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白夜の旅

 「東山魁夷の青い北欧」の記事の最後に書いた、魁夷の北欧旅行エッセイ「白夜の旅」。この本を読めたことが本当に嬉しい。

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白夜の旅
東山魁夷/新潮文庫/1980

 東山魁夷の絵も好きだが、文章も好きだ。文章から風景が見えてくる。魁夷は絵だけではなく、文章でも風景を描くことが出来る…すごいと心から思う。

 魁夷にとって、北は特別な場所だった。それまでの順調な仕事や生活を見直すために向かった北欧の地。北欧の雰囲気・空気・自然・街…全てが魁夷にぴったり合っていると感じた。すがすがしくて、濁っているものがない。淡く、穏やかで、柔らかい。人と地域が呼応している。ぴったり合っていたからこそ、その後の作品に大きな影響を及ぼしたと思う。

 どこの街でも、時間がゆっくりと流れている。街は静かで、人ものんびりしていて、治安も良すぎるぐらい。自然は美しく、白夜の季節を全ての生き物が謳歌している。昔から、北欧に対する日本人の見方はこうだったのかと実感した。しかし、こんな一節もある。
いや、この国の人々の、ある一面の真実である。私は明るい面を見ているだけかもしれない。季節的にも、一年のうちの一番よい季節だけ滞在しているのだから、印象も違うわけだろう。ほんの、ゆきずりの旅行者に、全ての真実がわかるわけがない。しかし、たとえば、月を描くのに、裏側の暗黒の面まで描かなければならないということもないと思われるのである。月は私たちが見ている面だけで、美しく、十分である。ことに、画家である私にとっては。

 これまで、私は北欧のよい面だけ見ることに抵抗があった。どんなところにも暗い面はある。そこを見ないでいいところだけ語るなんて、偏った考え方だと思ってきた。でも、こういう考え方もある。一度の旅行で全てを見ることなんて出来ない。ましてや私のように一度も行ったことのない人間には、何がわかるだろう。ただ知識として持っているだけだ。でも、見て「美しい」「素晴らしい」「楽しい」「面白い」…そう感じたら、そう言葉に、絵に表現すればいい。暗い面のこと、難しいことはその後に考えても遅くはないのかもしれない。

 今も昔も、北欧は魅力的な場所。読んでいるだけで北欧の空気が感じられた。ああ、北欧、いいなぁ。


 ところで、この本の中に「ヴェルムラント(Värmeland)」という曲が出てくる。スウェーデンの民謡。生まれた土地を思う、望郷の歌。
◆Zarah Leander - Ack Värmeland du sköna


◆Christer Sjögren --- Ack Värmeland



日本語訳歌詞はこちら:ヴェルムランドの歌
 哀愁たっぷりの歌ですね。しんみりしてきますが、好きです。

 あと、東山魁夷のフィンランドでの足どりについてまとめたサイトもあったので、リンク貼っておきます。
東山魁夷の見たフィンランド白樺と星・・・フィンランドの児童文学
by halca-kaukana057 | 2008-05-17 22:16 | 本・読書
 読んだ本に関して、一気に3冊いきます。テーマは、「ひとつの道を究める人たち」

ニュースの読み方使い方
池上 彰/新潮社・新潮文庫/2007


 NHK「週刊こどもニュース」の初代"お父さん"で、元NHK記者の池上彰さんが教える情報収集・整理・読解・解釈術。こどもニュースは好きな番組で、放送開始当時から観てました。毎週毎週複雑な社会情勢や分かったつもりでいたニュースについて、分かりやすく、丁寧に解説してくれた番組の裏ではこんなことをしていたのか、と目からうろこ。池上さんの新人記者時代の話も面白い。こうやってニュースに立ち向かい、深く読み解く力を付けていったのか。

 この本を読んでいると、池上さんはアナログの情報を大切にされているなと思う。本や新聞など、紙に書かれた情報。今ネットで莫大な情報を手に入れることは出来るけど、量は多すぎるし情報が入れ替わる速さも速いし、私もアナログの方がとっつきやすいと感じる。しかし新聞を読む量と言い、読書量と言い…尋常じゃない。しかも守備範囲も広い広い。さすが。

 池上さんの頃の「こどもニュース」にはなかったと思うが、番組の最後に出演者とスタッフが皆でカメラに向かって手を振るシーンがある。あのシーンの和やかさ・和気藹々な雰囲気がどうやって出来たか「あとがきにかえて」を読んで納得した。それと、この本を読んで、かつてやっていた新聞スクラップを再開してみたんです。新聞を切り抜く作業って楽しい。ニュース・情報をじっくり読めるし、紙で実際に手に取ることが出来るのも重要かな、と。



*****

ドリトル先生アフリカゆき
ヒュー・ロフティング/井伏 鱒二・訳/岩波書店・岩波少年文庫


 「本屋の森のあかり」2巻で登場する「ドリトル先生」シリーズのはじまりの物語。実は読んだことがなかったのです。「本屋の森のあかり」を読んで、読んでみたくなった。

 動物の言葉を理解できるドリトル先生が、伝染病で苦しむサルたちを助けるためアフリカへ向かう。飼っている沢山の動物たちを連れての大冒険。こういう冒険ものは久しぶりに読んだ。オモシロイ。子どもの時に読んでおけばよかったと激しく後悔。ドリトル先生の自由奔放さ・お気楽さが、読む人の心を軽くしてくれる。でも、バンポ王子の姿を薬で一時的に変えた部分で切なくなった。自由になりたいけれどもどうやってもその願いを叶えることが出来ないバンポ王子。ドリトル先生も、自由なようでお金や借りたものなどの面では自由になりきれていない。薬を使った後で「気の毒なことをした」と言うドリトル先生。深い言葉に思える。

 ドリトル先生シリーズはこれからも読んでいきたい。全13作。どうなるのか楽しみです。



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雪は天からの手紙―中谷宇吉郎エッセイ集
中谷 宇吉郎/池内 了・編/岩波書店・岩波少年文庫


 "雪の科学者"中谷宇吉郎のエッセイ集。雪の研究のこと、湯川秀樹や師である寺田寅彦、永岡半太郎など交友のあった科学者たちとの話、身の回りの科学のことなど、話題は多岐にわたっている。雪はいつも見ているけど、そう言えば雪がどんなつくりをしているか、どうやって出来るのか、どうやったら作れるのかについてはそんなに考えたことがなかった。「千里眼」や「立春に立つ卵」など、今で言う「ニセ科学」に関する話もあって面白い。もし、宇吉郎が「水からの伝言」の話を聞いたらどう答えるんだろうか。天国でヤキモキしているかもしれない。

 読んでいて、宇吉郎の視点や考え方の鋭さに敬服するばかり。自然に対する視線。雪という自然の一部を相手にしていた科学者の言葉の重さ、面白さ。何かをじっくりと見つめ、試行錯誤して、考える。科学の基本とはこういうことなのかなと思う。

 雪の研究を始める前は、寺田寅彦のもとで学んでいた。駆け出し研究者で、色々なことを研究していた。その科学(実験物理)の道に進むまでも、試験に落ちたり方向転換したりしていた宇吉郎。「私の履歴書」の最後の部分が印象的だ。
将来の希望を早く決めて、その方向に進むなどということは、ふつうの人間には出来ないことである。だからその時々に若気の至りでもよいから、ちゃんとした希望をもって進めば、それで十分である。それが何度変転してもかまわない。その時々に大まじめでさえあれば、きっと何かが残るものである。注意すべきことは打算的な考え方をしないという点だけである。と、この頃考えるようになった。
(256ページ)

 「比較科学論」「地球の円い話」にもなるほど~と感心。「イグアノドンの唄」は寝る前に読みたい。ワクワクする、楽しい夢が見られそうだ。


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 以上3冊でした。

 ここでちょっと連絡。のんびり更新にしていたこのブログですが、徐々にペースを戻していこうかと思っています。積読本はまだまだ増える予定ですが、読みたいんだからしょうがない(開き直ったw)。アナログの世界とデジタルの世界、まだまだ試行錯誤ですが自分なりにバランスをとりながら付き合っていけたらなと思います。時々、予告無しに本や他のものに没頭するかも知れませんけどw
by halca-kaukana057 | 2008-02-19 22:22 | 本・読書
 「はやぶさ」「かぐや」と宇宙機ネタを続けるブログです。日本の宇宙開発になくてはならない人を挙げるとしたら、私は真っ先にJAXA宇宙科学研究本部(旧ISAS・宇宙科学研究所)の的川泰宣先生の名前を出します。その的川先生が日本惑星協会のメールマガジン「TPS/Jメール」で連載しているコラムをまとめたのがこの本。「TPS/Jメール」はいつも購読させていただいております。

轟きは夢をのせて―喜・怒・哀・楽の宇宙日記
的川 泰宣/共立出版/2005


 1999年に始まった的川先生の「YMコラム」。メルマガでは、「的川泰宣」ではなく、肩書きを捨てて「YM」として執筆している。長年宇宙開発・宇宙科学に携わってきた権威として語るのではなく、いち宇宙工学者としての視点で語られている。しかも、堅苦しい科学的な話ではなく、現場の科学者・技術者たちの生の声をリアルに伝えるもの。宇宙への熱い魂が伝わってくる。読んでいて、さすがだなぁ…と実感する。

 的川先生が特に力を入れているのが、日本の宇宙開発の広報活動と"宇宙教育"。宇宙開発の"今・現在"を国民に知ってもらう・理解してもらうためにメディアにも積極的に登場。宇宙開発に興味が無い人でも、きっと一度は的川先生をテレビで観たことがあるはず。海外の宇宙関係者や、種子島・内之浦の宇宙センターがある鹿児島付近の漁業関係者との交渉・協力関係も大切にする。さらに、火星探査機「のぞみ」、小惑星探査機「はやぶさ」、そして月探査機「かぐや」に人々の名前・メッセージを載せる企画も的川先生から始まったもの。「宇宙教育」とは、ただ宇宙のことを子どもたちに教えるのではなく、宇宙という視点から自然や生命を見て、科学する心を養うこと。日本各地で行われる宇宙教育イベントを主導し、子どもたちや教育現場の大人たちに宇宙・科学の面白さを伝え続けている。人があっての宇宙開発。主導する科学者・技術者だけでなく、応援する人の存在だって必要。的川先生がいなかったら、こんなに宇宙と人が結びついていなかったんじゃないかと思う。
(宇宙教育についてさらに詳しくは、JAXA宇宙教育センター:宇宙教育センターについてをご覧ください。センター長である的川先生が方針について説明されています)

 宇宙開発の現場の様子だけでなく、的川先生自身の思い出話も読みどころ。若い頃からヘビースモーカーだった的川先生が、40歳の時に禁煙を決意。その40歳の誕生日、40本のタバコを一気に吸って禁煙開始記念にした(驚きの画像あり。しかも、その後ろに「はやぶさ」プロジェクトマネージャーである、若き日の川口淳一郎先生が写っていたりする。恐るべし…)だとか、糖尿病予防を目的としたダイエット記録だとか。本当にパワフル。人間的な意味でも、的川先生は物凄い人です。

 現在もメルマガの連載は続いていますが、この本に収録されているのは2004年まで。1999年から2004年というと、宇宙開発では大きなニュースが続けて起こった時期でもある。H2Aシリーズの打ち上げ開始、「のぞみ」の行方、ロシアの宇宙ステーション・ミールの廃棄、スペースシャトル「コロンビア」事故、JAXA発足、「はやぶさ」打ち上げ…。激動の宇宙開発の記録として読んでも面白い。事実だけを追うんじゃなくて、その事実から何を学ぶか。特に「のぞみ」失敗に関する部分が胸に迫ってくるようだった。

 的川先生と言えば、「マトちゃん」の存在も。的川先生をキャラクター化したもので、ロケット打ち上げライブ動画に時々登場もします。さらに仕事場には「マトちゃん」等身大パネルが置いてあるらしい(それは是非見たい)
 ↓これがマトちゃん。かわいい。
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 ちなみに、この画像は以下の動画から。
ニコニコ動画:国産全段固体ロケット M-V 赤外線天文衛星「あかり」 打ち上げ
エキサイトブログではサムネイル画像が表示できないのが悔しい。



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 宇宙といえば、「かぐや」からの地球の画像がすごすぎます。
JAXAプレスリリース:月周回衛星「かぐや(SELENE)」のハイビジョンカメラ(HDTV)による「地球の出」撮影の成功について

 待ってましたよこの画像!月のかぐやからの、元気な便りが届いて本当に嬉しいです。さて、明日夜8時からはNHKでかぐや特番。4:3のブラウン管のテレビなのが残念ですが、今から楽しみで仕方ない。あー、宇宙大好きだ!ワクワクが止まらん!
by halca-kaukana057 | 2007-11-13 23:21 | 本・読書

春になったら苺を摘みに

 いつの間にか梨木香歩フェア開催中です。今回は梨木さんの初めてのエッセイを。

春になったら苺を摘みに
梨木 香歩/新潮社・新潮文庫/2006



 以前梨木作品のいいところは、「不思議なものを自然に、さらりと、ずっとそこにあったように書くところ」と書いた。不思議なものを大げさに取り上げず、そこに前からあって、私たちはその存在に今気付いただけのようにさらりと書く。それは梨木さん自身が、不思議なものに対して特別な見方をせず、理解できるもの・受け入れられるものとしてとらえているからなのかもしれない。このエッセイを読んで、そんな梨木さんの思考の内側に触れた気がした。

 梨木さんは学生時代をイギリスで過ごし、ウェスト夫人の家に下宿していた。ウェスト夫人の家には世界各国から様々な境遇の人が下宿しにやってくる(この下宿が「村田エフェンディ滞土録」のディクソン夫人の下宿に良く似ている)。例えその人が迷惑なことをしてウェスト夫人自身もその人の態度に参っていたとしても、ウェスト夫人はそれを受け入れる。
理解はできないが受け入れる。ということを、観念上だけのものにしない(230ページ)
ウェスト夫人の生き様を真似しようとしても、なかなか実行はできないだろう。だから、「観念上だけのものにしない」強さと優しさが際立つ。

 この世界には想像を超えるもの、理解できないもの、頭に来るもの、近づきたくないもの…そういう自分とは別の世界に置いておきたいものが数多く存在する。そういうものから受けるダメージは大きいので、なるべくなら近づきたくない。ただ、そこには受けたほうがいいダメージも存在する。例えば自分が避け続けている問題の根幹とか、厳しいけれども甘えを気付かせてくれる言葉とか。戦争や宗教上の対立、差別の問題もそれに含まれる。私たちはそれにどう向き合っていったらいいのだろうか。対話を重ねても理解できず、武力衝突に繋がることも多い。そんな「理解できない」時は衝突するしかないのか。理解できなくとも、同じ立場に立ったことはなくとも、味方に出来なくても敵にしないでそっと隣にいることは出来るはず。そっと隣にいて、ちょっと言葉を交わし、お茶でも飲んで同じ時を過ごす。会話が弾まなくてもそれでいい。対立しないで側にいることが出来たのだから。それがウェスト夫人の立ち位置だろう。

 このエッセイを読んでいると、色々な人に出会いたくなる。旅に出たくなる。観光地を回る観光旅行ではなく、人と彼らが暮らす国・町に出会う旅を。
by halca-kaukana057 | 2007-11-04 22:12 | 本・読書
 以前読んだ向井千秋宇宙飛行士と旦那様・万起男さんのエッセイ「君について行こう」の続編です。「君に~」は千秋さんが宇宙に行くまででしたが、続編は宇宙飛行中~帰還後まで。

続・君について行こう 女房が宇宙を飛んだ
向井 万起男/講談社・講談社プラスアルファ文庫/2002

 1994年、スペースシャトル・コロンビア号で宇宙へと旅立った千秋さん。地球で見守る万起男さんはまたもや千秋さんのことを色々と心配してしまう。宇宙での科学実験、ケーブルテレビの映像で観る千秋さんたちクルーの様子、千秋さんが宇宙で体験したこと。そして帰還後、千秋さんが一番衝撃を受けたものとは…。



 まずは「君に~」の最後とちょっとかぶるが打ち上げのシーン。打ち上げの時、千秋さんが考えたのは千秋さんの控えのフランス人宇宙飛行士・ジャン・ジャック・ファビエさんのこと。以前千秋さんも毛利衛さんの控えだった経験がある。打ち上げの瞬間、それは控えの宇宙飛行士が宇宙に行けないと確定する瞬間。ファビエさんが今感じているだろう辛さを思いつつも、「ジャン・ジャック、悪いね。やっぱり、私が行くからね」と思った千秋さん。ロケットの打ち上げはいつも興奮するけど、その陰で切ない思いをしている人もいる。その人のことを考えるからこそ、自分が宇宙へ行って精一杯いい仕事をしてこようと思える。そんな千秋さんの複雑な心境と、振り切った瞬間が何とも爽快。前作でもそうだったけど、千秋さんは本当に凛とした、爽快な生き方をしている人だと感じる。たまらなく素敵だ。

 宇宙へ着いた千秋さんたちクルーは、早速ミッションの科学実験を始める。STS-65のミッションって何でしたっけ…?とすっかり忘れていたので、いいおさらいにもなりました。初耳な実験内容も合った…。飛行中のシャトルの運用に関しても、現場だからこそ聞ける興味深い内容も多く、宇宙バカとしてたまりませんわコレ…。特にキャプコムの存在。シャトルを地上から支援するミッション・コントロール・センターで、一番トップにいるのはフライト・ディレクター。しかし、フライト・ディレクターは飛行中の宇宙飛行士と直接交信することが出来ない。出来るのは「キャプコム」という立場の人のみ(飛行士の健康状態を管理する医師も含むが)。キャプコムは宇宙飛行士の中から選ばれる。宇宙飛行士同士だからこそ理解しあえることがあるからだ。NASAはそういう配慮をちゃんとしている。NASAは技術だけがすごいんじゃなかったんだ。ここにあらためて驚いた。

 忙しい科学実験の合間の食事や、「天井歩きツアー」も楽しい。そして地球の姿。しかし、それ以上に千秋さんに衝撃を与えたもの。それが重力の存在。帰還後、身体や物が重いことにひどく驚く千秋さん。私たちは全く気にしないのに、宇宙から還って来ると意識せざるを得ない重力の存在。物から手を離すと落ちる。どんな軽いものにも重さがある。そんな当たり前のことが、当たり前じゃなくなる宇宙。千秋さんが驚く姿を読んでいて、ああ、私もその物の重さを実感するために宇宙に行きたい!と思ってしまった。

 帰還後、宇宙飛行士の言葉に期待する人々に疲れてしまうなんて部分も。忘れてはいけないのは、宇宙飛行士だって同じ人間だってこと。それぞれ性格も違うし、ものの感じ方も違う。私たちは宇宙へ行って感動した、地球は青くてキレイだったとお決まりの言葉を期待してしまう。それが宇宙飛行士たちを困らせることもある。彼らは宇宙へ観光ではなく、仕事をしに行っているだけなのに。宇宙へ行くことが今はとても珍しいから色々期待してしまうけれども、もっと宇宙飛行が一般的になれば違う視点も見えてくるかもしれない。その鍵となるものを、この本で見つけたと感じました。

 最後がまたとても爽やか。離れてばっかりだけど、こんな夫婦もいいなとも感じます。前作と一緒に読むことをオススメします。
by halca-kaukana057 | 2007-07-23 22:59 | 本・読書

君について行こう

 宇宙飛行士・向井千秋さんが宇宙に行くまでを、旦那さんの向井万起男さんが綴った宇宙開発系ノンフィクションの定番「君について行こう」。…すみません、宇宙好きと言っておきながら、実はまだ読んでいませんでした…。1月にはドラマ化(女の一代記「向井千秋・夢を宇宙に追いかけた人」)もされ、この際だから読んでおこうと思いまして。ドラマは諸事情により観てません。DVD化されないかな。


君について行こう〈上〉女房は宇宙をめざす
向井万起男/講談社 プラスアルファ文庫/1998
 上巻は千秋さん(文中では「チアキちゃん」)との出会いから宇宙飛行士に選ばれ、結婚、STS-65・コロンビア号の乗組員として選ばれるまで。読んでみての第一印象が、「これはドラマ化されてもおかしくない!」だった。慶応大学医学部で病理学の医師として働く万起男さん(文中では「マキオちゃん」)は、変わり者の女子学生がいることを知る。「ナイトウチアキ」という名前で、スキーが非常に上手く、とんでもない酒豪とのこと。その後、万起男さんは千秋さんと仕事をする機会があったのだが、千秋さんときたらなぜか万起男さんの顔を見て爆笑してしまう。そんな不思議な出会いを経て、だんだんと仲良くなり親友となってゆく。その千秋さんの生き様が、とにかくすがすがしい。宇宙飛行士選考最終試験後、千秋さんがこんな言葉を言う。
「でもね、スペースシャトルが打ち上げられるフロリダの抜けるような青い空って、絶対、私に似合うと思うんだ。この点だけは、私はだれにも負けないと思うんだ。私なら、フロリダの抜けるような青い空の下を、笑いながら発射点に向かって歩いてみせる」(63ページ)

 この言葉がまさにぴったりな人なのだ。その内面には「みなし児一人旅」性格なる千秋さん特有の感覚・人生観があったり、チャレンジャー事故、毛利さんの控えとしての「飛べない宇宙飛行士」の経験なども持っているが、何にでも全力投球、女だろうと何だろうといち仕事人として熱心に取り組む。その颯爽とした姿勢がカッコイイ。


君について行こう〈下〉女房と宇宙飛行士たち
向井万起男/講談社 プラスアルファ文庫/1998

 下巻は打ち上げ45日前(L-45,打ち上げ前の日数のことをNASAでは「L-○○」と表記する)から打ち上げ当日までを日記風に記したもの。コロンビア号の愉快な仲間たち個性的なクルーのこと、訓練やNASAについて、打ち上げを控えた千秋さんの心境と、アレコレ心配する万起男さんの気持ちが面白い。訓練の様子もかなり詳しく、宇宙開発好きならたまらない内容。NASAの家族に対する支援についても初めて知った。もう「さすがNASA!」と言いたくなるぐらい。乗組員たちの話も楽しい。乗組員だけでなく、彼らの家族や交際相手もとても個性的。

 打ち上げが近づくあたりから、だんだん読んでいるほうも緊張してくる。打ち上げ前日(L-1)、万起男さんと千秋さんの会話がとても印象的。宇宙飛行へ向けての決意と2人の絆がひしひしと伝わってきた。そして打ち上げ。ただでさえ圧倒されそうなロケットの打ち上げを、妻が乗るという感情で見たらもっと強く印象に残るんじゃないかと思う。


 宇宙飛行士に関するドキュメンタリー(TVでも本でも)は今までいろいろ観て来たが、これも本当に面白い。宇宙飛行士も一人の人間という視点で読むのも面白いし、新たな夫婦観という視点から読むのもいい。今さらだけど、読んでよかった。
by halca-kaukana057 | 2007-05-07 22:21 | 本・読書
 読んだのになぜかタイミングを失って感想を書かずにいた本の感想を、まとめて3冊。テーマは「その人だから書ける物語を」。



「小学生日記」(華恵/角川書店・角川文庫/2005)
 その名の通り、小学生であり「作文家」である華恵さん(「hanae*」から改名)が描く等身大の日常風景。帰国子女でモデルや女優として活躍もしているのできっと世間離れした作品なんだろうと思ったら、見事に裏切ってくれました。家族のこと、学校のこと、塾のこと、友達のこと…。解説で重松清氏が書いている通り、「小学生にしか書けないけれど、小学生には書けない」。子どもの文章を読んでいると時々ハッとさせる文章に出くわす。大人なら見過ごしているようなことを鋭く突いていたり、何かを考えて発した言葉が想像以上に深いものだったり。でも、言葉足らずでたどたどしいところをじっと我慢しないと読めない時もあるので手ごわい。

 ところが、華恵さんは見事にそれを乗り越えている。子どもの観察力と感情に、大人並みとはいかないけれど感情豊かな文章と表現を持って。そしてその華恵さんから見える子どもの世界も、広く色彩に溢れている。いい事ばかりじゃない。いじめや離れ離れになってしまった友達のこと、友達の勇気ある行動から見えた華恵さん自身の情けなさ。一瞬一瞬はどれも華恵さんには大切な時間なのだろう。その一瞬を大事にした小学生華恵さんだからこそ書けた。華恵さんに限らず、きっと身の回りには豊かな感性で一瞬を語ろうとする子どもがいるのだろうと思うとワクワクする。



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 次はこれ。


「ボクの音楽武者修行」(小澤征爾/新潮社・新潮文庫/2000)

 恥ずかしながらこの本をまだ読んでいなかったのです…。小澤征爾の若い頃の回想記。指揮者を目指し、単身ヨーロッパをスクーターでめぐりながら音楽を勉強しようと考え日本を離れる。ブザンソン国際指揮者コンクールで一位になり、カラヤンやバーンスタイン、ミュンシュのもとで学び認められる。スピード出世と言えばいいのかその勢いに驚いたが、本人はそんな気負ったところは無かったようでスキーを楽しんだり酔っ払ったり。音楽も遊びも全力投球で、本当に楽しかったんだろうなぁと思う。そんな全力投球の熱心さが、小澤氏をここまで引っ張ってきたのだろうと思う。家族へ宛てた手紙もユーモアたっぷり。日本にこんな音楽家がいて、そして本でもその人柄に触れることが出来るなんて幸せだと感じた。小澤氏の演奏も恥ずかしながらそれほど多くは聴いていない…ので、この作品をきっかけにもっと聴こうと思う。つか、日本人演奏家自体そんなに聴いていないや。これはイカンです。


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 次は突然雰囲気を変えて漫画。


「宙のまにまに 2」(柏原麻実/講談社アフタヌーンKC/2006)

 前回1巻を紹介した天文部が舞台の漫画2巻。天文部は夏合宿に来たものの、フーミン率いる文芸部と同じ場所で合宿することになってしまう。観測に夢中になる美星たちだったが、フーミンとあれこれあるうちに文芸部を招いて天体観測をすることに。今がチャンスだと張り切る天文部員。一方星のどこが面白いのかと思うフーミン。観測会の行方はいかに。

 その合宿の観測のシーンは面白いのだが、あとはほとんどラブコメという展開。天文:ラブコメの割合が3:7ぐらい。しかもコメディ部分が暴走気味。作者・柏原さん自身天文部だったと思うのですが、元天文部なら元天文部員だからこそ書ける物語に持っていって欲しかった(文芸部との合同観測会で朔がフーミンに語るシーンは素晴らしかった)。ただ、後半で天文部の命運を握る(かもしれない)新顧問・草間先生が登場したり、文化祭へ向けて天文部の挑戦が始まったりと天文重視の展開になることを期待します。「宙」とタイトルにあるのに、このままではただの飾りになってしまうような…。いち読者がこんなことを言ってもどうしようもないことはわかっているのですが…。




 以上。その人にしか語れない物語は大好きだ。誰でもじっくり聞こうとすれば、そんな話に巡り会えるんじゃないかとも思う。本でなくても、ブログや身近な人の話でも。
by halca-kaukana057 | 2007-01-08 22:13 | 本・読書
「根をもつこと、翼をもつこと」(田口ランディ、新潮文庫、2006、単行本は2001年晶文社より刊行)


 いきなりで申し訳ないが、私は強い論調の毒舌女性作家が苦手だ。誰に対しても物怖じせず自分の言いたい事をはっきりと主張とする。その姿勢に異論はないのだけれども、ただ気合がいいだけで何だかなぁと嫌になってくる。また、インターネットを中心に活動している作家の作品もあまり読まない。それで、田口ランディもそういう作家だと思って敬遠してきた。名前も変わっているし、よくあるティーンエイジャーに人気の、私が苦手とする作家なのだろうと勝手に思っていた。先日、本屋をうろうろしていてこの本が目に留まった。帯の「世界は複雑だけど、それでも希望はある!わかったことにしないで考え続けたい。」という一文におや?と思った。田口ランディってどういう作家なの?ちょっと立ち読みしてみて、思い違いをしていたことに気がついた。と言う訳で、先入観を払拭するべく読んでみた。



 原爆やその被害者、原爆を題材とするアーティスト、水俣病、放射能事故、屋久島ルポ、身近な人のこと…とにかく題材が多岐に渡っている。日本中、時には海外へもあちらこちらへ歩き、人と出会い、考えて考え抜いて、思考が及ばず落ち込んでも深く深く考える。自分がどんなことを書きたいのかわかっていて、考えの偏りも自覚しているがそれでも書く。まずその姿勢に共感。自分の感情や想いを細やかな言葉で表現していく。作中の「船送り」というタイトルの作品の中で、内藤礼さんというアーティストのことを紹介している。彼女の作品の一つを見たランディ氏は、真っ白な紙の中にやっととても淡い円が描かれているのを見ることができた。「半端な覚悟では見ることすらかなわぬ」(45ページ)作品。ランディ氏も色鉛筆で淡い線を描いてみたが、どうやっても簡単に見えてしまう。ランディ氏は色鉛筆では淡い線を描くことは出来なかったけれども、文章では淡い世界を描いていると私は感じた。この本も「半端な覚悟」では読むのが大変だった。取り上げる問題は深刻であり考えも深すぎて、頭がついていけなくなる。それでも諦めずに読んでいくと、ハッと思う部分がいくつも出てくる。あまりにも多くて、ここじゃすべて書ききれない。

 「あの世の意味、この世の意味」の一節で精神科医・加藤清さんの言葉が書かれている。 「じっと、その事象を観続けていると、だんだんと、事象の背後にある意味が観えてくるものです。」(219ページ)「背後の意味」を探し続けるランディ氏。私ももっと考え続けたい。私は作家ではないし、文章に関しては全くのアマチュアだけれども、思考する人間として考え続けたい。そう思う。「文庫版あとがき」にある、「がんばらない、あきらめない、わかったことにしない」(329ページ)。この姿勢で「背後の意味」をじっと観続ける。簡単に出来ることではない。こういうことに挑んでいる人をすごいと思う。

 この本1冊で田口ランディの見方が大きく変わってしまった。エッセイだけじゃなく、小説も沢山書いているのだそうだ。こうなったら読むしかない。



 と思ったのだが、公式サイトを見てみようと検索したら、小説の盗作事件に関するサイトのほうが出てきた。盗作で2つの作品が絶版になってしまったのだそうだ。さっきまで先入観無しでいいなと読んでいたのに、何かその感動が壊れてしまった思いだ。

 ランディ氏の人間性を問うサイトも多い。この本の中にも猫を虐待したとか、部屋はゴミだらけという記述があった。それは問題である。でも、彼女が自分の弱さを表に出して葛藤する姿を文章にしていくのなら、むしろ私はそれを読みたいと思う。自分の弱さに妥協せず、開き直らずに自己を見つめていくのなら。私はこの本しか読んでいないので、ランディ氏の考え方や価値観をまだよく知らない。盗作や問題とされている人間性だけで判断するのは、まだ早いと感じるのだ。

 だからこそ、自分の言葉で語って欲しいと思う。たとえ売れなくても、受けなくても。自分が追求したいテーマがあるのだから、それを自分なりに見つめていって欲しい。「自分の言葉」を出すのは凄く難しい。私も時々ブログの記事で困ることがある。自分の意見を、思ったことを適切な言葉で表現できているか。素人でもこんなに困るのだから、物書きを職業とするプロなら尚更のことだ。一方でプロなんだからちゃんと書いてくれとも思う。プレッシャーはあるだろう。それもプロゆえだ。今じゃ素人でも人気ブログともなれば、毎回の記事に注目が集まる。その期待に押しつぶされてブログをやめてしまった人もいる。プロであれアマであれ、文章には悩む。それは皆同じ。だからこそプロならプロなりの文章を磨いて欲しいと思った。
by halca-kaukana057 | 2006-08-15 20:41 | 本・読書

ぐるりのこと

ぐるりのこと
梨木香歩/新潮社/2004

 「裏庭」や「西の魔女が死んだ」、「りかさん」等どこかファンタジーだけれども登場人物はしっかりと現実を見据えている作家、梨木香歩さんのエッセイです。

 まず、梨木さんの博学ぶりに驚いた。それぞれの作品でも「こんなの相当の知識がないと書けないよ」と思っていたのだが、エッセイはそれ以上。知識だけかと思ったら違う。何かを考える心、それを表現する言葉も多様で深い。しっかりした芯を持っている作家さんなのだと改めて感じた。

 「ぐるりのこと」というタイトルは正木ひろしという弁護士の『近きより』という雑誌の発刊の言葉の一節から来ているのだそうだ。
……あまり遠大な仕事のみを考えていると、考えているうちに年をとってしまう。『道は近きにあり』とも言う。私はあらゆる意味に於いて『近きより』始めようと思う

身近なことから大きなものに考えをめぐらせていく。イギリスに留学中のことから近所の草花のこと、トルコに旅行した時に考えたことから国防、教育、様々な事件まで。梨木さんの考えたことに私はとても共感した。考え方が似ていると言うと何だか嫌味くさいので嫌なのだが。ただ、その考えに基盤となる知識が広く、しっかりと敷いてあってその考えが具体的なものとなっているところに感心した。日常の中から学ぼうとする姿勢、知識欲・向学心がとても強い人なのだと思う。私の勉強不足でよく分からないことも多く難しく感じるのだけど、その分勉強になる。

 とにかく共感するところが多くて、特にここを押したいというところがあちこちにあるのでどこを重点的に紹介すれば良いのか決めかねて困ってしまっている。もしこの記事を読んで興味をもたれたのなら是非読んでくださいとしか言いようがない。まいった。これではあまりにも内容が見えないので、共感した文の中から一節を紹介します。

―けれどそれは何か、その首の後ろ辺りの風情は何か、一つの記号的な「答え」のように圧倒的な確かさを漂わせていたのだった。幼い日々のいつか、鼻孔の奥に秘やかに埋め込まれた記憶のような確信をもって、私はこれは何かの「答え」なのだと納得するのだった。けれど、さて、そんな訳の分からない「答え」に先立つ「問い」を、私はいつ設定したか。だけど、ああ、もう問いもスタートも要らない、ゴールは、辺りに満ちているのだから。
 と、思える瞬間も、人生にはある。
(117~118ページ「目的に向かう」より)




 文庫版も出ました。

ぐるりのこと
梨木香帆/新潮社・新潮文庫
by halca-kaukana057 | 2006-04-12 20:37 | 本・読書

好奇心のまま「面白い!」と思ったことに突っ込むブログ。興味の対象が無駄に広いのは仕様です。


by 遼 (はるか)
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