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群緑の時雨 4【最終巻】

 ようやく感想を書きます。好きな作品の最終巻は、感想を書いてしまうと「本当に」終わってしまう気がしてなかなか書けません…。

群緑の時雨 4
柳沼 行/メディアファクトリー・フラッパーコミックス/2013

 ついに式桜(しきさ)の城に着いた霖太郎たち。湖の真ん中にあり、難攻不落の城と呼ばれ、これまで謎の光によって士々国(ししこく)の者たちは命を落としてきた。どう城を攻めるか作戦を練る。5年もの間城に篭っていることは可能なのか、誰かいるとすればどれだけの者がいるのか…勘解由の助言により、作戦を立てる。そして夜になり、幾手に分かれ、城へ向かって舟を出した。しかし、城の中からの攻撃により、霖太郎、府介、伊都、勘解由の4人だけが城にたどり着いた。そして4人が中で見たものは…


 まさかの展開が待っていました。1巻からミステリアスな存在だった式桜の城の謎も、3巻で府介が「心の中を見せない」のも、全てが解けました。まさかの展開ですが、とてもかなしい、辛い展開です。でも、そんな状況でも、潔く、凛々しく、まっすぐ前を向いている爽やかさ。柳沼先生の物語も絵も、絵の魅せ方も、全てがこの物語を物語っています。セリフも勿論だけど、セリフだけじゃない。ひとコマひとコマの全てで。

 武士としての誇り、生きる志。これらをテーマとしてきたこの物語ですが、「武士の誇り」と一言で言っても様々。霖太郎には霖太郎の「誇り」があり、府介には府介の「誇り」があり、伊都には伊都の「誇り」がある。それは、誰かと共に寄り添い共有できる、一緒に磨き続けられるものでもある一方で、対立しどちらかを排除しなくてはならないものでもある。士々国は式桜を敵として、対立し生き残るために倒してきた。でも、式桜の者にも「誇り」はある。式桜の城の中で出会った者、そして起こった出来事は、まさに「誇り」と「誇り」のぶつかり合い。それは国という枠を越えることもある…。この式桜の城の中での出来事が、衝撃的で、でも、これまでのことに納得がいく。謎が全て解けた。それぞれの「誇り」を、最後まで貫き通す。その志、強く繊細な気持ちに、強く胸を打たれました。1巻から読み返して、これはこういうことだったんだ…と思うと、切なくなります。

 最終話、勘解由さんの謎も解かれます。勘解由さんも謎めいた存在だったが、勘解由さんも「誇り」や「志」を持っていた…いや、霖太郎・府介・伊都の3人の成長と友情を見て、取り戻していった。私がこの物語を読んでいた視点は、勘解由さんに近かったのかもしれない。勘解由さんに伊都が語った決意にも驚いた。

 そして最後…。かなしい、さみしいけれど、やはり前を向いている。心の中の強さ。この爽やかさ…!大きな拍手を送りたいラストです。しかも、「スピカ」へのまさかのつながりが…!?そう来るか…!巧い、にくい演出でした。

 4巻と、短編の作品ですが、読み応えはたっぷり。何度でも読み返したい作品です。柳沼先生、再び素晴らしい作品をありがとうございました!!

・3巻:群緑の時雨 3


 柳沼先生の次の作品が楽しみです。
by halca-kaukana057 | 2013-05-28 21:52 | 本・読書

群緑の時雨 3

 この頃、漫画や本を読んだはいいが感想を書いてない、書くのが遅い。発売を楽しみにして、じっくりと読んだのに、この作品もいつ出たんだっけ…(あれ


群緑の時雨 3
柳沼 行/メディアファクトリー・フラッパーコミックス/2012

 15歳になった霖太郎たち。霖太郎と府介は城に呼ばれ、家老から式桜(しきさ)国の城へ向かうように命じられる。霖太郎たちの暮らす士々国(ししこく)は、式桜と戦をしていたが、5年前に士々が勝ったはずだった。しかし、実はまだ戦いは終わってはいなかった。式桜の残った当主と家臣たちは湖の真ん中にある城に逃げ込み、城へ通じる橋を破壊。現在でも篭城しているという。しかも、船で城へ向かおうとすると、光とともに巨大な水柱が立ち、多くの武士が犠牲になった。一国一城の令が下り、式桜の城を何としてでも落とさねばならなくなった。先に式桜へと向かった第一陣は全滅、第二陣からの連絡も無い。霖太郎と府介たちは第三陣として、式桜の城へ向かうことに。そんな中、江戸へ行ったはずの伊都が帰ってきていて、話も既に聞いており、ついてくることに。式桜への道の途中、霖太郎たちが出会ったのは…

 2巻の最後のあらすじも書いておきました。2巻の感想でも書きましたが、ここから、1巻の冒頭のあのシーンへと繋がっていくのですね。

 15歳になり、すっかり凛々しくなった霖太郎と府介。しかし、2人は別の道を歩んでいる。霖太郎は立派な武士になろうと剣術の鍛錬を怠らず、腕も上達してきている。一方府介は、剣術よりも学問に興味がある。そして、式桜に向かうことになっても、霖太郎はためらいも無いが、府介は曇った表情を。式桜への旅の道中も、何かを隠しているような府介。かつて、伊都と剣術で勝負すると約束したことを覚えているかと迫る伊都。覚えている、武士に二言は無いと言うが…伊都の言うとおり「心の中を見せない」。府介の言動が気になるも、隙がない、まさに「心の中を見せない」のでますます気になってしまいます。一体何を考えて、何をしようとしているのだろう…。

 15歳になった伊都、美人になりました。可愛い。でも、相変わらずのおてんば。事あるごとに勘解由さんを叩くのも相変わらずです。と言うことは、江戸でもずっと剣術の鍛錬をしてきたのだろう。江戸で、良家のお嬢さんとして、しかも姉たちのように嫁に行くことを家族に望まれているのに。伊都のことだから、家族の目を盗んで、自分だけの場所を見つけて鍛錬していたのであろう。剣術への考え方は、ますます厳しくなっている伊都ですが、それも鍛錬の結果なのだろう。

 さて、霖太郎は、第二陣の一郎太と再会。かつて、霖太郎の父が戦で背中を切られて死んだことを罵っていた武士の一人。その一郎太との会話が、また柳沼先生らしい…。旅の途中の斬られた士々の先陣の武士たち、最後に出てきたある者の冷酷な告白、殺陣のシーンもあり、柳沼先生もこんなシーンを描くのか!(表現の幅が広がったと思うと嬉しい)と思ったのですが、その後は柳沼先生の「物語」だなぁと、哀しいけどじわりと来ました。

 府介の言動も謎ですが、式桜の城も謎です。ミステリーです。5年も篭城、光の柱、そして式桜の武士たちが言う城にあるもの、城の存在…。4巻でいよいよ城に乗り込むか、どうなるか。楽しみです。

・2巻:群緑の時雨 2
by halca-kaukana057 | 2012-11-14 23:27 | 本・読書

群緑の時雨 2

 待望の2巻、じっくりと読んでいました。「群緑の時雨(じう)」2巻です。


群緑の時雨 2
柳沼 行/メディアファクトリー・MFコミックス フラッパーシリーズ/2011

 病床の母のため、一日でも早く一人前の武士になり戦に向かいたいと思い、霖太郎は士々国の武芸大会に出ることを決める。しかし、霖太郎の剣術の腕では、とても太刀打ちできるような大会ではなかった。一方、武芸大会に女子であるため出ることを許されなかった伊都。殿様に直談判するために、府介とともに城に忍び込もうとする。2人が城に忍び込もうと奮闘する中、城内では武芸大会が始まった。
 士々国は、隣国の式桜(しきさ)国との戦を続けていたが、士々国が勝利を収め、戦は終わったとの報せが国じゅうを駆け巡った。そんな中、士々国家老の差床家は江戸の普請に参加するようにと幕府から命ぜられる。伊都も共に江戸へ向かうことになったが、江戸に向かうもうひとつの目的を聞いた伊都は…。


 2巻で、物語がひとつの方向へ向かおうとしている。まずは霖太郎の武芸大会。剣術は決して強くはない霖太郎。しかし、力・技術を気力・精神力でカバーしようと立ち向かう姿は、弱くも見えるが強くも見える。大会後、家老(後のキーパーソンとなります)のひとりから、こんな言葉をかけられる。戦に向かわせてもらえるのかと聞いた霖太郎の言葉に対しての言葉。
剣の道は 心を鍛える道 戦の道は 心を削る道
お前さんはまだまだ削れるほどの心にはありますまい
今はひたすら剣の修行を続けなさい
(52ページ)

 剣術は、戦で、実戦で使ってこそのもの…と思っていましたが、考えてみれば現代にも剣道がある。柔道などの武術全般も同じだと思う(多分…武術は一切経験したことがないので、想像ですが…)。戦とは切り離された、己の心を鍛える、磨くための剣術・武術。これは時代を超えて、剣術以外のことにも言えると思う。仕事でも、趣味でも。実戦のためでもあるけれども、それ以上に自分を鍛えることがどれほど難しいか。技術を高めるとともに、精神力をも高める。自分が取り組んでいる様々なこと…仕事や、ピアノ、宇宙天文などの趣味でも当てはまるなと思いつつ、読みました。挫けそうになったら、私も霖太郎と同じように、この言葉を思い出そう。

 そして、士々国は戦で勝利を収め、太平の世が始まると国の人々は喜んでいる。しかし、霖太郎にとっては、戦に行って戦うことをこれまで目標としてきたので、複雑である。これからどうやって生きていくか。そんな霖太郎に、勘解由さんが言った一言。
戦で功を成すことよりも
己にとっての生きていく志を見つけることのほうが よっぽど難しいもんだぜ
霖太郎にとっての 真の志を早く見つけることだな
(79ページ)

 その通りだなぁと思います。何か世の中に大きな流れがあると、それに乗って勝ち上がっていけば成功を収められる。しかし、例えば価値観が多様となった現代なら、何を目標・志としていけばいいかわからないと迷うことも少なくない。私自身、そうだ。こうなりたい、という漠然としたものはあるけれども、はっきりとした”真の志”を見つけられずにいる。見つけようと動いている最中だ。本当に見つかるのかな、とモヤモヤした気持ちになりつつ…。霖太郎にとって、”真の志”とは何なのか。これまでの”誇り”と絡めて、霖太郎の成長が楽しみです。

 さて、霖太郎のことばかり語ってきましたが、伊都にも大きな動きが。江戸普請に行くことが決まったが、その江戸行きの裏にはもうひとつの目的があった。勿論、伊都が素直にその話を聞くわけが無い。ここで、伊都が心の内を霖太郎と府介に初めて話します。何故、女子なのに剣術に励んでいるのか。霖太郎と府介は親から離れて(離れざるを得ずに)暮らしているが、伊都も同じでした。家老という良家に生まれ、姉たちの人生・生き方を見て、自分もこれからどうなるのか知っている。でも、伊都は、自分で自分の道を探したい。そう、伊都は、ただ単におてんばで物好きで剣術に励んでいたわけではない。誰かに決められた道ではない、自分の生きる道を探すために。良家の娘さんなのに、伊都が竹を割ったような性格である理由もつかめてきました。1巻の時は、「ふたつのスピカ」の幼い頃のアスミみたいな感じと思ったが、この2巻を読んでマリカのようなところもあるんだなと感じました。やっぱり、前作「スピカ」も出てきてしまうなぁ。

 2巻の後半、伊都が江戸に行ってから5年…。霖太郎も府介も、凛々しい少年になりました。15歳か。戦が終わり、国も、人々の生き方・暮らしも変わった。霖太郎は剣術に励み、府介は剣術よりも算術や自然のことに興味を持っていた。そんな中、霖太郎と府介がお城へ呼ばれる。呼んだのは、あの武術大会で出会った家老。士々国と式桜国の戦は、本当はまだ終わっていなかったのだ、と…。ああ、ここであの1巻冒頭のあのシーンに繋がってゆくのか。その緊急の召集後、2人は伊都と再会する。さあ、物語はどう進んでゆくのか。これからが本番といったところ。ミステリアスな部分もあり、楽しみです。

・1巻:群緑の時雨 1
by halca-kaukana057 | 2011-12-20 21:37 | 本・読書

群緑の時雨 1

 「ふたつのスピカ」完結から1年半…。柳沼行先生の新作が登場です。単行本化を待ってました!

群緑の時雨
柳沼 行/MFコミックス フラッパーシリーズ/メディアファクトリー/2011

 時は江戸時代初期。江戸から北に遠く離れた士々国(ししこく)。10歳の少年・中谷霖太郎(なかたに・りんたろう)は、下級武士の武家で育てられている。育ての父は、戦で背中を切られて死んだことから、不名誉な噂を立てられ他の武士達から蔑まれていた。霖太郎は、「清風塾」という小さな寺子屋で学んでいたが、そこで2人の同年代の少年少女と出会う。士々国家老の娘で、女子だが何かの目的のために剣術の腕を磨き続ける差床伊都(さしゆか・いと)。遠くの村から、遠い親戚の家へ養子に貰われて来た志木府介(しき・ふすけ)。3人は、武士として、そして己の誇りのために修行に励む…。


 タイトルですが、「ぐんりょくのじう」と読みます。「群緑」は、日本画で使われる色である「群青」と「緑青」を混合した色のこと。そして「時雨」を「しぐれ」ではなく「じう」と読む理由…。タイトルからして何か深い意味があると感じました。そして、「スピカ」は近未来の宇宙SFファンタジーでしたが、新作は時代物!柳沼先生の時代物…山本周五郎のような感じになるのかなと想像してみたり。読む前から想像が膨らむ作品です。

 さて、読んでみて…、まだ1巻のため、物語がどこに進むのか、霧がかかっているような状態。しかし、物語のキーポイントとなりそうな要素はいくつか出てきています。
 まず、霖太郎の父の死と、”誇り”。戦で背中を切られること…それは敵と向き合わなかったことを意味する。しかしそれはあくまで噂話に過ぎない(と、府介が指摘。府介、かなり賢い子です)。自分が実際に見たもの、それを信じ続け、どう生きるかが大事。”誇り”を持ち、まっすぐに生きようとし始めた霖太郎。爽やかです。
 次に、伊都のこと。父が家老という良家の娘でありながら、懸命に武術の修行に励む。我流ながらも、動きはすばやい。すばしこい。小さい頃のアスミを髣髴とさせますw江戸時代、女子ながら武術に励む理由。伊都が秘めている想い。ただおてんばなだけな女の子ではない。どう成長するのか、楽しみです。
 そして、第1話冒頭で成長した伊都が語っている”あるもの”。府介が実の父から教わった”あるもの”。これは「スピカ」でも少し出てきましたが、この「群緑の時雨」ではメインの鍵になりそうな予感です。

 登場人物であと気になったのが、隻眼の浪人・鴨居勘解由(かもい・かげゆ)。見た目は怪しい…というよりは、好き気ままに暮らしている浪人。しかし、戦歴や話す言葉の奥深さから、3人を見守り、そっと導く存在になるかと思います。その勘解由さんをも、隙をみて刀で打ちのめす伊都…。強い…。


 ちなみに、単行本1巻発売記念に、柳沼先生へのインタビューがありました。
コミックナタリー:[Power Push] 柳沼行「群緑の時雨」
 これを読むと、物語はゆっくりと、しかし着実に進んでいる模様。柳沼先生が描きたいと思っているシーンについてのお話は、読んで納得でした。時代物を選んだ理由にも。今後も目が離せません。

 これまで、時代物の小説・漫画には「歴史」タグをつけましたが、この作品は史実には基づいていないので、「時代物」タグとします。で、長くなりそうなので「柳沼行」タグ作りました!

【「ふたつのスピカ」関連記事】
「ふたつのスピカ」最終巻に寄せて
ふたつのスピカ 16(最終巻) 
by halca-kaukana057 | 2011-04-10 22:22 | 本・読書

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