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 青森県立美術館にて開催中の、「新海誠」展に行ってきました。このブログでは、「言の葉の庭」の映画と小説を取り上げています。その他にも、「ほしのこえ」、「秒速5センチメートル」、「君の名は。」はテレビ放送されているのを観ました。「君の名は。」は小説も読みました(小説を先に読んだ)。どの作品も、アニメーション映像の美しさに惹かれています。原画や絵コンテ、実際の映像から、新海作品に迫る展覧会です。

青森県立美術館:新海誠展 「ほしのこえ」 から 「君の名は。 」まで が開催されます。
新海誠展:「ほしのこえ」から「君の名は。」まで

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青森県立美術館のいつもの建物に、どーんと「君の名は。」をはじめとした新海作品が。

 今回の特別展はボリュームがあります。じっくり観て回ると2時間はかかります。そのくらい、ひとつひとつの作品を丁寧に展示、解説してありました。神木隆之介さんによる、音声ガイドもあります。それを聴きながら周りました。

 「ほしのこえ」は、新海監督がひとりで、デジタルアニメーションで制作した、いわばインディーズ作品。20分程度の作品ですが、少年少女の恋あり、宇宙SFあり、新海作品特有の切なさあり…とたっぷりな作品と観ていました。2002年に公開され、当時使われていた携帯電話のメールがコミュニケーションツールになっていたのも、今観ると懐かしい。新海監督がアニメ界に与えた衝撃がどれほどであったか、実感できました。当時新海監督が使っていたPCやペンタブレットなどの置かれた机も展示されていました。当時はブラウン管ディスプレイだったんだよなぁ。

 第2作「雲のむこう、約束の場所」は、舞台が青森でもあります。映画は少し観ただけなので、ちゃんと全部観たい。長編作品になり、制作メンバーも増えた。舞台を青森の津軽半島にしたのは、実際に訪れた新海監督が、生まれ故郷に似ていたから、なんだそう。まだちゃんと観ていないので物語がよくわからないところがあります。ただ、映像は本当にきれい。廃駅と水溜りや、雪や空や雲が。

 第3作「秒速5センチメートル」、好きな作品です。これまで宇宙やSF要素を物語に入れてきたが、自分の手の届く範囲の物語にしたいと舞台は現代日本に。SF要素もなくなります(種子島のロケットは出てきますが)。美しい映像に描かれる男女のすれ違い。映像だけでなく、すれ違い、微妙な心理描写も切ないけど美しいと思える。新海作品のそういうところが好きだなと思います。

 第4作「星を追う子ども」で方向転換。新海監督がつくりたいものと、観客が観たいものを考えた結果、観客が観たいものを優先。しかし、かねてからの新海作品ファンには不評…悩むところとなりました。「星を追う子ども」は観ていない。確かに、これも新海監督の作品なの?と思ってしまった。映像の美しさとかはそのままなんだけど…。試行錯誤し、悩んで、続く作品がうまれます。

 第5作「言の葉の庭」。やっぱり一番好きなのがこれ。新海監督がつくりたいものと、観客が観たいものについてもう一度考え直し、その答えがこれだったそう。日本庭園、雨の情景などの美しい景色に、すれ違う男女。「言の葉の庭」は小説でも読んで、物語をよく知っているから展示も面白いと思えるのかもしれません。でも、不器用な主人公とヒロインや、雨の描写には本当に惹かれる。雨だけで沢山の表情があり、表現がある。神木さんが「この作品で雨の日が好きになった方もいらっしゃるかもしれません」と音声ガイドにありましたが、その通りです。雨が憂鬱だなと感じると、「言の葉の庭」を思い出すと好きになれそうです。展示には、タカオが作った(であろう)靴の実物もありました。これかぁ!

 そして第6作「君の名は。」。新海監督がつくりたいものと、観客が観たいものがうまく一致してこうなったのだと思います。わかりやすいけれども謎のある物語。コミカルなシーンもありつつ、男女の切ないすれ違いと、会いたいというお互いの気持ちをいいタイミングで出している。美しい映像。残酷なところはあるけれども、それをも美しいと思ってしまう…。天文好きとしては、彗星について思うところは色々あるのですが、観はじめるとついつい観てしまう。ラストは、観客(新海作品に馴染みのない人も)が観たいものをうまくいれたな、と。「秒速5センチメートル」のようには終わらないのが、変化だなと思いました。

 そんな美しい映像を作るために、絵コンテやビデオコンテ(ビデオコンテの存在は初めて知りました)をじっくりとつくっている。背景も何重にも重ねている。「君の名は。」を制作した新海監督のPC環境の机も展示されていました。「ほしのこえ」と比較すると、時代は、技術は変わったなと思います。「ほしのこえ」では携帯電話だったのが、「君の名は。」ではスマートフォン。何かを表現し、それを商業作品として世に送り出す苦労も感じられました。

 展示の終わりに、これまでの作品を繋げたショートムービーがあります。その映像とメッセージには見惚れました。

 こんなものもありました。これは撮影OKです。
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 アレです。

 展覧会に行って帰ってきた後、これまで観た新海作品を観直したいし、また映画を観ていないものは観たい、小説をまだ読んでいないものは読みたいと思いました。

【「言の葉の庭」関連記事】
小説 言の葉の庭
[アニメ映画]言の葉の庭
 展示を見て思ったのですが、ユキノの部屋にて、2人はマリメッコのマグカップを使っています。が、ガラスのコップは…イッタラの「アイノ・アアルト」ではないでしょうか…?形が似ている…気がする…?

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by halca-kaukana057 | 2018-11-21 22:56 | 興味を持ったものいろいろ
 この夏、青森県立美術館に行ってきました(かなり前の話です…遅れて記事にする…)。これを観るためです。
青森県立美術館:めがねと旅する美術展
 ※現在、展覧会は終わっています。

 2010年「ロボットと美術展」、2014年「美少女と美術史展」のスタッフが三度終結。今度は「めがね」をテーマに、「見ること」について美術の面から迫ります。このシリーズ、好きです。この第3弾となる「めがねと旅する美術展」は最終章とのこと。楽しみにして行きました。

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青森県立美術館の白い建築がお出迎えです。
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フライヤーにもなっているこのデザインのイラストが好きです。このイラストの中にあるものは、展示されているものでもあります。

 現在、シャガールの「アレコ」背景画は、4幕全部揃っています。しかも、写真撮影OKとのこと。フラッシュは禁止。個人的な利用のみ可能。画像を撮ろうとしたら、携帯を落としてしまい動作が不安定に…撮影できず(その後、電源入れなおして直りました)。撮影のことは考えず、展覧会に集中します。

 人類、文明の発展と技術進化の歴史は、見ることも広げてきました。はじめは、自分の目で見るしかなかった人間。自分の目の前にあるものしか見られません。それが、空から見たらどう見えるんだろう…高いところへ登ってみたり、高い塔を作ってみたり。遠くのものを見ようと双眼鏡や望遠鏡を作ったり。人工衛星や探査機を打ち上げて、宇宙から地球を見たり、他の星を見たり。人は見ることの出来る範囲を広げてきました。

 映像、VR(ヴァーチャルリアリティ)も、人間の見ることの可能性を広げてきました。その場その時で見られなくても、映像で撮っておけば後で観られる。VRで、行ったこともない場所に行った気分になれる。人間の「見る」ことへの情熱の強さを感じました。

 一方で、人間の眼(脳)は、だまされやすい。VRもひとつの錯覚。錯覚を起こす絵画でだまされる。アニメーションも、絵を連続して見せると動いて見える。見ることは、人間を知ることでもある。

 また、「見たい」という欲望は、どこまでもある。人々の生活、他者のこと、まだ見ぬ未来、現実にはないもの…そんな欲望を形にしたモノや、記録も。

 こんな多角的な面を、様々な美術品や現代作品、ポップカルチャーで紐解いていきます。見るものが細々していて、ちょっと疲れますが面白いです。これまでの他の展覧会で展示されていた作品もありました。観点を変えると、違う解釈や説明にもなる。興味深かったです。


 「美少女の美術史展」では、太宰治「女生徒」をアニメ化して上映していました。今回は江戸川乱歩「押絵ト旅スル男」。押絵とは、立体絵本のような紙芝居みたいなものです。ストーリーがダーク。見ること、現実と虚構の間、狂気の願望…世界観が好きです。10分ほどの短いアニメですが、印象が強い。作中で流れる歌も印象的です。

 展示には、JAXAの「かぐや」や、人工衛星「だいち」(初代です)が撮影した映像があったり、アニメーションでは、「名探偵ホームズ」(犬ホームズ)が出てきたり、好きなものがちょこちょこ出てきて嬉しかったです。 
 展覧会は、今後、島根県立石見美術館、静岡県立美術館でも開催します。
めがねと旅する美術展

【過去関連記事】
”人間”を投影する、機械以上の存在 「ロボットと美術」展
少女という文化と変遷を紐解いたら 「美少女の美術史」展に行ってきた
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by halca-kaukana057 | 2018-09-04 22:11 | 興味を持ったものいろいろ
 記事に書くのは約1年ぶりの、青森県立美術館です。その後も行っていたのですが、記事は書かず…。ものすごく遅くなったけど、後で書こうかな…。

 今回行ってきたのは、「シャガール 三次元の世界」展。青森県立美術館の目玉展示と言えば、シャガールの「アレコ」背景画。普段は1,2,4幕ですが、2021年までは3幕もあり、全4幕揃っています。圧巻です。そのシャガールのことを、実はあまりよく知らない。ということで、行ってきました。

青森県立美術館:「シャガール - 三次元の世界」展 Marc Chagall: The Third Dimension

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いつもの真っ白な建物がお出迎え。

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 シャガールの絵は、とても不思議だ。人物がふわふわ浮いていて、その人物の描き方もふんわりとしている。今回の展覧会は、「三次元の世界」。絵画だけでなく、彫刻や陶器などの立体作品も数多く展示しています。シャガールって、立体作品も多く手がけていたんだ。

 この立体作品が面白かった。陶器は、ユーモラスで可愛らしい。色をつけていないものもあるし、色をつけているものは、とてもカラフル。陶器の後ろの側にも絵が描かれていて、それがまた可愛い。彫刻は、聖書をモチーフにしたものが多い。ユダヤ人の家に生まれ、第一次大戦後の反ユダヤの流れに巻き込まれてゆくシャガール。迫害をおそれ、アメリカに亡命。その背景が、聖書に通じるのだろうか。美術も、音楽も、西洋文化を理解するのは聖書は基礎なんだなと実感しました。なかなか馴染めないところもあり、すんなりと受け入れられず…と言っていられないのだな、と。その彫刻は、大理石や石灰岩だけでなく、特定の場所から採れた石を使っているものも多いです。その質感が、古代ギリシアやローマの遺跡のように見えます。しかも、聖書がモチーフだから尚更。シャガールの、これまでとは違った一面を観ました。

 そんな立体作品を観ると、不思議な絵画も、わかる、と感じました。立体を、二次元で表現しようとしたんだ。シャガールにとっては、二次元でも三次元、もしくは四次元だったんだ、と。そのイマジネーションに驚きました。一体どうすれば、こんなイメージを思いつくのだろう。次から次へと表現したいイメージがあって、それを形にできる。思い浮かんだイメージを、ないものとするのではなく、形にして、現実に見せることができる。これってすごいなと思いました。

 シャガールの作品には、鶏やロバ、魚など、動物もよく出てきます。陶器の後ろや、絵画の横のほうに描いてある。それが可愛い。「アレコ」背景画でも、動物が描かれていますね。

 展覧会の期間中、一日に4回、「アレコ」背景画の特別鑑賞プログラムがありました。照明、音楽、ナレーションで、バレエ「アレコ」のあらすじをたどり、背景画の見どころを紹介します。照明の当て方ひとつで、いつも観ているはずの「アレコ」背景画が違って見える。どこに注目すればいいかがわかる。バレエ「アレコ」で使われた、チャイコフスキー:ピアノ三重奏曲 イ短調 op.50「偉大なる芸術家の思い出に」が流れる。どんなバレエだったのかな…と思います。

 バレエについては、展覧会で、初演の際の映像を上映しています。モノクロの映像ですが、いきいきとした物語は感じられました。上演されないかなぁ、観てみたいです。

 今回は、常設展も観てきました。常設展でも、一体どうしたらこんなイメージが思いつくのだろう、そのイメージを形に出来るのだろう…と考えていました。成田亨の「ウルトラマン」の怪獣たちや、棟方志功の作品など。不思議です。

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 奈良美智「あおもり犬」。この日も大人気でした。

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 青森は桜の季節でした。美術館の周りに桜が植えてあります。花と白い建物。合います。

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by halca-kaukana057 | 2018-04-30 23:00 | 旅・お出かけ
 あちこち出かけているのですが、その記事を書かず…。印象に残ったことを記録しようと思います。

 先日、行ってきたのは、青森県立美術館。このブログでも時々登場する、お気に入りの美術館です。現在開催中の特別展「遥かなるルネサンス展」に行ってきました。

青森県立美術館:遥かなるルネサンス展

 時は信長や秀吉の時代。各地のキリシタン大名のもとで暮らしていた4人のキリシタンの少年たち。1582年、宣教師ヴァリニャーノは、日本人自身の中から、ヨーロッパ文明の語り部となる人物を育成する必要があると考え、その4人の少年たちをイタリアに送り出しました。「天正遣欧少年使節」です。ようやく着いたイタリアで、少年たちが出会った人々、見たであろう風景を、絵画や様々な美術品で辿ります。


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ああこの建築たまりませんねぇ。
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目玉の「ビア・デ・メディチの肖像」と「伊東マンショの肖像」がでかでかと。「ビア~」は日本初公開、「伊東マンショ~」は長らく行方不明でしたが、2014年に発見された作品。今回もすごいのが来ましたね。

 今、現代、旅行に行って、旅の記録はデジカメや携帯のカメラで簡単に撮影できます。しかし、この時代は絵を描くしかない。日本の芸術とは全く異なる西洋の芸術。南蛮文化は少しは入ってきただろうけど、実際に西洋に行って、その風景や文化、現地の人々に会い話をするのは想像以上のものだったろう。本場の西洋文化、キリスト教のことを学んで、日本に帰ったらそれを伝えるという使命を持ちつつも、初めて触れる西洋文化に、4人の少年たちは何を思っただろう。現代でも、テレビや本、ネットなどで、簡単に海外情報を手に入れることはできるけど、実際に行って観るのとでは違う(海外に行ったことないですが(涙)。それが、この時代だったらどうだろうか…。そんなことを思いながら展覧会を観ました。

 美術品の他に、手紙も展示されています。少年たちが書き残した日本語と、外国語(ラテン語かな?)の手紙も。外国語だって、今でも学ぶのは大変なのに、辞書も少なかっただろうし、勉強は大変だったろう。それでも、手紙はとても達筆で…そんなところからも、この旅路の厳しさを思い知ります。

 当時、イタリアでは、メディチ家が勢力を振るっていました。「ビア~」に描かれている少女・ビアもメディチ家の人。小さいうちに亡くなってしまったそう…。このあたりは、世界史を思い出しながら、でも思い出せずに何だったっけ…と思いながら観ていました。勉強になります。キリスト教に関係するものだけではなく、ギリシア・ローマ神話に関係するものも。このあたりは、星座の神話でもお馴染みなので、興味深く観ました。

 異文化に触れ、異文化を理解するということ。その意味の深さを考えました。
 8年もの長旅の後、少年たちは旅で見たものを、日本の人々に伝えます。そして、キリスト教をさらに学ぶのですが…キリシタン弾圧が強まり、殉教した者、教会から離れその後の足取りがわからなくなった者も。この最後に、旅の厳しさと、この時代の厳しさを感じました。

 久々の大型の展覧会でしたが、いい展覧会でした。

 お土産で、これが気に入りました。
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少年たちが訪れたフィレンツェの、トスカーナ大公の工房で作られた、テーブルの天板。とても豪華なモザイクです。それをマスキングテープにしました。ノートに貼ってみましたが、雰囲気が変わります。

青森県立美術館:シャガール「アレコ」全4作品完全展示
 青森県立美術館と言えば、シャガール「アレコ」背景画。4幕のうち、1,2,4幕は青森にあります。3幕を保管しているアメリカのフィラデルフィア美術館が長期の改修工事に入ったため、残りの3幕も借用中。2021年までと、まだまだ観られます。「アレコ」背景画は、青森県立美術館が開館した際、全4幕を揃えて展示していました。その迫力に圧倒されたのですが、再び、全4幕を観られて、やっぱり圧倒されました。「アレコ」のドラマティックで悲劇のラストの物語を思いながら、全4幕をひとつずつ追って観られるのは素晴らしいです。まだ観たことのない方は是非とも。

 青森県立美術館は、少し前に「ぼのぼの」展をやっていて、それも観に行きました。普通の特別展とは違う形です。「ぼのぼの」の漫画やアニメは大好きなので、観ていてとても楽しかったです。いがらしみきお先生の「ぼのぼの」を描くメイキング動画もよかった。
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by halca-kaukana057 | 2017-09-03 23:01 | 旅・お出かけ

八月の博物館

 タイトルが「八月」…もう11月ですよ…。でもいいんです。11月にも合う小説だと思います。

八月の博物館
瀬名秀明/角川書店・角川文庫/2003(単行本は2000)

 亨は小学6年生。時は夏休み。本を読むのが好き、特にエラリー・クイーンの推理小説が好きで、別のクラスの友達の啓太と自作の推理小説などを載せた雑誌を出そうと案を練っている。図書室の係で、鷲巣という女子と一緒に貸し出しを担当している。そんな夏休みが始まる日、帰り道で亨はいつもとは違う道を歩く。たどり着いたのは「THE MUSEUM」と書かれた建物。中に入り、しばらくすると不思議な少女「美宇」や「ガーネット」という紳士に出会う。この博物館が何なのか。美宇と一緒に博物館の中を歩くようになる。そして、2人は1867年のパリ万博の会場に向かうことになる。そこで、亨と美宇はフランス人考古後学者・オーギュスト・マリエットに出会う…

 あらすじを書くにもどう書いたらいいのかわからない…。物語のメインは亨と美宇の"ミュージアム"での冒険。そこに同時進行で、19世紀エジプトでのオーギュスト・マリエットのこと。更に現代の"私"という人物、3つの時代の話が同時進行で進んでいく。最初あらすじを読んで、少年少女の冒険物語かと思ったら、どんどん思いもしない方向に話が進んでいって驚きました。

 この本を読もうと思ったきっかけは、オーギュスト・マリエットが出てくるというところ。19世紀のフランス人エジプト学者。サッカラの聖堂・セラペウムを発掘し、現在のカイロ・エジプト博物館の母体となる博物館をつくり、それまで発掘品に関する法も何もなく海外流出してしまっていたのを憂い、発掘を取り締まり出土品を管理するエジプト考古局をつくった人。また、ヴェルディのオペラ「アイーダ」の原作者でもあります。考古局設立のことや、サッカラのセラペウムのことは、以前紹介した山岸凉子作の漫画「ツタンカーメン(旧題:封印)」で登場したので、よく覚えています。でも、それ以上にマリエットのことはよく知らない。マリエットの伝記・歴史小説としても読めます。マリエットの後に考古局の局長になったガストン・マスペロ、そしてハワード・カーターのことも少し出てきます。11月はツタンカーメン王墓発掘月間(4日に最初の階段を見つけ、5日に最初の漆喰の壁にたどり着く。26日に最後の漆喰の壁に穴を開け、カーターとカーナヴォン卿がツタンカーメン王墓を「発掘」する)。なので11月にも合うんです。

 そのマリエットと亨と美宇が出会う。セラペウムに祀られている聖なる牛・アピスも関係してくる。関係ないような世界が関連を持ち始める。現代の"私"とも。SFの要素も入り、さらに博物学、「物語」に関する考察もあり…何度も頭の中が混乱しました。混乱したけど、読み終えた後、面白いと思った。

 「物語」が何故存在するのか。「感動する」とはどういうことか。「物語」をつくる人は、「感動すること/させること」を考えて書いているのか。「物語」はつくりもの、現実にはないフィクションだとわかっているのに、心を揺さぶられる。その心を揺さぶるものとは何なのか。これは瀬名さん自身の作家としての「物語」というものへの問いかけのように読めます。実際、現代の"私"は瀬名さんっぽい。

 私も何度か、絵本を書いた/描いたことがあります。小学生の時のクラブ活動、大学の頃の部活で。その時は、作品のテーマや物語の流れ、子どもたちに読み聞かせたわけではありませんが絵本なので子どもたちが親しみやすいかどうか…などは考えましたが、ただ単純に自分が書きたい/描きたい、面白いと思うものを書きました。自然とペンが進みます。絵本なので、絵や絵と文章の位置も考える必要はありました。後で人に読んでもらい、感想を聞くのは恥ずかしくもあり、面白かったと言ってもらえると嬉しかったです。今こうしてブログを書き続けているのも、時々イラストも描くのも、何かを書きたい/描きたいという気持ちがあるから続いていると思います。その根底に、自分の「面白い」という気持ちがあるから。

 そして、「物語」は人々の心の中に生き続ける。クライマックスシーンで亨が叫んでいた言葉、決意がまさしくそうだと思いました。「物語」は小説だけじゃない。音楽も、博物館も。マリエットがオペラ「アイーダ」の原作者であることも、また関係してくる。様々なものがどんどん繋がっていく様が面白いです。

 この「八月の博物館」という「物語」を純粋に楽しむことも出来る。その一方で、「物語」の中にある「物語」を深読みすることも出来る。今まで読んだことのないタイプの小説でした。

 読後、エラリー・クイーンの推理小説、それから「アイーダ」も観たくなりました。オペラは全幕音声では聴いたことがあるのですが、映像は部分しか観たことがない。有名な「凱旋行進曲」の部分。マリエットが原作者と知った時、ますます興味を持ち始めました。

 あと、この本は新潮文庫からも出ているのですが、どこか違うところはあるのだろうか。何故新潮文庫からも?とは言え、どちらもほぼ絶版というのは何とも…。

・以前読んだ瀬名秀明さんの作品:虹の天象儀
 読んだのは2007年…随分前でした…。
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by halca-kaukana057 | 2015-11-07 23:19 | 本・読書
 先日、「成田亨」展に続き再び青森県立美術館へ行ってきました。今度は「ミッフィー」展。今年は「ミッフィー(うさこちゃん)」生誕60年。その企画展が全国巡回しています。

青森県立美術館:誕生60周年記念 ミッフィー展
誕生60周年記念 ミッフィー展

 この日の青森は快晴。青く青く広がる空が気持ちいい。
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 いつもの白い建物がお出迎え。青い空に映えます。…あれ、いつもと何かが違う。

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 何かある…!
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 青森県美の白い壁に、うさこちゃんの顔が!!!青森県美が真っ白な建物だったから実現できた…ということか?

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 エントランスにもうさこちゃんがいっぱい。日本とオランダで開催されている「ミッフィー・アートパレード」の一環のよう。

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 展示室に下りるエレベーターも、いつもは白いのに、ブルーナの絵本カラーに!

 ミッフィーというと、絵本やテレビのクレイアニメで少し観る程度。そんなに思い入れはない…実は。でも、シンプルな線で描かれるうさこちゃんをはじめとするキャラクタは親しみやすく、愛らしい。そんなミッフィーシリーズがどのように生まれたのか。展示を観ていたら、ミッフィーに愛着が沸いてきました。

 本国オランダでは、「Nijntje(ナインチェ)」と呼ばれているうさこちゃん。「ミッフィー」は英訳した際の愛称。1955年、ブルーナさんが息子さんに描いた小さなうさぎの絵本が、うさこちゃん・ミッフィーシリーズの始まりでした。その、1955年初版の原画は世界初公開とのこと。1963年の第2版からの現在のうさこちゃんも可愛いですが、初版「ファースト・ミッフィー」の方が愛着が沸きました。姿も丸く、素朴な、まさに手描きのイラスト。どんな絵本でも、原画を観るのは楽しいです。
 
 その後のミッフィーシリーズの原画も数多く展示されていて、ブルーナさんはこんな風に絵を描いているのだなと伺えます。そして会場には、机の上に絵本が並び、ゆっくりと読めるようになっています。原画を観て、絵本を読んで…制作途中と完成品を一緒に観られるのも楽しい。
 ブルーナさんがうさこちゃんを描いている映像を観られる展示もあるのですが、これが面白い。真っ白なうさこちゃん像がスクリーンの隣にあって、ブルーナさんが線を引くと、そのうさこちゃん像に反映される。一筆一筆、ゆっくりと描いていっています。目を描けば、うさこちゃん像にも目が描かれる。プロジェクションマッピングです。最後は、様々な模様の服を着て、うさこちゃんプロジェクションマッピングショー。NHKの人形劇「シャーロックホームズ」のオープニング映像の、ホームズ像のプロジェクションマッピング、と言えば「あれか!」とわかる方もいるかと思います。

 「ミッフィー・アートパレード」のコーナーでは、日本のアーティスト、デザイナーたちが60年のお祝いと感謝を込めて、自由なうさこちゃんを創り上げています。この展覧会は、一部は撮影可。「アートパレード」も撮影可で、気に入った作品の画像を撮ってました。

 他には、ブルーナさんの油彩や水彩画、奥様のために毎日のことなどを描いた「朝食メモ」も。「朝食メモ」…絵日記のようなものと言えばいいだろうか。これは楽しい。私も毎日じゃなくてもやってみたら楽しそうだなと感じました。

 うさこちゃんの物語は、日常のヒトコマを切り取ったものが多い。だからこそ親しみやすい。その親しみやすい物語を、親しみやすいシンプルな絵で表現している。だからこそ、子どもも大人も愛着をもてるのかもしれない。日常のヒトコマも愛おしいもの…ブルーナさんの「朝食メモ」でも、ミッフィーシリーズでもそう思える。それを伝えるには、シンプルな絵が一番ストレートな方法になるのかもしれない。展示そのものの数は多くないので、ゆっくりと絵本を読みながらそんなことを考えました。

 青森県美の特別展展示室のうちの2部屋は、物販コーナーになっていました。こんなの初めて見た。いつもならグッズはミュージアムショップにある。ミュージアムショップだと狭いからなぁ。とにかくグッズが多くて、展示でうさこちゃんに親しみを持ってしまった私には大変危険な空間でしたw物欲がw手にしていたのは、やはり初版のうさこちゃんグッズが多めでした。初版、「ファースト・ミッフィー」可愛いよ。

 今回は常設展はパス。常設展は9月までやってるので、またゆっくりと来ます。物販コーナーで一気に疲れてしまいました…。
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by halca-kaukana057 | 2015-07-12 17:26 | 興味を持ったものいろいろ
 もう常連の青森県立美術館。今年度の展示を見てきました。現在、開催されている特別展は「成田亨 美術/特撮/怪獣」展。青森にゆかりがあり、「ウルトラマン」シリーズの怪獣などのデザインを手がけた成田亨(なりた・とおる)。青森市内には、青森県立美術館への案内看板にウルトラマンシリーズのウルトラマンや怪獣が描かれています(開館の際、著作権の関係で色々あって、少しの間ビニルシートを被せられ公開されなかったことがありました…)。常設展でも、成田亨の怪獣スケッチの展示があり、常設展を観る度に目にしてきました。
 とは言え、私はウルトラマンシリーズはほとんど観たことがない。リアルタイム世代でもない、いわゆる「懐かしのテレビ番組特集」みたいなものでウルトラマンが怪獣と戦うシーンぐらいしか観たことがない。怪獣はバルタン星人やカネゴンぐらいは知っている…。あと、常設展で観てきたスケッチ程度。その程度ですが、この「成田亨」展の青森県美さんの宣伝がかなり力が入っていて、よくわからないけど面白そうだな、と思い前売りを買っていたのでした…。

青森県立美術館:成田亨 美術/特撮/怪獣

 普通、チラシ(フライヤー)は1種類、あっても2種類程度ぐらいだと思うのですが、
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 6種類も出している。ここがまず普通じゃない。さらに、
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 前売りで買うとシークレットフライヤーとステッカーがもらえる。さらに、会場内限定のフライヤーもある。前8種。尋常じゃない。ちなみに、ミュージアムショップにはこのフライヤーのデザインのポスターも売ってました。力の入れようがこのフライヤーを見てもわかります。

 ということで、行ってきました。
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 いつものこの白い建物。桜は満開を過ぎ散っていたのですが、新緑が爽やかな青森の春です。
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 エントランスのこの曲線もやっぱりいいなぁ…おや、何かある。
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 「ウルトラセブン」に出てくるポインター。かっこいい!

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 写真撮影可能なエントランス部分。青森県美のオリジナルフォントが、近未来的な雰囲気に合ってます。

 展示を観て…まずそのスケールと展示の多さに圧倒されました。スケッチや絵画が多く、どれも濃い。最初の展示室は成田亨初期の作品。彫刻「八咫」とそのスケッチの力強さ、勢いのある線にまず惹かれました。その次に、「ウルトラ」シリーズや特撮の仕事をしながら進めていた「モンスター大図鑑」「ナリタ・モンストロ・ヒストリカ」。古今東西の神話や伝承に出てくる神・化け物・妖怪・妖精…モンスターを描き、雑誌に掲載されたもの。成田亨自身のコメントも付いていて、絵にも、コメントもじっくり観ていました。「モンストロ・ヒストリカ」には、メソポタミア文明の神々や、古代エジプトの神々(ホルス神、アヌビス神、バステト神ほか)も。古代エジプトの絵は他の絵よりもじっくり魅入ってしまっていました。古代エジプト好きです。成田亨がホルス神を描くとこうなる、コメントからこんなことも考えていたのか…と。そして、それ以上に惹かれたのが、様々な鬼の絵や彫刻。日本のモンスターということで鬼の作品も数多く描き、彫刻にしていた。その鬼の描写が、やはり力強く、躍動感があり、肉体は美しくたくましい。でも、かなしさやさみしさ、暗さや強さで隠した弱さも感じられる。人間が持つ暗の部分が鬼に投影されていたと思うのですが、成田作品から、うめき声のような、心の叫びのようなものが感じられました。もしかしたら、これが怪獣へと繋がっていくのかな、と。怪獣もただ地球を襲いに来た悪役ではないから…。

 展示の途中のところどころに、著書やインタビューからの成田亨の言葉も掲げられていたのですが、それを読むと、仕事としてデザインしつつも、芸術とは何かと追究しようとしていたこと、様々な想いも込められていることが感じられました。

 それらを経て、「ウルトラ」シリーズや他のヒーローシリーズのデザイン画の展示へ。未発表の怪獣のスケッチ、企画案だけで終わってしまったもの、視聴率が振るわず録画も存在しない(家庭用録画機も無い時代だったが…テレビ局に何故残ってない!?)作品も。でも、有名な「ウルトラ」シリーズであろうと、そのような企画案だけで終わったもの・視聴率が振るわなかったものだろうと、成田亨の怪獣やヒーロー、メカニックの造形・デザインは「芸術」なのだなと感じました。ウルトラマンのカラータイマーには否定的だったこと、テレビ番組のためだけど商業だけを考えているわけではなかったこと…。「ウルトラ」シリーズの展示室の外に、ウルトラマンの墓と「鎮魂歌」があり、それを読んで葛藤しながらの制作だったのかな、と考えてしまいました。

 最後の展示室。90年代以降、晩年の作品です。画家になりたいと美術を志し、後に彫刻の方向へ。それが特撮美術の仕事に結びつき、数多くの怪獣やヒーローを生み出してきた。が、それらの仕事から解放され、彫刻とは何か、芸術・美術とは何か、と葛藤し始める。芸術はただの自己満足なのか。デザイナーと芸術家は違う。でも、テレビ番組のためのデザインの仕事もしてきた。そんな中、成田亨は町ですれ違った子どもが「ウルトラ」シリーズの怪獣の人形を大事そうに持っているのを見て、グッと来たのだそう。それから、それまで生み出してきた怪獣やヒーローたち、メカニックを題材にした油彩や彫刻を制作し始める。ヒーローと怪獣は、テレビ番組のように戦うことはない。ただ、そのヒーローや怪獣、メカニックそのものを描きたいように、表現したいように表現している。それらの作品を観て、葛藤はしていただろうけれども、成田亨にとって怪獣やヒーローたちは、成田亨の芸術だったのだなと感じました。精巧なメカニック。想像力の賜物である怪獣の造形、個性。ヒーローたちの肉体美、たくましさ、強さ、躍動感。それらの作品を観ていて、絵が描きたくて仕方なかった。私の描く絵はしょぼいですが…。身体の各部分の骨格や筋肉のつき方、動き。メカニックや細々した建物・風景を描くのは苦手だが、こんな風に精巧に描けたらな、と。凄い作品に圧倒され、いつしか憧れていました。

 ただかっこいいだけでも、怖いだけでもない。上述の通り、「ウルトラ」シリーズも、その他の作品もほとんど知らなかった私が、展示を観終わった時にはすっかり魅了されていました。気がついたら、ミュージアムショップで、怪獣やヒーローのポストカードを買いこんでいました…。

 開館時間直後に入ったのですが、特別展を観終わったのは2時間半ぐらい後。その後、常設展へ。常設展でも、成田亨関連の展示や、青森県美らしい個性的な芸術家達の作品を取り上げていました。絵本「11ぴきのねこ」シリーズで知られる馬場のぼるの展示も。青森出身です。以前、馬場のぼる特別展もあり、行きました(感想記事書いてなかった)。「11ぴきのねこ」シリーズは、以前読み聞かせをしていた頃、お世話になりました。大好きな絵本です。今回は展示は少なかったですが、絵本原画とその物語、漫画が展示されていました。展示を観ながら、物語を心の中で読み聞かせしていました。漫画はねことその飼い主の奥さんの四コマ漫画なのですが、馬場のぼるらしいユーモアたっぷりで、ねこが可愛い漫画。展示室に私一人でよかった。きっとニヤニヤしながら観ていたと思いますw棟方志功は鷹の絵。成田亨とタイプは違うけれども、躍動感あふれる力強い線に共通するようなものを感じました。

 この常設展を観終わって、トータル3時間半。もうお昼でした。これから行く方は、時間に十分余裕を持ってお出かけください。

 青森県美の展示は、作品との距離が近い。成田亨作品の息遣いが感じられる距離で、じっくりと観ることができて本当に楽しかった。完全に魅了されました。本当に凄い展覧会。青森県美のスタッフの方々に猛烈にお礼が言いたいです。本当にありがとうございます。凄いものを観られました。あの躍動感が、眼に、心に焼き付いています。

 最後に、ミュージアムショップには缶バッヂガシャポンもあります。オリジナルグッズもたくさんです。
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 ヒューマン1号・2号が出ました。
 あと、成田亨のサインは「Tohl NARITA」の表記なんですね。絵のサインを観て、いちいちカッコイイサインだー!と思っていました。
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by halca-kaukana057 | 2015-04-28 23:09 | 興味を持ったものいろいろ
 いつもユニークで先駆的な企画展と、個性的な常設展、そして建物そのものが魅力的な青森県立美術館。現在、開催されている特別展が「美少女の美術史」展。2010年、「ロボットと美術」展を企画したスタッフが再び集まり、ロボットの次は美少女。美少女という言葉から、漫画やアニメなどのサブカルチャーをイメージしましたが、それだけじゃないらしい。それだけで終わるわけが無い。会期もあと少し…前売り券を買っておいたので、行ってきました。

青森県立美術館:美少女の美術史  少女について考えるための16の事柄
美少女と美術史展・公式サイト

・2010年「ロボ美」感想:”人間”を投影する、機械以上の存在 「ロボットと美術」展

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 いつもの真っ白な建物が出迎えてくれました。朝からたくさんの人が来ていました。

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obさんによるライブペインティングイベント作品。撮影・ウェブアップロード可。7月中に制作されていたそうです。

 この「美少女の美術史」展、かなり気合が入っています。いつもの常設展の展示コーナーも特別展の会場に。いつもの特別展よりもボリュームあります。あれ、いつもならここに棟方志功の作品があるはずなのに…いつもと違う意外さ、新鮮さもありました。

 展示は、江戸時代の掛け軸や屏風に描かれた浮世絵、美人画に始まり、明治に入り女性の教育環境や社会的立場の変化に合わせて女性像も変化、「女学生」「少女」の期間が生まれたこと、更に昭和に入り少女文化も発展、現在の漫画やアニメに描かれるポップカルチャーの美少女たち…そんな歴史や「少女」像の変遷から、「少女」とは何か、どんな存在なのか、を紐解いていきます。

 近年、「○○女子」「○○ガール」という言葉が増えました。それまで男性のものと思われてきた趣味を、女性たちが活き活きと楽しむ。ディープな楽しみ方もするけれど、ファッションも怠らない。「山ガール」なら、カラフルでポップな登山服や登山用品、「宙ガール」なら天体望遠鏡や双眼鏡を可愛い柄のマスキングテープで彩ったり、こちらも夜間の観測を安全に且つ可愛く楽しめるようなファッションも欠かさない。私自身「宙ガール」「天文女子」と呼ばれるのには抵抗がありますが、天文好きな女性、というところでは当てはまるかも。マイ望遠鏡に可愛いステッカーやマスキングテープで彩ってみたいとも思いますし、星や月など天文関係のアクセサリーを見つけると反応してしまいます。でも、数年前までは天文好きな女性というのは、ちょっと肩身が狭かった。男性の趣味と思われていたから。「オタク」「暗い」というイメージもつきまとっていた。それが今では、堂々と出来る。言葉の氾濫はあまり好ましくないと感じるけれども、喜ばしいことだ。

 展示の中で、明治の頃、「少女」は嫁入りまでの期間を指す、というものがあった。学校に通い、嫁入りのための教育…針仕事やお料理を覚える。良妻賢母になるために。嫁入りすると「少女」では無くなる。「少女」は通過の期間であり、結婚までの猶予期間でもあった。
 その一方で、美人画には色っぽい花魁が描かれる。禿(かむろ)もマスコット的存在として見られていたようだ。禿というと、創作も入ってますが大河ドラマ「平清盛」で出てきた禿が印象的過ぎて、それを思い浮かべました。そういえばあれも少女だ。

 それが、明治・大正・昭和に入って変わり始める。「女学生」「モダンガール」が登場する。「少女」の期間を活き活きと楽しみ始める。少女向けの雑誌も出版され、「美少女」が描かれる。松本かつぢの絵が特に好きです。「セクション7:お部屋で/お庭で」で少女たちの日常のひとコマを描いた油絵が印象的でした。でも、「少女」は楽しいことばかりじゃない。大人になることへの不安、自己に対する目線、葛藤、憂いを持った存在でもある。それを描いた太宰治原作の「女生徒」のアニメの、通奏低音のような憂いに惹き付けられました。私も「少女」というと、どちらかというと憂いの方が強いかもしれない。

 そんな活き活きとした面と、憂いの面。現代では両方を合わせ持った美少女たちが二次元で活躍する。魔法少女ものなんて、その典型だよなぁ。「ロボットと美術」展でも登場した初音ミクがここでも登場。ミクも、活き活きとした面と、憂いのある面を、歌で、表情で表現する。いまやミクは交響曲やオペラにも登場するほど。ただ、可愛いから、だけではない。

 上記展覧会紹介看板にも描かれているMr.さんの「Goin To A GO-go!」。原画で観ると、描き込みがとても細かくて驚きました。一見すると可愛らしい女の子たちのポップな絵。女の子たちの周りには、様々なものが描かれている。文字もある。”カオス”と言ってもいい。そんな”カオス”の中で、様々な表情を魅せる少女たち。同じ展示コーナーに、アニメのフィギュアもあり、モダンガールあり、美人画もあり…”カオス”でした。

 日本の美少女文化は、今に始まったものじゃない。江戸時代、いやその前から美少女文化はあった。少女たちを見つめ、描き続けてきた。少女たちの姿に、何かを投影し続けてきた。子どもの頃憧れたもの、大人になって懐かしいと思うもの、心の痛みや憂い、苦味とともに思い出すもの…。それらは、大人になった私の心の中にある。現代の漫画やアニメの美少女たちは、そんな日本文化の中で描かれ続けてきた少女たちの先にあるものだったんだ。そう強く感じました。

 美少女は理想であり、憧れであり、心の投影である。若い方からご年配の方まで男性のお客さんも多く見かけたのだが、男性のお客さんはどう観ただろう。「少年」側のアプローチもやってみて欲しいなぁ。「少女」と何が違うのか。

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 25000人達成記念ポスター。「美少女なんて、いるわけないじゃない」がこの展覧会のテーマなのですが、「美少女、いるじゃない」になっています。はい、美少女はいます。

 青森県美は9月7日まで。その後、静岡県立美術館、島根県立石見美術館も巡回します。行けない…と言う方も、図録が一般発売されています。

美少女の美術史 -浮世絵からポップカルチャー・現代美術にみる"少女"のかたち

青幻舎



 非常に面白い特別展でした。特別展の後は、いつものようにシャガール「アレコ」背景幕をのんびり観て、常設展にも。常設展も、寺山修司、棟方志功の少女・美人画でまとめてます。志功の女神の板画(志功は「版画」ではなく「板画」)、好きだなぁ…。
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by halca-kaukana057 | 2014-08-25 23:01 | 興味を持ったものいろいろ
 久々に行きたくなったので行きました。青森県立美術館。昨年夏の「種差」展以来です。

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 現在開催中の特別展「日本の民家」展。常設展も今日は観ます。

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 あの白い建物が、真っ白な雪原の中に。全部白。

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 美術館に向かって歩いていると、徐々に吹雪いてきた。建物の屋根の雪が吹き飛ばされている。

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 美術館入り口も風が強く、吹雪に。寒いけど見惚れてしまった。

青森県立美術館:日本の民家 一九五五年 二川幸夫・建築写真の原点
 まずは特別展の「日本の民家」展。建築写真家・二川幸夫と、建築史家・伊藤ていじによる、1950年代の日本各地にある古い・歴史的な民家の写真を集めた「日本の民家」全10巻。それを元にした展覧会。
 中に入って驚きました。写真の展示の仕方が斬新!普通は壁に一枚ずつかけていくのですが、ワイヤーで天井から吊るしてそのまま床に固定し、写真は宙に浮いているかのよう。しかも、整列させてではなく、迷路のように展示してあるのでますます不思議な空間。青森県美の特別展展示室の土の壁と、モノクロの写真がよく似合っていた。

 1950年代は、戦争からの復興と、1960年代からの高度経済成長期の狭間の時代。そういえば、この時代のことをよく知らなかった。高度経済成長期に向けて、都市部は大きく変化していったであろう時代。一方で、地方、農村には、昔ながらの民家が残っていて、人々が暮らしていた。戦争の被害も無く、よく残っていてくれたなぁと思った。人々の生活の様子が写っている写真もあるが、民家だけの写真も多く、当時ここでどんな暮らしをしていたんだろうと思いながら観ていました。

 そして、これらの民家を探しに全国各地を歩いた二川氏と伊藤氏の2人。時代の流れとは正反対の民家を見たい、その姿を残したいと撮影して歩いた。その情熱も感じました。写真がとにかく美しかった。


 特別展の後、常設展へ。常設展も、弘前市出身の工藤甲人の特集をしていました。幻想的な鮮やかな絵から、モノクロな絵まで。冬を始まりとして、春を描く作品に、まさに今の季節、外の吹雪を思い出しました。この冬、吹雪の中でも何かをあたためて、春を待つ。北国の精神だなと感じました。
 展示室に、千住博さんの著書があったので少し読んだのですが、千住さんは藝大時代工藤氏の指導を受けたことがあったのだそう。その時、工藤氏の絵を幻想的と皆言うけれど、工藤氏にとっては「幻想」ではなかった、「現実」のものだったと話していたことが書かれていて、そんな視点でこれらの絵は描かれたのかと感じました。「幻想」と思うことも、その人にとってはそうじゃないかもしれない。絵に描いてしまえば「現実」になる。絵画、芸術って不思議だな、魅力的だなと感じました。

 棟方志功も、いつもと違う展示が。ヨーロッパ、アメリカ旅行に行った時に制作された板画(棟方志功は「版画」ではなく「板画」と表記しました)が展示してある!棟方志功が見た、そして板画で表現したヨーロッパ。フランス・パリもスペイン・マドリッドもあの志功の板画になっている。これは初めて観ました。棟方志功の板画といえば、仏教にもとづいたものが多いので、意外でした。「賜顔の柵」はルーブル美術館に展示してあったニケ像からイメージした板画。志功のニケ像はこうなるのか!ととても面白く観ました。これは面白かった!

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 青森県美といえば、奈良美智「あおもり犬」。雪が降る中、静かに、雪の帽子を被ってたたずんでいました。この雪の帽子は、これから積雪が増えればまた形が変わります。

 最後はシャガール「アレコ」をゆっくり観て、外へ。
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 思い切り吹雪いてました。視界真っ白。いや、この真っ白な中の真っ白な建物がいいんですよ!そして、吹雪の中で春を待ちながら育てるものがある。吹雪の中だからこそ見えるものもある。そんなことを考えながら歩いてました。

 でも、やっぱり寒かったw防寒対策はばっちりしていきました。
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by halca-kaukana057 | 2014-01-11 23:06 | 興味を持ったものいろいろ
 以前行ってきたこの特別展。東山魁夷の「道」が、試作から本作に展示が入れ換えられました。試作を観たら今度は本作!再び行ってきました。

青森県立美術館:三陸復興国立公園指定記念「種差 ―よみがえれ 浜の記憶」
・前回のレポ:美しき、活きている浜 「種差 よみがえれ 浜の記憶」展 その1

 ちなみに、前売券で試作と本作が両方観られる仕組みになっています。素晴らしい仕組みです。

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毎度おなじみになってしまっている青森県立美術館。あれ?シンボルマークのライトが昼間なのについている?

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やっぱりついています。昼間なのに付いているのは初めて見ました。珍しい。ということで記念に撮影。
このシンボルマークのライトは、夜はとてもきれいです。白い建物にとても映えます。夕方、日没の頃も陽のかげり具合に映えて、またきれいです。

 2度目ですが、もう一度展示をゆっくりと観ることに。種差海岸近辺の縄文遺跡から出土した土器や石器、貝塚からの出土物を観て、以前読んだ小説「ライアの祈り」(森沢明夫)を思い浮かべていました。小説の感想に書くのを忘れていたのですが、「ライアの祈り」には種差海岸も出てきます。かなり重要なシーン、重要な場所として描かれています。ライアたちのような縄文の人々が、これらの土器や石器を使って、種差でどんな暮らしをしていたのだろうと想像しつつ、小説のことも思い浮かべつつ観ていました。
・「ライアの祈り」についてはこちら感想記事で:ライアの祈り

 前回の記事で書かなかったところも。現代のアーティストによる作品。まず、リチャード・ロングの作品のスケールに圧倒されました。一番広い展示室の、壁3面をキャンバスのように使っている。「津波の断層」の大きさといったら凄い。種差海岸を襲った津波、そして復興へのメッセージが、シンプルで力強い。
 もうひとり、笹岡啓子の種差海岸の写真。ごつごつした岩肌、海岸に寄せる波、海岸の人々。種差の空気が伝わってくる写真です。

 吉田初三郎の鳥瞰図も、やっぱりどうやって描いたのだろうと思う精巧さと鮮やかさ。細かいところまで魅入ってしまいます。

 そして、東山魁夷の「道」本作。観て、試作と違う点がいくつか。まず大きさ。試作は小さめの作品だったのが、本作は大きい。また、本作は鮮やかになっています。道も、試作よりもよりはっきりと描かれている。遠くから観るとシンプルに道と緑の草原をはっきりと描かれているように見えるけれども、近くで観るとタッチがやわらかい。
 この「道」の道は、まっすぐ伸びていて、途中で曲がり道が途切れているように見える。でも、道の続きも描かれている。試作だけでなく、スケッチも多数残されていてその解説もあったのですが、何度も何度も描いて、表現したかった一本の道。曲がっている先は、今ここから見え難いけれども、もう少し先に行けば見えるだろう。また新しい道が見えてくるだろう。そんなことを考えながら黙って見つめていました。
 「凪」も何度観ても惹かれる作品。東山魁夷の作品を観て、穏やかな気持ちになっていました。やわらかであたたかい雰囲気。寺院や神社、教会にいるような、落ち着きと厳かさを感じました。やっぱり今回も、椅子に座ってしばらく居座ってしまいました。ちょうどいい位置に椅子(ベンチ)があるので…。同じように居座っている方も何人かいらっしゃいました。

 「道」(本作)は東京国立近代美術館で展示されていますが、その絵のモデルとなった種差海岸に関する特別展、というテーマ(枠)の中で観られたのは貴重でした。いい特別展でした。

 特別展を出て、アレコホールでいつものようにソファに座って、ゆっくりと「アレコ」背景画を鑑賞。常設展は、体調が芳しくないので今回もパスしました…。特別展は、「道」本作を何としてでも観たかったので、力尽きました…(無理するな

 以前の記事で書いた、吉田初三郎鳥瞰図展には行けなかったなぁ。残念。あと、「ライアの祈り」関連で三内丸山遺跡も…これはまた今度。

 
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by halca-kaukana057 | 2013-08-31 22:05 | 興味を持ったものいろいろ

好奇心のまま「面白い!」と思ったことに突っ込むブログ。興味の対象が無駄に広いのは仕様です。


by 遼 (はるか)
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