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 昨日で、小惑星探査機「はやぶさ(MUSES-C)」が地球に帰還、カプセルを再突入させてから3ヶ月が経ちました。この3ヶ月、短いようで、長いようで…。すぐにカプセルが回収され、微粒子と気体が入っていることが判明(ただし、カプセルの一部(B室)を除く)。微粒子がイトカワのものが解析する前に、微粒子をどう回収するかに苦心しているようです(無事帰還し、カプセルを回収できたからこそのことだよなぁ…)。各地でカプセルが公開され、行列が出来る大盛況ぶり。地方巡業も始まります。各地で「はやぶさ」運用チームの講演会も開かれています。まだまだ冷めやらぬ「はやぶさ」熱。その「はやぶさ」が7年間、どんな旅をしてきたのか、何を目指してきたのか、運用チームは何を感じてきたのか…。その7年間をわかりやすくたどったのがこの本です。著者は「メタルカラーの時代」などでおなじみ・山根一眞さん。期待せざるを得ない。



小惑星探査機 はやぶさの大冒険
山根 一眞/マガジンハウス/2010



 「中学生でも理解できる本」を目指したそうで、本当にわかりやすいです。「はやぶさ」には、様々な技術が積み込まれています。「小惑星探査機」ではあるけれども、実際は「工学実験探査機」。今後の宇宙開発・宇宙探査・宇宙科学に必要となる新しい技術を実験し、機能するかどうか確かめる。ただ単に動くか、機能するかどうかだけではなく、どこまで動くか、耐えられるかも実証する。なかなか腑に落ちずにいたイオンエンジンの仕組みも、イオンエンジンを開発した國中均先生へのインタビューと共に、わかりやすく解説されています。

 イトカワがどんな小惑星なのか詳しく探査し、その研究成果はアメリカの科学誌「Science」で大々的に特集されるほど、理学的部分の探査も出来た。しかし、「はやぶさ」が、運用チームが最終的に目指したのは地球に帰還させて、カプセルを回収すること。月以外の天体に離着陸・サンプルを採取し、地球に帰還させようという計画を立ち上げ、実際に開発・打ち上げたのは、NASAもロシアもやったことがない。そんな野心的な計画に挑んだ7年間を、山根さんもずっと見守り続けてきました。川口淳一郎プロマネ他、運用・開発チームのメンバーへのインタビューも、とても丁寧に書かれています。「はやぶさ」チームと同じように、山根さんも温かく、敬意を持って「はやぶさ」を見守り、励まし、無事を祈り、喜怒哀楽を共にしてきた。文章からその想いが伝わってきて、私も同じように7年間を見守ってきたのだなぁと感慨深く感じながら読みました。

 文章中には、その時々の日本や世界…地球上での様々な出来事も記されています。それを読むと、7年という月日が何と長かったことか、実感します。その7年間で、「はやぶさ」は沢山の偉業・技術の実証を成し遂げました。イオンエンジンの長期間稼動、パワースウィング・バイ、小惑星への自律的航行と離着陸などなど…。さらに、姿勢を制御するリアクションホイールの故障、燃料漏れ、通信途絶・行方不明、化学スラスタ全滅、イオンエンジンの故障とクロス運転…など、トラブルに見舞われてもそれを創意工夫で乗り越えてきたのも、技術の実証でもあるし、まさかの事態の際の運用ノウハウの経験に繋がる。電源系統の故障で通信が困難になった火星探査機「のぞみ」での「1bit通信」も、「はやぶさ」に生かされた。挑戦して、例え何かがあったとしても、それを乗り越えていくことが経験に繋がる。宇宙開発での野心的な挑戦は、リスクも多いけれども、得るものも沢山ある。だから、挑戦を止めてはいけないなと感じます。

 「はやぶさ」はそのどんな困難があっても諦めないひたむきさ、運用チームの熱さ・粘り強さから、多くの人々の関心が集まった探査機でもあります。しかも、ちょうどYouTubeやニコニコ動画などの動画投稿・共有サイトや、ブログ、twitterなどの個人が気軽に情報を発信できるネットコンテンツが広まっていたため、応援動画やイラスト、まとめサイトなどで紹介され、「はやぶさ」を応援しようという声がどんどん広がっていったのも、ひとつの特徴だと感じています。山根さんご自身も、「あとがき」でこの本をきっかけに、ネット上にある「はやぶさ」の情報を興味に応じて探し出せることができるように、と書いています。7年間「はやぶさ」を見守ってきた人も、帰還前に「はやぶさ」のことを知った人も、この本が「はやぶさ」と日本の宇宙開発・宇宙探査・宇宙科学への羅針盤になるかと思います。「はやぶさ」の運用は終わりましたが、カプセル内の微粒子の解析、「はやぶさ2」のこと、「はやぶさ」の後を継ぐ金星探査機「あかつき」とソーラーセイル実証機「IKAROS」のこと…。「はやぶさ」が遺したものは、まだ消えていません。続いています(続けていくのは、私たちの使命だと思っています)。

 カラーページには、詳細な図説や画像が沢山。印象的なのはやはり、山口大志カメラマンが撮影した「はやぶさ」の大気圏再突入の画像。満点の星空をバックに、輝く閃光。それを見つめる人々のシルエットと、車。素晴らしい画像です。あと、カプセルが相模原キャンパスに到着した夜、展示室の「はやぶさ」実物大模型の横に置かれた「おかえりなさいHAYABUSA」のイラストを見る、笑顔の川口先生。ああ、帰還できて本当によかったと感じる画像です。


 「はやぶさ」本はこちらもよろしく!
探査機はやぶさ7年の全軌跡―世界初の快挙を成し遂げた研究者たちのドラマ (ニュートンムック Newton別冊)
ニュートンプレス

 科学雑誌「ニュートン」の別冊ムック「はやぶさ」特集。こちらも打ち上げから帰還、そして「はやぶさ2」まで、「ニュートン」ならではのカラー図説・画像満載で、ボリュームたっぷりの内容です。冒頭に、的川泰宣先生のインタビューも。さらに、「はやぶさ」&イトカワポスターも付いてくる!発売日には本屋に平積みになっていたのに、数日後にはどの本屋でも無くなっていました…。


 更に、こんな本も出ます。
小惑星探査機「はやぶさ」の奇跡
的川 泰宣/PHP研究所

 「はやぶさ」の7年間を、プロジェクトチームを、一番近くで見守ってきた的川先生も「はやぶさ」本を出します!これは期待せざるを得ません!!9月18日発売です。
by halca-kaukana057 | 2010-09-14 22:31 | 本・読書
 読んで感想を書きたいけど書いていなかった本について、どんどん語るよ!まずは日本初、宇宙飛行士候補者選抜試験を密着取材したNHKスペシャルの新書版を。

宇宙を目指す今とこれから
↑ NHKスペシャル「宇宙飛行士はこうして生まれた ~密着・最終選抜試験~」感想記事。


ドキュメント 宇宙飛行士選抜試験
大鐘 良一・小原健右/光文社・光文社新書/2010

 小原健右さんといえば、NHKの宇宙関係ニュースでよくテレビに出てくる記者さん。ヒューストンや種子島など、NHKの宇宙関係ニュースを見ていると小原さんの名前が頻繁に出てきて、眼鏡がポイントのお顔も覚えてしまいました。その小原さんもこの取材に関わっていたのか。

 内容は、Nスペで放送されたもの以上に濃いです。Nスペは50分番組でどうしても時間制限があるし、50分で10人の宇宙飛行士候補者ファイナリストの2週間全てに密着するのは無理がある。この新書では、番組ではカットされたであろう部分や、ファイナリスト10人のさらに詳しいバックグラウンドや何故宇宙飛行士を目指したのか、試験中のこと、自分自身のことについて、細かく取材し、記述されています。

 そして、番組で観たよりも、宇宙飛行士候補者選抜試験は過酷であるということ。1週間の閉鎖環境試験も、スケジュールが分刻み。これはISSでの実際のミッションを想定してのこと。「きぼう」の開発・運用や、シャトル・ISS計画に日本人飛行士を参加させるためNASAと交渉してきたJAXAトップの職員たちが、受験者たちに様々なストレスを与え、それでも平常心で作業できるか、何かアクシデントがあってもチームで対処できるようにチームをまとめたり、冷静に意見を出し合えるかを細かくチェックしている。勿論、受験者たちはそれを知っている。監視カメラがあるので、何を見られているのかわかっていて作業している。でも、評価結果は勿論わからない。でも、随所に出てきて印象的だったのが、与えられた課題について失敗したか・成功したかではなく、どのようにして困難な状況を解決・克服しようとしたか、何を求められているのか的確に状況を読んで行動できたか、だった。いい成績を修めたように見えても、それは宇宙空間という極限の環境で仕事をするのに評価されるか。まっすぐには繋がらない。ただ優秀な人が宇宙飛行士になれる、とは限らない。

 最初の閉鎖環境試験の後、NASAでの実技・面接試験も番組以上に詳細に記載されていました。NASAでも、宇宙飛行士を何人も採用するが、その全てが宇宙飛行できるわけではない。宇宙飛行をしないまま、辞めてしまう人もいる。日本人飛行士とは、ちょっと違う。日本人飛行士の方が(日本国内では)注目もされるし、採用されたからには確実に宇宙で仕事をすることを求められる。さらに、宇宙飛行士になった本人も、生活環境が激変する。そのストレス、さらに、宇宙で殉職してしまう可能性もある。なので、試験を通して、本当に宇宙で仕事をする覚悟があるのか見極めてほしい。NASAの面接官を務める宇宙飛行士室のトップたちも、宇宙飛行士の"本当の仕事"とは何か、試験で見極めてほしいと思っている。そして、面接(プラス面接試験後のパーティー)で、この人と宇宙で一緒に働きたいかを。もし、一緒に仕事をしていて事故に遭遇しても、この人なら信頼して危機を乗り越えようという気持ちになれるか。以前、野口聡一宇宙飛行士が、宇宙飛行士に選ばれるというのは、その時のJAXAやNASAの人との相性がよかったかもあるという内容のことを仰っていた記憶があるのですが、そうなのかもな、やっぱり信頼できる人と仕事したいものな、と感じました。

 取材した2人の「はじめに」「おわりに」にこんな一文があります。
 どんなに苦しい局面でも決してあきらめず、他人を思いやり、その言葉と行動で人を動かす力があるか
 その"人間力"を徹底的に調べ上げる試験だったのである。
 (5ページ「はじめに」より)

 昨今、書店には就職指南本が数多く並ぶ。面接の傾向や対策など、業種ごとに、攻略法が縷々として述べられている。しかし、こうしたノウハウやテクニックを駆使して"憧れ"の仕事に就くことが、果たして本当に幸せなのだろうか。
 今回の試験は、まさにそれを問いかけるものだった。10人の候補者は、試験を受ける中でありのままの自分で勝負しなければならないことに気づいていく。自らを飾ったり、背伸びしたりしても意味がない。たとえそれで選ばれても、自分を永遠に偽り続けなければならなくなるからだ。そして試験では、宇宙飛行士という仕事が"憧れ"だけではこなせない仕事であることが、徐々に明らかになっていくのである。
(257ページ「おわりに」より)

 宇宙飛行士も特殊だけれども、ひとつの仕事。その選抜試験も、同じく。しかし、やはり極限の環境で、さらにISSの船長になれるような人材を発掘するには、この本に書かれているような過酷な試験が待っている。宇宙で生活することは、私たちの少しずつ近づいてきていると感じていた。私たちの生活の延長線上に、宇宙での生活があると、このブログでも何度も述べてきた。でも、仕事の面では、まだまだ遠い。まだ、限られた人しか行くことができない。25年前、1985年8月に日本人宇宙飛行士1期生の3人(毛利・向井・土井の3氏)が誕生した。その時は、スペースシャトルで科学実験を行うことを想定して選ばれた。その後、ISS建設のために、ロボットアームや船外活動でISSを組み立てる「ミッションスペシャリスト」になることを想定して、2・3期生の若田・野口両飛行士が選ばれた。4期生の古川・星出・山崎3飛行士はISSに長期滞在し、実験などをこなすことを想定して選ばれた。今回は、ISSの船長(コマンダー)になれる人材を求めた。その時によって、どんな宇宙飛行士が求められるのかも変わる。この宇宙飛行士像も、地上の仕事の延長線上にあり、徐々にその延長線が短くなればいいなと思う。

 この試験で選ばれた、油井・大西・金井3候補者は現在アメリカで訓練中だ。訓練でも、選抜試験と同じようにストレスに満ちた環境で、宇宙飛行士としての訓練を受け、資質を見極められていく。選抜試験に合格しても、「候補者」。正式な「宇宙飛行士」になれるのはまだ先。3人が過酷な訓練を乗り越えて、宇宙へ旅立つ日が近いことを祈りたい。閉鎖環境で10人で折った、千羽鶴と共に…。

 最後に、ニコニコ動画に3人がケネディ宇宙センターオリエンテーションに参加している動画があったので、どうぞ。英語です。
【ニコニコ動画】NASA 宇宙飛行士候補のケネディ宇宙センターオリエンテーションツアー



【追記】
 よくよく考えてみたら、宇宙で生活することに繋がる地上での生活の延長線が短くなるのはいいことだけれども、仕事の面で宇宙と地上の差が少なくなっていくのは、よくないことかもしれない。ISSでは地上では出来ない、無重量だからこそ出来る内容の実験をしている。この実験がもし地上でも出来たら意味がない(地上でも出来なくはない内容もありますが、長い時間無重量状態を作る必要性を考えると宇宙のほうがいい)。宇宙の実験施設は、宇宙の実験施設であることに意味がある。

 仕事の面で宇宙と地上の差を少なくする・地上の仕事の延長上にある宇宙での仕事って何だろう…。宇宙観光が一般化して、その宇宙船のパイロットとか、整備士とか。「プラネテス」(特にアニメ版)が参考になりそう。
by halca-kaukana057 | 2010-08-10 22:51 | 本・読書
 いよいよ引退が近づいてきたスペースシャトル。そのスペースシャトルの真実に迫ったノンフィクションを大幅に改定して、文庫化されました。


増補 スペースシャトルの落日
松浦晋也/筑摩書房・ちくま文庫/2010

 重い内容だろうな…と読む前は思っていましたが、読み始めてからはサクサクと読めました。私自身がシャトルの仕組みや運用、そして事故と問題点について前もって情報を持っていたせいかも知れませんが、ロケット・宇宙機の仕組みについてあまり知らない人向けにもわかりやすく解説してあります。シャトルはどんな宇宙船であり、ロケットなのか。どのような経緯で開発され、運用が始まったのか。そして、運用中に出てきた問題点と、問題を更に増幅させてしまった他国の宇宙開発機関との関係やISS(国際宇宙ステーション)計画のこと。「チャレンジャー」「コロンビア」の事故の詳細と、事故後のNASAの対応。NASAだけでなく、アメリカの政治と軍事、宇宙産業との関係。そして、著者の松浦さんが考える、アメリカが、世界がシャトル無き後でどう宇宙開発を進めていったらいいかという提案。読みやすいですが、内容はぎっしりです。

 前にも書いたが、「アポロ世代」という言葉があるなら私は「シャトル世代」だと思う。シャトルの運用が始まったのと同じ時期に生まれ、そのうち「スペースシャトル」という宇宙に行く乗り物があることを知る。幼稚園児だった時「チャレンジャー号」事故が起こったが、その時の爆発映像を観て衝撃を覚え、今でもはっきりと覚えている。小学生になって日本人も宇宙に行ける時代になり、スペースシャトルは宇宙へ連れて行ってくれる宇宙船だと憧れた…。
 そんな子ども時代を送った私も、大人になり、「コロンビア号」事故を経て、シャトルの問題点について考えるようになった。安全性、コストの問題だけじゃなく、他にも沢山の問題を抱えている。そんな沢山の問題を抱えながらも、アメリカは優れた宇宙船として他国の宇宙飛行士も乗せ、ISS計画もスタートさせた。そして、シャトルの抱えている問題のために、ISSの完成はどんどん遅れてしまった…。

 私が知らずにいた問題点も多く書かれていて興味深かった。ISSのモジュールや人工衛星などの貨物(ペイロード)と人を一緒に運べることは、とても便利だと思っていた。実際そうなのだが、モノと人を一緒にしてしまうと、ロケットの安全性は人に重点を置かなければならないので、結局高上がりになってしまう。別々に運べば、モノの時はそんなに安全性を高めなくてもいいので、コストも抑えられる。なるほどと思った。

 沢山の問題を抱えていたことに気づいていたのに、NASAはそれをうやむやにしてシャトルを運用し続けた。それは、80年代なら旧ソ連との冷戦のためでもあるし、国威でもあり、シャトルを軍事目的で利用しようとしていたのもある。90年代以降は、アメリカの宇宙産業を儲けさせるためでもある。日本の公共事業に例えた話があったが、その通りだと思った。作るだけ作って関係企業を設けさせ、完成した後の活用法などは考えない。なんとも残念な話です。

 安全性に対しても、だんだんチェックが甘くなり、事故につながった。運用する組織の維持の問題もある。これはシャトルに限らず、全ての宇宙開発機関へ向けて言えることだ。これに関しては、この本でも言及しているがリチャード・ファインマン「困ります、ファインマンさん」にあるチャレンジャー号事故調査の話に詳しく書いてあるので、そちらもどうぞ。また、ファインマン氏の報告文はウェブ上に原文があちらこちらにあるようですし、「ファインマンさんベストエッセイ」に日本語訳が収録されています。

 今年シャトルは引退というが、ミッション追加という話もある。どちらにしろ、シャトルがなくなった後、アメリカも、シャトルに頼ってきた日本も、そしてISS計画に参加している国々がどう宇宙開発をしていくのか。問題はここまで大きくなってしまった。日本はISSに関しては、「きぼう」もあるのでそれを十二分に活用する必要がある。HTVはシャトルがなくなった後も、大型の荷物を運べる唯一の無人補給機。HTVはもっともっと活用され、技術や運用のノウハウを積み上げていって欲しい。また、これを大気圏で燃やさず地球に帰還できるようにしようとか、最終的には有人化しようという動きもある。その動きがもっと活発になって、シャトルから離れた、「日本の有人宇宙開発」ができればいいと思う。
 一方アメリカは、シャトルの部品を使いまわそうとしたアレスロケットを含む、「コンステレーション計画」も中止。無人探査に重点を置く方針をとる。民間宇宙開発企業は元気があるようだが、アポロ計画以後と同じように、技術や運用のノウハウの継承はされてゆくのだろうか…と心配になります。シャトルの失敗は、アポロ計画で作り上げた技術や運用のノウハウなどを継承せず、無駄にしてしまったのも原因だから。技術や体制の刷新は、必要な時は必要かもしれない。でも、次にどうしたいかのビジョンがうやむやなままで新しい方向に進んでいっても、どこかでボロが出て大きな事故につながってしまう…。

 スペースシャトルは、確かに人々を、宇宙へ近づけてくれた。日本にとっても。でも、同時に、問題点、克服しなければならないことも示してくれた。そのシャトルから離れて、今後私たちはどう宇宙へ向かうのか。シャトルはいい意味でも悪い意味でも、あまりにも大きな影響力を持っていたのだなと、引退前になってようやく実感しています。


【関連過去記事】
ご冗談でしょう・困ります、ファインマンさん
「ご冗談でしょう、ファインマンさん」「困ります、ファインマンさん」の感想。この本は何度読んでも面白いです。

恐るべき旅路 火星探査機「のぞみ」のたどった12年
 松浦さんの本と言えばこれ。何度読んでも、「のぞみ」に託されたメッセージの部分で泣いてしまいます…。
by halca-kaukana057 | 2010-05-31 23:48 | 本・読書

フェルマーの最終定理

 「数学ガール フェルマーの最終定理」を読んだので、この本も読んだ。

フェルマーの最終定理
サイモン・シン/青木 薫:訳/新潮社・新潮文庫/2006







x^n + y^n = z^n (^nはn乗)
この方程式はnが2より大きい場合には整数解をもたない。

そして、
私はこの命題の真に驚くべき証明をもっているが、余白が狭すぎるのでここに記すことはできない


 たったこれだけの内容で、数学者や数学パズル愛好家を300年も悩ませてきた「フェルマーの最終定理」。そのフェルマーの最終定理について、大元となる古代ギリシアのピタゴラスから辿り、フェルマーを経て、1993年この大問題をついに解いたイギリス人数学者・アンドリュー・ワイルズや彼の周りの数学者たちを緻密に記録したノンフィクションです。

 この本の凄いところは、数式は必要最低限しか出てこないところ。数学の本となると、数式がいっぱい出てくるんだろうかと考えてしまう。「数学ガール」シリーズに出会って、数式がいっぱい出てきて理解出来なかったとしても必要以上に恐れない。ひとつひとつ紐解いて、わかるところをはっきりさせ、どうしてもわからない時は数式を眺めつつ物語を追う。この姿勢を身につけることが出来たので、数式が出てきても慌てないぞ…と思ったのですが、本当に数式が出てこない。高度な数学の専門用語も出てくるけど、解説がとても丁寧でじっくり考え、ひとつひとつ紐解きながら読める。図やイラストも豊富だし、何より文章そのものが面白く、読みやすい。フェルマーの最終定理やそれに関係する数式・理論に翻弄される数学者たちの姿が、ドラマティックに描かれている。数学の本、しかも300年間数学者たちを悩ませてきたあのフェルマーの最終定理の本と意気込んでいたのだが、「あれ?」と思ってしまった。そして同時に、数学の壮大な"世界"と歴史に魅了された。

 訳者の青木さんが「訳者あとがき」に書いているように、この本のはじめの方では「数学にくらべて自然科学は劣っている」と繰り返し強調されている。私も青木さんと同じように、「自然科学には数学とは違う面白さ、美しさ、よさがあるのに!」と感じたが、自然科学は数学なしには成り立たない。天文学も、数学がなければケプラーの法則だって存在しなかったし、ある天体までの距離を測ったり、その天体がどういう特徴を持っている天体なのか調べることも出来ない。工学の分野になるけれども、観測のための望遠鏡などの機器や、探査機も作れない。探査機を打ち上げるロケットの設計も、ロケットを打ち上げる方向も、角度や打ち上げ時間を決めることもできない。そして探査機が目標の天体に向かうための軌道計算も出来ない。やっぱり数学はすごい。湯川秀樹にはじまる"日本のお家芸"とも言われる量子論も、実験施設はなくても紙と鉛筆と、想像力と思考力、そして数式があれば理論を編み出すことが出来るそうだ。やっぱり、数学なしでは自然科学は成り立たない。そして、役に立たなくても数学・数論はその存在だけでも美しいと感じる。…参りました。

 物語は、フェルマーの最終定理の元となった「ピタゴラスの定理」と、ピタゴラスの功績・伝記から始まる。そして17世紀フランス、ピエール・ド・フェルマーは裁判所で役人として働いていた。その仕事の傍ら、数学を研究した。そして様々な問題を見つけては証明し、他の数学者に最新の定理を自身の証明なしで送りつけ、「できるものなら証明してみろ」と挑発ばかりしてイライラさせ、喜んでいたいたずら者でもあった。そのフェルマーが「フェルマーの最終定理」を発見し、それが息子の手によって出版される。あの思わせぶりな文章を付けて。全てはここから始まったのだ。

 その後、フェルマーの最終定理を解くべく、数学者たちの闘いが始まる。直接証明につながるような理論、直接は繋がらないけれども関係のある理論、それらを編み出した数学者たちのドラマに心を揺さぶられた。特に、女性ということで社会的になかなか認められなかったソフィー・ジェルマン。19世紀フランス、動乱の時代に生き、政治に翻弄されつつも数学では大きな功績を残したエヴァリスト・ガロア。そして20世紀、戦後の荒廃した日本で数学に新たな視点を持ち込み、フェルマーの最終定理解決への大きな足掛かりを作った谷山豊と志村五郎。彼らの波乱に満ちた生き様と、数学への情熱、そして試行錯誤を繰り返しつつも天才的な発想で、数学の新たな理論を切り開いた姿に引き込まれた。

 それらの数学者を経て、1986年、ワイルズがフェルマーの最終定理を解く作業に取り掛かった。10歳の時、図書館の本でフェルマーの最終定理に出会い、その問題を解くんだと決意した。ワイルズが自分ひとりでフェルマーの最終定理に挑んだ気持ちはよくわかる。誰にも邪魔されず、ひとりでじっくりと問題に取り組みたい。子どもの頃に魅了された問題に、何年かかったとしても自力でやってみたい。私は今ピアノにそれに近い状態で取り組んでいるけれども、それはこれまで多くの人が登った山。ワイルズは誰も登ったことのない山にひとりで挑んだ。その「静かな熱意」に感服する。古代から現代まで、様々な数学の定理・テクニックを駆使し、7年後ついにフェルマーの最終定理を解く。しかし、その後証明に欠陥が見つかり、数学者たちの憶測や噂の中でもがきながら、欠陥を修復しようと奮闘するワイルズ。手掛かりがつかめず諦めそうになるワイルズに、「諦めないで」と思わず声をかけたくなった。ワイルズに解いてほしい。そう願いながら、ワイルズがその欠陥を修復し、完全な証明を完成させたシーンには胸が熱くなった。ワイルズに盛大な拍手を送りたくなった。

 フェルマーの最終定理が解けたこと、谷山豊と志村五郎が打ち立てた「谷山=志村予想」が証明されたことで、数学の世界は大きく広がった。数学の歴史と、数学の様々な分野が関係しあって、フェルマーの最終定理と谷山=志村予想(理論)は証明された。壮大で、強固な伽藍をイメージする。しかし、数学にはまだ証明できていない問題がいくつも存在する。今も数学者たちは、それらの問題を証明しようと奮闘しているのだろう。彼らの情熱と努力が、いつか実を結ぶように、証明できなかったとしても大きな足掛かりができればと願ってやまない。

 そして、フェルマー自身はこの定理にどんな証明をもっていたのか。モジュラーも、谷山=志村予想も存在しない時代、どうやって証明したのか。証明できなかったので、あの思わせぶりな文章を書いて終わったのか。それとも、本当に驚くべき証明を持っていたが、彼のいたずら心がそうさせたのか。フェルマーの最終定理は解けたのに、まだ残る謎。本当にフェルマーという数学者は、いたずら者にもほどがある!と思わずにはいられない。

 以前読んだ小川洋子「博士の愛した数式」にも出てくる内容も数多く書かれています。実際、「博士の~」の参考文献の中にこの本もありました。「博士の~」を読んで面白いと思った方、是非こちらも。そして「数学ガール フェルマーの最終定理」もあわせてどうぞ。この本を読んだら「数学ガール フェルマーの~」を読むとますます理解が深まるし、私のようにその逆でも、「数学ガール」で理解できなかったことを補完出来た。3冊まとめてあわせてどうぞ!


 サイモン・シンの他の著作も読みたくなりました。新潮文庫から出ている「宇宙創成」、面白そうだ。
by halca-kaukana057 | 2009-12-04 22:57 | 本・読書

生命の木の下で

 本屋でなんとなく気になって購入。

生命の木の下で
多田 富雄/新潮社・新潮文庫/2009

 著者の多田さんは免疫学者。その多田さんが海外で見たものや、日常を綴ったエッセイです。読んでいて、とてもエネルギーにあふれた人だなと思った。人類発祥の地であるアフリカの、原始的神話を今に伝えるドゴン族に会いに行こうと砂漠をひたすら走る。タイ北部の山岳地方に住む少数民族の麻薬療養所を訪れ、その現実を目の当たりにする。アフリカであれ、タイであれ、「命の現場」に赴き、その現実を見つめ捉えようとする著者の姿勢に圧倒された。過酷な状況であれ、厳しい現実にさらされていてもそこには人間が生きていて、生命がある。生命に対する著者の探求心に刺激されるものが多かった。

 第2章は日常を綴ったエッセイ。これまでの旅行でのエピソードから、学問のこと、親しい学者仲間たちのこと、社会のこと、家で起きたちょっとした出来事、美味しい食べ物のことなど…鋭い視線で語られ、面白い。ところどころにユーモアも交じり、心が和む。いいエッセイを読んでいると、日常をこんな豊かな視点で見たいと思うと同時に、こんな文章が書きたいなぁと思う。日常の何気ないことをさらりと、でも考えるポイントを逃さず書く。生きるということ、日常生活というものに好奇心を持って、貪欲に楽しんでいるからなのかなと思う。豊かなエッセイには、その人の生き方が表れる。こんな好奇心とものの考え方を持って、ささやかな毎日を生きていきたいなと思う。

 第3章は影響を受けた作家たちの話。小林秀雄、中原中也…。科学者でも文学に詳しいという人は結構いる。代表的なのが寺田寅彦。専門分野である科学だけでなく、他の分野にも引き出しを持っているっていいなぁと思う。興味を持ったのが哲学者の中村雄二郎。読んでみよう。

 多田さんの著書はたくさんあるらしい。また、現在多田さんは脳梗塞で倒れ、リハビリ中なのだそうだ。そのリハビリの様子はNHKでも放送されたそうで、かなり過酷なものであるらしい。リハビリに関する著書もあるらしい。またいい文章家と出会えた。著書をじっくり読んでみよう。
by halca-kaukana057 | 2009-09-06 21:23 | 本・読書
 ずっと前から、何故か気になっていた本。木の職人たちのお話です。


木のいのち木のこころ―天・地・人
西岡 常一/小川 三夫/塩野 米松/新潮社・新潮文庫/2005


 法隆寺の棟梁として、法隆寺や薬師寺の修理・再建に携わった宮大工・西岡常一。西岡氏が宮大工の仕事や棟梁としての心構え、弟子の教育について、木のことについて語った<天の巻>。西岡氏の唯一の内弟子である小川三夫氏が、西岡氏の教えを継ぎつつも、宮大工の新しいあり方について考える<地の巻>。小川氏が設立した宮大工集団「鵤工舎」(いかるがこうしゃ)で働く若い宮大工たちにインタビューした<人の巻>。この3部で構成されているこの本。この本を読むまで、宮大工のことは全く知らなかった。高校の修学旅行で法隆寺を訪れたが、聖徳太子の時代からよく保っているなぁとか、法隆寺のそばにも普通の民家があるんだ…世界遺産のそばに住むってどんな気分なんだろうとか、そんなことしか考えていなかった。飛鳥時代の職人たちが、どのように、どんな気持ちで法隆寺を建てたのか。そんなことを考えたことも無かった。

 西岡さんの<天の巻>を読んでいると、様々なことを考えさせられます。まず、教育のこと。宮大工は「徒弟制度」で弟子を育てる。寝食を共にし、師の仕事を見て仕事を覚える。具体的に手取り足取り教えるということはしない。仕事をやって見せて、どうしたらそう出来るのか考えさせ、試行錯誤して仕事を覚えていく。弟子それぞれ、仕事を学ぶ過程もかかる時間も異なる。ひとりひとり異なっても、長い時間がかかっても、それも個性と認め見守る。西岡さんが個性を重視する教育について語っている部分があるが、そこを読むと個性を重視する教育とは何なのだろうと考えてしまう。完全な個性を重視し伸ばす教育をするためには、膨大な時間と労力がかかる。簡単に個性個性と言うけれども、その「個性」とは、一体誰にとっての個性なのだろうか。指導する側にとって都合のいい個性なのか、その本人にとって誇るべき個性なのか、と。そして、本当に個性を伸ばす教育をするなら、徹底的に弟子(子ども)と向き合う覚悟が必要なんだ、と。

 弟子自身に考えさせ、仕事を学び覚えることについても、その通りだと感じた。答えを最初に教えてもらうのではなく、自分で答えを見つける。そうやって学んだことは、しっかりと身につくはず。職人はその覚えたことで一生飯を食べて生きていくとあったが、そのためには自分の手と頭を使って身につけることが大事なのだ。他にも、西岡さんの語る内容には沢山の学ぶべきこと、考えさせられることがある。宮大工の口伝も、重みのある言葉ばかりだ。

 その西岡さんの跡を継いだ小川さん。小川さんも、西岡さんから学んだ通りに弟子を育てている。その弟子たちも西岡さんと小川さんの考えを大事にして跡を継いでいる。「鵤工舎」という場が出来てよかったと思う。<人の巻>の若い宮大工たちのインタビューを読んで、新しい時代の職人たちが育っていることを嬉しく思った。私は分野は何であれ職人の仕事ぶりやその仕事にかける想いを聞いたり読んだりするのが好きだ。職人の存在そのものが好きなのだ。自分の仕事に妥協せず、完成度の高いモノを作ろうと尽力する。そんな職人が生活のことなどを心配することなく、仕事に邁進出来る場があることはとても重要だと思う。宮大工の仕事も心も「鵤工舎」で受け継がれていくのだろう。

 高校の修学旅行以来、京都には行っていない。でも、京都にはいつかまた行きたいと思っている。その時法隆寺などの古いお寺に行ったら、その建築もよく見てみようと思う。そして、宮大工たちがどんな想いでその寺を建てたのか、考えてみたい。

 「ほぼ日イトイ新聞」に小川さんのインタビューがあるので、こちらもどうぞ。
ほぼ日刊イトイ新聞:一生を、木と過ごす。宮大工・小川三夫さんの「人論・仕事論」。
by halca-kaukana057 | 2009-05-13 22:59 | 本・読書
 新宿のライブハウス「ロフトプラスワン」で、「ロケットまつり」というイベントが時々催されている。著書「恐るべき旅路」他宇宙開発ジャーナリストの松浦晋也氏、著書「宇宙へのパスポート」他SF作家の笹本祐一氏、漫画「なつのロケット」「まんがサイエンス」他漫画家のあさりよしとお氏ら宇宙作家クラブが開いている、ロケット・宇宙開発についてとことん語りつくすトークイベント。私も一度行ってみたいと思っていたのだが、その内容がDVD付きで書籍化された。これは嬉しい。

はてなキーワード:ロケットまつり とは


昭和のロケット屋さん ロケットまつり@ロフトプラスワン
林 紀幸+垣見 恒男:語り/松浦 晋也+笹本 祐一+あさり よしとお:聞き手/エクスナレッジ/2007

 日本のロケット開発は、「日本ロケットの父」糸川英夫博士の「ペンシルロケット」から始まった。そのペンシルロケット開発から糸川先生と仕事をしてきた林さんと垣見さん。林さんは糸川研究室に就職し、「ロケット班長」としてロケットの打ち上げ現場で仕事をし続けた。垣見さんは富士精密(現在は日産自動車→IHIエアロスペース)で、糸川先生のロケットを設計していた。2人の日本のロケットのお話がとにかく面白い。糸川先生の現場でのエピソード・とんでもない話や、ロケット開発のノウハウや裏話。こんな話を書籍化していいのか?と思うような、あらゆる意味で危険なお話まで。日本のロケットの歴史を、順に追っていきます。ロケットの仕組みについても、さらに勉強できました。仕組みはわかっていても、それをどう作るのかについてわかっていなかったり。それについても詳しく、現場の視点で書いて(語って)ある。現場で体験したからこそ話せる話の数々は、技術の伝承の面でも、体験の伝承の面でも貴重だと思う。

 以前、「月をめざした二人の科学者」の記事で、アメリカの宇宙開発は演出を大事にしヒロイック的なイメージ、ロシア(旧ソ連)のイメージは細かいことにはこだわらず、実用的でタフ。では日本は?日本のロケットは、職人技だと思う。日本の技術そのものが職人技だと思うのだが、ロケットも同じく。林さんも、垣見さんもまさに職人。ロケットを知り尽くし、技を極めている。そのような方がこんなフランクに、昔の貴重なお話をしてくださる。お話から、ロケット打ち上げ場や製作所の空気や雰囲気が伝わってくるようだ。やっぱり、私は何であれ現場の空気が大好きだ。現場にいる人の、現場の話が大好きだ。

 この本を読んでいて、こういう場がどんどん増えればいいと思った。ロケット・宇宙開発に限らず技術職全体…いや、どんな仕事でも。日本が「技術立国」として成長していったのには、現場で楽しみながらも仕事に打ち込んだ技術者たちがいたからこそ(「プロジェクトX」みたいだ)。そのような方のお話を聞ける場が、もっと増えればいいと思う。製作のコツも、苦労話も、失敗談も、武勇伝も、今だから話せる驚きエピソードも。そして、若い世代へのメッセージも。それらのお話には、学ぶことが沢山ある。この本でも、技術的なこと、仕事上のこと、心理的なこと、人間関係などで学ぶことが沢山あった。そして、優れた技術を後世へ引き継いでいきたいと、強く思った。技術も人間に宿るのだから。私は技術職ではないけれども、もしそのお手伝いが出来るならと、この記事を書いている。

 印象に残った話が2つある。ひとつは、「人生に消しゴムはいらない」。糸川先生の言葉だそうだ。
とにかく戻ることができないんですよ、人生だけは。皆さん、今おいくつか知りませんけど、人生は現実と、今と、先のことしかないですから、終わったことをくよくよしてもしょうがないですよ。失敗の場所に立ち会えたというのは、ラッキーだったと思うことが一番大切です。
(68ページ、林さん)

 それと、日本は失敗すると「原因の追求」ではなく「責任の追及」をする人が多いという話。失敗のデータを残していかなければいけないのに、「失敗の責任を取れ」と責任者を辞職させて、データを残さず失敗を隠蔽してしまう。そうすると、また同じ失敗が起きる。これは革めなければいけないことだよなぁ。

 今も「ロケットまつり」は続いている。現在は人工衛星をいくつも設計したNECの小野英男さんを招いての「衛星まつり」も。続きの刊行も期待しています。そしていつかは「ロケットまつり」に行きたいな。地方からだと厳しいなぁ…。
by halca-kaukana057 | 2009-02-22 22:48 | 本・読書
 的川泰宣先生が日本惑星協会のメールマガジン「TPS/Jメール」で連載しているコラムをまとめた「轟きは夢をのせて 喜・恕・哀・楽の宇宙日記」の続編が出ました。

人類の星の時間を見つめて 喜・怒・哀・楽の宇宙日記 2
的川 泰宣/共立出版/2008


 第2巻は2005年から2008年5月まで。この間、シャトル飛行再開(STS-114,野口飛行士搭乗)、「すざく」「あかり」「ひので」打ち上げとM-Vロケットの開発終了、「だいち」「ひまわり6号」「かぐや」打ち上げ、「きぼう」建設開始…と大きな出来事が続くのですが、なんと言っても読みどころは「はやぶさ」の小惑星イトカワへのタッチダウン前後の記録。何度読んでもすごいなぁと思う。管制室の「はやぶさ」チームの様子もひしひしと伝わってくる。これはその現場にいた的川先生だからこそ書ける内容。「はやぶさ」がイトカワへのタッチダウンに成功した時、ライブカメラに向かってVサインをした(画像がこれ)ことについても書かれています。今も「はやぶさ」は地球帰還へ向けて航行中。2010年6月の帰りを待ってます!


 的川先生のライフワークとも言える宇宙教育に関しても、「子ども・宇宙・未来の会(KU-MA)」設立などこの2巻で一気に進みます。「はやぶさ」への応援や、「かぐや」が撮った月の画像などの人々の反響を見ていると、宇宙開発には応援する人の存在が必要なんだなと思う。応援するためには、宇宙・科学のどんなところが面白いのかアピールする必要もある。的川先生ご自身がアピールするのもそうだが、アピールできる人を増やし次の世代に繋げていく方向に進んで行っているのかなと感じる。同じく宇宙を志した先生方の訃報に関する内容や、体調を崩されたという内容もあるのですが…的川先生がこれからもお元気で、宇宙と科学の面白さを伝える先頭に立ち続けて欲しいなと思う。

 日本国内は勿論のこと、世界各地の旅行記も読みどころ。相変わらずパワフルです。面白かったのが、ポルトガルの西端・ロカ岬での部分。そこには、ポルトガルの詩人・ルイス・デ・カモンエスの詩の一節が記されたモニュメントがある。
「ここに地が果て、海が始まる」
こう書かれたモニュメントと、大航海時代、見たことの無い海の向こうへ旅立った人々を思って的川先生は「ここに地果て、宇宙(そら)始まる」と言い換える。日本の宇宙開発・宇宙科学研究は今船出したところ。これからが面白い。様々な問題もありますが、この時代に生まれて、立ち会うことが出来て良かったと感じます。

 的川先生のメルマガは、現在も絶賛連載中です。
日本惑星協会:日本惑星協会メールマガジン「TPS/J メール」
 内容が宇宙の話だけになっていないところがまた面白い。科学全般だけでなく、文学や歴史まで。読んでいると、色々と勉強になります。
by halca-kaukana057 | 2008-11-01 22:47 | 本・読書
 以前紹介した小平圭一さんの「宇宙の果てまで」の記事の最後でちょっとだけ触れた本。すばる望遠鏡に関する本では一番新しい(と思う)。著者は国立天文台2代目台長であった海部宣男さん。

すばる望遠鏡の宇宙 カラー版―ハワイからの挑戦
海部 宣男/宮下暁彦:写真/岩波書店・岩波新書/2007

 フルカラーで、「すばる」が撮影した天体やマウナケアの星空の写真がいっぱい。どれも鮮明で、美しい。これらの写真を見ているだけでもたまらない。天体の写真と、その天体がどういう星なのかの解説を読んでいると近くに行って実際に見てみたい!と強く思ってしまう。何百光年も離れたそれらの天体に行くなんて無理なのだが、近くで見たかのように観測・撮影できてしまう「すばる」。改めて、いい望遠鏡を日本は作ったんだなと嬉しくなった。

 「すばる」は本当にすごい望遠鏡だ。何がすごいって口径8.2メートルなんてただものじゃない。あのハッブル宇宙望遠鏡にも優る精度だ(「すばる」は特に新しい天体を探すのに適している。一方、ある一つの天体をじっくり観測するのは、大気に邪魔されないハッブルの方が適しているのだそうだ)。その「すばる」の性能のよさを支えているのは、沢山の観測機器。太陽系外惑星を探し、観測するための装置・CIAO(チャオ/補償光学を用いたコロナグラフカメラ)や、赤外線カメラ「シスコ(CISCO)」、広視野カメラ「シュープライム・カム」など、天体を観測・撮影するための沢山の装置が付いている。これらの装置の性能も良いため、「すばる」はその力を遺憾なく発揮できるのだろう。観測機器で望遠鏡も様々な使い方・観測方法ができる。望遠鏡の面白いところだと思った。

 「すばる」が観測しているのは遠い宇宙だけかと思ったら、太陽系のなかも観測しているのだそうだ。これは知らなかった。太陽系のなかにも、まだ発見されていない天体や、身近なのに謎が多い天体もある。そんな宇宙の隅々の謎を解く鍵を、「すばる」が見つけてくれるのだろう。考えるだけでドキドキする。

 天文学に関する成果だけでなく、ハワイ原住民の方々のマウナケア天文台群に対する考え方や交流の話、望遠鏡建設中の技術者たちのエピソードも。いいモノを作ろうと、持つ力を発揮しようとする技術者たちの話は、何度読んでもカッコイイです。

 以前も貼りましたが、この本を読む上での資料にもなるので、すばる望遠鏡の公式サイトへのリンクを貼っておきます。
国立天文台・すばる望遠鏡
 「すばる望遠鏡について」→「すばる望遠鏡の観測装置」で、観測装置に関する詳しい説明もあります。
by halca-kaukana057 | 2008-10-11 22:26 | 本・読書
 少し前に、はてなブックマークでこんな記事が話題になっていました。

はてな匿名ダイアリー:ソ連宇宙オタが非オタの彼女にソ連宇宙世界を紹介するための10機

 非常に濃くて面白かったwヒロイック的なイメージのアメリカ宇宙世界もいいけど、細かいことにはこだわらずシンプルかつ実用的でタフなソ連・ロシア宇宙世界も好きだ。ソユーズは本当にタフで安定性があるし、ミールもいろいろあったけど、宇宙開発史の中で忘れられない存在。エネルギアなんてとんでもないロケットもあったし、結局有人探査は出来なかったがアメリカに先駆けて月探査を行った「ルナ計画」も印象的。ちなみに、私はルナ17号・21号に搭載された世界初の月面無人探査機「ルノホート」が好きです。

 ルノホートは、こんな探査機です。食玩「王立科学博物館 第1展示場」より「赤いロボット」ルノホート1号
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 前置きはここまでにして、この「ソ連宇宙オタが~」の記事の中に、何度も出てくる名前がある。コロリョフ…ソ連宇宙開発になくてならない人、セルゲイ・コロリョフ。このコロリョフがソ連の宇宙開発をリードしていた頃、アメリカにはヴェルナー・フォン・ブラウンがいた。そう、ドイツでロケットの研究をし、第2次世界大戦後アメリカに渡りアメリカの宇宙開発をリードする。コロリョフのライバルだ。そのコロリョフとフォン・ブラウン、ソ連とアメリカの宇宙開発競争について書かれたのがこの本。

月をめざした二人の科学者―アポロとスプートニクの軌跡
的川泰宣/中公新書・中央公論新社/2000

 お互い少年時代に空、そして宇宙へ憧れた。1930年代にはロケット・ブームが訪れ、2人はそれぞれソ連とドイツでロケットの研究・開発に尽力する。しかし、迫り来る戦争と国家の力の波。その波にのまれ身動きできなくなるコロリョフと、目指していた方向とは違うけれども使えるものは使おうと波に乗るフォン・ブラウン。この本を読んでいて強く感じたのが、宇宙開発は国家が無くては出来ないということだ。

 2人がライバルとして争った(コロリョフは死ぬまで表舞台に名前を出されることは無かったが)1960年代は、米ソが互いの威信をかけて宇宙を、月を目指していた時代。ロケットを開発するにも打ち上げるにも莫大な予算がかかる。しかも、アポロのサターンVロケットなんて巨大なロケットだと、とんでもない予算がかかる。それでも、米ソは国家の威信とライバルに打ち勝つために、お金と時間と最新技術をかけて争った。今、日本では宇宙開発予算…だけでなく科学に関する予算そのものが十分に足りていない。予算が足りないからと、実現が困難なプロジェクトも多い。そんな今の日本から見れば…勿論当時の米ソとは考え方も目的も違うけど、この時代の国が宇宙開発にかけるパワーは計り知れないものだと感じる。

 そんな国の支援を背景に、宇宙を目指すコロリョフとフォン・ブラウン。追い抜いたり、追い抜かれたり。ガガーリンとライト・スタッフだけをとっても、両国の有人宇宙飛行に対する考え方の違いが見えて面白い。そして、最初は負けっぱなしだったが月に照準を絞ることでソ連に追いついたアメリカ。一方、リードしていたのにいろいろ手を出しすぎて有人月飛行ではアメリカに追い抜かれてしまったソ連。この戦略の違いも面白い。

 ただ、ソ連の場合は1966年、コロリョフの死によって大きく狂いだす。コロリョフのリーダーシップがいかに大きかったかがわかる。コロリョフがもう少し長生きしていたら、サターンVロケットに対抗するN-1ロケットを完成させて、米ソ宇宙開発競争はもっと過熱していたかもしれない。

 コロリョフとフォン・ブラウン。国も考え方も違う2人だが、宇宙を目指していた強い思いは同じ。戦争や国の圧力にもめげず、その意思を貫いたからこそ、今の両国の宇宙開発、いや、世界の宇宙開発の今があるのではないだろうか。

 ところで、フォン・ブラウンは子どもの頃、母からピアノの手ほどきを受け、ヒンデミットのレッスンを受けたこともあったのだそう。すごい…。中学ではチェロのレッスンも受け始め、学校のオーケストラで演奏したり、作曲もしてたんだそう。ロケット研究をしていた"秘密基地"ペーネミュンデでも研究者たちと弦楽四重奏団を結成してモーツァルトやハイドン、シューベルトなどを演奏していたのだそうだ。フォン・ブラウンのチェロ演奏を聴いてみたかった!作曲した作品も、どんな作品だったんだろう?

 最後に、この本を読んでいる間、こんなしおりを使っていました。
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 JAXAの宇宙飛行士候補生募集の宣伝しおり。友人からもらいました。友人は科学館で見つけたらしいが、本屋にも置いてあったらしい。面白いものを作ったなぁ、JAXA.いいぞいいぞw
 宇宙つながりで脱線しまくりでしたがこの辺で。
by halca-kaukana057 | 2008-08-19 23:12 | 本・読書

好奇心のまま「面白い!」と思ったことに突っ込むブログ。興味の対象が無駄に広いのは仕様です。


by 遼 (はるか)
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