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絶対帰還。

 先日の若田さんISSコマンダー就任の記事にちょろっと出した本の感想です。



絶対帰還。 宇宙ステーションに取り残された3人、奇跡の救出作戦
クリストファー・ジョーンズ:著/河野純治:訳/光文社/2008

 2002年11月、スペースシャトル・エンデバー号(STS-113)は7人のクルーを乗せて打ち上げられた。そのうちの3人、ケネス(ケン)・バウアーソックス、ドナルド(ドン)・ペティット、ニコライ・ブダーリンは第6次長期滞在(エクスペディション6)のクルーで、これから4ヶ月間国際宇宙ステーション(ISS)に滞在し、科学実験などを行うことになっていた。4ヶ月後には、迎えのスペースシャトル(STS-114/野口聡一宇宙飛行士が搭乗)に乗って、エクスペディション7のクルーと交代するはずだった。
 しかし、長期滞在中の2003年1月に打ち上げられたコロンビア号(STS-107)が、大気圏再突入の際に空中分解。「コロンビア号事故」…7人の宇宙飛行士の命が奪われた。事故の原因解明のため、スペースシャトルの飛行は凍結。ISSにいるバウアーソックス、ペティット、ブダーリンの3人は、当初の予定よりも長くISSに滞在することになってしまった。いつ帰れるかはわからない。
 ISSに取り残された3人の宇宙飛行士。地球で待つ家族たち。帰還させようと懸命に方法を考える地上スタッフ。彼らに直接取材して、エクスペディション6のクルーが帰還するまでを追ったノンフィクションです。


 この本を読み始めたのは、コロンビア事故から8年が経った後。毎年、コロンビア事故が起こった日…日本時間だと2月1日の夜は、事故のことを想います。その日の夜、テレビは付けていなかったので、事故を知ったのは翌朝2月2日のことでした。朝起きて、テレビを付けると青空に火球のような閃光がバラバラと流れ落ちる様を観て、それがコロンビアの最期だと知って…驚きの声しか出ませんでした。静まり返った管制室。そして、その後見つかった焼け焦げたクルーのヘルメットが地上に落ちている映像も、今も頭に焼き付いています。スペースシャトルがあってこそのISS建設だったので、これからISSは(日本の「きぼう」実験棟建設も含む)、そして宇宙開発・有人宇宙飛行そのものはどうなってしまうのだろうと、考えても考えても答えが出ない日々を送っていました。コロンビア事故は2月1日。1967年1月27日のアポロ1号事故、1986年1月28日のチャレンジャー号爆発事故と合わせて、このあたりは毎年かなしみと共に宇宙飛行を想います。

 そのコロンビア事故の一方で、ISSにはエクスペディション6の3人のクルーがいた。事故のコロンビア号は、ISS建設がメインだったシャトルミッションには珍しく、ISSには向かわないシャトル単独での科学実験ミッションだった。なので、コロンビアはISSには直接関係していなかったが、関係はあった。事故でシャトル飛行そのものが凍結してしまい、次にシャトルが飛ぶのはいつになるのかわからない。また、飛行が再開しても、当初予定されていたミッションのままになるかどうかもわからない。そして、エクスペディション6のクルーの帰還と、次のエクスペディション7の打ち上げをどうするか。エクスペディション6を帰還させ、ISSを無人にしてしまうと、後に復旧するのが大変になる。ISSは建設中とはいえ、科学実験も行っており、ISSを無人にしては予定されている実験もできない(ただ、シャトルでないと運べない実験器具はどうしようもないが…)。当時、すっかりコロンビア事故と、事故の原因究明、今後シャトル計画はどうなるのか、いつ飛行再開するのかを気にしてしまい、ISSの維持のことは頭からすっかり飛んでいってしまっていました。なので、この本で「あの事故の影でこんなことがあったのか」と初めて知る内容が多くありました。

 また、この本ではSTS-113、エクスペディション6、STS-107までに至る有人宇宙飛行の歴史も随所に書かれ、振り返ることができるようになっています。過去の有人宇宙飛行の歴史の部分が時系列順ではなくいきなり出てきたり、かなり長い箇所もあり、ちょっと混乱するところもありますが、数々の有人宇宙飛行計画・ミッションを経て、シャトルとISSに至るのだなと実感します。しかし、その歴史も、アメリカ・ロシア(旧ソ連)同様平坦ではなかった。大小の事故はもちろんのこと、アメリカのスカイラブ計画では、宇宙のクルーと管制との意思疎通がうまくいかず、宇宙のクルーがストライキを起こすという事態まであった。冷戦下、アメリカはスペースシャトル、旧ソ連は宇宙ステーション「ミール」でそれぞれの道を歩むが、両国の宇宙飛行士をそれぞれの宇宙船に招待することが続けられた。その中で、ミールは故障に見舞われ、補給船「プログレス」の衝突、火災…。そんな状況でも冷静に対処するロシア人飛行士は、今も昔も変わらないのだなと思う。もちろん個人によって違いはある。旧ソ連のミッションでも、長期滞在の途中で精神が破綻しかけ緊急帰還した例があった。それでも、ロシア人飛行士はやはり心身ともに頑強というイメージがある。
 現在、ISSでは日本、カナダ、ヨーロッパ諸国、ブラジルなどが参加。多国籍で、居住環境も衣食も快適になりましたが、現在に至るまでには大変な歴史が積み重ねられているのだなと感じました。

 ISSに取り残されてしまったバウアーソックス、ペティット、ブダーリンの3人。コロンビアのクルーとも交信し、また訓練中に親交のあった飛行士もいて、3人のかなしみは深かった。そして、いつ帰れるかわからないと言う不安も。それでも、ISSでの生活・ミッションは続く。コマンダーとしてペティットとブダーリンをまとめ、無重量状態で骨や筋力が衰えないようにトレーニングを欠かさなかったアメリカ人飛行士・バウアーソックス。3人の中で唯一の民間出身(あとの2人は軍出身)の技術者で、ユニークな発想に基づく研究が一目置かれていたアメリカ人飛行士・ペティット。彼は宇宙でもそのユニークな発想と、器用な手先で壊れていた装置を直したり、様々な工夫をした。ベテラン宇宙飛行士で緊急事態でもどうしたらいいかを心得ており、宇宙で快適に暮すために様々な工夫も知っていたロシア人飛行士・ブダーリン。彼らは長引く宇宙生活を楽しみつつも、やはり寂しさも感じていた。その一方で、地上の家族のことも描かれる。やはり、宇宙飛行士にも帰る場所があるのだと感じる。

 そして、ソユーズ宇宙船で帰ることが決定。しかし、しばらく運転させずISSに係留させたままだったソユーズ宇宙船がうまく動くか。そして、帰還途中でもトラブルが…。最後までドキドキします。

 大気圏外・地上から約400km上空の宇宙空間での暮らしは、確実に身近になってきている。地上の暮らしの延長線上に、宇宙での暮らしがあり、その延長線がだんだん短くなってきている、短くなればいいとこのブログで何度も述べてきた。ところが、宇宙へ行くためには、この重力を振り切って飛ぶロケット・宇宙船がなければならない。帰還するための宇宙船も。もし、そのロケット・宇宙船が失われてしまったら、延長線は、地上と宇宙を繋ぐ糸は途切れてしまう。身近であり続ける、もっと身近になるためには、安全に、安定して打ち上げ・帰還できるロケット・宇宙船が必要なんだと感じました。そして、長期滞在も簡単ではないということ。これまで、若田さんや野口さんは比較的楽に長期滞在をこなしてきたように見える。他の宇宙飛行士も。しかし、私たちには語られていないこともあるのかもしれない。いつか、引退した後でも、一般に向けて語られたらいいなと思う。地上での暮らしと宇宙での暮らしを、もっと近づけるために。

 長い作品ですが、読み応えがありました。


【過去関連記事】
オンリーワン ずっと宇宙に行きたかった
 野口さんの、STS-114での初飛行後に書かれたエッセイ。昨年のISS長期滞在中に文庫化され、読みました。コロンビア事故がなければ、コロンビアが帰還後に打ち上げ、エクスペディション6のクルーを乗せて帰ってくる予定でした。コロンビア事故で、野口さんも大きな影響を受けました。合わせてどうぞ。

野口さん帰還と、地上の生活につながる「きぼう」の実験
 野口さんの、長期滞在からの帰還について。ソユーズ宇宙船での帰還についても書きました。
by halca-kaukana057 | 2011-02-24 22:37 | 本・読書
 年が明けても、小惑星探査機「はやぶさ(MUSES-C)」関連書籍の出版が相次いでいます。全国各地で行われているカプセル展示も大盛況。4月からの来年度も、きっと盛り上がることでしょう。ということで、「はやぶさ」関連書籍、川口淳一郎プロジェクトマネージャーによる2冊目です(昨年末に出版)。当初はこの本が1冊目になる予定だったようですが、延期になり「そうまでして君は」が1冊目に。

カラー版 小惑星探査機はやぶさ ―「玉手箱」は開かれた
川口淳一郎/中央公論新社・中公新書/2010

 新書で、的川泰宣先生の単行本「はやぶさの奇跡」と新書「はやぶさ物語」のように、新書の方が読みやすいのかなと思ったら、川口先生の場合はこの新書の方が内容盛りだくさんになっていました。ただ、単行本「そうまでして君は」は川口先生の情感たっぷりの文章とは打って変わって、新書「玉手箱」では冷静な文章になっています。「はやぶさ」のプロジェクトや技術に関しても、「そうまでして君は」よりもかなり詳しくなっています。M-Vロケットの仕組みと特徴から、イオンエンジンについてもA~Dまで4機あるイオンエンジンのそれぞれの状態、どのような運転をしてきたかについてまで。更に、第3章ではスウィングバイについてとても詳しいことが書かれています。ご存知の通り、川口先生の専門は軌道工学。ハレー彗星の観測に向かった「さきがけ」、火星探査機「のぞみ(PLANET-B)」でもスウィングバイが決めてとなった。特に「のぞみ」では、当初の軌道計画でパワードスウィングバイ(エンジンを点火しながらスウィングバイする)を実施。しかし、エンジンの片方の弁が故障し、予定の推力が出ず軌道から外れてしまった。取り戻すのに燃料を余分に使ってしまい、火星になんとしてでも到達するために…編み出したのがあの芸術的とも呼ばれる複雑な軌道。この軌道について、考案した川口先生自身の言葉が読めるのは興味深かった。そして、「さきがけ」「のぞみ」で為し得なかったことを「はやぶさ」でなんとしてでも成し遂げたい。その強い想いも。

 イトカワに到着し、観測、タッチダウンへの準備・リハーサル、そして本番。この部分に関しても、本当に詳しく書かれています。コンパクトな新書に収まっているのが不思議に思えます。全ページカラーなので、イトカワの画像もカラーできれいに。新書とは思えない盛りだくさんぶりです。タッチダウン、そして数々のトラブルが起きる。燃料バルブとスラスタの故障も、本当なら実際に中を開けて見てみたい。でも、宇宙を飛んでいる宇宙機ではそんなことは出来ない。そして通信途絶。目では見られない場所にあるからこそ、ありとあらゆる可能性を考え、計算して、列挙する。それがチームを結束させるきっかけにもなるし、予算も繋げる。その一方で、
「ここで終わったら何にもならない」
「往復飛行という技術実証をここで果たさないと、この先はない」
「『惑星探査はしょせん冒険でしかないね』と言われるだけで、次に続かない」
(128~129ページ)

という想いも抱えていたそう。振り返ってみて、運用中最も辛かった時期だと。「はやぶさ」は”技術実証機”。今後、小惑星などからサンプルリターンをする探査機の開発のために、必要な技術を実験する探査機。しかし、だからといって妥協しない。「さきがけ」「のぞみ」の悔いもある。「はやぶさ」が人々を惹きつける理由は、ここにもあるのだなと感じました。

 イオンエンジンのクロス運転も乗り越え、帰還へ。帰還の2010年6月13日も、ネットなどで見たところでは順調でしたが、実際はそうではありませんでした。帰還当日になって故障した箇所もあり、カプセル分離に影響を与える。1基だけ残っているリアクションホイールで姿勢を制御しながら、ウーメラ砂漠の当日の天候も考慮してカプセルをどのタイミングで切り離すかの指令も当日に送った。パラシュートをどのタイミングで開くかの信号も、判断は困難だった。そして、「はやぶさ」の最後のミッション・地球を見せてあげることも、容易ではなかった。当日も数々の困難があったにも関わらず、あの華々しい帰還。カプセルも予定落下位置とほぼ同じ場所に着陸しており、すぐに見つけられた。最後の最後まで、最終目標である帰還を諦めない想いがプロジェクトチームにあったのだと実感しました。

 帰還後、つまり、運用が終わってしまった運用室を見ての言葉が印象的です。
 運用室に詰めていたメンバーもいまや運用室に来ることはなく、別の仕事を与えられている。「はやぶさ」と同じことをしてほしいわけではないが、その技術が生きる仕事が続けられれば、技術の伝承は成し遂げられる。だが、現状は、似たような仕事も後継ミッションもただちに立ち上がっているわけではない。
 今なら技術を伝えられるのに、タイミングを逸してしまうと、伝える時間も手段もなくなって風化していく。真っ暗な運用室は、その象徴なのだ。
(171~172ページ)

 「はやぶさ2」も始動していますが、他にも「はやぶさ」で得られた技術を伝え、継承していける方法がある。例えば、大気圏再突入時のカプセルの技術は、大気圏で燃え尽きず機体の一部を地球に帰還させる「HTV-R」の技術に。「さきがけ」「のぞみ」から継承してきた軌道制御に関しても、惑星探査ミッションで継承していけると思います。今のところ、残念ながらミッションは何も立ち上がっていませんが…。

 相模原でのカプセル展示の感想に、ある人からのメッセージもありました。驚きました。内容も、これを読んだら嬉しいだろうなぁ。私も嬉しくなりました。

 この本、ちょっとおもしろい仕掛けがしてあって、左下に「はやぶさ」の打ち上げから帰還までの軌道図が全て書かれています。そう、パラパラ漫画になっているのです。書店で手に取って、この仕掛けを見た時、思わず「うまいなぁ!」と唸りそうになりました。
 そして、本文の後、最後のページの写真にも注目です。

 これまでの「はやぶさ」関連書を読んで、もっと詳しいことが知りたい時にオススメします。コンパクトなのに内容盛りだくさん。小さな機体に様々な機能を、そして可能性を載せて還って来た「はやぶさ」のようです。

 で、「はやぶさ」本、まだまだ増えてます…。

「はやぶさ」からの贈り物―全記録・小惑星イトカワの砂が明かす地球誕生の秘密

朝日新聞取材班 / 朝日新聞出版


 こちらは朝日新聞社による本。

「はやぶさ」式思考法 日本を復活させる24の提言

川口淳一郎 / 飛鳥新社


 そして、川口先生も3冊目を!!”思考法”とタイトルにある通り、これまでの「はやぶさ」の旅路を振り返る本とは、ちょっと趣が違うようです。表紙もこれまでの「はやぶさ」本とは違う雰囲気。笑顔の川口先生です!

 3月には的川先生の3冊目、さらに、「恐るべき旅路」の松浦晋也さんも小学校高学年向けの本を出すそうです。松浦さんの本は楽しみです。

【過去記事】
はやぶさの大冒険
小惑星探査機「はやぶさ」の奇跡/小惑星探査機 はやぶさ物語
はやぶさ、そうまでして君は 生みの親がはじめて明かすプロジェクト秘話
 これまでの「はやぶさ」本感想です。

*****

 ちょうどよいので、先日のNHK「爆問学問」。太田さんのボケを笑いつつもさらりと流し、話す川口先生。ペースを保ち、流されない…凄いです。あと、ヒートシールドを前に、写真まで撮影してしまった田中さん。えええ!!カプセル展示では写真撮影は一切禁止されているのに!羨まし過ぎます…。
 「太陽系大航海時代」この言葉は何度聞いてもワクワクしますね。
NHK:>爆笑問題のニッポンの教養 | 過去放送記録 | FILE137:「はやぶさが教えてくれたこと」 | 川口淳一郎(かわぐちじゅんいちろう) | 2011年2月8日放送分
 ↑放送記録、川口先生・爆問の2人・ディレクターの感想など。あのヒートシールドの画像が!!
by halca-kaukana057 | 2011-02-10 22:08 | 本・読書

経度への挑戦

 天文にも関わりのあるノンフィクションです。twitter経由で教えていただきました。



経度への挑戦
デーヴァ・ソベル/藤井留美:訳/角川書店・角川文庫/2010
(単行本は翔泳社・1997)


 地球儀や地図に欠かせない緯度・緯線と経度・経線。この2つの存在は古代より存在していた。緯度は北極星の等の仰角(上向きの角度)を測ることでわかる。赤道が基準の0度で、北と南に向かう。ところが、経度は絶対的な基準がない。現在はイギリスのグリニッジ天文台が0度だが、それまでは世界各地に移動していた。さらに、天文学を用いても、緯度よりも計測しにくい。太陽の南中時間を測定し、標準時の12時0分0秒から何分ずれているかを計算し、その差で何度離れているかがわかる(4分で1度、1時間で15度)。しかし、天候に左右されるし、また南中する時刻も正確に計らないと誤差が生じてしまうので、正確な時計が必要である。しかし、誤差の少ない正確な時計の開発は困難を極めた。

 大航海時代、船舶の航行のために経度を正確に測ることが求められたが、当時使われていたのは振り子時計。揺れる船の中では振り子時計は正確な時間を刻むことが出来ず、そのため経度を読み間違え、海難事故が相次いだ。事故は、多くの人命も失い、さらに船舶で運んできた貴重な食料や資源も失うこととなり、経済的に大打撃を受けることとなる。そのため、各国は正確な経度の測定方法を探した。多くの天文学者や数学者がこの問題に挑んだが、刻々と変わる天候に左右され、精度の高い天体観測技術もまだ確立していなかったため、誰も経度を測定する方法を見つけることは出来なかった。

 ところが、その経度の測定法に全く違う方向から挑戦し、大きな業績を挙げたのが、イギリス人時計職人のジョン・ハリソンだった。ハリソンは元々大工職人だったが、子どもの頃時計に興味を持ち、後に独学で物理学や機械工学など時計に関わる技術について学ぶ。後に自力で時計を作り、その精度が評判となった。
 1714年、イギリスは高精度に経度を測定できる方法を発見した者に賞金を贈る「経度法」を制定。自分の作った時計が経度の測定に使えるのではないかと考えたハリソンはロンドンへ赴き、「ハレー彗星」の発見者であり当時のグリニッジ天文台長だったエドモンド・ハレーにその考えを伝え、時計職人のジョージ・グラハムを紹介してもらい、経度を測るための時計…クロノメーターの製作にとりかかった。


 長い前置きになりましたが、そのジョン・ハリソンと、彼が作ったクロノメーターの数々、天文学者との対立などを描いたのがこの作品です。これまで、経度をどうやって測るのか、意識したことはなかった。緯度なら北極星の仰角を測ればいいとすぐに思いつくのですが、経度となると、すぐには思いつかなかった。時刻・時計も使う。天体だけを見ていてもわからない。この本で、時計は宇宙を小さな機械の中に閉じ込めたものだと表現してあったのですが、まさにそうだと感じました。地球は1時間に15度自転している。約365日で太陽の周りを1周…公転する。時間と角度、そして天体の動きには深い関係がある。天文学の知識はハリソンにはなかったが、それを見抜いて、しかもほぼ正確な時計・クロノメーターを作り、改良し続けたハリソンの情熱が伝わってきて、ワクワクしました。

 しかも、そのハリソンの作るクロノメーターの複雑な作りには驚くばかり。当時としては画期的なアイディアも取り入れられ、それまでの時計よりもずっと誤差の少ない時計を作ることが出来た。独学で時計に関する技術を学んだというのに。この本の中ごろには、ハリソンの肖像画と彼の作ったクロノメーター(H1,H2,H3,H4)の写真がカラーで掲載されているのですが、そのクロノメーターの変遷にも驚く。どんどん小型化、軽量化していっている。ハリソン自身、船長が船長室で懐中時計ぐらい小さなクロノメーターを見て、すぐに経度がわかることを目指していたのだそうだ。情熱も勿論、自己の作るものをよりよくしようという気持ちとそれを実現してしまう力にも惹かれました。

 一方で、何とか天文学を用いて経度を測定しようとした天文学者たち。特に5代目のグリニッジ天文台長となったネヴィル・マスケリンはハリソンを目の敵にし、ハリソンの作った精巧で複雑なクロノメーターを分解させてみたり、乱雑に扱ったりもした。マスケリンはマスケリンで、月の運好評や「航海暦と天文暦」という航海術には欠かせない暦を書き続けた。しかし、経度の測定では、ハリソンのクロノメーターはかなり高精度で、クロノメーター開発の先駆者となった。

 ハリソンのクロノメーターは、世界各地を航海し続けたジェームズ・クック船長による航海でも使われた。そしてハリソンのクロノメーターを基に、更に小型化、大量生産できるクロノメーターが作られてゆく。ハリソンは息子のウィリアムと共に、天文学者には理解されなかったが…その技術で、経度測定の方法を求めていた人たちに認められた。私自身天文学に興味は持っているが、天文学の知識だけ…天文学に限らず、何か一つの方法だけで物事を解決しよう・一つの方法だけにとらわれることで、見失うものが沢山あるのだと実感しました。

 物語となっているので、読みやすいです。2度読みましたが、1度目は経度について疑問を持ちながら読み、2度目はクロノメーターの進歩やハリソンを取り巻く人々にワクワクしながら読みました。読めば読むほど、面白いと思う本でした。

 現代は、人工衛星などで簡単に緯度経度がわかる時代。クロノメーターも腕時計にその機能がついたものも多く、精度も非常によくなった。その礎を築いたジョン・ハリソン。毎日している腕時計(私のは普通のアナログ時計)を見ると、その時計の中にある小さな宇宙と、ハリソンの偉業を想います。

・クロノメーターについて詳しく:wikipedia:クロノメーター
by halca-kaukana057 | 2011-02-05 23:47 | 本・読書
 今年、2010年、私が一番大きかったと思うニュースは勿論小惑星探査機「はやぶさ(MUSES-C)」の帰還と、小惑星イトカワのサンプル採取成功。本当に今年は「はやぶさ」一色でした。その「はやぶさ」関連本をこれまでも何冊も読んで感想を書いてきましたが、ついにプロジェクトマネージャーの川口淳一郎先生も執筆されました。これを読み終えないで、今年は終われません。


はやぶさ、そうまでして君は〜生みの親がはじめて明かすプロジェクト秘話
川口淳一郎/宝島社/2010

 内容に関しては、これまでの「はやぶさ」関連本や、川口先生の講演会での内容と同じように、小惑星サンプルリターン小研究会の立ち上げから、NASAに負けじとサンプルリターン計画を「MUSES-C」プロジェクトとして発進。機体の開発、打ち上げ。そして、苦難の旅路…。これらは、これまで何度も聞いてきた話なのに、何度も読みたくなるのは何故だろう。「はやぶさ」プロジェクトそのものの挑戦的なミッションに魅力を感じる。でも、それだけじゃない。書き手の立場もある。山根一眞さんの本はプロジェクトをずっと追ってきた記者として。的川泰宣先生の本は、プロジェクトチームを一番近くで見守り、また、プロジェクトを応援する一般市民や記者さんたちとも一番近い存在として。そして、この川口先生の本は、「はやぶさ」プロマネとして、「はやぶさ」の一番近くにいた技術者としての視点で語られます。更に、この本を購入して初めにさらりと読んでみたのですが、その文章に温かみを感じました。「はやぶさ」への想いが詰まっている。「はやぶさ」に対してだけでなく、プロジェクトチームのメンバー、プロジェクトに欠かせない存在であったメーカーさん、メーカーのエンジニアさんたち、プロジェクトを支えそこで学んでいた若い学生さんたち。「はやぶさ(MUSES-C)」プロジェクト全体に対して、時に熱く、時にプロマネとして感情を表に出さないように冷静に、でも温かく率いて、見守り、育ててきた。「はやぶさ」の旅路は危機の連続で、プロマネとしては冷静に判断し、チームを率いなければならなかった。それでも、心の奥底には温かく、そして「はやぶさ」の地球帰還を絶対に諦めない意志があった。それがこの本の文章から感じられ、川口先生は様々な想いでプロジェクトを率いてきたのだなぁ…とあらためて胸が熱くなりました。

 もうひとつ、あらためて感じたのが、「はやぶさ」の目標は、何があっても地球に帰還させること。それをチーム全体でずっと持ち続けていたのも、危機を乗り越えられたということ。「はやぶさ」がイトカワへのタッチダウン後、3つあるリアクションホイール(姿勢制御装置)のうち2個が故障、プラス燃料漏れで姿勢制御が出来なくなり、通信が取れなくなってしまった。「はやぶさ」との通信がない=「はやぶさ」がいない・失われたことを意味する。そのため、運用室でする仕事がなくなり、運用室にいる人もまばらになってしまった。それでも、目標の地球帰還を諦めたくない。火星探査機「のぞみ(PLANET-B)」での失敗という大きな悔い。また失敗したら、若い世代に「日本のレベルじゃ無理なんだ」とネガティヴの思い込みが残り、高い目標に挑戦しようとしなくなる可能性がある。「はやぶさ」はイオンエンジンやスウィングバイ、サンプルリターンなどの技術実証の目的もあるが、宇宙工学・宇宙科学を今後引っ張っていく若い研究者を育てる場でもある。次の世代に、更なる挑戦をして欲しい。だから、絶対に諦めたくない。そのために、運用室のポットのお湯が常に沸いていつ誰が来てもお茶を飲めるように、川口先生自らお湯を交換。「運用は続いているんだよ」という想いをを込めて。会議を頻繁に開いてどうすべきかを検討。可能性のあることを役割分担して実行に移し、士気が低下しないようにした。そして、可能性のあることを全てやりつくしたら、後は運を天に任せる。神頼みも、できることは全部やったのかという自己点検の意味もあった。プロマネとして地球帰還の目標・チームの士気を保ち、どうしたらそれが出来るか具体的な行動に移す。仕事でも何でも、何かのリーダーになった時に学べる内容も多いです。

 また、初めて知った内容も。人工衛星や探査機は地上でも何度もテストして、過酷な宇宙空間での運用に耐えられるか実験しますが、地球上では完全な宇宙空間を作り出すことはできない。様々な状況を想定してテストしても、実際の宇宙空間では何が起こるかわからない。なので、「ここまでできれば大丈夫だろう」というある程度の試験の見極めが必要であること。また、実験には時間がかかるため、全部を実験し試行錯誤していたら打ち上げに間に合わなくなる。そこで、実験の代わりに計算をして、その計算結果で妥協することも。担当の技術者さんも”職人”だから、妥協のない、完璧な、満足できる機器・部品を作りたい。プロマネも同じ。でも、打ち上げに間に合わなかったら、プロジェクトもそこで終わってしまう…。辛いけれども、妥協も必要なことがあるのだと。宇宙機開発の現実の厳しさを実感しました。また、機体の軽量化のために、何か起こっても失った機能を補う「冗長系」というシステムを組み込むことができなかった。これも辛い厳しい現実。
 でも、今あるシステムで何とかできないか。これが、通信回復後の姿勢制御にイオンエンジンの燃料であるキセノンの生ガスを使ったり、太陽光圧を利用したり…創意工夫に繋がった。厳しい状況でも、創意工夫でなんとかする。これも、チームで絶対地球帰還が目標として持ち続けていたからだと感じます。

 イオンエンジン停止の危機も乗り越え、いよいよ帰還。研究室でひとり、ウーメラ砂漠でのネット生中継を観ていた川口先生の心境、想いは何度読んでも心が震えます。通信途絶しても、「はやぶさ」とずっと一緒だった。それが終わる瞬間。でも、終わってはいなかった。カプセルの回収、カプセルが日本に到着し、燃え尽きずにカプセルについていた2つのもの。そして、カプセル内の微粒子がイトカワのものだと判明した。これらを、「はやぶさ2」で運を実力に変えたい、「はやぶさ2」は「はやぶさ」で沢山の事を学んだ若い研究者たちに任せ、人材育成を続けていきたい。「はやぶさ」そのものは川口先生は過去のものと書いていますが、「はやぶさ」で得たものはずっと引き継がれてゆきます。

 「はやぶさ」帰還後、川口先生は全国のあちらこちらで講演会をし(私も行きました)、雑誌などへの寄稿、メディアの取材…とハードスケジュールをこなし、これまでの運用でお疲れのはずなのに大丈夫かなと思っていました。テレビや新聞などで、川口先生を目にする機会もグッと増えました。それには、理由がありました。「はやぶさ」帰還後、プロジェクトの総括をしなければいけないのに、心にぽっかりと穴が開いたような気持ちになっていた。運用室も誰もいない。モニターの電源も落とされ、静寂が漂っている。そんな日々が続いていた。そんな中で、川口先生はこう考えていたそうです。
 私にできることは、いったいなんだろう。何度考えても、結論はいつも同じです。「はやぶさ」が我々に残してくれたメッセージを、一人でも多くの人に伝えること。そのために、講演会や執筆、取材の依頼は可能な限り引き受け、「自分でいいのだろうか」と自問しながら、今日まで至っています。
(213ページより)

 この本も、そんな想いから書かれました。とても読みやすい文章で、「はやぶさ」の難しい技術の仕組みもわかりやすく解説されています。この本も、中学生ぐらいから読めると思います。是非読んでほしいと思っています。「はじめに」には、こう書かれています。
 「はやぶさ」のプロジェクトで目指したものは、もちろん技術実証もありますが、次代を担う人材を育成することです。宇宙や科学技術にはまだまだ夢があるんだと示すことで、若い方に希望を与えたい。子どもにもその親にも、宇宙開発や科学技術に少しでも関心をもってもらいたい。「はやぶさ」で詩劇を受けた子どもたちが、たとえその後、宇宙を目指さなくても、どんなジャンルでもいいので、新しい知的な挑戦を志すようになってくれれば。一技術者として、これほどうれしいことはありません。本書がそのきっかけになれば幸いです。
(11ページより)

 川口先生からの、「はやぶさ」からのメッセージを私も受け取りました。月並みな言葉ですが…、希望を、諦めない意志を持ち続けよう。そう思っています。

 最後に、私も伝えたいです。 本当にありがとう。「はやぶさ」。


 もしお近くで川口先生はじめ、「はやぶさ」プロジェクトチームやJAXAの講演・イベントがあったら、是非足を運んでみてください。


(しかし、長い記事になってしまった…。読みにくくてごめんなさいorz)
by halca-kaukana057 | 2010-12-31 18:04 | 本・読書
 先週の「はやぶさ」カプセル内の微粒子がイトカワのものだったという大朗報から1週間。カプセルの公開や講演会など、全国各地でさらに盛り上がっています。ということで、ようやく読み終えた「はやぶさ」本2冊。どちらも著者はJAXA(統合前はISAS)の広報役・マトちゃんこと的川泰宣先生です!


小惑星探査機「はやぶさ」の奇跡 挑戦と復活の2592日
的川 泰宣/PHP研究所/2010








小惑星探査機 はやぶさ物語
的川 泰宣/日本放送出版協会(NHK出版)・生活人新書/2010









 ソフトカバーの「奇跡」が9月、新書の「物語」が10月に出版。どちらも大体同じ内容ですが、少し違います。「奇跡」は帰還後すぐに書かれ、小惑星サンプルリターン計画を立ち上げ、「はやぶさ」の開発、開発を追いながら「はやぶさ」のミッション内容や特徴、機器についての解説、さらに「はやぶさ」に先立ち、”先輩”ミッションであった「ひてん(MUSES-A)」,「のぞみ(PLANET-B)」のこと、そして打ち上げ、7年の旅路を当時のメルマガなどと合わせて書かれています。一方、「物語」はお手ごろな新書ということもあって、「奇跡」よりもわかりやすく、内容も整理されているように感じました。図解も多く、難しいイオンエンジンの仕組みやスイングバイの仕組みもばっちり。まさに「物語」に仕上がっています。でも、「奇跡」の方で詳しく書かれていることもあります。1冊では収めきれなかったことは、「はやぶさ」プロジェクトチームを一番近くで見守り、支え、応援してきた的川先生の想いがつまっていると言えます。

 これまでに出た山根一眞さんの「はやぶさの大冒険」や、ニュートンムックなどを読んでいても感じたのですが、小惑星イトカワは、地球から大体の大きさはわかっていたものの、約500mしかない小さな小さな天体。望遠鏡でもある程度の形はわかるけれども、詳しいことは、行ってみないとわからない。大体の環境を予測して「はやぶさ」を設計したものの、到着してカメラでその姿を撮影してみたらびっくり。これまでアメリカなどが探査した小惑星とは全く異なり、クレーターがほとんど無く、岩の塊に覆われ全体的にゴツゴツしている。予想以上にいびつで、くびれもある。「はやぶさ」は工学実証機ではあるけれども、イトカワの観測もする理学的なミッションもある。小惑星の観測結果から研究をする理学側の研究者たちも、この形を観て驚いたのだそう。これまで誰も行った事のない天体へ行くこと。そして、そこで離着陸をしてサンプルを採取するというミッションは本当に難しく、挑戦的なミッションであったことをあらためて実感しました。

 冒頭でも書いたとおり、的川先生はロケット工学の専門家でもありますが、ISAS時代から広報役でもありました。取材に来る記者さんたちや、私たち一般市民に対して、ミッションについてわかりやすく解説し、丁寧に質問に答えてくださいます。一方、プロジェクトチームの技術者・研究者たちがミッションに集中できるように、現在の状況をどの程度記者や一般に公開するか、記者会見はどうするか、ということにも気を配っています。いわば、プロジェクトチームとメディア、私たち一般市民のパイプ役、架け橋役。プロジェクトチームの若手研究者・技術者たちが、日々の運用で経験を積み、将来後継となるミッションを引っ張っていけるように温かく見守っている。現在、ソーラーセイル実証機「IKAROS(イカロス)」の運用チームの一員であり、「イカロス」の帆の展開という重要な役目を担った津田雄一さんも、「はやぶさ」ミッションに関わり、その経験を今「イカロス」で発揮されている、というエピソードも。また、記者さんたちとのやりとり、届いたお手紙やメール、ネット上での一般市民の反応にも敏感に、温かく反応を返している。「はやぶさくん」のことが大好きで、将来宇宙飛行士になって「はやぶさくん」と遊びたい…とお手紙をくれた小学生の女の子。ネット上にアップされた「おつかいできた」のイラスト。ガン闘病中で「はやぶさ」に生きる希望をもらった、「はやぶさ」が帰って来るまで俺も生きる!との掲示板への書き込み(私もこの書き込みを見たのですが、事実はどうあれ書き込んだ本人は、今どこにいるのだろう。元気になっただろうかと、気になってはいます)。

 運用チームのメンバーにも、記者・一般市民にも一番近いところにいて、”「はやぶさ」と人のつながり”を、的川先生はひしひしと感じていらっしゃったのだと思う。「はやぶさ」は運用チームにとっても素晴らしい、その成果(反省点を含めて)を後輩たちにしっかりと引き継いでいきたいミッションになったと思う。また、私たち一般市民にとっては、挑戦的なミッションにワクワクし、ドラマティックでけなげな「はやぶさくん」の頑張りにドキドキし、応援し、また自分自身を重ね合わせて勇気や希望をもらったり…とこれまでの宇宙機とはちょっと違う反応が出てきた。的川先生も、「はやぶさ」の人気や、これまで宇宙に全く関心の無かった人が「はやぶさ」がきっかけで宇宙関連のニュースに目を向けるようになったということに対して、「奇跡」のあとがきでこう書かれている。
「はやぶさ効果」の核心に迫っていきたい。この沸騰を一過性のものにしてはならない。宇宙活動を盛り上げるために活用するというレベルで終わらせてはならない。
(150ページ)

 これには私も全く同感です。「はやぶさ」がきっかけで、宇宙(宇宙開発から天文学まで。”宇宙”という学問の分野はとても広いけれども、天文観測のために、観測衛星を打ち上げるなどどこかで関連し合っています)に興味を持つ人が増えたのは嬉しい。でも、増えただけで終わり?宇宙に興味を持って何になるのか。イトカワのサンプルの分析で、太陽系の歴史の謎が解けても、私たちの生活には関係ないじゃないか…そうじゃない。まず、宇宙は、私たちが住んでいる場であって、自分の住む場について知ることは大切なことだと思う。また、宇宙開発の分野で考えると、宇宙開発の技術は私たちの生活に欠かせないものになっている。気象衛星による気象情報。通信衛星や放送衛星がないと困ることは数多い。宇宙技術を私たちの日常生活に活かす「スピンオフ」も数多く、私たちの暮らしを支えている。

 それだけではない。「物語」の第7章では「はやぶさがくれたもの」と題して、日本から何を発信して、世界のためにどう役立てるか。高い技術に取り組んでもっと力をつけていこうというチャレンジ精神。日本や地球が置かれている現実は厳しいけれども、この世の中には、生きているこの地球・宇宙には素晴らしいものがたくさんあるという、特に子ども達に夢や憧れを広げて見せる・持つことのできる教育を―。宇宙という厳しい環境、自分達も住んでいるのに謎だらけの場。その宇宙の謎を解きたい、宇宙の姿を知りたい、宇宙で何が出来るか挑戦したい、とこれまで人類は宇宙活動(宇宙開発から天文学まで含む宇宙全般に関わる活動)を進めてきた。簡単にはいかない。だから、様々な創意工夫をして、トラブルにも臨機応変に対処し、まさかの時もちょっとしたアイディアが助けとなった。また、チームをまとめるリーダーも目標を確固として持ち続け、何かあった時はいいと思った意見はすぐに取り入れた。「はやぶさ」から、宇宙から学ぶことは沢山ある。宇宙そのものの科学的なこと、好奇心、新しい視点、私達の仕事や暮らしにつながること…。ウーメラ砂漠の夜空に光り輝きながら消えていった小さな探査機は、私達を映す鏡のように見えると感じました。


 ところで、以前にも的川先生の本を読んで書いたのだが、的川先生が禁煙の記念として40歳の誕生日に40本のたばこをまとめてくわえ、一気に吸ったという武勇伝。それに川口淳一郎先生も関わっていたことは知っていたのですが…、なんと、その40歳の誕生日に40本のたばこを一気に吸うというアイディアを出した張本人が、川口先生だったのでした…。13歳年上の先輩に対して、よくそんなことを言ったなぁとも思えますが、先輩後輩関係なく、和気藹々と、でも切磋琢磨して宇宙を目指していたISASの雰囲気が伝わってくるエピソードでした。そういえば、現在の「イカロス」運用チームも、ブログやtwitter,テレビの取材などからそんな雰囲気が伝わってきます。いいことだなぁ。


 さて、的川先生の「はやぶさ」本、もう1冊12月に出ます。こちらにはサンプルのことも入るのかな?(間に合うかな?)
小惑星探査機「はやぶさ」の秘密
 今度は「秘密」。12月発売予定だったのが、来年2月に。ということは、イトカワサンプルのことも書かれますね…!

いのちの絆を宇宙に求めて -喜・怒・哀・楽の宇宙日記3-

的川 泰宣 / 共立出版


 日本惑星協会メルマガ「TPS/Jメール」の「YMコラム」をまとめた本第3弾。もう3冊目なんだね…(しみじみ)

そして、ついに…!

はやぶさ、そうまでして君は〜生みの親がはじめて明かすプロジェクト秘話

川口 淳一郎 / 宝島社


 プロジェクトマネージャー・川口先生も本を出します!タイトルからして、もうね…。これは読む。あと、今月末に中公新書でも川口先生の本が出ると聞いたのですが、詳細が来ない。延期とか?詳細待ちです。

 「はやぶさ」他宇宙関連の本は他にも沢山!
オンライン書店ビーケーワン:【宇宙に思いを馳せる】 はやぶさ、おかえり!
 専門書やジュニア向けまで、宇宙関連書揃ってます。ちょっと面白いのが「人工衛星と宇宙探査機」。宇宙工学を学ぶ大学生向けの本です。川口先生も軌道工学の章で執筆。以前、本屋で見つけて、とりあえず川口先生の担当した章を読んでみたのですが…さっぱりわかりませんでしたw(当然だ)


【過去関連記事】
祝・500点満点達成! 「はやぶさ」カプセルの微粒子はイトカワ由来:先週のニュース、何度読んでも嬉しいですねぇ。
小惑星探査機 はやぶさの大冒険:山根一眞さんの「はやぶさ」本感想
轟きは夢をのせて 喜・怒・哀・楽の宇宙日記:「YMコラム」本第1弾。40本たばこ事件の顛末はこの本にも。
人類の星の時間を見つめて 喜・恕・哀・楽の宇宙日記2:「YMコラム」本第2弾。
宇宙教育とはやぶさ JAXAタウンミーティングに行ってきた:的川先生と川口先生という超豪華コンビの「JAXAタウンミーティング」レポ。的川先生のお話は、生で聞いても丁寧で温かく、情熱のこもった内容でした。
by halca-kaukana057 | 2010-11-23 23:00 | 本・読書
 以前から気になっていた小川洋子さんと、故・河合隼雄先生の対談集です。


生きるとは、自分の物語をつくること
小川洋子・河合隼雄/新潮社/2008

 心理学を学ぶ前に、数学科で学び、高校の数学教師をしていたこともあった河合先生が、数学がテーマである小川さんの「博士の愛した数式」を読み、それがきっかけで2度の対談が実現しました。それを書籍化したのがこの本です。河合先生が、元々数学を専攻されていたとは知らなかった。そんな河合先生ならではの「博士の愛した数式」の読みがとても面白い。しかも、それは作者の小川さんも考えていなかったこと。数学と心理学の両方から「博士の~」を読むとこうなるのか!!と驚いてしまいました。作者が作品に入れようと考えていなくても、無意識に入ってしまう。これが深層心理というものなのかな…。

 タイトルの「生きるとは、自分の物語をつくること」。これは、小川さんが小説を書く時に考えていることなのだそうだ。
人は、生きていくうえで難しい現実をどうやって受け入れていくかということに直面した時に、それをありのままの形では到底受け入れがたいので、自分の心の形に合うように、その人なりに現実を物語化して記憶にしていくという作業を、必ずやっていると思うんです。小説で一人の人間を表現しようとするとき、作家は、その人がそれまで積み重ねてきた記憶を、言葉の形、お話の形で取り出して、再確認するために書いているという気がします。
(45~46ページ)

 一方、臨床心理も、自分の「物語」をつくれずにいる人が、自分の「物語」を発見し、生きてゆけるような「場」を提供していると河合先生も考えてカウンセリングをしていた。これにはなるほどと思った。小説を読んでいて、「これは私のことか!?」とまさに自分のことが書かれてある作品や文章に出会って、抱えていた悩みや重荷と感じていることが楽なほうへ向かうこともある。また、物語でなくても日記などの文章を書いていて、もやもやとした気持ちを表現するのにピッタリな言葉を見つけて、霧が晴れていくようなことを感じたこともあった。自分の心の形に合わないから、どうしたらいいかわからず、もやもやと心の中に停滞する。それを、「物語」とすることで、今自分がどんな状態にあるのか、理解できるようになる。ああ、私にもこんなことが合ったなと頷きながら読みました。

 しかし、小説家とカウンセラーで異なるのは、小説家は自分自身が言葉をつむぎ、物語の形にしてゆくのに対して、カウンセラーは患者の話を聞き、何かを作るのは患者自身であること。患者さんではなく、質問するカウンセラーの側が解決したい、納得したくて、誘導するような質問をするなどして、勝手に物語を作ってしまうこともある。カウンセラーが、患者さんのことを了解不能だと感じて、了解して安心・納得できるようなことを言って、患者さんに付き添うつもりが置き去りにしてしまう。カウンセラーというのは本当に難しい仕事だと思う。しかし、河合先生は、黙っている患者さんに対しても、黙ったままでいる。それはただ、何も言わないのではなく、心の中で別なことを考えてしまったら、何か言わずにはいられなくなる。患者さんもそれを敏感に感じ取ってしまう。河合先生も「僕よりも偉大なやつが来た」と思った高校生の話には唸るばかりでした。

 神話や「源氏物語」も、そのような「物語」のひとつであり、また、宗教や民族による文化の違いが表れているという内容も興味深かった。河合先生のほかの著作を読んでいても感じるのですが、本当に多方面にわたって詳しい、本当の「豊かな教養」を持っていた方なのだなぁと思う。心理学は、人間の心という全く不思議で不可解で深い世界を解き、個々の心に寄り添う学問だと私は感じている。文系の学問に分類されてはいるけれども、医学にも関わるし、歴史、宗教、文化、社会、教育、文学、芸術などなど…幅広い分野に関係のある学問だと思う。個々の心に寄り添うとなると、その患者さんごとに異なる世界、「物語」に寄り添うことになる。懐が大きくないと出来ない学問だと感じます。河合先生は、患者さんや話をした著名人の話を、「アースされて」すぐに忘れてしまう、と。だから、カウンセリングでの秘密も守れる。所々に出てくるジョークにも、にんまりします。読んでいて、生きることは難しいな、辛いな、と思うのに、いいタイミングでジョークを言う河合先生。すごいなぁと思います。

 この本は、本当は3部構成の予定でした。しかし、2007年7月に河合先生が亡くなられ、予定されていた対談の続きが出来なくなってしまった。その部分は小川さんのあとがきになり、その文章に私も共感するのですが、3回目の対談が実現していたらどんなお話になったのだろう…と思うばかりです。

 河合先生の対談で、こちらも面白そうなので読んでみたいと思ってます。

こころと脳の対話

河合隼雄・茂木健一郎 / 潮出版社



 あと、この本を再読してみたり。

こころの処方箋 (新潮文庫)

河合 隼雄 / 新潮社




・過去関連記事:博士の愛した数式
 この本の中では、映画版の話も出てくるのですが、映画版をまだ観ていなかった!DVD借りてきます。
by halca-kaukana057 | 2010-10-21 22:49 | 本・読書
 昨日で、小惑星探査機「はやぶさ(MUSES-C)」が地球に帰還、カプセルを再突入させてから3ヶ月が経ちました。この3ヶ月、短いようで、長いようで…。すぐにカプセルが回収され、微粒子と気体が入っていることが判明(ただし、カプセルの一部(B室)を除く)。微粒子がイトカワのものが解析する前に、微粒子をどう回収するかに苦心しているようです(無事帰還し、カプセルを回収できたからこそのことだよなぁ…)。各地でカプセルが公開され、行列が出来る大盛況ぶり。地方巡業も始まります。各地で「はやぶさ」運用チームの講演会も開かれています。まだまだ冷めやらぬ「はやぶさ」熱。その「はやぶさ」が7年間、どんな旅をしてきたのか、何を目指してきたのか、運用チームは何を感じてきたのか…。その7年間をわかりやすくたどったのがこの本です。著者は「メタルカラーの時代」などでおなじみ・山根一眞さん。期待せざるを得ない。



小惑星探査機 はやぶさの大冒険
山根 一眞/マガジンハウス/2010



 「中学生でも理解できる本」を目指したそうで、本当にわかりやすいです。「はやぶさ」には、様々な技術が積み込まれています。「小惑星探査機」ではあるけれども、実際は「工学実験探査機」。今後の宇宙開発・宇宙探査・宇宙科学に必要となる新しい技術を実験し、機能するかどうか確かめる。ただ単に動くか、機能するかどうかだけではなく、どこまで動くか、耐えられるかも実証する。なかなか腑に落ちずにいたイオンエンジンの仕組みも、イオンエンジンを開発した國中均先生へのインタビューと共に、わかりやすく解説されています。

 イトカワがどんな小惑星なのか詳しく探査し、その研究成果はアメリカの科学誌「Science」で大々的に特集されるほど、理学的部分の探査も出来た。しかし、「はやぶさ」が、運用チームが最終的に目指したのは地球に帰還させて、カプセルを回収すること。月以外の天体に離着陸・サンプルを採取し、地球に帰還させようという計画を立ち上げ、実際に開発・打ち上げたのは、NASAもロシアもやったことがない。そんな野心的な計画に挑んだ7年間を、山根さんもずっと見守り続けてきました。川口淳一郎プロマネ他、運用・開発チームのメンバーへのインタビューも、とても丁寧に書かれています。「はやぶさ」チームと同じように、山根さんも温かく、敬意を持って「はやぶさ」を見守り、励まし、無事を祈り、喜怒哀楽を共にしてきた。文章からその想いが伝わってきて、私も同じように7年間を見守ってきたのだなぁと感慨深く感じながら読みました。

 文章中には、その時々の日本や世界…地球上での様々な出来事も記されています。それを読むと、7年という月日が何と長かったことか、実感します。その7年間で、「はやぶさ」は沢山の偉業・技術の実証を成し遂げました。イオンエンジンの長期間稼動、パワースウィング・バイ、小惑星への自律的航行と離着陸などなど…。さらに、姿勢を制御するリアクションホイールの故障、燃料漏れ、通信途絶・行方不明、化学スラスタ全滅、イオンエンジンの故障とクロス運転…など、トラブルに見舞われてもそれを創意工夫で乗り越えてきたのも、技術の実証でもあるし、まさかの事態の際の運用ノウハウの経験に繋がる。電源系統の故障で通信が困難になった火星探査機「のぞみ」での「1bit通信」も、「はやぶさ」に生かされた。挑戦して、例え何かがあったとしても、それを乗り越えていくことが経験に繋がる。宇宙開発での野心的な挑戦は、リスクも多いけれども、得るものも沢山ある。だから、挑戦を止めてはいけないなと感じます。

 「はやぶさ」はそのどんな困難があっても諦めないひたむきさ、運用チームの熱さ・粘り強さから、多くの人々の関心が集まった探査機でもあります。しかも、ちょうどYouTubeやニコニコ動画などの動画投稿・共有サイトや、ブログ、twitterなどの個人が気軽に情報を発信できるネットコンテンツが広まっていたため、応援動画やイラスト、まとめサイトなどで紹介され、「はやぶさ」を応援しようという声がどんどん広がっていったのも、ひとつの特徴だと感じています。山根さんご自身も、「あとがき」でこの本をきっかけに、ネット上にある「はやぶさ」の情報を興味に応じて探し出せることができるように、と書いています。7年間「はやぶさ」を見守ってきた人も、帰還前に「はやぶさ」のことを知った人も、この本が「はやぶさ」と日本の宇宙開発・宇宙探査・宇宙科学への羅針盤になるかと思います。「はやぶさ」の運用は終わりましたが、カプセル内の微粒子の解析、「はやぶさ2」のこと、「はやぶさ」の後を継ぐ金星探査機「あかつき」とソーラーセイル実証機「IKAROS」のこと…。「はやぶさ」が遺したものは、まだ消えていません。続いています(続けていくのは、私たちの使命だと思っています)。

 カラーページには、詳細な図説や画像が沢山。印象的なのはやはり、山口大志カメラマンが撮影した「はやぶさ」の大気圏再突入の画像。満点の星空をバックに、輝く閃光。それを見つめる人々のシルエットと、車。素晴らしい画像です。あと、カプセルが相模原キャンパスに到着した夜、展示室の「はやぶさ」実物大模型の横に置かれた「おかえりなさいHAYABUSA」のイラストを見る、笑顔の川口先生。ああ、帰還できて本当によかったと感じる画像です。


 「はやぶさ」本はこちらもよろしく!
探査機はやぶさ7年の全軌跡―世界初の快挙を成し遂げた研究者たちのドラマ (ニュートンムック Newton別冊)
ニュートンプレス

 科学雑誌「ニュートン」の別冊ムック「はやぶさ」特集。こちらも打ち上げから帰還、そして「はやぶさ2」まで、「ニュートン」ならではのカラー図説・画像満載で、ボリュームたっぷりの内容です。冒頭に、的川泰宣先生のインタビューも。さらに、「はやぶさ」&イトカワポスターも付いてくる!発売日には本屋に平積みになっていたのに、数日後にはどの本屋でも無くなっていました…。


 更に、こんな本も出ます。
小惑星探査機「はやぶさ」の奇跡
的川 泰宣/PHP研究所

 「はやぶさ」の7年間を、プロジェクトチームを、一番近くで見守ってきた的川先生も「はやぶさ」本を出します!これは期待せざるを得ません!!9月18日発売です。
by halca-kaukana057 | 2010-09-14 22:31 | 本・読書
 読んで感想を書きたいけど書いていなかった本について、どんどん語るよ!まずは日本初、宇宙飛行士候補者選抜試験を密着取材したNHKスペシャルの新書版を。

宇宙を目指す今とこれから
↑ NHKスペシャル「宇宙飛行士はこうして生まれた ~密着・最終選抜試験~」感想記事。


ドキュメント 宇宙飛行士選抜試験
大鐘 良一・小原健右/光文社・光文社新書/2010

 小原健右さんといえば、NHKの宇宙関係ニュースでよくテレビに出てくる記者さん。ヒューストンや種子島など、NHKの宇宙関係ニュースを見ていると小原さんの名前が頻繁に出てきて、眼鏡がポイントのお顔も覚えてしまいました。その小原さんもこの取材に関わっていたのか。

 内容は、Nスペで放送されたもの以上に濃いです。Nスペは50分番組でどうしても時間制限があるし、50分で10人の宇宙飛行士候補者ファイナリストの2週間全てに密着するのは無理がある。この新書では、番組ではカットされたであろう部分や、ファイナリスト10人のさらに詳しいバックグラウンドや何故宇宙飛行士を目指したのか、試験中のこと、自分自身のことについて、細かく取材し、記述されています。

 そして、番組で観たよりも、宇宙飛行士候補者選抜試験は過酷であるということ。1週間の閉鎖環境試験も、スケジュールが分刻み。これはISSでの実際のミッションを想定してのこと。「きぼう」の開発・運用や、シャトル・ISS計画に日本人飛行士を参加させるためNASAと交渉してきたJAXAトップの職員たちが、受験者たちに様々なストレスを与え、それでも平常心で作業できるか、何かアクシデントがあってもチームで対処できるようにチームをまとめたり、冷静に意見を出し合えるかを細かくチェックしている。勿論、受験者たちはそれを知っている。監視カメラがあるので、何を見られているのかわかっていて作業している。でも、評価結果は勿論わからない。でも、随所に出てきて印象的だったのが、与えられた課題について失敗したか・成功したかではなく、どのようにして困難な状況を解決・克服しようとしたか、何を求められているのか的確に状況を読んで行動できたか、だった。いい成績を修めたように見えても、それは宇宙空間という極限の環境で仕事をするのに評価されるか。まっすぐには繋がらない。ただ優秀な人が宇宙飛行士になれる、とは限らない。

 最初の閉鎖環境試験の後、NASAでの実技・面接試験も番組以上に詳細に記載されていました。NASAでも、宇宙飛行士を何人も採用するが、その全てが宇宙飛行できるわけではない。宇宙飛行をしないまま、辞めてしまう人もいる。日本人飛行士とは、ちょっと違う。日本人飛行士の方が(日本国内では)注目もされるし、採用されたからには確実に宇宙で仕事をすることを求められる。さらに、宇宙飛行士になった本人も、生活環境が激変する。そのストレス、さらに、宇宙で殉職してしまう可能性もある。なので、試験を通して、本当に宇宙で仕事をする覚悟があるのか見極めてほしい。NASAの面接官を務める宇宙飛行士室のトップたちも、宇宙飛行士の"本当の仕事"とは何か、試験で見極めてほしいと思っている。そして、面接(プラス面接試験後のパーティー)で、この人と宇宙で一緒に働きたいかを。もし、一緒に仕事をしていて事故に遭遇しても、この人なら信頼して危機を乗り越えようという気持ちになれるか。以前、野口聡一宇宙飛行士が、宇宙飛行士に選ばれるというのは、その時のJAXAやNASAの人との相性がよかったかもあるという内容のことを仰っていた記憶があるのですが、そうなのかもな、やっぱり信頼できる人と仕事したいものな、と感じました。

 取材した2人の「はじめに」「おわりに」にこんな一文があります。
 どんなに苦しい局面でも決してあきらめず、他人を思いやり、その言葉と行動で人を動かす力があるか
 その"人間力"を徹底的に調べ上げる試験だったのである。
 (5ページ「はじめに」より)

 昨今、書店には就職指南本が数多く並ぶ。面接の傾向や対策など、業種ごとに、攻略法が縷々として述べられている。しかし、こうしたノウハウやテクニックを駆使して"憧れ"の仕事に就くことが、果たして本当に幸せなのだろうか。
 今回の試験は、まさにそれを問いかけるものだった。10人の候補者は、試験を受ける中でありのままの自分で勝負しなければならないことに気づいていく。自らを飾ったり、背伸びしたりしても意味がない。たとえそれで選ばれても、自分を永遠に偽り続けなければならなくなるからだ。そして試験では、宇宙飛行士という仕事が"憧れ"だけではこなせない仕事であることが、徐々に明らかになっていくのである。
(257ページ「おわりに」より)

 宇宙飛行士も特殊だけれども、ひとつの仕事。その選抜試験も、同じく。しかし、やはり極限の環境で、さらにISSの船長になれるような人材を発掘するには、この本に書かれているような過酷な試験が待っている。宇宙で生活することは、私たちの少しずつ近づいてきていると感じていた。私たちの生活の延長線上に、宇宙での生活があると、このブログでも何度も述べてきた。でも、仕事の面では、まだまだ遠い。まだ、限られた人しか行くことができない。25年前、1985年8月に日本人宇宙飛行士1期生の3人(毛利・向井・土井の3氏)が誕生した。その時は、スペースシャトルで科学実験を行うことを想定して選ばれた。その後、ISS建設のために、ロボットアームや船外活動でISSを組み立てる「ミッションスペシャリスト」になることを想定して、2・3期生の若田・野口両飛行士が選ばれた。4期生の古川・星出・山崎3飛行士はISSに長期滞在し、実験などをこなすことを想定して選ばれた。今回は、ISSの船長(コマンダー)になれる人材を求めた。その時によって、どんな宇宙飛行士が求められるのかも変わる。この宇宙飛行士像も、地上の仕事の延長線上にあり、徐々にその延長線が短くなればいいなと思う。

 この試験で選ばれた、油井・大西・金井3候補者は現在アメリカで訓練中だ。訓練でも、選抜試験と同じようにストレスに満ちた環境で、宇宙飛行士としての訓練を受け、資質を見極められていく。選抜試験に合格しても、「候補者」。正式な「宇宙飛行士」になれるのはまだ先。3人が過酷な訓練を乗り越えて、宇宙へ旅立つ日が近いことを祈りたい。閉鎖環境で10人で折った、千羽鶴と共に…。

 最後に、ニコニコ動画に3人がケネディ宇宙センターオリエンテーションに参加している動画があったので、どうぞ。英語です。
【ニコニコ動画】NASA 宇宙飛行士候補のケネディ宇宙センターオリエンテーションツアー



【追記】
 よくよく考えてみたら、宇宙で生活することに繋がる地上での生活の延長線が短くなるのはいいことだけれども、仕事の面で宇宙と地上の差が少なくなっていくのは、よくないことかもしれない。ISSでは地上では出来ない、無重量だからこそ出来る内容の実験をしている。この実験がもし地上でも出来たら意味がない(地上でも出来なくはない内容もありますが、長い時間無重量状態を作る必要性を考えると宇宙のほうがいい)。宇宙の実験施設は、宇宙の実験施設であることに意味がある。

 仕事の面で宇宙と地上の差を少なくする・地上の仕事の延長上にある宇宙での仕事って何だろう…。宇宙観光が一般化して、その宇宙船のパイロットとか、整備士とか。「プラネテス」(特にアニメ版)が参考になりそう。
by halca-kaukana057 | 2010-08-10 22:51 | 本・読書
 いよいよ引退が近づいてきたスペースシャトル。そのスペースシャトルの真実に迫ったノンフィクションを大幅に改定して、文庫化されました。


増補 スペースシャトルの落日
松浦晋也/筑摩書房・ちくま文庫/2010

 重い内容だろうな…と読む前は思っていましたが、読み始めてからはサクサクと読めました。私自身がシャトルの仕組みや運用、そして事故と問題点について前もって情報を持っていたせいかも知れませんが、ロケット・宇宙機の仕組みについてあまり知らない人向けにもわかりやすく解説してあります。シャトルはどんな宇宙船であり、ロケットなのか。どのような経緯で開発され、運用が始まったのか。そして、運用中に出てきた問題点と、問題を更に増幅させてしまった他国の宇宙開発機関との関係やISS(国際宇宙ステーション)計画のこと。「チャレンジャー」「コロンビア」の事故の詳細と、事故後のNASAの対応。NASAだけでなく、アメリカの政治と軍事、宇宙産業との関係。そして、著者の松浦さんが考える、アメリカが、世界がシャトル無き後でどう宇宙開発を進めていったらいいかという提案。読みやすいですが、内容はぎっしりです。

 前にも書いたが、「アポロ世代」という言葉があるなら私は「シャトル世代」だと思う。シャトルの運用が始まったのと同じ時期に生まれ、そのうち「スペースシャトル」という宇宙に行く乗り物があることを知る。幼稚園児だった時「チャレンジャー号」事故が起こったが、その時の爆発映像を観て衝撃を覚え、今でもはっきりと覚えている。小学生になって日本人も宇宙に行ける時代になり、スペースシャトルは宇宙へ連れて行ってくれる宇宙船だと憧れた…。
 そんな子ども時代を送った私も、大人になり、「コロンビア号」事故を経て、シャトルの問題点について考えるようになった。安全性、コストの問題だけじゃなく、他にも沢山の問題を抱えている。そんな沢山の問題を抱えながらも、アメリカは優れた宇宙船として他国の宇宙飛行士も乗せ、ISS計画もスタートさせた。そして、シャトルの抱えている問題のために、ISSの完成はどんどん遅れてしまった…。

 私が知らずにいた問題点も多く書かれていて興味深かった。ISSのモジュールや人工衛星などの貨物(ペイロード)と人を一緒に運べることは、とても便利だと思っていた。実際そうなのだが、モノと人を一緒にしてしまうと、ロケットの安全性は人に重点を置かなければならないので、結局高上がりになってしまう。別々に運べば、モノの時はそんなに安全性を高めなくてもいいので、コストも抑えられる。なるほどと思った。

 沢山の問題を抱えていたことに気づいていたのに、NASAはそれをうやむやにしてシャトルを運用し続けた。それは、80年代なら旧ソ連との冷戦のためでもあるし、国威でもあり、シャトルを軍事目的で利用しようとしていたのもある。90年代以降は、アメリカの宇宙産業を儲けさせるためでもある。日本の公共事業に例えた話があったが、その通りだと思った。作るだけ作って関係企業を設けさせ、完成した後の活用法などは考えない。なんとも残念な話です。

 安全性に対しても、だんだんチェックが甘くなり、事故につながった。運用する組織の維持の問題もある。これはシャトルに限らず、全ての宇宙開発機関へ向けて言えることだ。これに関しては、この本でも言及しているがリチャード・ファインマン「困ります、ファインマンさん」にあるチャレンジャー号事故調査の話に詳しく書いてあるので、そちらもどうぞ。また、ファインマン氏の報告文はウェブ上に原文があちらこちらにあるようですし、「ファインマンさんベストエッセイ」に日本語訳が収録されています。

 今年シャトルは引退というが、ミッション追加という話もある。どちらにしろ、シャトルがなくなった後、アメリカも、シャトルに頼ってきた日本も、そしてISS計画に参加している国々がどう宇宙開発をしていくのか。問題はここまで大きくなってしまった。日本はISSに関しては、「きぼう」もあるのでそれを十二分に活用する必要がある。HTVはシャトルがなくなった後も、大型の荷物を運べる唯一の無人補給機。HTVはもっともっと活用され、技術や運用のノウハウを積み上げていって欲しい。また、これを大気圏で燃やさず地球に帰還できるようにしようとか、最終的には有人化しようという動きもある。その動きがもっと活発になって、シャトルから離れた、「日本の有人宇宙開発」ができればいいと思う。
 一方アメリカは、シャトルの部品を使いまわそうとしたアレスロケットを含む、「コンステレーション計画」も中止。無人探査に重点を置く方針をとる。民間宇宙開発企業は元気があるようだが、アポロ計画以後と同じように、技術や運用のノウハウの継承はされてゆくのだろうか…と心配になります。シャトルの失敗は、アポロ計画で作り上げた技術や運用のノウハウなどを継承せず、無駄にしてしまったのも原因だから。技術や体制の刷新は、必要な時は必要かもしれない。でも、次にどうしたいかのビジョンがうやむやなままで新しい方向に進んでいっても、どこかでボロが出て大きな事故につながってしまう…。

 スペースシャトルは、確かに人々を、宇宙へ近づけてくれた。日本にとっても。でも、同時に、問題点、克服しなければならないことも示してくれた。そのシャトルから離れて、今後私たちはどう宇宙へ向かうのか。シャトルはいい意味でも悪い意味でも、あまりにも大きな影響力を持っていたのだなと、引退前になってようやく実感しています。


【関連過去記事】
ご冗談でしょう・困ります、ファインマンさん
「ご冗談でしょう、ファインマンさん」「困ります、ファインマンさん」の感想。この本は何度読んでも面白いです。

恐るべき旅路 火星探査機「のぞみ」のたどった12年
 松浦さんの本と言えばこれ。何度読んでも、「のぞみ」に託されたメッセージの部分で泣いてしまいます…。
by halca-kaukana057 | 2010-05-31 23:48 | 本・読書

フェルマーの最終定理

 「数学ガール フェルマーの最終定理」を読んだので、この本も読んだ。

フェルマーの最終定理
サイモン・シン/青木 薫:訳/新潮社・新潮文庫/2006







x^n + y^n = z^n (^nはn乗)
この方程式はnが2より大きい場合には整数解をもたない。

そして、
私はこの命題の真に驚くべき証明をもっているが、余白が狭すぎるのでここに記すことはできない


 たったこれだけの内容で、数学者や数学パズル愛好家を300年も悩ませてきた「フェルマーの最終定理」。そのフェルマーの最終定理について、大元となる古代ギリシアのピタゴラスから辿り、フェルマーを経て、1993年この大問題をついに解いたイギリス人数学者・アンドリュー・ワイルズや彼の周りの数学者たちを緻密に記録したノンフィクションです。

 この本の凄いところは、数式は必要最低限しか出てこないところ。数学の本となると、数式がいっぱい出てくるんだろうかと考えてしまう。「数学ガール」シリーズに出会って、数式がいっぱい出てきて理解出来なかったとしても必要以上に恐れない。ひとつひとつ紐解いて、わかるところをはっきりさせ、どうしてもわからない時は数式を眺めつつ物語を追う。この姿勢を身につけることが出来たので、数式が出てきても慌てないぞ…と思ったのですが、本当に数式が出てこない。高度な数学の専門用語も出てくるけど、解説がとても丁寧でじっくり考え、ひとつひとつ紐解きながら読める。図やイラストも豊富だし、何より文章そのものが面白く、読みやすい。フェルマーの最終定理やそれに関係する数式・理論に翻弄される数学者たちの姿が、ドラマティックに描かれている。数学の本、しかも300年間数学者たちを悩ませてきたあのフェルマーの最終定理の本と意気込んでいたのだが、「あれ?」と思ってしまった。そして同時に、数学の壮大な"世界"と歴史に魅了された。

 訳者の青木さんが「訳者あとがき」に書いているように、この本のはじめの方では「数学にくらべて自然科学は劣っている」と繰り返し強調されている。私も青木さんと同じように、「自然科学には数学とは違う面白さ、美しさ、よさがあるのに!」と感じたが、自然科学は数学なしには成り立たない。天文学も、数学がなければケプラーの法則だって存在しなかったし、ある天体までの距離を測ったり、その天体がどういう特徴を持っている天体なのか調べることも出来ない。工学の分野になるけれども、観測のための望遠鏡などの機器や、探査機も作れない。探査機を打ち上げるロケットの設計も、ロケットを打ち上げる方向も、角度や打ち上げ時間を決めることもできない。そして探査機が目標の天体に向かうための軌道計算も出来ない。やっぱり数学はすごい。湯川秀樹にはじまる"日本のお家芸"とも言われる量子論も、実験施設はなくても紙と鉛筆と、想像力と思考力、そして数式があれば理論を編み出すことが出来るそうだ。やっぱり、数学なしでは自然科学は成り立たない。そして、役に立たなくても数学・数論はその存在だけでも美しいと感じる。…参りました。

 物語は、フェルマーの最終定理の元となった「ピタゴラスの定理」と、ピタゴラスの功績・伝記から始まる。そして17世紀フランス、ピエール・ド・フェルマーは裁判所で役人として働いていた。その仕事の傍ら、数学を研究した。そして様々な問題を見つけては証明し、他の数学者に最新の定理を自身の証明なしで送りつけ、「できるものなら証明してみろ」と挑発ばかりしてイライラさせ、喜んでいたいたずら者でもあった。そのフェルマーが「フェルマーの最終定理」を発見し、それが息子の手によって出版される。あの思わせぶりな文章を付けて。全てはここから始まったのだ。

 その後、フェルマーの最終定理を解くべく、数学者たちの闘いが始まる。直接証明につながるような理論、直接は繋がらないけれども関係のある理論、それらを編み出した数学者たちのドラマに心を揺さぶられた。特に、女性ということで社会的になかなか認められなかったソフィー・ジェルマン。19世紀フランス、動乱の時代に生き、政治に翻弄されつつも数学では大きな功績を残したエヴァリスト・ガロア。そして20世紀、戦後の荒廃した日本で数学に新たな視点を持ち込み、フェルマーの最終定理解決への大きな足掛かりを作った谷山豊と志村五郎。彼らの波乱に満ちた生き様と、数学への情熱、そして試行錯誤を繰り返しつつも天才的な発想で、数学の新たな理論を切り開いた姿に引き込まれた。

 それらの数学者を経て、1986年、ワイルズがフェルマーの最終定理を解く作業に取り掛かった。10歳の時、図書館の本でフェルマーの最終定理に出会い、その問題を解くんだと決意した。ワイルズが自分ひとりでフェルマーの最終定理に挑んだ気持ちはよくわかる。誰にも邪魔されず、ひとりでじっくりと問題に取り組みたい。子どもの頃に魅了された問題に、何年かかったとしても自力でやってみたい。私は今ピアノにそれに近い状態で取り組んでいるけれども、それはこれまで多くの人が登った山。ワイルズは誰も登ったことのない山にひとりで挑んだ。その「静かな熱意」に感服する。古代から現代まで、様々な数学の定理・テクニックを駆使し、7年後ついにフェルマーの最終定理を解く。しかし、その後証明に欠陥が見つかり、数学者たちの憶測や噂の中でもがきながら、欠陥を修復しようと奮闘するワイルズ。手掛かりがつかめず諦めそうになるワイルズに、「諦めないで」と思わず声をかけたくなった。ワイルズに解いてほしい。そう願いながら、ワイルズがその欠陥を修復し、完全な証明を完成させたシーンには胸が熱くなった。ワイルズに盛大な拍手を送りたくなった。

 フェルマーの最終定理が解けたこと、谷山豊と志村五郎が打ち立てた「谷山=志村予想」が証明されたことで、数学の世界は大きく広がった。数学の歴史と、数学の様々な分野が関係しあって、フェルマーの最終定理と谷山=志村予想(理論)は証明された。壮大で、強固な伽藍をイメージする。しかし、数学にはまだ証明できていない問題がいくつも存在する。今も数学者たちは、それらの問題を証明しようと奮闘しているのだろう。彼らの情熱と努力が、いつか実を結ぶように、証明できなかったとしても大きな足掛かりができればと願ってやまない。

 そして、フェルマー自身はこの定理にどんな証明をもっていたのか。モジュラーも、谷山=志村予想も存在しない時代、どうやって証明したのか。証明できなかったので、あの思わせぶりな文章を書いて終わったのか。それとも、本当に驚くべき証明を持っていたが、彼のいたずら心がそうさせたのか。フェルマーの最終定理は解けたのに、まだ残る謎。本当にフェルマーという数学者は、いたずら者にもほどがある!と思わずにはいられない。

 以前読んだ小川洋子「博士の愛した数式」にも出てくる内容も数多く書かれています。実際、「博士の~」の参考文献の中にこの本もありました。「博士の~」を読んで面白いと思った方、是非こちらも。そして「数学ガール フェルマーの最終定理」もあわせてどうぞ。この本を読んだら「数学ガール フェルマーの~」を読むとますます理解が深まるし、私のようにその逆でも、「数学ガール」で理解できなかったことを補完出来た。3冊まとめてあわせてどうぞ!


 サイモン・シンの他の著作も読みたくなりました。新潮文庫から出ている「宇宙創成」、面白そうだ。
by halca-kaukana057 | 2009-12-04 22:57 | 本・読書

好奇心のまま「面白い!」と思ったことに突っ込むブログ。興味の対象が無駄に広いのは仕様です。


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