身を委ねる…仕事や芸術、恋愛や宗教などに。私も、こんなどうしようもない不安や孤独を感じることがある。例えば、死んだら何もなくなってしまうのだろうかとか、将来に対する不安とか。そんなことに悩んでいる時、ある方がこんなことを言っていた。「趣味なんかが無かったら生きていくのは大変だよ。いつも不安と向き合っていたら辛くて辛くて生きている心地がしないよ。そんな辛さをかわすためにも、人は色々なものに夢中になるのではないかな」と。その言葉を今読んでいて思い出した。せちやんや「ぼく」はSETIによってその孤独と向き合う。それがさらに孤独を思い知らせるものだとしても。その孤独感がだんだん深くなる物語の終盤がすごかった。

 宇宙ものであるけれども哲学や人の生き方、考え方が物語の中心になっていると私は読んだ。だから同じ宇宙ものの「夏のロケット」とはかなり雰囲気が違う。宇宙への思い・見方も一つとは限らない。こういう宇宙ものもいい。
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by halca-kaukana057 | 2006-06-16 20:34 | 本・読書

竜とわれらの時代

「竜とわれらの時代」(川端裕人、徳間書店、2002、ISBN:4-19-861585-3)




 私が大好きな作家のひとりに、川端裕人という作家がいる。何年も前、「夏のロケット」という小説を読んでファンになってしまった。作家とはいえ、日本テレビの科学担当の記者だった為科学関係の小説が多い。この「竜とわれらの時代」も科学系の小説のひとつ。とにかく長かった。でも科学の面から見ても、純粋に小説として読んでも面白い。



 高校生の風見大地は恐竜の化石の発掘を夢見る「恐竜オタク」。父の実家である手取郡に引っ越してきて、弟の海也と山を歩き中生代の地層の露頭を見つけては化石を探して調査をしていた。ある日大地と海也、それに大地のクラスメイトの美子で竜脚類の歯の化石を発見する。もしかしたら恐竜の骨格の化石も見つかるかもしれない。そうなるとアマチュアではどうしようも出来ない。大地は美子の提案で、将来古生物学者になってその時に発掘することに決めた。

 数年後、大地は大学卒業後アメリカに渡り、古生物学者のクリス・マクレモア教授のもとで学んでいた。そしていよいよ教授の研究室によって、昔大地と海也が化石を発見した場所の発掘が始まろうとしていた。一方手取では、海也は大学卒業後父の実家に戻り、手取に伝わる竜神を祀る檀家のひとりである祖母・文ばあと共に住み農業を営んでいた。美子も手取に戻り、役所に勤めている。大地やマクレモア教授の研究室のメンバーたちが発掘を進め、その新種の大型竜脚類は「テトリティタン」と名づけられた。しかし、ある日そのテトリティタンの化石がごっそりと盗まれてしまう。さらにアメリカにいるマクレモア教授も小包爆弾で殺害されそうになるが、発掘の資金を援助するある科学財団に助けられる。その科学財団にはある狙いがあったのだった…。



 ストーリーに沢山の複線が張られていて、謎が謎を呼ぶミステリー状態。その科学財団の謎、マクレモア教授の命を狙う集団の謎。さらに科学と宗教の対立や国家や文化に関する問題など、社会的な課題にも深く考察してある。このスケールに圧巻。キリスト教とイスラム教の対立、また聖書に関する論議は両宗教をよく知らない私には難しい。でも、それに対して手取の竜神の話を出してくるのは面白い。竜神伝説なんて非科学的と思ったけれども、いいところで説得力を持ってくる。恐竜に対する新たな見方が出来る。

 テトリティタンに関する大地たちの研究も凄い。固定観念を見事にぶち破ってくれる。フィクションのはずなのに、しっかりとした科学的根拠を丁寧に解説してあるので本当にこうではないかと納得してしまう。(理系に憧れる)文系の私にも科学者の考え方が手に取れる。

 ちなみに、文庫版(徳間文庫刊)も出ているのですが、文庫版も分厚い。文庫なのに普通の単行本みたいだ…。読んだ後、その文庫版の表紙を見ると「ああ、なるほどね!」と思った。

これ。読んで納得してみてください。長いけれどもお薦めします。

 そう言えば、このブログで川端裕人の作品を紹介するのは初めてだった。紹介した気でいたんだが、ブログを始めてから読んでいなかったか…。そのうち他の作品も再読して感想を載せる予定にしておきます。

*nanikaさんのブログよりトラックバックをいただきましたので、リンクを貼っておきます。
「本だけ読んで暮らせたら:『竜とわれらの時代』」
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by halca-kaukana057 | 2006-06-02 13:33 | 本・読書

ながい坂




「ながい坂」(山本周五郎、新潮文庫)

 かなり前に買っておいたのだけれども、なかなか読む気にならず「積ん読」状態でようやく手をつけた。読み出すと面白くて、もっと早く手をつけていればよかったなと。少し前に朝日新聞で話題になったらしく、本屋でも平積みにされていた。周五郎の本が話題になっているとはちょっと嬉しい。


 下級武士の家に生まれた阿部小三郎は、いつも使っていた小さな橋が権力者の都合で取り壊されるという出来事を屈辱に感じ、勉学や武芸に励み平侍の子どもはなかなか入れない一級の藩校で学ぶ。その後藩主飛騨守昌治(ひだのかみまさはる)に信頼されるようになり、元服して主水正(もんどのしょう)と改名し大火事や孤児対策で手腕を発揮し異例の出世を遂げることになる。その後、昌治が計画した大堰堤工事の責任者に命じられ、工事を進めるが藩主継承争いや藩内の利害関係の中で工事は妨害され、主水正は命をも狙われる。様々な困難、そして孤独に耐えながら主水正は人生を歩んでゆく。

 主水正の有能さは勿論だけれども、苦悩する姿がより活き活きと描かれていて好感。そして、登場人物たちそれぞれの「人間らしい」生き方に魅力を感じた。江戸家老の息子でありながら侍を辞めた津田大五の言葉をちょっと引用してみる。

「善悪の問題ではありません人それぞれの性分でしょう」と大五は云った、「あなたはわが藩の中軸として、いや、云わせて下さい、あなたがどう思われようと、三浦主水正はこの藩の中軸であることには変りはない、つまり、あなたは江戸の狸店(たぬきだな)にいても、国許のこの新畠(あらはた)にいても、三浦主水正その人に些かの変りも無い、私はその枠を外れているんでしょう、侍の生活よりも町人、百姓のくらしびほうがよほど好ましいんです、人間はいちようではありませんからね」(下巻196ページより)


 また、昌治の藩の家老・滝沢主殿(とのも)の息子・兵部は、今で言うエリート教育を受けてきたにもかかわらず次期家老の暮らしなど窮屈だと感じ酒におぼれる生活を送ることになる。主水正一人に重点を置くのではなく、家族や昌治をめぐる武士たち、ライバルや主水正を支援する人々などどの人物においても彼らの生き方も否定せず理解しようという描き方がされているところに感服。主水正も武士であることに誇りを持ち、昌治の邪魔をするものや命を狙う刺客に怒りを感じ頭を悩ませる一方で、彼らの生き様や信条に思いをめぐらしたりもする。一つの考えに囚われてしまうことが私は嫌いだ。でも、よく知らない間に一つの考えに囚われてしまっている時がある。そんな時のことを思い出してはっとした。

 人生を長い坂だと考え、紆余曲折を経てより人間らしく生きようと模索する主水正たちの生き様に少し励まされたところもある。私自身、今現在物事があまりうまくいっていない状態にある。もう投げ出してしまおうとか、こんな苦労をするなら今の状態のままでもいいやと思ってしまうこともある。すぐには解決できない問題、この物語では藩主継承問題や大堰の工事などを解決するにも、途中でストップしてしまったり遠回りすることもある。でも、長い坂であるならばその混沌とした状態も時間はかかっても少しずつ解決に向かうとも思える。ちょうどいい本を読んだなと感じた。

 周五郎作品はまだまだ沢山。それを読むのも長い坂のようなもの?
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by halca-kaukana057 | 2006-05-27 21:49 | 本・読書

「ふたつのスピカ」イラストブック

「ふたつのスピカ」イラストブック(柳沼行、メディアファクトリー)

ふたつのスピカ イラストブック
柳沼行/メディアファクトリー/2006

 漫画「ふたつのスピカ」のカラーイラストを集めたイラスト集です。「コミックフラッパー」ではカラーでも、単行本では白黒になってしまった表紙イラストをカラーのまま収録。単行本派には嬉しい。さらに柳沼さんのインタビューにオリジナル星図、カレンダーまで付いている。柳沼さんの絵がとにかく好きなので、是非保存版に買いました。

 まずイラストから。アニメのエンディングで使用されたイラストや、コミックフラッパーの表紙、さらには限定で単行本に封入されていた、宇宙学校の学生証のコピーも付いているとは驚き。アニメはあまり観ていなかったのでかなり嬉しい。特にアスミ・ケイ・マリカの3人で笑っている絵がいい。ほとんど笑わないマリカの笑顔を見られる。最高。しかもマリカの目の色が緑であることもこれでしっかりと分かった。

 個人的に、宇宙学校の制服が好きなのでその色やデザインをカラーで堪能できるところに満足。女子の制服で、ブレザーなのに袖口にセーラー服みたいにラインが入っているのが面白いなぁとずっと思っていたのです。鉄道会社や飛行機のパイロットの制服っぽくて。リボンも細い方でなく、第5話あたりの太いスカーフのようなリボンが好き。当然夏服より冬服。(…これでは制服フェチであることがバレるではないか!)

 イラストのお気に入りは5話、34話、それから2005年7月号フラッパー表紙。表紙を開いて最初のページ・扉のイラストも良い。普段はCGで描いているそうなのですが、水彩色鉛筆のような感じが出ている。その柔らかさが好き。見ていて和む。心が殺伐としたら見たい本です。

 柳沼さんのインタビューも興味深い。どこかで読んだ話で、アシスタント無しで描いていると知ったのだが、やっぱり今でもアシスタントは無し。一人であれだけのものを毎月描くとは。むしろ一人で描いているからこそ、自分の表現したいものを追及できるのかも。掲載誌の「性格」も考慮して少し変わってしまっているらしいけど…。エンディングももう決まっている、か。ああ、どうなっちまうんだ。

 カレンダーと星図は使うと言うより観賞用。本にくっついていて、取るのが難しいのでそのままにしています。カレンダーにはキャラクターに関するちょっとした情報も。ファンには嬉しい。

 ところで、初期のアスミと現在のアスミを見比べると、初期の方が大人っぽかった…?と思う。髪の長さ、ヘアピンのせい?
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by halca-kaukana057 | 2006-04-28 21:06 | 本・読書

「芸術力」の磨きかた

 「『芸術力』の磨きかた 鑑賞、そして自己表現へ」(林望、PHP新書、2003年)



 以前、クラシックの聴き所を寄せ集めしたCDが売れていると聞いて、私はあまり好きじゃないなと思ったことがある。部分だけを聴いて何が分かるの?聴き所もそうでないところも、全部聴いて初めて感想が出てくるのではないかと。ある友人にも「クラシックを聴いてみたいのだけれども、そういうCDは買い?」と訊かれた事があった。私は「私はあまりそういうCDは好きじゃないけど、どんな曲かを知るには良いと思う。でも部分だから、気に入ったら全曲入ったCDを買ったほうがいい」と言っておいた。今でも、そういうCDは好きじゃない。でも、私もまだまだ初心者。知らない曲が沢山あって、沢山の曲を知りたい・聴きたいとなるとこの手のCDは便利だなと思ってしまう。

 この本を読んでいてそんなことを思い出した。芸術と言うと堅苦しいものを想像しがちだけれども、嬉しい時に歌ったり踊ったりするなど、芸術は身近に存在する。また、人間は何かを表現したいと思う気持ちを持っている、つまり「芸術欲」を満たすことを望み、人生を豊かにするために欠かせないものだと著者は言っている。

 そんな気持ちがあるからか、時々芸術に関するブームが起きる。今はクラシックブームらしい。だからこそこういうCDが売れているのだろうけど、ちょっと待った。知っている曲を増やす=知識・経験を積むのが芸術の楽しみなのだろうか。

 著者の答えは「NO」だ。知識が増えても自分なりの音楽観・見方が育っていない。だから浅くて広い知識が増えただけのこと。知っている曲は少なくても、好きな曲や作曲家を徹底的に聴いて自分なりの見方を持つ方がいい、と。確かに、何か曲を聴いてただ「いい曲だった。良かった」と思っただけで、あとは記憶の中に放り込まれるのでは面白くない。

私ももっとクラシック音楽について「分かりたい」んだ。だから好きな曲をとにかく何度も聴いてみたり、演奏者で比べてみたり。未だに聴いた後の感想はなかなか深くならないけど、少しずつ速さや音の強弱などに注目して、その結果曲の感じ方がどう変わるのか分かるようになって来た。と言っても、まだまだ分からないことばかりで、聴いたCDの感想を書きたいと思っても言葉が出てこなくて困ってしまっている。本の感想についてならそれなりの言葉が浮かんでくるのに。きっと、本を読むことは子どものころから続けてきたことだから身についている。クラシックはまだ身についていないのだと思う。

 この本では鑑賞するだけでなく、絵を描いたり演奏したり、書道や写真など自分で表現することも薦めている。芸術は完成することがない。自分が望む表現が出来るまでしつこく追求する。その姿勢がアマチュアでもプロに近づくために大切なのだそうだ。「自己満足」という言葉が氾濫しているような今、探求することの楽しさを思い出させてくれるような気がする。私だって、その時だけの「にわかファン」にはなりたくない。性格のせいか、一度興味を持ったらなかなか熱が冷めない、いや冷めたくない。読書も音楽を聴くことも、ピアノを弾くことももっと続けてみたい。ピアノも、ただ曲が弾けるんじゃなくて表現力の幅を広げてみたい。(その前に基礎練習がなってないのでどうしようもないのだが) もっと視野を、興味を、そして自分を広げ、深めたい。私もそういう欲の強い人間なんだな、と読み終わってあらためて感じる本だった。
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by halca-kaukana057 | 2006-04-18 20:17 | 本・読書

ぐるりのこと

ぐるりのこと
梨木香歩/新潮社/2004

 「裏庭」や「西の魔女が死んだ」、「りかさん」等どこかファンタジーだけれども登場人物はしっかりと現実を見据えている作家、梨木香歩さんのエッセイです。

 まず、梨木さんの博学ぶりに驚いた。それぞれの作品でも「こんなの相当の知識がないと書けないよ」と思っていたのだが、エッセイはそれ以上。知識だけかと思ったら違う。何かを考える心、それを表現する言葉も多様で深い。しっかりした芯を持っている作家さんなのだと改めて感じた。

 「ぐるりのこと」というタイトルは正木ひろしという弁護士の『近きより』という雑誌の発刊の言葉の一節から来ているのだそうだ。
……あまり遠大な仕事のみを考えていると、考えているうちに年をとってしまう。『道は近きにあり』とも言う。私はあらゆる意味に於いて『近きより』始めようと思う

身近なことから大きなものに考えをめぐらせていく。イギリスに留学中のことから近所の草花のこと、トルコに旅行した時に考えたことから国防、教育、様々な事件まで。梨木さんの考えたことに私はとても共感した。考え方が似ていると言うと何だか嫌味くさいので嫌なのだが。ただ、その考えに基盤となる知識が広く、しっかりと敷いてあってその考えが具体的なものとなっているところに感心した。日常の中から学ぼうとする姿勢、知識欲・向学心がとても強い人なのだと思う。私の勉強不足でよく分からないことも多く難しく感じるのだけど、その分勉強になる。

 とにかく共感するところが多くて、特にここを押したいというところがあちこちにあるのでどこを重点的に紹介すれば良いのか決めかねて困ってしまっている。もしこの記事を読んで興味をもたれたのなら是非読んでくださいとしか言いようがない。まいった。これではあまりにも内容が見えないので、共感した文の中から一節を紹介します。

―けれどそれは何か、その首の後ろ辺りの風情は何か、一つの記号的な「答え」のように圧倒的な確かさを漂わせていたのだった。幼い日々のいつか、鼻孔の奥に秘やかに埋め込まれた記憶のような確信をもって、私はこれは何かの「答え」なのだと納得するのだった。けれど、さて、そんな訳の分からない「答え」に先立つ「問い」を、私はいつ設定したか。だけど、ああ、もう問いもスタートも要らない、ゴールは、辺りに満ちているのだから。
 と、思える瞬間も、人生にはある。
(117~118ページ「目的に向かう」より)




 文庫版も出ました。

ぐるりのこと
梨木香帆/新潮社・新潮文庫
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by halca-kaukana057 | 2006-04-12 20:37 | 本・読書

ふたつのスピカ 10

 「ふたつのスピカ 10」(柳沼行、メディアファクトリー)

 スピカももう10巻。アスミたちは3年生になり、新年度が始まった。宇宙飛行士選抜試験を受けた秋を目当てにマスコミが入学式にやってくる。秋を一目見ようとする新入生もいる中、ケイはそのことが気に食わない。一方、喫茶店でアルバイトを始めたマリカ。慣れない接客業に困惑しつつも、少しずつ自分の可能性を広げていこうとする。また、かもめ寮にも新入生がやってきた。先輩としてしっかりしようとするアスミだが、その体型のせいかなかなか先輩としてみてもらえず悩んでいた。
 そんな中、宇宙学校に再び佐野がやって来る。


 まず、3年になって新たな展開が。ケイ→秋への想いはますますはっきりと。帰り道で秋のことを悪く噂する見知らぬ男子に向かって反論、ケンカになるあたり想いのまっすぐさが伝わってくる。ケイにとって秋は恋愛対象としてだけでなく尊敬の的でもある。ただの甘ったるい恋愛ものにさせない。そこが好きだ。

 そして、マリカ→府中野???ケイのマネをして「ふっちー」と呼ぶマリカ…。何だか面白くなってきました。府中野のアスミへの想いはどうなるんだ?いや、あれは恋心と言って良いのか???

 そして今巻一番の読みどころは佐野とアスミ父・トモロウの思い出話かと。先のケイと同じように、その想いがまっすぐ過ぎるからこそ起こしてしまった事件。なんとも切ない。そして明らかになっていく獅子号の闇…。出典を忘れてしまった上ににうろ覚えで申し訳ないのだが、こんな言葉を言った人がいた。「ロマンだけでは宇宙には行けないが、ロマン無しでは宇宙には行けない」 宇宙開発の現実と必要な技術と、その裏にうごめく様々な打算。それは一筋縄で解決できるものではない。でも、その基盤にあるのは宇宙を夢見る人々のまっすぐな思い。その思いがあるからこそ、その一筋縄でいかない現実を打破できるのだろうと感じた。


 最後に、最近どうも出番が少なくなってしまったライオンさんが、幼いアスミとの会話を回想するシーンの台詞を引用します。
「妥協っていうのはいつも夢の手前に置いてあってね
わりと手に入れやすいものなんだ
多くの人は生きていくために少しずつ少しずつ妥協を手にして
そして気づいた時には本当の夢からどんどん遠ざかってしまう」(146ページ)


 自分にとって妥協とは何だろう。自分の夢って何だったんだろう。自然と自問自答してしまった。


 で、同時発売のイラストブック。単行本を買った本屋には見当たらず、アマゾンでも在庫切れ。他を当たるか。それから、スピカには関係ないのだが宇宙飛行士関係の話題として、野口聡一さんの本がいつの間にか出版されたのだそうだ。しかもすでに3冊。自叙伝に飛行中の日記など。この出版の勢いは毛利さんや向井さんの旦那さん以上の勢いのはず。本屋で「スィート・スィート・ホーム」(木楽舎)は見かけて手にとって見たが、写真がもうたまらん。図書館に早く入らないかなぁ。
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by halca-kaukana057 | 2006-03-25 21:46 | 本・読書

かもめ食堂

「かもめ食堂」(群ようこ、幻冬舎)

 
普段1000円以上の単行本なんてまず買わないのに、ストーリーを聞いて買ってしまった。しかも群れようこの作品はあまり読んだことがない。「膝小僧の神様」は私好みではなかった。それなのに買ってしまったのは、この春公開の映画「かもめ食堂」の原作本で、日本映画初のオール・フィンランド・ロケというフィンランドファンにとっては素敵過ぎる作品だから。映画の前に原作を。

 「人生すべて修行」が口癖の古武道家の娘・サチエは、亡き母の味を大切に出来る食堂を開くのが夢である38歳。日本では目新しいものばかりがもてはやされることに失望し、フィンランドで店を開くことを考える。そして運よくヘルシンキで「かもめ食堂」という小さな食堂を開く。シャイなフィンランド人たちはなかなか店に入ろうとはしなかったが、日本好きなガッチャマンオタク・トンミだけが毎日来るようになった。トンミに尋ねられたガッチャマンの歌の歌詞を聞くというひょんなことで出会ったサチエとミドリ。そしてマサコという3人の日本人とヘルシンキの人々が食堂で繰り広げる、ささやかな毎日の物語。

 まず、フィンランドファンの視点で読んでみると、フィンランドらしさが良く出ているなと思いました。シャイでなかなか店に入ってこようとしない(トンミを除く)。市場(カウッパトリ)で「売っている人も売られている物も、生きてるって感じがする」というサチエの台詞。ゆったりと時間が流れる港にふてぶてしいかもめ。せかせかしない。「かもめ食堂」もじんわりとヘルシンキの町に溶け込んでゆく。まさにフィンランド。読んでるだけで町の様子が想像できて楽しい。

 登場人物の人柄も素敵だ。それぞれの持ち味が押し付けがましくなく、自然に出ている。3人が日本で抱いていた困難・不満はかすかな陰を作ってはいるけれど、食堂の中では消えてしまう。ささやかだけれども心から楽しむことがある。その幸せをかみ締めているような。

 そんな派手ではなく地味なストーリーだけど、そこが私は好きだ。映画版はストーリーに変更はあるのかな?それも楽しみにして映画を待とう。DVDで観ることになるかもしれませんが…。
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by halca-kaukana057 | 2006-02-12 18:54 | 本・読書

卒業

「卒業」(重松清、新潮社)

 久々に読んだ本の感想を。とりわけ読みたい本はないけど本が読みたい。困ってたどり着いたのは重松清。もう私の定番だわ。

 収められている4作はどれも家族のことがテーマ。危篤状態の母を前に兄と妹が歌が大好きだった妹の思い出を振り返る「まゆみのマーチ」。教師である主人公が同じく教師だった父の最期の日々をある少年と共に過ごす「仰げば尊し」。自殺した友人の娘が突然現れたことでその友人のことを思い出していく「卒業」。幼い時に死んだ母への想いと、そのあとにやって来た継母との確執を綴る「追伸」。

 「まゆみのマーチ」と「仰げば尊し」は、実際に自分の父の事と重ね合わせてしまった。この本がどんな本が知らずに読んだのに、いつか来るであろう父との別れのことを考えずには読めなかった。むしろ、今読んでよかったのかもしれない。

 表題作の「卒業」と「追伸」は相反するような作品。血がつながっていなくても家族なのか。家族の形も、その想いもひとつとは限らない。ただ、家族に「時間」は必要なんだと感じた。時間が経てば想いも変わる。それによって得られる幸せもある。「今」だけを見て家族やそれに含まれる人間を語っても無意味だと思った。

 図書館で借りて読んだのですが、新潮社だからそのうち文庫版が出るだろう。その時に…時間が経ってから、また読み返したいと思います。
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by halca-kaukana057 | 2006-02-08 20:02 | 本・読書


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by 遼 (はるか)

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