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天の川が消える日

 宇宙・天文の本は次々と出ています。比較的新しめの本です。


天の川が消える日
谷口 義明/日本評論社/2018


 天の川を肉眼で観る機会は現代日本では場所、環境、条件も限られる。私もそんなに多く観たことはない。子どもの頃、夏の真夜中に目が覚めてたまたま窓を開けて夜空を見上げたら満天の星空。その中でも細かい星がたくさん見える箇所があった。これが天の川なのかと思った。この天の川を観て、銀河系の姿を考えるのは難しいなと、後に天の川は地球、太陽系も含む、銀河系という星の大集団だと学んだ。今は天の川は銀河系を内側から観たものだとわかっているが、どうやって人類は銀河系だとわかったのだろう。銀河とか何か。そして将来、銀河系がどんな姿になるのか。それを解説した本です。

 「天の川が消える日」というちょっとショッキングなタイトルですが、本の大半は天の川、銀河系、他の銀河の観測と発見の歴史の解説です。高校の地学レベルの内容を解説しています(出てくる数式は高校の地学では扱わないかも)。天の川、銀河系の観測や発見の歴史は、そのまま天文学上の発見と謎の解明の歴史でもあります。観測の方法…可視光から赤外線、X線、電波などへの広がりも。ガリレオ、ハーシェル、アインシュタイン、ハッブル…先駆者たちの研究や発見が、銀河の姿を明らかにする歴史でもある。やがて、ビッグバンやダークマター・ダークエネルギーにもたどり着きます。銀河に関する天文学を一から学ぶ感じです。読みながら、忘れている所もあったので考えながら読めました。

 私たちの銀河系のお隣、アンドロメダ銀河。自分の望遠鏡で、自分で導入して観てみたい天体だ(まだそこまでできない)。銀河が集まっているのは、銀河同士に重力があるから。その重力で、銀河系とアンドロメダ銀河も近づいている。でも、宇宙は膨張しているのだから、2つの天体は遠ざかっているのでは?この疑問の解明が面白かった。パーセクも地学で習ったのに、もう忘れているなぁ…。
 遠い将来、銀河系とアンドロメダ銀河は衝突、合体する。その前に、天の川にアンドロメダ銀河が近づき、夜空にはこの2つが大きく並んで見える。37.5億年も先の話だが、ベテルギウスの超新星爆発と同じように観てみたいなと思う。アンドロメダ銀河が近づけば、アンドロメダ銀河内の惑星系の観測もできるだろうか…その時代にはもう人類は地球にはいないだろうけれども。

 アンドロメダ銀河と合体した後の銀河系がどうなるか、読んでいて寂しくなった。著者のこの言葉が重く感じられる。
 少なくともこれだけは言える。天体を眺めるなら今のうちだ。さあ、双眼鏡や望遠鏡を買いに行こう。
(156ページ)
 望遠鏡はあるのに活用しきれていない私も問題だ…。買ったら使い方を覚えて、どんどん使うべし。

 「宇宙規模で物事を考える」とよく聞く。広い視野と長期的な視点で考えよう、心を広く持とう、細部にとらわれずに広い観点から考えよう、そんな意味ではあるけれども、その「宇宙」も有限である。ひとりの人間の一生に比べたらスケールは桁違いだけど、無限で思考停止していいという意味ではない。宇宙への見方も考え直したくなる本です。



by halca-kaukana057 | 2020-01-15 22:15 | 本・読書
 以前読んだ「ゼロからトースターを作ってみた結果」(トーマス・トウェイツ)の中に出てきた小説。正確にはこの本ではなくシリーズの「ほとんど無害」。まずはシリーズ第1作から。
・過去記事:ゼロからトースターを作ってみた結果


銀河ヒッチハイク・ガイド
ダグラス・アダムズ:著、安原和見:訳/河出書房新社、河出文庫/2005

 イギリス人のアーサー・デントは地元のラジオ局に勤めるごく普通の地球人。そのアーサーの家の前に、とても大きなブルドーザーがやってきた。アーサーの家を壊すという。アーサーには友人がいた。フォード・プリーフェクトという男だが、実はベテルギウスの近くの小さな惑星出身の異星人だった。アーサーの家を壊そうとするブルドーザーとのやりとりに巻き込まれたフォードは、飲まないとやってられないとアーサーをパブへ連れて行く。実際、飲まないとやってられない状況が近づいていた。間もなく地球には、ヴォゴン土木建設船団がやって来る。地球を取り壊し、そこに超空間高速道路を建造する。彼らは地球を破壊してしまった。アーサーは地球人でただひとりの生き残りとなり、フォードと一緒に宇宙でヒッチハイクをし旅をすることになった。フォードは「銀河ヒッチハイク・ガイド」という本を持っていた…。



 SFの傑作とよく聞く本だけど、どんな物語なんだろうと思ったら…。
 元々はBBCのラジオドラマ。それを小説にしたのがこの作品です。アーサーとフォードは様々な宇宙船をヒッチハイクし、宇宙を旅し続ける。その途中で様々な人に会い、別の星に行き、地球に何が起こったのか、地球とは何だったのかを知ることになる。
 だが、その旅路がぶっ飛んでいる。アーサーとフォードには次々とピンチが訪れる。2人はそのピンチを上手い具合に乗り越える。本当にぶっ飛んでいる発想で、上手い具合に。このイマジネーションはすごいなと思う。元々はラジオドラマなので、どのシーンも映像をイメージしやすい。実際に映画化されているが、映画だったらこうなるのかな、と文章を読んですぐイメージできる。

 そして、この本はブラックでシュールなイギリスジョーク満載。昔、NHKで「宇宙船レッド・ドワーフ号」というイギリスのSFドラマを放送していた。その雰囲気。「レッド・ドワーフ号」もシュールなくだらない(褒めてますw)ジョークが満載で、大好きで、いつも笑って観ていた。それを思い出した。(ちなみに、「レッド・ドワーフ号」も小説化されていて、訳者は同じく安原和見さん)
 イギリス人はどうしてこんなシュールなジョークが好きなんだろう…。地球が滅亡しても、異星人にもイギリスジョークは通じると思っているのだろうか…(褒めてますw)。独特のジョークであることに気づかないと「何これ?」と思ってしまう。私も全部わかったわけではないけど、何かおかしい、何か変だ、というのはわかった。アーサーの立場で考えると、突然地球が消滅して、宇宙をヒッチハイクすることになり、見るもの出会うものは初めてのものばかり…これまでの地球での常識がひっくり返されてしまった状況で、自己を保つ、「パニクるな」と言われたら、こんなシュールなジョークでも言わないとやってられないのかなと思う(真面目に考えてみた)。

 宇宙船やコンピュータはまさにSFなのだが、それは高度な文明なのか、でたらめなのか…。アーサーの出会う人やもの、星はユニーク。そして哲学的でもある。地球とは何だったのか。まさかの展開に驚く。お気に入りはネガティヴ過ぎるロボット・マーヴィン。何故こんな性格にした。何故こんなプログラミングにしたと問い詰めたいが、こんな奴もいてこその宇宙珍道中なのかなと思う。

 この作品もシリーズものなので、続編も読みたい。ディープな作品に足を突っ込んでしまった気がするんだが…。



by halca-kaukana057 | 2019-12-16 21:52 | 本・読書
 国立天文台の縣先生の新刊です。


ヒトはなぜ宇宙に魅かれるのか ― 天からの文を読み解く
縣 秀彦/経済法令研究会、経法ビジネス新書/2019 


 宇宙・天文に関する様々な話題が増え、宇宙・天文に関心を持つ人が増えている。人類は古代から星空を見つめ、星、天体とは何なのか、宇宙とは何なのか、何があるのかと読み解こうとしてきた。20世紀になると人類は宇宙に行く手段、技術を得、無人・有人で宇宙を探査したり、宇宙空間を利用するようになった。21世紀になると、宇宙を舞台にしたビジネスも加速的に始まった。
 宇宙と人間の歴史と関わりについて、様々な視点から解説している本です。

 縣先生は国立天文台で広報やアウトリーチの活動を行っています。天文や科学を一般市民にもっと知ってもらう…というよりは、税金を使っているので「成果を還元していく」。この本では、人間が宇宙や天文、科学に対してどんなアプローチが出来るのか、様々な例を挙げています。宇宙は遠い彼方のことで、日常生活には直結しない。でも、宇宙や天文は「文化」にもなりつつあり、もっと身近にあるものなんだ。例えば、昨日は七夕(月遅れの8月7日、「伝統的七夕」もお忘れなく。新暦は邪道、というよりも、3回やってもいいじゃんと私は思います。ちなみに今年は伝統的七夕も8月7日)。他にも十五夜、十三夜もあり、日本には天文にちなんだ風習がある。流星群が見られるかもしれないとよくニュースで取り上げている。月が普段より大きいとか赤いとかというのでも話題になるし、日食、月食となればさらに話題になる。こんなに宇宙や天文が話題になりやすく、関心をもたれやすいのに、「宇宙は遠い」「身近じゃない」のだろうか…。どんどん身近になりつつあり、文化になっていっていると思う。

 私はこれまで、宇宙がもっと身近になればいいと思ってきた。このブログでも、何度も、「地上の延長線上に宇宙があって、その延長線がどんどん短くなればいい」と書いてきた。それは、主に宇宙開発でのことでした。地上とISSでの暮らしぶりだとか、意識的な距離感だとか。でも、天文でも同じことが言える。重力波やブラックホールは遠い存在のようで、原理は身近にある物理法則と変わらない。重力波やニュートリノは、私たちの身体に感じられない規模で通り過ぎ、すり抜けていっている。それが天文学的規模になると大発見になる。まだまだ分からない宇宙の成り立ちや構造の謎がひとつひとつ解き明かされれば、もっと宇宙は身近になるのではないだろうか。

 宇宙と天文の歩み、歴史、現在についての概論もあるので、宇宙の入門書にもおすすめです。ブラックホールの縁の観測までは載っていませんが、重力波観測など、新しい話題も多いです。
by halca-kaukana057 | 2019-07-08 21:52 | 本・読書
 このニュースを読む度にとても興奮しています。昨日放送された「コズミックフロント☆NEXT」も観ました。
国立天文台:史上初、ブラックホールの撮影に成功 ― 地球サイズの電波望遠鏡で、楕円銀河M87に潜む巨大ブラックホールに迫る
アルマ望遠鏡:史上初、ブラックホールの撮影に成功 ― 地球サイズの電波望遠鏡で、楕円銀河M87に潜む巨大ブラックホールに迫る
EHT-Japan:史上初、ブラックホールの撮影に成功! 地球サイズの電波望遠鏡で、楕円銀河M87に潜むブラックホールに迫る

NHK:世界初 ブラックホールの輪郭撮影に成功
史上初、ブラックホールの撮影に成功!

sorae:人類が新たに開いた扉。「ブラックホールの直接撮影」に成功。”シャドウ”を捉える
毎日新聞:究極の「目」、視力300万の解像力 電波望遠鏡6カ所連携 ブラックホール初撮影

国立天文台:(プレスキット)史上初、ブラックホールの撮影に成功:画像
  ↑このページの一番下にある、解説漫画がとてもわかりやすくて面白いです。あの画像、どう見てもドーナツ…ということで、登場するキャラクター、研究者たちが皆ドーナツを持っているwドーナツが食べたくなったじゃないかwニュースを見た翌日、買っちゃいましたよ食べちゃいましたよドーナツw

 「イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)」プロジェクトについて知ったのはこの記事、最近のことでした。
sorae:ついにその影を掴んだか!?ブラックホールに関する観測成果を4月10日に発表

 本にもネットにも当たり前のように書いてあり、天文学者も当たり前のように口にしている「ブラックホール」という言葉。電波望遠鏡での観測や、ブラックホール同士が衝突して重力波を観測した、というニュースもあり、ブラックホールの存在は確認、証明されているんじゃないの?と思っていました。でも、違った。勉強不足でした。ブラックホール「の存在を示すと考えられているクエーサー」、「から飛び出すジェット」で、間接的にブラックホールがあるのではないか、ということをこれまで観測してきたのです。私のこのブログの過去記事を書き直さねばならぬかもしれん…。
 
 今回、EHTプロジェクトが目指すのは、「事象の地平線」を観測すること。ブラックホールは光をも飲み込んでしまうため、光(電磁波)でそのものは観測できません。その光が脱出できない半径ギリギリの面のことを「事象の地平線」と呼び、事象の地平線の外側には強い重力によって高温になったガスなどがあり、それを電波観測できれば、ブラックホールの輪郭、影も観測できるのではないか。それを目指します。そのためには、高解像度の電波望遠鏡が必要。ブラックホールは意外とコンパクトな天体で、月面にあるテニスボールを見分けられる程度の解像度が必要。現在世界最強のアルマ(ALMA)望遠鏡だけでは足りません。いくつかの電波望遠鏡を組み合わせれば、より大きい=解像度の高い架空の電波望遠鏡で観測することができる、電波望遠鏡の特性(VLBI:超長基線電波干渉計)を利用して観測します。

 そして、一昨日発表された、上記リンク先のニュースの数々。今まで観測されてきたブラックホールのジェットやクェーサーの画像とは違います。丸いリングに、黒くぽっかりと開いた穴。この暗い穴がブラックホールの影、縁の部分。リングの部分は、事象の地平線の外側にある高温のガスです。
 電波望遠鏡での観測は、可視光のように天体の姿が見たまま見えるわけではありません。膨大な観測データを計算して、画像に処理します。今回はVLBIを使って地球サイズの電波望遠鏡として観測しましたが、電波望遠鏡の間の部分は観測できていない。その数値を補う必要もあります。その画像に処理する様子が昨日の「コズミックフロント」で放送されましたが、なかなか思ったとおりの画像にならず苦戦。この画像に至るまでは本当に大変だったんだなと思いました。

 今回観測したのはおとめ座にあるM87銀河。もうひとつ、天の川銀河の中心にあるブラックホールも観測しています。その観測結果は追って発表とのこと。楽しみです。


 このニュースを見ていて、嬉しかったのがVLBIという言葉が一般のニュースに大々的に出てきたこと。可視光、赤外線、X線など様々なタイプの望遠鏡があり、それぞれ見えるもの、観測できるものが違います。個性が違う。電波も、その他の波長とは違うものを観測することが出来る。そして、電波望遠鏡にはいくつかの電波望遠鏡を組み合わせて、その分の大きさの仮想の望遠鏡を作ることが出来るという仕組みがある。ALMA望遠鏡は66基もの電波望遠鏡が並んでいる。ALMA望遠鏡ができたことで、電波観測は一気に飛躍しました。EHTプロジェクトも、ALMA望遠鏡ができたからこそ実現できた(ちなみに、日本の電波望遠鏡が参加しなかったのは、ALMA望遠鏡のあるチリとは地球の反対側にあるため)。

 そして、VLBIと聞くと、あの電波望遠鏡を思い出さずにはいられません。宇宙電波望遠鏡衛星「はるか」(MUSES-B)。今回は地球サイズの電波望遠鏡を作ってしまおうというプロジェクトでしたが、電波望遠鏡が遠くにあればあるほど、もっと大きな、解像度の高い電波望遠鏡を作ってしまえる。ならば、宇宙に電波望遠鏡を打ち上げてしまえばいいじゃないか!!ということで始まったのが、「スペースVLBI(VSOP)」プロジェクト。その技術を実証するために、「はるか」は打ち上げられました。実際に、世界各地の電波望遠鏡と協力して様々な観測を行いました。今回観測したM87銀河のブラックホールから出るジェットも詳しく観測しました。
ISASニュース 1999.8 No.221 「はるか」特集号
 「はるか」は私が特に、一番大好きな衛星。何度も書いてますが、私のハンドルネールはこの「はるか」に由来しています。その位好きです。お花のようなアンテナが個性的で美しい衛星でもあります。
 「はるか」は2005年11月30日に運用を終了しました。「はるか」で実証された技術は、後継機の「ASTRO-G」に引き継がれる予定でした。しかし、電波望遠鏡として機能するアンテナの開発が難航、予算もなくなり、計画は中止になりました。この中止になった時は非常に残念に思いました。

 もし、今回のEHTプロジェクトに「はるか」の後継機が参加できていたら、もっと解像度の高い画像になっただろうに…。現在のEHTプロジェクトの解像度では、比較的地球に近い大きなブラックホールのM87と天の川銀河のブラックホールしか観測できません。プロジェクトチームの記者会見で、今後はもっと解像度を上げたいとありましたが、そのためには電波望遠鏡を宇宙や月に持っていく必要があります。現在、宇宙にある電波望遠鏡は、ロシアの「ラジオアストロン」。しかし、不具合が起きてしまっています。これを機に、もう一度、VSOP計画が復活しないかと思っています。技術的に困難だから仕方がないと、あの時は中止になりました。中止は2011年の話。現在、技術はもっと進歩しているかもしれない…楽観的過ぎるかな…。
 でも、EHTプロジェクトもここで止まってしまうのはもったいないと思います。時間はかかりますが、人類が開いた宇宙への扉を、ここまでで終わりにはしたくありません…。重力波観測と同じように、ブラックホール観測もさらに推し進めて行って欲しい。そのために、VSOP計画が復活してほしい…。そう願うばかりです。

◇ASTRO-Gについてはこのページをどうぞ:JAXA: 特集:果てしない宇宙の謎にせまる ~日本が誇る天文観測衛星の成果と未来~:活動銀河核の真の姿を見てみたい

【「はるか」「ASTRO-G」過去記事】
電波天文観測衛星「はるか」に想う
  ↑「はるか」について拙いですが解説した記事です。

無念… 電波天文衛星「ASTRO-G」開発中止
2月12日は「はるか」記念日
こことは違う世界に出会う時 読んだ本2冊
超巨大ブラックホールに迫る 「はるか」が創った3万kmの瞳
  ↑「はるか」VSOPプロジェクトの集大成として出た本です。この本はおすすめです。
by halca-kaukana057 | 2019-04-12 22:39 | 宇宙・天文

宇宙と人間 七つのなぞ

 物理学者の湯川秀樹博士の本は、色々と出ています。その中からこの本を。


宇宙と人間 七つのなぞ
湯川秀樹 / 河出書房新社、河出文庫/2014年

 この本は元々、1974年、「ちくま少年図書館」の中の1冊として刊行された。少年向けの科学の本なので、文章は講義を受けているような語り口調で親しみやすい。しかし、内容はちょっと難しめのところもあるかも。じっくり読んで、理解したいと思う本です。

 この本で語られる「七つのなぞ」とは、「宇宙のなぞ」、「素粒子のなぞ」、「生命のなぞ」、「知覚のなぞ」、「ことばのなぞ」、「数と図形のなぞ」、「感情のなぞ」。宇宙や素粒子、数学は湯川博士の専門だが、知覚、ことばや感情については執筆に苦労したそうだ。

 先日読んだ「宇宙に命はあるのか」(小野雅裕)は、ひとつのテーマを根底にして、宇宙開発や宇宙探査の歴史と現在、未来、何を目指しているのかを総合的に語った本だった。この湯川博士の本も、科学を総合的に語った本。その科学は、どんなに高度なものであっても、元々は私たちの身の回りにあるものから発展していった、というのが面白い。遠くの宇宙も、目に見えない素粒子も、難しい数学も、身の回りにあるものを観察し、調べることで発展していった。高度な科学を研究しようと思ったら、まずは身の回りに興味を持つことが大事なのだなと感じた。

 ことばについては、湯川博士がお孫さんの成長を「観察」した結果が書かれている。この本のために「観察」しようとしたわけではないが、一緒に遊んでいるうちにどのようにことばを理解し覚えていくのか、お孫さんの例が書かれている。言語学もやはり身の回りから発展していくのか。人間が学問を発展させていった過程もわかるようで面白い。

 科学は現実にあるものを観察、証明していくものだと思っていたが、「ノン・フィクション」の科学もある。数学の素数や複素数は「ノン・フィクション」だが、量子力学には必要なこと。湯川博士の時代ではまだ予測の段階のものもある。予測だけれども、それがないと現実の科学法則が成り立たない。確かに、科学には「ノン・フィクション」が存在する。これも面白いと思った。現代で言うなら、ダークマターもそのひとつ。重力波やヒッグス粒子も「ノン・フィクション」だったが、現実にあると観測された。湯川博士がもしまだ生きていたなら、興奮していただろう。

 知覚、感情の章で、博士はこう述べている。
私はいつも言うのですけれども、学校で習うこと、あるいは教科書に書いてあること、参考書に書いてあることはだいじに違いないけれども、それを覚え、また理解したら、それでいいと思うのは、たいへんな錯覚です。学校や書物で習うことを覚え、理解する、その根底には膨大な別の情報の獲得と記憶があるということを無視してはならない。目なら目を通じて、あるいは耳を通してはいってくるものもあるし、そのほかの感覚器官を通ってはいってくるものもある。そういう仕方で得たたくさんの情報を知らぬ間に自分で整理したり、覚えたりしているということが、意識的に勉強することと平行している。それは学校では直接には習わないことですが、それは学校で習うことと同じくらい重要だと思うのです。(211ページ)
 普段何気なく生活していることこそが、学ぶことに繋がっている。それをおろそかにしないでほしい。意識してほしい。そんな博士のメッセージは、とても重要だと思う。

 身の回りは、たくさんの謎に繋がっている。そう思うと、この世界は面白いなと思います。

 ちなみに、この本の冒頭で、神話の宇宙観のひとつとして、フィンランドの民族叙事詩「カレワラ」の宇宙創世の箇所が引用されています。大気の娘・イルマタルが世界を生み出す箇所。シベリウスは、この箇所をソプラノ独唱とオーケストラのために「ルオンノタール」として作曲したあの箇所です。世界各地に創世神話はありますが、その中から「カレワラ」が取り上げられたのが嬉しかったです。

【過去記事:湯川博士の本】
旅人 ある物理学者の回想
目に見えないもの
by halca-kaukana057 | 2019-03-18 23:14 | 本・読書

宇宙に命はあるのか

 本屋で平積みになっていて気になっていたところに、友人が面白かったと言っていた本。なぜ表紙が「宇宙兄弟」のムッタ?(帯によると作者の小山宙哉先生が絶賛しているとのこと)


宇宙に命はあるのか 人類が旅した一千億分の八
小野 雅裕/SBクリエイティブ、SB新書/2018

 著者の小野さんはNASA、ジェット推進研究所(JPL)で火星探査ロボットの開発をしている技術者。この本の元となるWeb連載があり、原稿を書き上げた後、一般の読者との読書会を4回開き、そこでの意見を取り入れ改訂していった、とのこと。読み手の意見を製作の段階で取り入れているのは珍しいなと思います。

 一言で言うと、人類の宇宙開発、宇宙探査の歴史を描いた本です。SFだった宇宙飛行が、ロケットの開発により現実のものになっていく。そして宇宙へ飛んだ人類は、更に遠くへ…月、火星、もっと遠くの惑星へ、更にもっと遠くを目指していく。何のために?それは何故?何故そこまでして人類は宇宙へ向かっていっているのか。

 文章は易しく、読みやすいです。ドラマティックな、物語のような雰囲気で書かれているので、宇宙開発・宇宙探査のノンフィクションと思って読んだ私は最初驚きました。ちょっと脚色強くないか?とか。でも、この文体が、この本全体に通じるテーマである「あるもの」を印象付けるのに効果的だなとも感じました。この「あるもの」は読んで実感してください。ネタバレしません。

 何かを知りたくて読む、というよりは、この本の雰囲気、この本全体に通じる「あるもの」を感じながら、宇宙開発・宇宙探査の進んできた道とこれから進む道を味わう本かなと思いました。「コズミックフロント」のようなテレビ番組、「ライトスタッフ」「アポロ13」「遠い空の向こうに(October Sky)」「ドリーム(Hidden Figures)」、「はやぶさ」を描いた数々の作品などの映画を観ているような感じ。ノンフィクションではなく完全なSFだけど、「コンタクト」とかも。映画じゃないけど「プラネテス」も当てはまる(原作漫画もアニメも)。あと、表紙になっている「宇宙兄弟」もか。この本で初めて知ったこともあります。アポロ計画を支えたジョン・ハウボルトとマーガレット・ハミルトン。彼らがいなければ、アポロ計画は実現していなかったし、成功もしていなかった。ボイジャー計画のゲイリー・フランドロと彼の計画に賛同し引き継いだJPLの技術者たち。ボイジャー計画は最初から現在の計画ではなかったのか。あのアメリカでもこの大冒険に消極的だったのか。これには驚きました。

 私が何故宇宙や天文に興味を持っているのか…?その理由を問われているような本でもありました。

 この本には書かれませんでしたが、つい先日の「はやぶさ2」の小惑星リュウグウへのタッチダウン成功。ワクワクして仕方なかったし、成功の報せに喜び、届けられたタッチダウンの連続画像には興奮しました。リュウグウは、最初は丸い平坦な小惑星と考えられていた。ところが、実際に行ってみたらそろばん玉のような形で、ゴツゴツ岩だらけなことがわかった。リュウグウには、原始の太陽系の成分や、もしかしたら水、有機物があるかもしれない。地球のような惑星が初期の頃はどんな星だったのか、生命の起源はもしかしたら宇宙から来たのかもしれない。それを解く鍵を探しにはるばるリュウグウまで向かいました。「はやぶさ2」計画は予算などの関係で実現が危ぶまれたこともあります。宇宙・科学ライターの方々の呼びかけで、宇宙ファンが実現してほしいと関係機関へメールを送ることもしました。私も協力しました。そこまでして「はやぶさ2」を実現させたかった理由。初代「はやぶさ」が様々なトラブルに見舞われながらも地球へ小惑星イトカワのサンプルの入ったカプセルを地球に持ち帰ろうとしていた(この時点では、まだ本当にカプセルにサンプルが入っているかわからなかったし、地球に帰還できるかもわからなかった)。その成果を繋いでいってほしい。「はやぶさ」が見せてくれたイトカワの姿。他の小惑星はどうなのか。イトカワと似ているのか、全く違うのか。技術実証機である初代「はやぶさ」はトラブル続きだったが、ここで得られたものを生かして、本番の「はやぶさ2」を飛ばしてほしい。「はやぶさ2」でもっと広い宇宙を見たい。そんな思いからでした。

 「はやぶさ」シリーズだけでなく、他の探査機や宇宙機、様々な望遠鏡は遠い宇宙の姿を見せてくれます。惑星の様々な表情、星雲や銀河、生まれたばかりの星、一生を終えようとしている星。それらの姿にワクワクします。頭の上に広がっている宇宙は、肉眼では小さな星がいくつも輝いているけれども、実際にはどんな姿をしているのだろう。どんな星があるのだろうと星空を観る度に思います。
 また、宇宙から見た地球の姿も興味深いです。自分の姿は鏡に映せばわかるけど(それでも、見落としている部分もあるし、心の中までは全てはわかりません)、地球を見るためには宇宙に行かなくてはいけない。私は宇宙に行けないけれど、ISSに滞在している宇宙飛行士たちが伝えてくれる地球の姿はとても表情豊かで美しく、地上にいてはわからないことばかり。また、地上から400kmしか離れていないけれども、その距離でも宇宙の生活は地上の生活とは違う、宇宙に行くと物体や人体に何が起こるのか、わからないことがたくさんあります。

 私が宇宙・天文に惹かれるのは、見たことのない世界を見たいから。地上の固定概念から離れた、もっと広い世界を見たいから。それがとても楽しいから。好奇心が疼くから。単純だった。でも、その単純な感情がきっかけになって、複雑なロケットや探査機、望遠鏡など宇宙を探る装置を作り出し、どんどん遠くを見ているのだからすごいなと思う。この本に書かれていることも、「あるもの」がきっかけになってどんどん遠くの宇宙を見ようとしてきた。そのうち、ある疑問が出てきた。生命のある星は地球だけなのか。宇宙のどこかに生命はいないのか。地球の生命はどこから来たのか。単純な問題ほど深くて難しくなかなか答えが出ない。

 普段私が読んでいる宇宙に関するノンフィクション、専門書とは違う切り口で面白かったです。
by halca-kaukana057 | 2019-03-13 22:53 | 本・読書
 バレンタインデーです。バレンタインが近づくと、店頭に珍しいチョコレートが並び、チェックしに行ってしまいます。ずっと気になっていたのは、数年前から惑星のデザインのチョコレートが販売されていること。しかし、私の住んでいる地域、行動圏内では販売している店はなく。数年前に一度見つけたのですが、ほとんど売り切れ状態で買えず。惑星チョコを買えたらなぁと思っていました。

sorae:あなたはガイアを食せるか。注目の惑星チョコが美しすぎた

 今年、ついに買えました。上記リンク先でも紹介されている「Astronomy」(マイネローレン)。販売しているお店がありました。様々な種類があって悩みましたが、お手ごろな3個入りのにしました。
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 パッケージには馬頭星雲。きれいです。

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 箱の裏には入っているチョコレートの説明があります。金星がクランベリー。太陽(ハート型)はストロベリー。地球はラズベリー。

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 きれいです。完全な球体ではなく、半球です。でも地球や金星のグラデーションがきれい。太陽のハートはキラキラしています。

 ずっと眺めていてもいいのですが、せっかくなので食べます。太陽と地球はホワイトチョコレート。金星はミルクチョコレートが土台になっています。まず太陽。ストロベリーが甘いです。次に地球。ホワイトチョコの優しい甘さにラズベリーの甘酸っぱさが優しいアクセントになっています。最後に金星。太陽と地球とは違うミルクチョコレートの力強さにクランベリーの風味が活きます。美味しいです。ただ、3つともベリー系で似ている。3つとも違う感じでもよかったなぁと感じました。

 そういえば、山崎直子さんが以前宇宙のにおいはラズベリーっぽい甘酸っぱいにおいとインタビューで読みました。だから地球はラズベリーなんだろうか。

 6粒入り(太陽はなく、水星、火星、木星、土星が追加)のもありました。こちらはソルトやキャラメル、ピーチにコーヒーとバリエーションが広がっています。こっちも食べたかった。惑星以外にも、彗星や星雲のチョコレートも入っているものもありました。

 宇宙関係では、「星の王子様」のチョコレートもありました。また来年も惑星チョコを食べられたらいいな。今年とは変わっているのかな。
by halca-kaukana057 | 2019-02-14 22:01 | 宇宙・天文
 この本は面白かった。

宇宙はなぜ「暗い」のか? オルバースのパラドックスと宇宙の姿
津村 耕司/ベレ出版/2017


 宇宙は何故暗いのか。夜空は何故暗いのか。え?太陽の光が当たってないから?宇宙は真空だから、光が大気で拡散しないから?星が沢山あるのに…星(恒星)はそんなに密集していないから…?宇宙は広過ぎるから…?違うの?この本を読み始めた時、そう思っていました。わからない。考えたこともない。当然じゃないの?と思っていたら、当然ではないらしい。宇宙はなぜ「暗い」のか?何だか、某テレビ番組でそのうち取り上げられそう、そして答えられない出演者が「叱られ」そうな…。
(【追記 2019.4.5】本当に取り上げられましたよ…「夜はなぜ暗いの?」この本は取り上げられなかったですが、この本の通りの答えでしたよ…答えられましたよ…)

 この本のサブタイトルに、「オルバースのパラドックス」とある。「無限の空間に無限の恒星が一様に散らばっているとしたら、空は太陽面のように明るいはず」ちょっとよくわからない。この本では、森の中の木々に例えて説明している。森の中の木が全て同じ、同じ種類で同じ太さと仮定すると、手前の木は大きく見え、その木の間に奥の木が見えて、その奥の木の間には更に奥の木が見えて…どこまでも木々が、全ての方向に見える。宇宙も同じで、手前の星は明るく見えて、その間にその奥にある星が見え、その奥の星々の間にはさらに遠くの星が見えて、どこまでも、どの方向にも星が埋め尽くされているように見えるはず。
 でも、実際にはそうではない。これが「オルバースのパラドックス」。こういう謎があったのか。

 このオルバースのパラドックスを解明していくのですが、解明する途中で物理学や天文学の様々な法則や知識、歴史を用いて、宇宙や天文の仕組みをひとつひとつ学べるようになっている。これが面白かった。今まで私も学んできたことを確認しながら読みました。金星の満ち欠けが地動説の証拠になったというのは知らなかった。天動説での金星の満ち欠けと、地動説での金星の満ち欠けの仕方は違う。天動説での金星の満ち欠けがどのようなものか知らなかった(天動説でも金星は満ち欠けするという説自体はあったのに驚いた)。皆既・金環日食や金星の日面通過など、ここ数年の天文現象を振り返りながら解説があるのも興味深い。天文現象が何を意味するのか。天文現象を観測した先人はそこから何を見つけたのか。天文現象があると私も宇宙に生きているのだなと思うが、それだけでなく、天文現象の観測はは宇宙と地球の仕組みの解明の鍵になっている。観測にかける研究者の気持ちはいかばかりかと思う。

 オルバースのパラドックスの謎解きまで、近くの宇宙から遠くの宇宙の謎へと移っていくのも面白いが、可視光線や赤外線、紫外線、X線、電波など様々な波長の電磁波から解明していくのも面白い。人間が夜空や宇宙を見て「暗い」と思うのは可視光線だけだが、他の波長で「見たら」どうなるのか。その波長における仮説を解きながら、その波長で「見える」宇宙の姿も明らかにしていきます。その波長を観測できる人工衛星も登場します。

 「オルバースのパラドックス」を紐解く過程で、ブラックホールや重力波、ビッグバンまで出てくる。宇宙、天文学の1から10が学べてしまう。いくつもの謎解きを経て、ついに「オルバースのパラドックス」の謎が解ける箇所はそうだったのか!とスッキリしました。本の中では、結論を先に読みたい人のためにどこを読めばいいかも書いてありますが、最初からひとつひとつ謎解きしていって読むと達成感も味わえる。推理小説のようでもある。実際は、数学的に計算して求めることができるという。それを一般向けに分かりやすく、様々な天文学の知識も吸収しながら読めるのはありがたい。

 「オルバースのパラドックス」がなく、夜空がもし星々で埋め尽くされ、明るかったら、星座も生まれなかっただろう。今の季節なら、オリオン座の雄姿やギラギラと輝くシリウスを楽しめるのは、宇宙が暗いおかげだったんだ。宇宙が暗いことによって、多種多様な恒星や、星雲、銀河の研究も進んだはず。私の中では、宇宙が暗くてよかったという結論になった。宇宙をいつもと違う方向から、一から学べる本です。

by halca-kaukana057 | 2019-01-26 21:59 | 本・読書

白河天体観測所

 数々の星座や天文の本を出版している藤井旭さん。その藤井さんたちが作った「白河天体観測所」という私設天文台がありました。所長の「天文犬」チロで有名でもあります。その50年を綴った本です。


白河天体観測所 : 日本中に星の美しさを伝えた、藤井旭と星仲間たちの天文台
藤井旭/誠文堂新光社/2015


 天文好きな美大卒の藤井さんは、雑誌のイラストを描いて生活しつつ、天文同好会の観測小屋で天体観測をする日々だった。しかし、天文写真を現像すると「光害」の影響で夜空が明るく写ってしまっていた。暗い夜空を求めて、藤井さんは福島の郡山へ。運よく就職先が見つかり、同じ頃、天文好きが集まる国立科学博物館の村山定男先生の研究室で、那須高原に山荘のような天文台を建てたいという話を聞く。口径30cmの反射望遠鏡のある天文台。星仲間たちも「光害」のないところで、観測できる場所を求めていた。村山先生と藤井さんたちアマチュア天文家が資金を出し合って、天文台作りが始まった。そして1969年、天文台は完成。その頃、偶然立ち寄ったデパートの犬の展示会で、北海道犬のメスの子犬を買うことになってしまった藤井さん。その犬を「チロ」と名づけ、観測には連れて行くようにしていた。観測所でも可愛がられたチロ。強く美しく成長したチロを、天文台の所長にしようと決めた。


 白河天体観測所と、チロのお話は「星になったチロ」「チロと星空」という藤井さんの著書にまとめられています。私もその本を読んでチロのことや白河天体観測所、後に始まったチロの星まつり「星空への招待」のことを知り、憧れていました。大きな望遠鏡があって自由に使えて、夜が遅くても観測所で寝泊りできるし、「アストロ鍋」のような美味しいものも食べられる。天文仲間もいるし、可愛いチロもいる。こんな天文台があるっていいなぁと思っていました。

 観測所での面白いエピソードも数多く綴られています。様々なお客さんや、チロや天文仲間たちの様々なエピソード、失敗談、山の中の自然のこと、観測所での困った出来事などなど。笑い話もあるし、「星見あるある」な話もあるし、不思議だなと感じる話も。観測所にやってきていた人たちにとっては、どれも大切な思い出話だろう。藤井さんの語り口調(文章)そのものが、それを物語っているよう。
 先述した「アストロ鍋」。星仲間たちはもちろん観測のために天文台にやってくるけれども、それ以上に、星仲間と集い、美味しいものを食べながらおしゃべりするのも楽しみ。星仲間の「たまり場」になっていた。観測所…「白河天体歓食所」名物の「アストロ鍋」は、やってきた星仲間たちが持ってきた各地の名産物など使ったり、なんでもありの鍋。本当に楽しそうだ。
 「歓食所」には海外の天文家もやって来る。さらには星新一他作家もやって来る。星新一のある独白には驚いた。さらに、天文家(後に博士号を取得)で宇宙飛行士の土井隆雄さんも、藤井さんの頼みでチロのステッカーを宇宙に持って行き、天文台に持って帰って来てくれた。そんなゲストたちの話も面白い。

 観測所はアマチュア天文家やプロの天文学者たちが集う天文台だったが、星見の楽しさを伝えようとしていく。会津磐梯山の山奥で、星好きたちが集まる星まつり「星空への招待」。1975年の夏から始まった。勿論チロは人気者。しかし、チロは1981年に亡くなってしまう。全国から、チロの死を悼む手紙や、香典までが届けられる。チロに会ったことがなくても、天文雑誌などで「星空への招待」のことや、チロのことを知り、私と同じようにいいなと思っていた星好き、星には興味がなかったがチロがきっかけで興味を持った人もいる。チロはまさに「天文犬」「アストロ犬」だったのだなと思う。

 その後もチロの遺志を引き継いでこうと、チロを記念した口径84cmの移動式の大望遠鏡を作ろうという計画が持ちあがる。私設天文台でのこの大きさはとても珍しい。科学館などの天文台でもこの大きさはなかなかない。しかし、チロのために、と星仲間たちは作ってしまう。必要なものの調達もうまい具合に進み、周囲の人々もいいタイミングで強力してくれる。星仲間もそれぞれの持っている技術で貢献する。白河天体観測所を作った時も、トラブルがあってもうまい具合に進んで行った。すごいなと思う。望遠鏡は無事に完成し、1986年のハレー彗星接近に合わせて、全国各地を走り回ることになった。さらには、南天の星空も観測しようと、オーストラリアに天文台建設の話が持ち上がる。「チロ天文台」と名づけられたその天文台でも、星仲間たちは美味しいものを食べて歓談し、観測しているという。

 そんな、白河天体観測所には、ある取り決めがあった。そして、2011年3月、東日本大震災。観測所は強い揺れを受け、望遠鏡は倒れ、建物も被害を受けた。さらに、原発事故の影響も受けてしまった。その取り決めと、震災でのダメージにより、白河天体観測所は2014年に閉鎖。何とも残念な最後になってしまった。自然の中で、宇宙という自然を観測してきた天文台が、地震という自然災害で被害を受けてしまう。天文台は人工の私設ではあるが、山の自然と共に観測を続けてきた。皮肉な最後でもある。

 白河天体観測所はなくなってしまった。しかし、「チロ」シリーズの本やこの本で、私設天文台のノウハウは伝えていける。日本の、世界のどこかに、星仲間が集う新しい天文台ができても不思議ではない。白河天体観測所のこと、チロのことをこの本が伝えていけばいいなと思う。チロと白河天体観測所は、今も私の憧れだ。
 「チロ」シリーズの本も再読しよう。
by halca-kaukana057 | 2019-01-13 22:35 | 本・読書
 本屋で偶然見つけて、面白そうと買った本です。


星の文学館 銀河も彗星も
和田博文:編集/筑摩書房、ちくま文庫/2018

 星、天文、宇宙に関する文学作品35編を集めたアンソロジーです。宮澤賢治「よだかの星」、谷川俊太郎「二十億光年の孤独」といった有名作品から、川端康成、三島由紀夫、江戸川乱歩、茨木のり子、大江健三郎など著名作家の星・天文に関する作品。山口誓子、稲垣足穂、小松左京といった宇宙・天文を得意とする作家。森繁久彌、中村紘子のような意外な方まで。ありとあらゆる方向から、様々な作家たちが星や宇宙を語っています。

 トップバッターは山口誓子。以前、野尻抱影との共著「星戀」で、数多くの星や宇宙に関する俳句や随筆を読みましたが、トップバッターにふさわしいと思う。
 それぞれの星や宇宙への視点が違っていて、表現も様々で面白い。この本で、初めて名前を知った作家、名前は知っているけど作品を読んだことのない作家も少なくありません。その中から、いいなと思える作品もたくさん。こういうアンソロジーもいいですね。

 宇宙や星、天文について語ると言っても、幅が広い。特定の星(月、太陽、惑星、恒星、彗星)や天体(銀河など)について語るのか、七夕のような星にまつわる文化について語るのか。はたまた広い広い宇宙について語るのか。また、内容も、天体観測の話もあるし、童話や神話もあり、宇宙や天文にまつわる小説だったり。SFもある。占星術もある。作家によって、全部違う。夜空に輝く数多の星のようだ。

 面白いと思ったのが、まず稲垣足穂。めくるめくファンタジーのような幻想的な世界で、輝く星。文章も魅せる。
 寺山修司の「コメット・イケヤ」も面白かった。星を見る、ということは、目が見える必要がある。残念ながら、星には音(火球、隕石なら運がよければ音はするが)も、においも味もない。遠くにあるので触れない。しかし、この「コメット・イケヤ」では、盲目の少女が出てくる。星を見たことはないけれど、彼女は彼女の星・星座を持っている。寺山修司のイマジネーションは、独特で不思議だ。面白かった。
 小松左京は身近な視点から、一気に遠くの宇宙まで飛ぶ。小松左京の魅力だなぁと思う。江戸川乱歩も、推理小説のイメージが強いが、SFのような作品もいいなと思った。三浦しをんの作品も取り上げられていて嬉しかった。ある経緯で星を観に行った話。星空は、人間の純粋な面を見せてくれると思う。私自身、星空観望会をやっていても思うことです。

 荒正人「火星を見る」は、今年の火星大接近を思い出させる。いつの時代も、天体現象は人間を惹き付ける。村山定男先生の名前が出てきて、おお!と思いました。1986年のハレー彗星に関する作品も多い。
 天体観測の話では、ピアニストの中村紘子さんのエッセイに驚いた。旦那様が天体観測に興味を持ち、赤道儀付きの天体望遠鏡(「バケツみたいな」とあるので、おそらくニュートン式かカセグレン式の反射望遠鏡)を購入し天体観測をするようになった、という。中村さんが天体観測を趣味にしていたと知って嬉しくなった。
 俳優の森繁久彌さんも、天体望遠鏡を買って、家の屋根を「天文台」と呼んでいる。その「天文台」で見ようとした「ムルコス彗星」は、おそらく「パーライン・ムルコス彗星」。1968年を最後に観測された彗星だそうだ。このような著名人も星に興味を持っていたんだなと思う。

 星や宇宙は、見上げればそこにある。広大に広がっていて、謎ばかりだ。簡単に近づけないから、こんな文学作品がうまれたのだと思う。どんな風に星を見て、どんなことを考えるかは自由だ。天体観測の決まった形もないし、文学となれば本当に自由だ。文学でも、人類は宇宙に近づけるんだなと感じました。寺山修司の作品で思いましたが、「星を見る」方法はひとつじゃない。目で観るだけが星や宇宙を「観る」方法ではない。人類の、宇宙や星に対する興味や想像力を実感する一冊でした。

 「星の文学館」の他に「月の文学館」もあるとのこと。そっちも読んでみたい。
by halca-kaukana057 | 2018-12-11 22:58 | 本・読書

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