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音楽のたのしみ 4 オペラ

 全4巻のシリーズ「音楽のたのしみ」。3巻まで読んで、4巻は読まずにいた。10年間も。10年越しで読みます。
【これまでのシリーズ】
音楽のたのしみ 1 音楽とはなんだろう
音楽のたのしみ 2 音楽のあゆみ ― ベートーヴェンまで
音楽のたのしみ3 音楽のあゆみ ― ベートーヴェン以降


音楽のたのしみ 4 オペラ
ロラン=マニュエル/吉田秀和:訳/白水社・白水Uブックス/2008

 作曲家・音楽評論家のロラン・マニュエル氏と、若手ピアニストのナディア・タグリーヌ嬢が音楽について語り合う同名のラジオ番組が元になったこのシリーズ。最終巻の第4巻はオペラがテーマ。オペラの始まりから発展、多様化を経て現代に至るまで、そしてこれからを語ります。

 オペラは私にとってまだまだ未開拓の世界。数年前に声楽を習い始め、古いオペラアリアなどを集めた「イタリア歌曲集」を歌ってきたが、課題となった歌を声楽的に美しく歌うことで精一杯な状態で、そのアリアがどんなオペラのどんな場面で歌われるアリアなのか、調べきれていないものも多い。「イタリア歌曲集」に収められているアリアは、アリアは残っていてもオペラそのものは失われてしまったか、残っていても滅多に演奏されないものも少なくないからだ。でも、歌詞の意味だけは必ず頭に入れて、感情も込めるようにしている。

 声楽レッスンで歌っている範囲以外のオペラについて少しずつ聴いて勉強していたが、今は止まってしまっている。なので、この本を読んでも、さっぱりわからないことが多い。作曲家の名前や、具体的なオペラのタイトルは知っていても、どんな曲だっけ?どんな物語だっけ?と思ってしまう。勉強不足を実感。

 それでも、ロラン=マニュエル氏とナディア嬢のやりとりは面白い。ナディア嬢はこれまで通り、わからないことがあれば遠慮なくロラン=マニュエル氏に質問する。ナディア嬢なりの考えを話してみる。ロラン=マニュエル氏から教えられることもあるし、その考えが合っていてロラン=マニュエル氏を驚かせることもある。知らないこと、わからないことは恥ずかしいことではない。これから勉強していけばいいんだ。ただ鵜呑みにするのではなく、自分なりに考えること、疑問を持つことも大事。10年経ってしまったがまた原点に戻ることができたようで嬉しい。

 フランスのラジオ番組が元になっていて、2人ともフランス人。なので、イタリアから生まれたオペラが、フランスでバレエが加えられ、歌以外の台詞を含むオペラ・コミークとなっていく。イタリアとフランスのオペラ論争、オペラに対する考え方の違いは読んでいて面白かった。この本の半分ぐらいは、古楽のオペラを扱っている。モンテヴェルディやアレッサンドロ・スカルラッティ、リュリ、ラモー、パーセルなど。この辺りは作曲家もタイトルも名前は知っているけど聴いたことがないオペラが多い。ぜひ聴いてみようと思う。

 モーツァルトが登場し、ドイツ語のオペラが誕生するが、モーツァルトのオペライタリア・オペラの流れがあるというのは面白かった。また、モーツァルトのオペラ論も。
「オペラでは、詩は音楽の従順な僕であるべきだ」
「最も恐ろしい状況でも、音楽は耳を満足させなければなりません。ひと言でいえば、音楽はいつも音楽でいなければなりません」
(第14話、164、165ページ)
 私が以前(正直に言うと今も)オペラをとっつきがたいものと感じるのは、音楽だけじゃない、という理由がある。物語があり、台詞があり、アリアや重唱、合唱があり、演出・演技があり、舞台装置があり…芝居である。同じオペラでも演出が違えば、見方が全然変わってしまう。そこが難しいと感じる。オペラをテレビや生で観ると、歌や歌声に圧倒されると同時に、物語を追う。台詞や歌詞の内容を追う。オペラを観た後の感想は、歌や歌声、音楽よりも、物語について思うことが多いかもしれない。なので、音声だけ、CDでオペラを聴くとよくわからないことが多い。対訳をずっと自分で読み続けていないと歌詞の意味がわからないからだ。オペラにとって大事なのは、音楽なのか、物語なのか。第29話「あたらしいオペラへの展望」、第30話「音楽的表現の価値に関する省察」で詳しく語られる。第29話のゲスト、アンリ・バロ氏はこう語っている。
「ところが、わたしの望んでいる密度の高い活気は、たとえ言葉がわからなくても理解できるくらい、簡単な動きを前提としているんです」(349ページ)
さらに、第30話では2人はこう語っている。
N(ナディア):でも、いいですか、わたしが自分の好きなオペラをきく場合、音楽は言葉や状況に結びついています。音楽は劇の感動にその反響をつけ加え、それを敷衍拡大します。
R-M(ロラン=マニュエル):どうしてあなたは、いってみれば、旋律にのせられた色褪せた言葉のおかげで、無意識のうちに、もともと音楽のものじゃなくて言葉から借用したにすぎない表現を音楽に付属するものと考えさせてしまうんだってことに、気がつかないのかな。
N:ああ、うまいことを考えましたわ。イタリア・オペラのグランド・アリアを原型どおりにきかせていただきましょう。わたしはイタリア人じゃなくて、言葉の意味はわからない。それでも、いまきいたアリアが喚起する状況とか、それが表現する人物の性格や感情を、思いちがいしないのじゃないかと思うのですけど。
(中略)
R-M:お望みなら、音楽の表現の可能性は、テンポの性格を示すのに使われるイタリア語の形容詞の術語集の中に、正確に包括されていると申し上げましょう。この種の術語を翻訳すれば、とりちがえることなく、ある音楽が快速だとか、活発だとか、軽妙なおしゃべりだとか、よく流れるとか、楽々としているとか、荘厳だとか、厳粛だとか、いえます。
N:そうすると、音楽が感情自体を表出しているような幻覚を与えるのは、何かの感情にぴったりするリズム、歩きぶり、性格などを組合わせているからだ、というわけですか?
(356~358ページ)
 よく考えると私も同じことをしている。声楽のいつものレッスンでは先生と1対1だが、発表会となると様々な人が聴きに来る。私が歌う歌を聴いたことがない人もいる。そんな人にも、どんな内容の歌なのか伝わるように歌いたい。発表会は勿論だが、聴く人が先生しかいないいつものレッスンでも、歌う時に欠かせないものがある。強弱や速さ、軽さや重さ、明るさや暗さ、クレッシェンド、デクレシェンド、だんだん速くなるのか遅くなるのか、なめらかなのか、一音ずつ切るのか、音を保つのかなどを示す演奏記号だ。発想記号も。発音や発声による、声楽的な美しさに合わせて、これらのことを元に歌っていく。歌ではないが、ピアノを弾いていた時も同じだ。歌詞がつこうとつかなくとも、やっぱり第一に「音楽」なのだ。

 この本を読むと、「音楽」の広さと深さを実感する。途方もない広大な、どこまでも深く、どこまでも空高い世界なのだと。自分には大き過ぎてつかめないと感じる。でも、何十年かかっても、少しずつ聴いて、「音楽のたのしみ」を味わえる瞬間を大事にしたいと思う。途中ブランクが空いて時間はかかったが、やっぱり読みきってよかった。オペラも、この本に登場したものを聴いていこう。
by halca-kaukana057 | 2019-02-02 23:05 | 本・読書
 この本は面白かった。

宇宙はなぜ「暗い」のか? オルバースのパラドックスと宇宙の姿
津村 耕司/ベレ出版/2017


 宇宙は何故暗いのか。夜空は何故暗いのか。え?太陽の光が当たってないから?宇宙は真空だから、光が大気で拡散しないから?星が沢山あるのに…星(恒星)はそんなに密集していないから…?宇宙は広過ぎるから…?違うの?この本を読み始めた時、そう思っていました。わからない。考えたこともない。当然じゃないの?と思っていたら、当然ではないらしい。宇宙はなぜ「暗い」のか?何だか、某テレビ番組でそのうち取り上げられそう、そして答えられない出演者が「叱られ」そうな…。

 この本のサブタイトルに、「オルバースのパラドックス」とある。「無限の空間に無限の恒星が一様に散らばっているとしたら、空は太陽面のように明るいはず」ちょっとよくわからない。この本では、森の中の木々に例えて説明している。森の中の木が全て同じ、同じ種類で同じ太さと仮定すると、手前の木は大きく見え、その木の間に奥の木が見えて、その奥の木の間には更に奥の木が見えて…どこまでも木々が、全ての方向に見える。宇宙も同じで、手前の星は明るく見えて、その間にその奥にある星が見え、その奥の星々の間にはさらに遠くの星が見えて、どこまでも、どの方向にも星が埋め尽くされているように見えるはず。
 でも、実際にはそうではない。これが「オルバースのパラドックス」。こういう謎があったのか。

 このオルバースのパラドックスを解明していくのですが、解明する途中で物理学や天文学の様々な法則や知識、歴史を用いて、宇宙や天文の仕組みをひとつひとつ学べるようになっている。これが面白かった。今まで私も学んできたことを確認しながら読みました。金星の満ち欠けが地動説の証拠になったというのは知らなかった。天動説での金星の満ち欠けと、地動説での金星の満ち欠けの仕方は違う。天動説での金星の満ち欠けがどのようなものか知らなかった(天動説でも金星は満ち欠けするという説自体はあったのに驚いた)。皆既・金環日食や金星の日面通過など、ここ数年の天文現象を振り返りながら解説があるのも興味深い。天文現象が何を意味するのか。天文現象を観測した先人はそこから何を見つけたのか。天文現象があると私も宇宙に生きているのだなと思うが、それだけでなく、天文現象の観測はは宇宙と地球の仕組みの解明の鍵になっている。観測にかける研究者の気持ちはいかばかりかと思う。

 オルバースのパラドックスの謎解きまで、近くの宇宙から遠くの宇宙の謎へと移っていくのも面白いが、可視光線や赤外線、紫外線、X線、電波など様々な波長の電磁波から解明していくのも面白い。人間が夜空や宇宙を見て「暗い」と思うのは可視光線だけだが、他の波長で「見たら」どうなるのか。その波長における仮説を解きながら、その波長で「見える」宇宙の姿も明らかにしていきます。その波長を観測できる人工衛星も登場します。

 「オルバースのパラドックス」を紐解く過程で、ブラックホールや重力波、ビッグバンまで出てくる。宇宙、天文学の1から10が学べてしまう。いくつもの謎解きを経て、ついに「オルバースのパラドックス」の謎が解ける箇所はそうだったのか!とスッキリしました。本の中では、結論を先に読みたい人のためにどこを読めばいいかも書いてありますが、最初からひとつひとつ謎解きしていって読むと達成感も味わえる。推理小説のようでもある。実際は、数学的に計算して求めることができるという。それを一般向けに分かりやすく、様々な天文学の知識も吸収しながら読めるのはありがたい。

 「オルバースのパラドックス」がなく、夜空がもし星々で埋め尽くされ、明るかったら、星座も生まれなかっただろう。今の季節なら、オリオン座の雄姿やギラギラと輝くシリウスを楽しめるのは、宇宙が暗いおかげだったんだ。宇宙が暗いことによって、多種多様な恒星や、星雲、銀河の研究も進んだはず。私の中では、宇宙が暗くてよかったという結論になった。宇宙をいつもと違う方向から、一から学べる本です。

by halca-kaukana057 | 2019-01-26 21:59 | 本・読書
 先日は恐竜の本ですが、今度はピラミッドの本。どちらも古の謎やミステリーに惹かれます。この本は単行本として出版(その時は別題)された時から気になっていました。

ピラミッド 最新科学で古代遺跡の謎を解く
河江 肖剰(ゆきのり)/新潮社、新潮文庫/2018
(単行本は2015、新潮社「ピラミッド・タウンを発掘する」)


 河江先生はピラミッド研究の第一人者・マーク・レーナー博士の元で学び、現在もピラミッド周辺にあった労働者達の住まいのあった地区「ピラミッド・タウン」を発掘している。NHKスペシャルや、「世界ふしぎ発見!」にも出演し、研究結果を番組で取り上げたり、番組でユニークな試みをしている。
 以前、クフ王のピラミッドで、宇宙線を使った透視によってピラミッド内に未知の巨大な空間があるのではないか、というニュースがあった。また、この本では取り上げていないが、ツタンカーメン王墓でも未発掘の部屋があるのではないかと、同じように宇宙線を使った調査で推測された。最新科学を使えば、遺跡の未知の領域も調べられるのか!と驚いた。ツタンカーメン王墓のほうは、詳しい調査の結果ない可能性が高いという結果が出てしまったが、こういう話には惹かれてしまう。また、ピラミッドに登ったり、ドローンでピラミッドを撮影したのも面白かった。ピラミッドは本当に不思議な遺跡だと実感した。

 この本では、ピラミッドについて、ありとあらゆる方向から解説している。ピラミッドをどうやって作ったのか…これはかなり難しい問題。でも、ピラミッドの建設方法の様々な説や、石をどんな道具でどのように加工していたかは興味深い。
 そして、どんな人たちが働いていたのか。ピラミッドの建設に携わったのは、奴隷階級の人々だったという話もよくある。が、こんな体力を要る仕事をするためには、十分な食料と安定した生活を保障する方が、人々は熱心に仕事に打ち込むのではないか…。確かに、劣悪な労働環境では、逃げ出す人も少なくないだろうし、十分な力も出せない。ピラミッドの周辺から発掘された集落跡「ピラミッド・タウン」で人々がどのような生活をして、どんなものを食べていて、どのようにピラミッド建設に携わっていたかの予想が面白かった。河江先生の師匠のレーナー博士たちが発掘している「ピラミッド・タウン」には、ツタンカーメン王墓のような財宝やファラオのミイラはない。古代エジプト考古学はそんな「宝物」の発掘だけではない、一般市民がどのように生活していたのか、その痕跡を発掘することも重要。そこから出てきたものがたとえゴミだったとしても、重要な生活の痕跡。そこが面白いなと思った。食べていたパンの再現も興味深かった。

 河江先生の師匠のレーナー博士が、これまでどのようにして「ピラミッド・タウン」の発掘にたどり着いたかの章もある。これには驚いた。レーナー博士が古代エジプトに興味を持ったのは、アトランティス大陸などの超古代文明からというのだから。科学の進んだ超古代文明のアトランティスの末裔が、古代エジプト文明を築いたというのだ。レーナー博士は最初は、アトランティスの痕跡を見つけようとエジプトにやってきた。しかし、レーナー博士がエジプトで惹かれたのは、土器や石器の欠片など、人々が生活した痕跡だった。そこで博士は180度転換して、厳格な実証主義の考古学者になったという。
 エジプト考古学者の父とも呼ばれる、フリンダーズ・ピートリー(ピートリ)も、最初は超古代文明的なピラミッドの存在に惹かれてエジプトにやってきた。が、ピートリーもピラミッドを丹念に測量するうち、実証主義に移っていったというから面白い。今まで、ピートリーがどのようにしてエジプト考古学の道を進んだのか知らなかったので、こちらも驚いた。古代エジプトの遺跡の実物は、想像するもの以上のものだったということなのだろうか。

 ピラミッドというとまず、クフ王、カフラー王、メンカウラー王の三大ピラミッド、その前の時代につくられた、ジェセル王などの階段ピラミッドが有名。その他にも様々なピラミッドがあり、ピラミッドが建設された場所もナイル川上流のスーダン北部まで広がっている。古代エジプトの王国の影響力の大きさを感じる。

 発掘を進める河江先生たちが、危機に晒された時があった。2010年に始まった「アラブの春」だ。エジプトを含め、中東は不安定な状態になる。発掘を進めたいが、身の安全が第一。当時の記録が生々しい。学術研究は、平和があってこそなのだと思う。


 発掘は進んでいる。発掘された遺構の分析、研究も進んでいる。とはいえ、わからないことは多い。壁画のヒエログリフを解読しても、様々な遺構を発掘しても、すべてがそのままその通りに出てくるわけではない。先日の「鳥類学者 無謀にも恐竜を語る」では、恐竜が栄えたのは6500万年よりも前。一方、古代エジプトで三大ピラミッドを建設していたのは約5000年前。恐竜の時代よりもずっと新しいのに、わからないことがこんなにあるのか…。過去を遡って研究することはいかに難しいのか実感しました。100年前のことでさえ、曖昧になっていたり、間違って伝えられていたりするのだから。人間の悲しい側面なのだろうか。どちらにしろ、わからないことがたくさんあるから、研究が面白い。そんな研究の一部をこうやって本で読んで学べるのもありがたいことだ。
by halca-kaukana057 | 2018-12-20 22:04 | 本・読書
 NHKのラジオ「夏休み子ども科学電話相談」の、鳥の分野の先生としておなじみの川上和人先生。「はいどうもこんにちは川上でーす」の挨拶にはじまり、ユーモアを交えた軽快な口調で、鳥のことをわかりやすく教えてくれる先生です。その川上先生の本が話題になっているとのこと。まず、この本が文庫化されました。テーマは恐竜…?!川上先生が、恐竜をどう語るのか…?


鳥類学者 無謀にも恐竜を語る
川上和人/新潮社、新潮文庫/2018(単行本は2013年、技術評論社)

 かつて、地球で繁栄を極めていた恐竜。その恐竜から進化したのが鳥。恐竜は絶滅してしまったが、鳥類は現在も地球上のありとあらゆるところに生息している。ならば、恐竜の末裔の鳥類から、恐竜がどんな生物だったのか推測することができるのでは?ということで、鳥類学者の川上先生が、鳥類の視点から恐竜を語ります。


 「はじめに」で、こう書いてあります。
この本は恐竜学に対する挑戦状ではない。身の程知らずのラブレターである。(8ページ)
 こうあるように、この本は川上先生の恐竜への愛に溢れている。恐竜の種類、分類にはじまり、恐竜の生態について、鳥類と比較、鳥類から推測している。

 思えば、恐竜がいたことを示すものは、化石しかない。もう絶滅してしまっていないのだから。いくら鳥類が末裔で、爬虫類が恐竜に近い類だとしても、やはり違う。化石には皮膚や内蔵、骨格のなかった箇所は残らない。羽毛があったという説がどんどん広まっているが、色はわからない。卵は出てくることは珍しい。証拠が少ないのだ。
鳴き声は?
何を食べていたか?
繁殖はどのようにしていたか?
巣はどんなものだったか?
群れか単独か?
夜行性か?
毒は持っていたのか?…などなど、化石に残らないことの方が多く、恐竜の生態を解き明かすのに重要なことばかりなのだ。そんな恐竜のわからない点を、鳥類から分析する。とても興味深かった。鳥類のことも、恐竜のことも学べる。現在、地球上には様々なタイプの鳥類がいる。ペンギンやダチョウのように飛ばない鳥もいる。大きさも、食べるものも、行動時間も範囲も様々だ。きっと、恐竜も鳥と同じように様々なタイプの恐竜がいたに違いない。ちょっとした骨格の特徴から、似た鳥類を挙げて生態を推測する。数少ない証拠。人間の行動心理から犯人の人物像を推理する探偵のようだ。

 この本の面白さはそこだけではない。川上先生の文章がとにかく面白い。ジョークやユーモア、古いネタを交え(ネタの説明の脚注もあるw)、文章のテンポがとてもいい。いつの間にか惹き込まれている。堅苦しくなく、軽快。ラジオでの語りをそのまま読んでいるようだ。恐竜にも鳥類にも詳しくなくても、ユーモアたっぷりの文章で、ニヤリとしながらイメージがしやすい。この本を、公共の場で読むのはちょっと危険かもしれない。ニヤニヤしたり、吹き出しそうになったりする。そのくらい面白い。

 鳥は恐竜から進化した、ということで、始祖鳥など、恐竜と鳥類の間にあった恐竜についてはじっくりと語られる。どのくらい飛べたのか。羽は今の鳥類と同じか、違うか。身体の特徴は?逆に、今の鳥類になるために何が必要か、という視点も面白い。
 そして、恐竜の最大の謎と言えば、絶滅してしまったこと。どのように絶滅への道を辿っていったのか。一方で鳥類はどのように生き延びたのか。恐竜と鳥類の間にあった「恐鳥」の仲間たちはどうなったのか。逆に、鳥類と哺乳類が絶滅したシュミレーションが面白い。

 今、生き延びている鳥類の図鑑より、恐竜の図鑑の方が多いという事実には驚いた。この本で、恐竜も好きだけど鳥類も好きだと思えた。恐竜と同じ時代に生きた鳥類についての研究も、まだこれかららしい。どちらも、様々な化石が発掘されて、研究が進むことを願ってやまない。

 文庫版の解説は、同じく「電話相談」で、恐竜担当の小林快次先生。川上先生と小林先生が一緒になると恐竜から鳥の話になったり、鳥から恐竜の話になったり、名コンビになっています。川上先生からの恐竜への「ラブレター」を受け取り、小林先生も絶賛。しかし…小林先生も本当に文章が面白い。

 川上先生の本と言えば、「鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。」(新潮社)。こちらも文庫化を楽しみにしています。来年あたり出るかなぁ?
by halca-kaukana057 | 2018-12-16 21:43 | 本・読書
 クラシック音楽を聴くようになって10数年ぐらい(大人になってからなので、全然日は浅い)になるが、なかなかお近づきになれない作曲家が何人かいる。そのひとりが、グスタフ・マーラー。クラシックを聞き始めた頃、交響曲が苦手だった。「重い」「長い」「難しい」から。マーラーの交響曲はまさにそのどれにもあてはまる。しかも、マーラーといえば交響曲が圧倒的に演奏回数が多い(歌曲や室内楽もあるのに)。指揮者、オーケストラの「勝負曲」になることも多い。事あるごとにマーラーは演奏されている。聴く回数が増えて、以前よりはマーラーを好きになれたと思う。交響曲でも声楽付きの作品は好きだ。でも、まだ、お近づきになれていない感じはある。この本を読んだら、もう少しお近づきになれるんじゃないかと思って読みました。

マーラーを語る 名指揮者29人へのインタビュー
ヴォルフガング・シャウフラー:著、天崎浩二:訳/音楽之友社/2016


 2010年の生誕150年、2011年の没後100年に合わせて、世界的に活躍している指揮者、29人に、マーラーの作品について、作曲について、マーラーの人間について、指揮者としてのマーラーについてをインタビュー。年代も国も幅広く。

 この本を読んで思ったのは、私はマーラーの伝記をよく知らないということ。マーラーは複雑な背景を持っている。現在のチェコ(当時はオーストリア帝国)に生まれた。両親はユダヤ人。指揮者としてウィーンやアメリカで活躍し、ウィーンではオペラを指揮していた。そして作曲家として、11曲の交響曲、歌曲や室内楽を作曲し、自身の指揮で披露した。このぐらい。シベリウスと会って、交響曲について語り合った時、考え方が全く異なる、というエピソードは覚えている。が、それぞれの作品の作曲背景もよく知らないし、どんな指揮者だったのかも知らない。まずは伝記を読まないとなぁ、と思ってしまった。

 今でこそ、マーラーは世界中で当たり前のように演奏されている。「またマーラーか」と思うこともある程、演奏機会は多い、増えている。でも、以前はこんなにマーラーは演奏されていなかった。かつてはオーケストラの楽団員には、民謡の寄せ集め、悪趣味、と揶揄されていたのも初めて知った。
 マーラーはユダヤ人である。第二次世界大戦の時は既に亡くなっていたけれど、ユダヤ人排斥のナチスの方針で、マーラーは演奏禁止、レコードを聴くことも許されなかった。そういえばそうだった。それを忘れていた。マーラーは早くに死んでしまったが、それでよかったのかもしれない。そんな中で、こっそり家族がレコードを聴かせてくれた、などという指揮者たちの話を読んで、戦争や弾圧は個人の心の中までもは支配できないのだなと感じた。
 マーラーの作品を演奏、普及するのも地域差がある。結構遅い地域もある(例えば、フィンランドでは、1970年代に、元シベリウスアカデミー指揮科教授のヨルマ・パヌラがフィンランドで初めてマーラーチクルスをやったそうだ)。インタビューをした29人の指揮者の出身地はバラバラである。コンサートなんてあまりない、あってもマーラーが演奏されることなんて滅多にないところで生まれ育った指揮者もいる。マーラーとの出会いはそれぞれ異なり、面白いなと思った。

 マーラーの作品を積極的に演奏したバーンスタイン(今年生誕100年)は、交響曲第6番「悲劇的」、第7番などから、20世紀の戦争、破壊的な大惨事(カタストロフ)を予言していたと言っている。それについてどう思うか、という質問もあった。指揮者たちの答えが興味深い。単純に言葉を受け取るのではなく、指揮者たち各々が勉強をして、そこからその質問に対しての答えを導いているのは、なるほどと思った。

 指揮者としてのマーラーについての指揮者たちの考え方、見方も面白い。マーラーは、数多くのオペラを指揮していたのに、何故オペラを作曲しなかったのか。これは興味深い。調べてみたら、一応作曲はしたが、破棄、紛失してしまったという。声楽付きの交響曲、特に交響曲第8番はオペラの雰囲気でもある。ここからマーラーのオペラ感がわかるのだろうか。

 マーラーと、同時代の作曲家の関係も面白い。シベリウスは、現代作品への作曲への流れに納得できず、孤高の立場を貫いた、作曲ができなくなったと言われている。マーラーはどうだろうか。マーラーがもしもっと生きていたら、どんな作曲をしただろうか。他にも、マーラーと関係のあった、マーラーに影響を受けた作曲家の話が出てくる。ショスタコーヴィチがマーラー好き、マーラーに影響を受けていたとは知らなかった。そのショスタコーヴィチに対して、ピエール・ブーレーズの反応が…そうだったのか。

 指揮者たちの、マーラーに対する考え方はそれぞれである。クールに徹している人、マーラーともし会って話が出来るなら是非、という人。この29人全員のマーラーを聴きたい…いや、それは大変なことになるな…。

 ズービン・メータがブルーノ・ワルターを通じて、アメリカで妻・アルマと会った話が面白かった。マーラーがどんな人だったのかも語ってくれた。アルマも、こんな人だったんだな、と感じた。
 直接の話でなくても、戦時下での反ユダヤのことや、こんなにマーラーが演奏される前の話など、昔の話は特に興味深い。しかし、この本でインタビューを受けた指揮者のうち数名は亡くなってしまった。この本の形で残ってよかったと思う。

 「やがて私の時代が来る」と言ったマーラー。マーラーの時代は、今来ているのだろうか。マーラーの音楽にお近づきになれただろうか。まずは作品を聴くのと同時に、ちゃんとした伝記を読むことからかも。

 ちなみに、マーラー以上にお近づきになれていない作曲家…ブルックナー。版問題から、作品の巨大さから、聴いても、4番と9番以外聴き分けられない。続編で「ブルックナーを語る」を出してもらえないだろうか…。でも聴かないと話にならんのだよなぁ…。

by halca-kaukana057 | 2018-07-28 22:20 | 本・読書
 久しぶりに宇宙開発方面の本を。

世界一わかりやすいロケットのはなし
村沢譲/KADOKAWA/中経出版/2013

 1955年、糸川英夫博士によるペンシルロケットの発射試験から始まった日本のロケット開発・打ち上げの歴史。この本は、そのペンシルロケットから現在のH2A,H2B、イプシロンまで、それぞれのロケットの特徴、搭載した衛星、打ち上げがどうなったか…などの記録になっています。

 冒頭ではイプシロンロケットの森田泰弘先生、「こうのとり」4号機・有人宇宙ミッション本部・宇宙船技術センター長の田中哲夫さんへのインタビューが。イプシロンも「こうのとり」も、今、そしてこれからの日本の宇宙開発を支え、引っ張っている重要な宇宙機。それぞれ、まだまだ進化途中(イプシロンはまだ初号機しか打ち上げられていない!!)。また、過去の様々な宇宙機・技術を引き継いでいる。そんな覚悟とやる気に満ちたお話でした。

 あとは、ひとつひとつの打ち上げを解説。日本のロケットの歴史を私はまだまだ知らない。知らないことがたくさんある(年齢の問題もありますが…)と感じました。ロケット、人工衛星、それぞれの失敗も結構多い。90年代の失敗続きはリアルタイムで見ていて辛いものがあったのですが、その前にも。また、旧宇宙開発事業団(NASDA)と宇宙科学研究所(ISAS)が共同で開発。しかし莫大なコストで1号機で終わってしまった「J-1ロケット」についても。実はJ-1ロケットについて詳しいことは知らなかったので、知れてよかった。ペイロードの「HYFLEX」は覚えていたのになぁ…?

 今、H2A,H2B,イプシロン(2号機打ち上げが待たれる)は順調に打ち上げ、衛星・探査機を宇宙へ送っている。天候不順以外の延期がないオンタイム打ち上げ、飛行も順調。過去にたくさんの失敗があって、今があるのだなと本当に思う。今につながる日本のロケットの歴史を手にとれる本です。

 明後日24日には、H2Aロケット29号機が打ち上げられる予定です。ペイロードはカナダの通信衛星、商業打ち上げです。しかも、「人工衛星にやさしい」ロケットを目指して、かなり難度の高い打ち上げに挑戦します。「はやぶさ2」の打ち上げの時、第2段ロケットと「はやぶさ2」を分離しないで一度エンジンを停止し慣性飛行で地球を一周、その後第2段エンジン再点火して、「はやぶさ2」を分離、という難しい方法がとられました。今度はもっと難しいです。更なる商業打ち上げ受注を目指して、まだまだ日本のロケットは進化します!
JAXA:H-IIAロケット29号機(高度化仕様)による通信放送衛星Telstar 12 VANTAGEの打上げ時刻及び打上げ時間帯について

 ちなみにこの本は「だいち2号」、「GPM/DPR」、「はやぶさ2」打ち上げ前だったので、少し紹介している程度です。
by halca-kaukana057 | 2015-11-22 22:58 | 本・読書
 少しずつ古代エジプトに関する本を読んでいます。何度も言いますが、古代エジプトはピラミッドで有名な古王国時代から、ツタンカーメンやトトメス3世などの新王国時代、クレオパトラなどのプトレマイオス朝と本当に時間軸が長く、同じ古代エジプトでもそれぞれの時代で特徴や文化が異なる。ローマの影響を受けたプトレマイオス朝はかなり違う。なので、一言で「古代エジプト」と言っても、どの時代を指すのか、とにかく範囲が広い。どの時代も魅力的だけど、やっぱりツタンカーメン王あたりは王名表からも消され、謎も多く…魅力的です。知りたいことがたくさんあります。


ツタンカーメン 少年王の謎
河合望/集英社・集英社新書/2012

 この本は前半と後半で内容が分かれています。
 前半はハワード・カーターとカーナヴォン卿によるツタンカーメン王墓発掘の物語。「王家の谷」発掘の歴史と、もう発掘し尽くしてしまった、もう何も出てこないと考古学者たちは諦めていた王家の谷に、まだ未知の王墓があると信じて発掘を続けたカーターとカーナヴォン卿。そして王墓への階段を見つける…このあたりは以前読んだカーター自身による「ツタンカーメン発掘記」あたりでも読んだのですが、研究者の第三者の視点から、そして王墓発掘に関しても新しい事実がわかってきたりと興味深い。「もし…」と思うこともあり、色々と考えてしまう。

 後半部分は、ツタンカーメン王がどんな王だったかに関する新しい研究について。アメンホテプ3世に遡って話は始まります。アクエンアテン王(アメンホテプ4世)がそれまでの古代エジプトの多神教から、いきなりアメン神の一信教に変え、都も変えてしまった。そのせいで、ツタンカーメン王やその前後の王は王名表から消されてしまった。だが、碑文などにツタンカーメン王に関する記述があり、そこからツタンカーメン王の生い立ちやその父のアクエンアテン王、王の周囲にいた人々に関して詳しいことがわかってきている。それがまず驚き。ツタンカーメン王は決して消されたファラオじゃなかった。

 さらに、現代技術が王の家系に迫る。ミイラのDNA鑑定で、父親、母親について調べている。このあたりはテレビでも取り上げられそれも観ました。ツタンカーメン王は18歳ぐらいで亡くなった。その死因に関しても。王の苦労、人間模様が活き活きと浮かび上がってくる。ツタンカーメン王墓からはたくさんの遺品が見つかったけれども、それでもツタンカーメン王やアンケセナーメン妃、その周囲の人々に関する記録は足りない(他の副葬品が既に盗掘されてしまっていたファラオよりは充実しているけれども)。その足りない部分を、他の出土品や碑文などから見つけてきて、ピースをはめる。考古学は面白いなぁと思う。

 ツタンカーメン王は激動の歴史の渦中にいたファラオだった。ほぼ未盗掘の墓や様々な出土品、碑文から、激動の中でファラオがどう生きたのか、その死後どんなことが起こったのか、少しずつ解明されていっている(現在進行形で)。これからの研究にも注目したいです。

 ツタンカーメン王墓といえば、今話題になっていますね。
CNN:古代エジプトの王妃の墓、ついに発見か
ナショナルジオグラフィック日本版:エジプト王妃ネフェルティティの墓に新説
毎日新聞:ツタンカーメン:墓に未発掘ネフェルティティの部屋?
NHK:隠し部屋の出入口か ツタンカーメン墓で発見
 ツタンカーメン王墓の玄室(王の棺が置いてあった部屋)に、2つの隠れた出入り口があり、そこにツタンカーメン王の母親のネフェルティティ妃の墓があるのでは?という論文。これを確かめるため、現在ツタンカーメン王墓で調査が行われています。もし何か見つかれば、ただでさえドラマティックな発見だったツタンカーメン王墓が更に大変なことに。調査の結果を楽しみに待ちます。

 もうひとつ、ツタンカーメン王に関して楽しみなものが。
海外ドラマNAVI:ツタンカーメン王の墓発掘の軌跡を描くITVのミニシリーズ『Tutankhamun』にサム・ニールが出演
 イギリスの民放ITVが、ツタンカーメン王墓発掘の物語をドラマ化します。これまで、BBCもドラマ化(「エジプト 甦るツタンカーメン」)したことがあったのですが、各回50分全2回、観てみたらちょっと時間が足りない、物足りないかな…という内容でした。カーターやカーナヴォン卿を演じる俳優さんたちは好演でした。
 今度のこのITVのドラマは、各回60分全4回。BBCのよりも濃い内容を期待していいですかね?ちなみに、ITVは大ヒットドラマ「ダウントン・アビー」を製作しているテレビ局。傘下にはグラナダテレビ…ジェレミー・ブレット主演の「シャーロック・ホームズの冒険」のテレビ局。これはやっぱり期待していいですかね?そういえば、「ダウントン・アビー」の舞台となっているお屋敷は、カナーヴォン伯爵家のハイクレア城でロケを行っていることを、以前このブログでも取り上げました。はい、カーナヴォン卿が住んでいた、城主のお屋敷です。つまり、『Tutankhamun』でもハイクレア城がロケ地になるのでしょうか…本当のカーナヴォン卿のハイクレア城として。だとしたら楽しみで仕方ありません!日本での放送はいつになるかなぁ?
by halca-kaukana057 | 2015-10-08 22:46 | 本・読書
 まだまだ「はやぶさ2」関連本を消化中です。

 昨日のニュースで、日本とヨーロッパが共同で打ち上げる水星探査計画「ベピ・コロンボ」の日本が担当する探査機「MMO」の機体公開がありました。
NHK:水星観測へ 日本の探査機「MMO」公開
sorae.jp:JAXA、「水星磁気圏探査機(MMO)」を公開 日欧共同計画の一翼担う
 水星は地球以外に磁場がある唯一の地球型惑星。太陽に一番近いため、探査しづらく、わからないことも多い。「MMO」はその磁場がどうやって出来たのかを探ります。
 「MMO」とヨーロッパが担当する「水星表面探査機(MPO)」、MMOとMPOを水星まで送り届けるための「水星遷移モジュール(MTM)」は、2016年度にヨーロッパ宇宙機関(ESA)のフランス・ギアナ領・ギアナ宇宙センターから「アリアンⅤ」ロケットで打ち上げ。イオンエンジンを用いて航行。地球よりも内側の惑星に行くには、減速しなければならない。そして、地球フライバイ1回、金星フライバイ2回、水星フライバイ5回で、2024年に到着予定です。長い旅です。

 その、「MMO」含む「ベピ・コロンボ」についてもこの本に描いてあります。(前置き長い)

完全図解 人工衛星のしくみ事典 「はやぶさ2」「ひまわり」「だいち」etc…の仕事がわかる!(ロケットコレクション vol.2)
大貫剛、秋山文野、大塚実:著/マイナビ/2014

 以前出た「日の丸ロケット進化論」の続編の本です。ロケットの次はペイロードの人工衛星・探査機。気象衛星「ひまわり」シリーズや、「だいち」「だいち2号」「いぶき」などの地球観測衛星、測位衛星「みちびき」やGPS、放送衛星、「きく8号」や「こだま」などの通信衛星などの実用衛星。「はやぶさ2」や「あかつき」などの探査機、「あかり」「すざく」「ひので」などの天文観測衛星といった科学衛星。衛星・探査機は大きくこの2種類に分けられます。

 日本では、科学衛星は糸川英夫博士がペンシルロケットを開発、国産ロケットの研究開発を進め、日本初の人工衛星「おおすみ」を打ち上げた宇宙科学研究所(ISAS)が科学衛星を。一方、旧宇宙開発事業団(NASDA)が実用衛星を打ち上げていました。今はJAXAに統合されています。その実用衛星の旧NASDA、科学衛星のISASの歴史も振り返ります。どちらも過酷な道だった。旧NASDAはアメリカから技術を導入し、日本独自のロケットと衛星を開発、打ち上げを目指すも、コスト面などでアメリカのを買わざるを得なかった…。せっかく純国産ロケットH2を開発したのに、価格の面でNTTもNHKはアメリカ製の通信衛星・放送衛星を選んだ…。
 それでも、「きく8号」や「きずな」は活躍している。地球観測衛星も「みどり」「みどり2」の悔しい失敗もありましたが、乗り越えて「だいち」「だいち2号」「いぶき」「しずく」と繋がっていっている。特に「だいち」は災害援助から森林伐採監視まで、幅広く活躍。そして、最後のミッションが東日本大震災の観測…。普通の文章で書かれているのに、故郷の被災状況を観測している途中で運用停止になってしまった話は、読むと目頭が…。

 また、人工衛星ビジネスの話も。どの衛星でも基本・共通の設計となる「衛星バス」の話は、初めてじっくりと読みました。現在、H2Aが海外の人工衛星打ち上げを受注して、商業打ち上げする機会が増えてきていますが、衛星も優れた衛星バスで世界市場に参入していっています。

 一方の科学衛星。冒頭で「はやぶさ2」を徹底解説。カラーの図で、「はやぶさ2」の設計や仕組みがよくわかります。プロジェクトエンジニアの津田雄一さんのインタビューも。初代「はやぶさ」の経験を活かすところ、新しく挑戦する部分のバランスが難しかった、と。2号機、初代「はやぶさ」は技術試験機、「はやぶさ2」は本番の小惑星科学探査機だからこその難しい点ですね。そして今回も、小惑星1999 JU3は行って見てみなければどんな形の小惑星かわからない。到着してからでないと、どう観測して、いつどこにタッチダウンするかも決められない。「はやぶさ2」は小惑星1999 JU3での滞在期間が長めにとってありますが、画像が届くのが楽しみであり、届いたらプロジェクトチームは大忙しなんだろうな…。最後の「はやぶさ2」で注目して欲しいところについて、「ひとつひとつのハードルをクリアしていくところを見守っていただけたら」と。はい、ずっと見守ります!

 それぞれの科学衛星解説も詳しく、すっきりとまとまっています。過去のもの、これから打ち上げ予定のもの、失敗してしまったもの(火星探査機「のぞみ」)、残念ながら計画中止になってしまったもの(LUNAR-A、ASTRO-G)も。「のぞみ」や「LUNAR-A」「ASTRO-G」については読んでいると切なく、悔しくなります。「ASTRO-G」は「はるか」の後継機だったから特に。「ASTRO-G」とアルマ望遠鏡の最強電波観測、観たかったなぁ…(これ何度も言っている気がする…)。この解説で、気になる衛星、お気に入りの衛星を探すもよし。是非、お気に入りを見つけてください。

 最後に人工衛星の仕組みを。打ち上げ、軌道、エンジンとスラスタ、姿勢制御、通信、断熱材などなど。これ一冊で、人工衛星の基礎基本を学べます。

・過去記事:日の丸ロケット進化論と合わせてどうぞ。
by halca-kaukana057 | 2015-03-16 21:32 | 本・読書
 先日読んだ「ツタンカーメン発掘記」に関連して、古代エジプトのことをもう少し勉強してみようと思い、手に取った本。
・感想:ツタンカーメン発掘記


古代エジプトうんちく図鑑
芝崎めぐみ/バジリコ/2004

 古代エジプト文明・考古学の入門本。開いて驚いた。全て手書き(手描き)。イラストや漫画はもちろんのこと、文章も手書き。厚めの本で、これを全て手書きで書いてしまった…まずそこがすごい。

 ヘタウマ?でゆるいイラスト・漫画で、古代エジプト神話から遺跡の数々、エジプトを世界に紹介した古代から近現代までのエジプトロジストたち、著者の芝崎さんのエジプト旅行記、極めつけはファラオ140人全員集合!入門本と書きましたが、結構マニアックなところまでつっこんでいます。「はじめに」にもある通り、有名どころから読んでいくことも出来ます。参考文献も多いので、この次に読む古代エジプト関係読書ガイドにもなります。入門編からマニアックなところまで網羅しているのがすごい。

 古代エジプト…知っているようで知らないことが多過ぎる!というのが読んでの感想。
 まず、古代エジプト神話も、太陽神ラーやヌト神、トト神、オシリスにイシスにセト、ホルス、アヌビス…と名前とどんな神なのかは知っていても、物語としては知らない部分が多かった。改めて古代エジプト神話を読んでみて…とてもユーモラス。オシリス・イシス・ホルス親子とセトの戦いはキリがない。個性的で、おおらかで、ぶっ飛んでいるところもあり、面白い。矛盾していたりややこしいところもある。「何故そうなる!?」とツッコミたくなるところも多い。そこも魅力的。神々も様々。お気に入りの神様を見つけるのも楽しい。どこか、フィンランドの民族叙事詩「カレワラ」を思い起こさせるところもある。

 ちなみに、本の話からずれますが、宇宙好きとしては、このところ海外の探査機は古代エジプトに関しているものが多いと感じている。昨年、チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星に到着、着陸機を彗星の核に着陸させたヨーロッパの探査機「ロゼッタ」と着陸機「フィラエ」は古代エジプトのヒエログリフ解読の鍵となった遺跡にちなんでいるし、「はやぶさ2」のライバルとなるアメリカの小惑星探査機「オシリス・レックス」が向かう小惑星の名前は「ベンヌ」。フェニックスの原型となったと言われる鳥「ベヌウ」のことで、オシリスの心臓から生まれたという説もある。宇宙開発機関では古代エジプトブームなのか?(「ロゼッタ」が打ち上げられたのは10年前のことで…)

 エジプトロジストたちのお話も、笑いながら読めます。トップバッターからしてハワード・カーターだし(カーターを語れば、同時代、関わりのあったエジプトロジストが次々と登場するので便利でもある…?)、イタリア人のベルツォーニは豪快と言うか雑と言うか…でも次々と発掘、発見を続けていくのは一体…。ベルツォーニのパトロンだったイギリス人ヘンリー・ソールトがベルツォーニを妬み、それがますます不幸を呼び寄せてゆく…という話には、人生とは…と考えてしまった。ヒエログリフを解読したシャンポリオンの努力には感服。そのシャンポリオンのところで衝撃の事実。ロゼッタ・ストーンはヒエログリフ解読にあまり役に立っていなかったと…!!?ちゃんと勉強しないとわからないことって多い…。

 歴代ファラオ解説は、有名どころから初めて聞く名前までたくさん。有名なファラオでも、結構知らないことが多い。ここで、遺跡や王墓に関して読む時に、古代エジプト神話は切っても切れないのだなと思う。時代で変化もある。ファラオそのものについても面白いし、つくった神殿、発掘や研究の歴史も興味深く語られている。様々な説があり、謎が謎を呼び、それが古代エジプトの魅力なんだろうなと思う。
 興味を持ったのが、第21王朝のネコ2世。名前が可愛い。スエズ運河よりも2500年も前に、紅海とナイル川を繋ぐ運河の工事に着手し、フェニキア人の船乗りにアフリカ大陸を1周させたそう。
 この歴代ファラオ解説はかなりディープなことも書いていて、でも親しみやすい漫画やイラスト、著者のツッコミが面白くてどんどん読んで、また読み返して…古代エジプトのファラオも深い。

 古代エジプトは、天文学とのつながりも深い。本の最後のほうに天文学に関することも書いてあります。シリウスがナイル川の氾濫する時期、農耕を始める時期を報せる星だったのは有名ですね。天の川を天のナイル川と見ていたことも。ピラミッドがオリオン座と関係があるという説も有名ですが、スフィンクスも関係あるかもしれない、と。古代エジプトの頃は、ネオンも光害もなかった。どんな星空を、古代エジプトのファラオや人々は見ていたのだろう…。

 これを読んでいると、エジプトに行きたくなります。旅行記はトラブル・事件の連続。出会った人々も、商魂たくましい人もいれば、どう反応したらいいのかわからない人も…。エジプトは結構広い。治安の問題もある。それを乗り越えての遺跡の数々には、圧倒されるんだろうなぁ。

 この本、本当に面白いです。読んでいるうちにディープな古代エジプトの魅力にハマれます。本当に全部手書きは凄い。
by halca-kaukana057 | 2015-02-12 22:56 | 本・読書
 先日読んだ漫画「海とドリトル」(磯谷友紀)で参考文献になっていた本を読んでみました。この本の著者の佐藤克文先生が取材協力、モデルになっているのだそうです。
海とドリトル 1

サボり上手な動物たち 海の中から新発見!
佐藤克文・森阪匡道/岩波書店・岩波科学ライブラリー/2013

 イルカやクジラ、ペンギン、アザラシ、ウミガメ、カツオドリやオオミズナギドリなどの海鳥といった海洋生物たちが、海の中で一体どんな行動をとっているか…実はよくわかっていない。水族館に行けば観察は出来るけれども、実際の広い深い海の中で、どう行動し、仲間とコミュニケーションをとり、エサをさがしているのだろうか。実際にその姿を「見る」ことは難しい。そこで、登場したのが「バイオロギング」という方法。動物にカメラなどの機器をつけて、その行動データを記憶させ、そのデータを分析する。その手法で、海洋生物たちのこれまで「見えなった」姿が見えてきた。

 テレビの自然ドキュメンタリー番組では、海中に潜ったカメラが海洋生物たちが悠々と泳ぐ姿がよく放送される。この本からはちょっとずれるけれども、NHKスペシャルで一躍有名となったダイオウイカが泳いでいる姿を撮影するために、潜水艇で深海へ潜る映像も興味深かった。ダイオウイカもだが、見たことも無い深海の生き物に驚いた。
 イルカやクジラなどの海洋生物でも、そんな風に何らかの方法でカメラを海中に潜らせて調べているのかなと思った。でも、人間が潜れる深さや領域には限りがあるし、第一海は広い。広い海をあちらこちらへ泳ぐ生き物を追うのは難しい。撮影できたとしても一部分だけ。テレビ番組ならそれだけでもいいかもしれないけど、実際の研究となるともっとしっかりとしたデータが必要。これでは足りない。

 そこで登場するのが、「バイオロギング」。海洋生物にカメラや音声センサー、更には加速度センサーをつけて、その行動を記憶させ追うという方法。カメラだけじゃないのは、映像では追えないもの・場合もあるため。濁った水の中に棲む生物もいる。そこではカメラは使い物にならない。また、イルカの仲間は「エコーロケーション」といって、「カチカチ」とか「ギー」という「クリックス」という音で距離を測ったり、仲間とコミュニケーションしている。音を使って「見て」いる。人間は視覚から得る情報が圧倒的に多いが、イルカは音から得る情報が多い。そんな音で「見える」世界…どんな世界だろうなと想像すると楽しくなる。しかし、この音を出すことが、逆に自分を身の危険にさらすこともあるそうだ。イルカやクジラの天敵・シャチもエコーロケーションを使う。「盗み聞き」されて、襲われることもあるのだとか…。なんという…。なので、いつも音を出しているわけで無く、適度に「サボって」いる。ほかの仲間のクリックスを「盗み聞き」することもあるのだそうだ。結構ちゃっかりしている。
 この本のタイトルにあるとおり、生き物たちは適度に「サボる」のが上手いらしい。人間は「サボる」とバツが悪く思われがちだが、人間でもボーっとしていたり、回り道していることもある。生き物たちも同じなのだなと感じた。

 また、私たちは動物達の最大能力を調べようとする。時速何kmで走れる/泳げるのか、一番深く潜れるのは何mか、最高何時間潜っていられるのか…など。でも、動物たちはいつもその最大値・全力を出しているわけではない。日々の暮らしは平均値で表現される。生き物たちの暮らしぶりを知りたいなら、平均値に着目しよう、という内容になるほどと思った。研究者も、私たち一般人も、普段の暮らしを知りたい、見たいのだ。

 バイオロギングを使っても、なかなか思い通りにデータ収集できないことも多いのだそうだ。相手は生き物、自然。人間の思った通りにはいかない。地道な、地味なフィールドワークの積み重ね。いつも効率よく動いているわけでもない。人間も含めて、生き物は無駄なこともするし、遊ぶし、サボるし…一筋縄でいかない、だから興味深い、研究したくなるのだなと感じました。

 この本にあることが、今後「海とドリトル」にも出てくるのかなと思うと楽しみです。漫画と一緒に楽しめる。
by halca-kaukana057 | 2014-09-01 22:46 | 本・読書

好奇心のまま「面白い!」と思ったことに突っ込むブログ。興味の対象が無駄に広いのは仕様です。


by 遼 (はるか)
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