タグ:歴史 ( 107 ) タグの人気記事

日の名残り

 この本の感想も昨年のノーベル賞授賞式あたりに書きたかった。ノーベル賞関連書をもうひとつ。今まで、カズオ・イシグロ氏の作品は読んだこともなかったし、全然知らなかった(教養がない)。ノーベル文学賞受賞で、代表作の紹介を読むことが増え、読んでみようかなと手にとりました。


日の名残り
カズオ・イシグロ:著、土屋政雄:訳/早川書房、ハヤカワepi文庫

 イギリスの貴族の大きな館、ダーリントン・ホール。この屋敷はダーリントン卿の屋敷だったが、卿の死後、アメリカ人のファラディに渡る。ダーリントン卿の時代から執事を務めてきたスティーブンスは、引き続きファラディの元で働いている。ファラディが少しの間アメリカに帰るので、その間、休暇を取らないかと言われたスティーブンス。ずっと屋敷を守り続けてきたので最初は戸惑ったが、屋敷の召使が次々と辞めてしまい、人手が足りなくなってきた。かつてダーリントン卿の時代に女中頭を務めていたミス・ケントンのことを思い出し、ミス・ケントンに話せば何とかなるかもしれない…。ミス・ケントンに会うため、ファラディに借りたフォードで旅に出たスティーブンス。旅の間、思い出すのはダーリントン卿の時代の屋敷での様々な出来事や人々のことだった…。


 読んで、最初に思ったのが、スティーブンスの生真面目さ。頭が固い…という表現はちょっと違う。執事として、召使たちをまとめ、全員の仕事の状況を把握し、仕事を割り振る。ダーリントン卿や卿のお客(貴族や政治家、有名人も珍しくない)に快適に、居心地よく過ごしてもらうため、滞りなく仕事を進め、何か要求があれば応え、忙しさを表に出したり、何かあっても取り乱したりしてはならない。なので、「頭が固い」という表現は違うだろう。スティーブンスは自分の仕事も、召使たちの仕事も、しっかり把握し遂行していた。でも、やっぱり非常に生真面目である。執事とはこういうものなのかもしれないが、そのスティーブンスの生真面目さ、まっすぐさが滑稽に思えるところがよくあった。不器用にも思える。イギリスのドラマ「ダウントン・アビー」を観ていれば、執事や女中の仕事や上下関係についてもっと知ることができて、楽しめたかもしれないと思う。

 スティーブンスは何度も「品格」という言葉を使う。執事の「品格」、イギリス人の「品格」などなど。「品格」とは何か、と問う。仕事への誇り、その仕事を何があっても完璧に遂行すること、プロフェッショナル、という意味でも使われている。スティーブンスの父も執事で、ダーリントン・ホールで働いていた。しかし、老いは仕事にも影響する。様々な仕事ができなくなったが、執事の仕事を全うした父。父が生死をさまよう中、屋敷では重要な国際会議が開かれていた。その仕事に邁進したスティーブンス。家族よりも仕事を取った(という表現は合っているのだろうか…そういう問題ではないと思うが、現代の私から見ると「家族より仕事を取った」と思ってしまう)。執事の父も、それを望んでいたかもしれない。息子も立派な執事になったのだから。スティーブンスも父を尊敬している。

 そんなスティーブンスにとって、女中頭のミス・ケントンは不思議な存在だったが、本当は信頼できる仕事のパートナーだ。スティーブンスとミス・ケントンはなかなか噛み合わない。でも、どこかで合うところもある。毎晩、ミス・ケントンの部屋でココアを飲みながら打ち合わせをする「ココア会議」でも、意見が噛み合わないことがある。スティーブンスはダーリントン卿の申しつけの通りに仕事をし、決断することがあれば表向きには感情を挟まずに決断する。ミス・ケントンは感情も込めて仕事をしている。でも、ミス・ケントンは仕事はしかりやっていた。新しい女中が入れば、しっかりと教育して、見事な女中に育てた。どちらも仕事には誇りを持っている。ミス・ケントンが「品格」という言葉を使うことはないが、ミス・ケントンにも女中として、人間としての「品格」はある。そのミス・ケントンとの再会は…良い再会だなと思った。スティーブンスが、ミス・ケントンに声をかけられなかったあの日の出来事が、静かなかなしみを誘う。

 この物語で、スティーブンスが旅をしているのは1950年代。ダーリントン卿に仕えていて回想されるのは、第1次世界大戦後から第2次大戦後にかけて。変わりゆくヨーロッパ、変わりゆくイギリス。戦争の足音が屋敷を、ダーリントン卿を巻き込んでゆく。スティーブンスは、執事として、ダーリントン卿やお客のために働く。ダーリントン卿を敬愛し、信じていた。しかし、ダーリントン卿は、どんどん歴史の渦に飲み込まれてゆく。ダーリントン卿に何があったのか、スティーブンスが知らなかったわけではない。お屋敷に何の目的で誰が来て、というのは知っていた。だが、職務なので、深入りはしない。ダーリントン卿の友人であるコラムニストのディビッド・カーディナルがある晩突然屋敷を訪れ、その晩、屋敷で何があるのか探っていたエピソードから、スティーブンスの立場がわかる。スティーブンスの立場では、そうするしかなかった。それも、執事の「品格」だろう。ラストシーンのスティーブンスは、泣いてはいるが、「品格」はそのままだ。ダーリントン卿のもとで職務を成し遂げた。何があっても取り乱さない。過去を振り返り、その過去に何か間違いがあったとしても、生きている限り未来はある。その未来をどうするかは、これから自分が決めることだ。スティーブンスだけの話ではない。ミス・ケントンも。ミス・ケントンはスティーブンスよりも先に、そのことに気づき、決めてしまったが。

 旅の道中のエピソードも面白い。田舎の人々が、スティーブンスのことを紳士と間違えて、恭しく接する。それに対するスティーブンスがまた生真面目で、不器用だ。その不器用さが、心優しくも思える。

 文体は最初は固いかなと思ったのですが、読んでいくととても心地よいです。静けさがちょうどいい。訳者の土屋さんが、この作品を訳すきっかけになったエピソードがあとがきで書かれているのですがこれもまた面白い。まさかフィンランドが関係するとは。他にも読んでみたいカズオ・イシグロ氏の作品があるので、読んでいこうと思います。
 「日の名残り」は映画化もされています。DVDがあるので、こちらも観てみようと思います。原作とどう違うのかな。

 先日の「重力波は歌う」といい、カズオ・イシグロ氏の作品といい、2017年のノーベル賞は早川書房さん大当たりですね。

[PR]
by halca-kaukana057 | 2018-04-23 23:26 | 本・読書

Im ~イム~ 9

 新刊として出たのは1月だったか…春になる前に感想を書きましょう。


Im ~イム~ 9
森下 真/ スクウェア・エニックス、ガンガンコミックス / 2018

 人間をマガイ化する黒アザの出る薬を仕込まれ、アメン神官団本部の街は大混乱に。それぞれが戦う中、イムは「記憶抹消大魔法(ダムナティオ・メモリアエ)」を使い、街もマガイ化した人々も元通りにする。イムを「救世主」と崇める人々たち。だが、その後イムは倒れ、眠り続けてしまう。再び目覚めたイムを待っていたのは、知らない間に元通りになった街と、イムを「救世主」と呼び讃える人々だった。イムは3000年前、ジェゼルを助けようとした際、「記憶抹消大魔法」を使ったが、それ以後は使わないと決心していた。イムが眠り、記憶を失っている間、何が起きたのか。イムが覚えているのは、九柱神(エネアド)のアトゥムの「器」と会っていたこと。イムは九柱神に会いに行く。そこで、世界創世の神話の真実を知ったイムは…


 9巻も展開が早く、次々と新しい情報が出てきます。一度読んだだけでは覚えきれない、過去のエピソードや伏線を、なんだったっけ…と思い出すのも必要。濃いです。

 イムのおかげで、街も人々も救われた。「何も無かった」ことになった。その結果はよいことですが、イムにとっては信じられない、納得できないこと。イムも覚えていない。記憶に無い。「記憶抹消大魔法」を使ったのは誰…?ということで、その謎解きの旅に。
 その前に、イムはその謎を陽乃芽に話す。もうひとりの自分がいて、それが「記憶抹消大魔法」を使ったのではないか。また、何かが起き、皆の記憶どころか、皆の存在も消されてしまったら…そんな不安を、陽乃芽が吹き飛ばし、背中を押します。大神官で、誰よりも賢く、誰よりも強いイムにも弱みや悩みがあって、それを信頼している人に話すことが出来るようになった。いい友情です(陽乃芽にとっては「友情」ではなく…?)。そして、イムの本心。ジェゼルと仲直りがしたい。これらについては、9巻終盤でも出てきます。

 九柱神と会ったイム。そこで語られるのは、九柱神以前の創世神話。「混沌の八柱神(オグドアド)」、その守護神アポフィスと「記録者」月の神トト。あのアポフィスも神なのか…。そして、「記憶抹消大魔法」の本当の使い道も明かされます。淡々と語るアトゥムに、「神」であるアトゥムに対して怒りをぶつけるイムの言葉がすごくいい。
 イムは今度はトト神に会いに月の宮殿へ。トト神のこれまでと、イムやファラオたちに宰相として仕えていた大神官たちが何なのかが明かされます。そう来たか…。トト神と、イムの対峙。トト神は、あくまで中立で、世界を記録する。しかし、イムホテプは、「親友」ジェゼル王のために、「記憶抹消大魔法」を使った。中立になりきれてなかった…。イムが「お祓い箱」と呼んでいる「月光の魔水晶」の秘密も明かされます。たくさんの謎が明かされるのに、更に新たな謎、情報が出てくる。すごいなぁこの創作世界…。
 再びアポフィス登場。アポフィスがトト神に語ったのは、トト神には信じられないこと。トト神は中立の立場とはいえ、人間と同じように、人格、感情を持っている。イムとジェゼル、トトとアポフィス。「友達」のための戦いが始まります。

 読んでいる側も、イムの真実に混乱しますが、イムの周囲の人々も大混乱。ユート君ですら理解しきれない…。稲羽くんの言う通りなら(これが真実なのですが)、どうやってアポフィスを倒すんだ…?何かアポフィスの弱点、バグでもあるのか?
 そして、上述した、イムの本心、ジェゼルと仲直りしたい、ということも伝えられます。しかし、マガイに肉親を殺された稲羽くんや晴吾たちにとって、それは許せることではない。いくらジェゼルではなくアポフィスの仕業だったとしても、ジェゼルもマガイに関係していた。稲羽くんにとってジェゼルは許すことのできる人ではない。でも、信頼しているイムのことも思うと…。反発しても、「仲間」というつながりがそれを超えていく。かつては晴吾と対立していたイムですが、稲羽くんとも対立し、理解し合えた。ひとりひとりと、こういうシーンがあるのがいいですね。

 ラスト、また非常事態発生。ついにあの人が…!!この人にも悲しい思いのまま終わってほしくない。どうするんだ。10巻を待ちます。ついに10巻まで来たんですねぇ。

・8巻:Im ~イム~ 8
 この9巻は、さらに遡らないとイムの真実や本心にたどり着けません。本当に9巻は濃いです。
[PR]
by halca-kaukana057 | 2018-03-23 22:27 | 本・読書

天文学者の江戸時代 暦・宇宙観の大転換

 大分前に読み終わったのに、感想を書かずにいる本のひとつです…。


天文学者たちの江戸時代: 暦・宇宙観の大転換
嘉数 次人 / 筑摩書房、ちくま新書 / 2016


 江戸時代。日本の天文学は、それまでの中国からのものに加え、西洋の天文学も取り入れ、変化していった。暦の作成、日食や月食の観測と予測、月やさまざまな惑星の観測、最新の宇宙論。江戸時代に活躍した天文学者を紹介しながら、江戸時代に日本の天文学がどのような方向に進んでいったのかを俯瞰できる本です。

 江戸時代の天文学者というと、「天地明察」で有名になった渋川春海。歩いて海岸線を測量し、正確な日本地図をつくった伊能忠敬。また、天文学を推し進めた将軍・徳川吉宗などが出てくる。でも、それだけじゃない。江戸時代、日本の天文学はこうなっていたのかと、興味深い内容の本です。

 渋川春海に関しても、「天地明察」の範囲でしか知りませんでした…。史実ではあるけれども小説なのでフィクション、脚色も勿論入っている。この本では、渋川春海がどのように「貞享暦(じょうきょうれき)」や「天文分野之図」などを作っていったのか、ざっと書いてある。中国の暦や星座を用いてきたが、それを日本の地理に合わせたものに作り変えた。事実だけ読んでも、渋川春海のすごさを実感する。

 江戸時代の天文学者が次々と出てきます。以前、このブログでも取り上げたことがある麻田剛立も勿論登場します。数々の業績も素晴らしいのですが、麻田剛立のすごいところは、研究スタイルをオープンにしたこと。当時の学問は閉鎖的で、師に入門すると、学んだことは他人にも家族にも話さない、同門の者にも話さない、師に無断で著作物を出さないなど、門下だけでひっそりと研究を進めていた。一方、麻田剛立は、全てをオープンにしたわけではなかったが、大坂や日本各地の研究者を交流、議論するなど自分の知識を門下以外の人にも伝えていた。月食を観測していた際にも、見物人にも望遠鏡や観測機器を公開して、一緒に観測していたという。今では当たり前のようなことだが、当時は珍しいことだった。

 その、麻田剛立の弟子として紹介されるのが、高橋至時(たかはし よしとき)、間重富(はざま しげとみ)。高橋至時は、伊能忠敬の師匠。寛政の改暦、「ラランデ暦書」の翻訳にあたる。江戸時代、どの科学分野でもネックになったのが、オランダ語からの翻訳だろう。「ラランデ暦書」の翻訳も難航した。
 また、この頃になると、地動説や、彗星の研究、天王星の観測もあった。

 江戸時代、鎖国のため、西洋の学問はなかなか入ってこない、そのため、日本での科学分野での研究もなかなか進まない…というイメージを持っていた。語学の壁もあったが、思った以上に江戸時代の天文学はいきいきしていた。限られた中でも、試行錯誤や工夫、想像力をもって宇宙に挑んでいった先人たちのことを知ることができてよかった。

【過去関連記事】
天地明察
 小説の方です。コミカライズの感想もあります。
月のえくぼ(クレーター)を見た男 麻田剛立
 麻田剛立の児童向けの伝記です。児童向けですが、大人でも楽しめます。この本と合わせてどうぞ。

[PR]
by halca-kaukana057 | 2018-03-14 22:05 | 本・読書

ヴィンランド・サガ 20

 19巻の感想を、この20巻の発売日に書いて、その後すぐ20巻を買って読んだのですが…感想を書くのは遅くなってしまいます。



ヴィンランド・サガ 20
幸村誠 / 講談社 アフタヌーンKC / 2017

 ヨーム戦士団の内紛に介入せよと、トルケルにクヌート王の勅令が下った。しかし、トルケルはクヌート王の命令など関係無く、ただ戦争をしたいと言う。一方のフローキ側のヨーム戦士団。ガルムがトルフィンではなく、ヴァグンを殺害してしまったため、厄介な展開に。要塞の地下牢に捕らえられたガルムは、同じく捕らえられているレイフ、エイナル、グズリーズと再会する。
 トルフィンはレイフたちと待ち合わせをしているオーゼンセに到着。ギョロからレイフたちが人質になったこと、ガルムがヨムスホルグに来いという伝言を聞かされる。やはり戦うしかないのか…。どうしたらいいか分からず呆然とするトルフィンに、ギョロが思いをぶつける。
 ガルムがヴァグンを独断で殺害してしまったことを、フローキ側はトルケルに釈明するが、トルケルは交渉決裂、と退ける。そして、フローキ側から放り出されたガルムはトルケルを挑発。トルケルはガルムと一騎打ちをすることになる…。


 本格的に戦争が始まりました。冒頭のクヌート王の言葉が印象的です。クヌート王も楽土建設のために何をするのか考え、動いているが、ヴァイキング、ノルドの戦士たちの考え方は変わらない。思う存分戦って死ぬ。ガルムも同じことを考えている。地下牢でガルムとグズリーズが会話していましたが、そのシーンにその考え方の違いがはっきりと表れていました。グズリーズにとっての「普通の生活」と、ガルムやノルドの戦士たちにとっての「普通の生活」とは何なのか。答えの出ない問題です。ただ、クヌート王は、王として、この方向に向けようとしています。トルフィンも目指す方向に向かいたい…けれども、トルフィンには足りないものが多い。まず、クヌート王のような権力がない(あれ?権力…?)。

 19巻の感想で、トルケルとガルムは似た者のように思えると書きましたが、全くの似た者同士でした。2人の一騎打ちはすごい。あのトルケルと互角に戦えるなんて。戦う前、ガルムはトルケルの年齢のことを言っていましたが、トルケルっていくつぐらいなんでしょう?ガルムはまだ10代?

 レイフさんたちが人質になったことを知らされたトルフィン。誰も殺さずに、レイフさん、エイナル、グズリーズを助けるなんて無理だ…と迷いますが、ギョロの言葉がはっきりと、でも重い言葉でした。理想は誰も殺さずに助けたい。でも、トルフィンやギョロにとって大事なのは誰か。助けなきゃいけないのは誰か。そして、助けられる力を持つのはトルフィンしかいない。過去を打ち消すのではなく、今自分が持つ「力」をどう使うのか、トルフィンにとってこれからの課題になりそうです。とはいえ、ヒルドさんが見張ってるんだよなぁ…。

 ヨムスホルグに捕らえられた3人に、味方が1人。トルフィンにとっても味方かもしれません。バルドル君も苦労する…。グズリーズはどうなってしまうのか。シグルドとトルフィンが再会…状況はこれはこれでよかったのかもしれない…。普通の状況だったら、シグルドは何をするか…。前向きなシグやん、「友達の多い」シグやん…重い展開の20巻で、こんなシグやんがいいキャラしています。グズリーズ、一気に大人になりましたね。美人さんになってきましたね。

 ヨムスホルグでの戦のシーン。ノルドの戦士たちの「普通の生活」と先述しましたが、ヨムスホルグのヨーム戦士団の兵士でも、トルケルやガルムとは少し違う人もいるのかもしれない。そんな描写がいくつか。戦争真っ只中の21巻でも、こんな描写があるかなぁ。

・19巻:ヴィンランド・サガ 19
[PR]
by halca-kaukana057 | 2018-02-18 15:53 | 本・読書

物語 フィンランドの歴史 北欧先進国「バルト海の乙女」の800年

 100年目のフィンランド独立記念日に、ぴったりの本を読みました。こういう本が読みたかった。


物語 フィンランドの歴史 北欧先進国「バルト海の乙女」の800年
石野 裕子/中央公論新社・中公新書/2017
 フィンランドは帝政ロシアから独立して100年。しかし、その前にも歴史があり、独立後、現代に至るまで苦難も多々あった。人口500万人、ロシアとスウェーデンに挟まれた小さな国。それでも、しっかりとした存在感を示し、特徴ある文化などで世界に注目されてきた。そんなフィンランドはどのように生まれ、どんな道を辿ってきたのか。

 フィンランドの歴史というと、私もよくわかっていなかった。スウェーデンに支配された後、帝政ロシアに支配される。独立しようというナショナリズムが興り、「カレワラ」といったフィンランド固有の文化が注目される。ロシア革命のドサクサにまぎれて独立し、その後白衛隊と赤衛隊で内戦が起きる。ようやく国が統一されたと思ったら、冬戦争に継続戦争。敗戦国となったが、戦後は産業、経済面での復興を遂げ、その中からフィンランドデザインの製品が生まれた。トーヴェ・ヤンソンの「ムーミン」シリーズが人気となり、今では様々な面で世界から注目される国である…ぐらい。ざっくりと。

 この本は、フィンランドの起源から始まります。紀元前、フィンランドに人が住み始め、鉄器時代には定住、貿易も始まっていた。スウェーデンにどのように統治されていたのか。その時代に、戦争も三度あった。その後、知識人も生まれたが、ロシアとスウェーデンが対立。フィンランドはロシアに渡ってしまう。

 独立100年と聞くと、新しい国なんだなと思う。でもそれは、フィンランド共和国となってから。独立前にも、他の国に組み込まれていてもフィンランドはあった。そこで暮らしている人たちがいた。フィンランドは小さいながらたくましい国と言われる。そのルーツは、独立のずっと前から育まれていたのだろう。

 帝政ロシアの支配化での状況、独立までの経緯も詳しく書かれています。そして独立はしても、内戦が起きる。他国と戦うならまだしも、同じフィンランド人同士なのに、戦わなければならない状況というのはどんな状況だろう…胸が痛む。

 この本で初めて知ったのが「大フィンランド」構想。カレリア地方も広くフィンランドに組み込もう、領土を拡大しようという動きだ。これが、継続戦争で目指すものとなる。冬戦争は独立を保つために巻き込まれて戦争することになったが、現在、継続戦争は領土拡大の意図があったことがわかっているそうだ。また、スウェーデン語系フィンランド人やサーミの人々などに対して、フィンランドへの「同化」政策もあった。今でこそ福祉国家と呼ばれるフィンランドでも、そんな歴史があったのだ。だからこそ、今のフィンランドがあるのかもしれない。

 大戦後も、ソ連に翻弄されつつも、したたかに、たくましく冷戦下をしのいでいく。資源がないので産業を興そうと、マリメッコやアルテック、イッタラ、ノキアなどが躍進し始める。「ムーミン」もこの頃生まれた。資源のなさは、教育の充実にも繋がった。100年は短いように思えるが、たくさんのことがあった。

 今も、フィンランドからは新しいものが生まれ続けている。アップルの躍進でノキアは下火になっても、また新しい分野で伸び始めた。IT分野での、ベンチャー企業の躍進もめざましい。柔軟さや多様性も、フィンランドにはある。

 この本は主に政治、経済の面を中心に書かれているが、フィンランドはどの時代でも興味深い国だ。面白いことをやっている。芸術や文化面に関しても、コラムがある。フィンランド語とスウェーデン語。サウナにムーミンにサンタクロース。この本には書ききれなかった魅力もある。どんな切り口から見ても、フィンランドは面白い。そんなフィンランドを支えてきたのは、フィンランドの人々のたくましさとしたたかさなのだろう。「sisu(シス)」と呼ばれる、「フィンランド人魂」なのだろうか。

 フィンランドの歴史(特に政治経済面)について知りたいと思ったら、この本をオススメします。政治経済が苦手でも、新書なのでそんなに分厚い本でもないので、ゆっくりと読んでいけると思います。いい本が出ました。

[PR]
by halca-kaukana057 | 2017-12-06 23:17 | 本・読書

Im ~イム~ 8

 11月はツタンカーメン王墓発掘月間(4日が最初の階段を見つけた、26日に最後の壁に穴を開けて王墓の中に入った)のためか、BSプレミアムで古代エジプト関連番組が続いています。面白い。盛り上がっているところで、先日、エジプトではかなしい事件がありました…。かなしいです。
 そんなエジプトのことを思いながら、エジプトが舞台のファンタジー「イム」8巻です。発売から2~3ヶ月…まだ許容範囲のはずw6巻と7巻は一緒に感想を書いてしまい、まとまりに欠けたので今度は8巻だけで書きます。


Im ~イム~ 8
森下真/スクウェア・エニックス、ガンガンコミックス/2017

 エジプトにあるアメン神官団の本部内で、人々が次々とマガイ化し、アメン神官団は大混乱。アメン神官団本部の結界の中に入りこみ、イムと会っているジェゼル…アポフィスは本部内のマガイ化した人々と陽乃芽、どちらを選ぶか迫るが、イムはどちらも助ける、そしてアポフィスを倒してジェゼルを助けると言い切る。「お祓い箱」魔水晶を使ってマガイを回収するイム。それを見た本部の神官たちは、イムがあの大罪人のイムホテプだと気づき、イムを攻撃、罵る。そこへ助けに来たのは…。神官たちに必死に説明するイムだが…。
 一方、陽乃芽は、ハピに連れ去られ、アゥシルに捕らえられていた。アゥシルはオシリス家の嫡男。神官団の中心となる一族で、死を恐れない思想で危険視されている。アゥシルとハピは、かつて失敗した「セクメト計画」を陽乃芽を使って実行しようとしていた。抵抗する陽乃芽。そこにやって来たのは…。


 7巻のラストで、今の悪者になっているジェゼルはジェゼル本人ではなく、地獄にいる原初の邪神アポフィスに乗っ取られていることがわかりました。7巻、8巻と、これまでの謎、伏線が一気に回収されていくのでついていくのに大変です。読み応えあります。

 まず、イム側。これまでイムは大罪人とされながらも、人間性やその力などで晴吾たちから信頼され、友と認められるようになった。それまでには衝突や誤解もあった。日本からエジプトに戻ってきて、アメン神官団の本部では…最初からやり直し。やはりイムは大罪人のイムホテプで、神官たちからは危険視されている。神官たちから憎まれ、罵られ、石を投げられる…。そんなイムを助けたのは晴吾。イムの過去と現在を知っている晴吾。
「三千年前とは違うだろ もう失敗したくないんじゃねぇのか!?頼れよ!!!」(21,22ページ)
イムも、マガイ化のシステムと課題を理解。7巻で出てきたヘシレさんと同じく、マガイ化してしまった人たちを救いたい、守りたい。それが出来るのはイムの「お払い箱」だけ。神官たちは何をすべきか。それを神官たちに熱弁。ひとりでなんとかしようとしてパニックになっていたイムと、晴吾が来てからのイムの落ち着きが違う。イムは今も昔も大神官だけど、支える人がいてこその大神官なのだと(かつてはジェゼルがイムを支える立場だった)。

 一方の陽乃芽、アゥシル側。アゥシルは7巻で少し出てきていました。アメン神官団の中でも最高位の一族のひとつ、オシリス家の嫡男。ハピはアゥシルの部下。セクメトの力を使えるようになった陽乃芽を利用して、「セクメト計画」を実行しようとしていた。
 ここでやってきたのがラトさん、ユート君。2人はオシリス家の者であり、アゥシルの妹・弟。オシリス家と、アゥシルと、ラトさん、ユート君の過去が語られます。オシリス家の「伝統」に対して、疑問を持たず素直に育ったアゥシル。疑問を持ち出て行ったラト。オシリス家の本当の嫡男の印を授かったユート。アゥシルの葛藤、憎しみと、その反動。オシリス家のやり方、アゥシルのやり方には同意共感できないけど、アゥシルは置かれた環境、置かれた立場でやることをやって来たんだな…と切なくなります。
 アゥシルのやり方に対して、徹底的に反抗する陽乃芽ちゃんが男前。かっこいい。陽乃芽ちゃん、本当に強い子。

 8巻は、それぞれ全員が持てる力を振り絞って、誰かのために出来ることをしています。アヌビスも。あのかわいいアヌビスにこんな力があったなんて。アヌビスも神様なんだな、と。成長して、凛々しくなったアヌビスを想像するのはちょっと難しいですが…。

 イムも、力を使い…ここでハプニングが。イムが大変なことになってしまった。8巻、情報が多過ぎます…(面白いよ!)。一体何が起こったのかよくわからないまま、ラストも大変なことに…。イムがどうしてそうなった!?9巻はまた波乱が起きそう。イムがラストで言った通りになればよいのですが…。9巻を待ちます。

 最後に、アポフィス側。クレオパトラが復活してました。あまり登場しませんが、クレオパトラがアポフィスに聞いた言葉が気になりました。もしそうだとしたら…。何かの可能性も…。
 あと、コンスについての情報もまた増えました。コンスにフラグを立てないで…!!

Im ~イム~ 6・7
[PR]
by halca-kaukana057 | 2017-11-28 22:39 | 本・読書

ヴィンランド・サガ 19

 今日、11月22日、20巻が発売になったそうです(私の地域は何日か遅れるのでまだ本屋にはない)。19巻の感想をまだ書いてない…19巻の話をしないと20巻に進めないので、20巻の発売の日に19巻の感想を書きます。


ヴィンランド・サガ 19
幸村 誠 / 講談社・アフタヌーンコミックス / 2017


 トルフィンの暗殺に失敗したフローキ。フローキは孫のバルドルを次期団長にしたいと思っている。バルドル以上のよい血統を持ち、強さも申し分ないトルフィンを亡き者にしたかったが…。そのフローキのそばには、ある男がいた。
 一方のトルフィン。フローキと対立するヴァグンの駐屯地に連れて来られていた。ヴァグンは、トルフィンの父・トールズを殺した黒幕はフローキだと明かす。フローキがアシェラッドに命じて、トールズを殺したのだ。ヴァグンはトールズの仇を討てと言い、怒りに支配されそうになるトルフィン。何とか平静を取り戻し、戦わないことを決意する。そのヴァグンの駐屯地へ、トルケルが率いるフローキの一軍がやってきた。あることがきっかけで、トルフィンとヒルドはヴァグンの元から逃げ出す。その途中、トルフィンはある男と出会う…。


 19巻の表紙に、見慣れないキャラクターが。初登場のガルムです。19巻のキーパーソンのひとりです。18巻の感想でも書いたのですが、捨てたい、消したい過去がある、新しい自分に生まれ変わりたいと思っても、周りが許さない。そんなジレンマがトルフィンをまだまだ悩ませます。戦うこと、戦って死んだらヴァルハラに行く…と信じているヴァイキング、ヨーム戦士団の戦士たち。そこから一旦離れ、戦士とは異なる生活をしたトルフィンはヴァイキング、ヨーム戦士団とは違う考え方を持った。かつてアシェラッドの軍団にいて生き延び、ヴァグンに捕らえられ、トールズが殺された顛末について話したアトリも、家族のもとへ返して欲しいと言っていた。離れてわかることがある。どっちが正しいわけではない。ヨーム戦士団には独自のルールや考え方がある(とても残忍ではある、推奨できるものではないが)。トルフィンもアシェラッドと別れた後、独自の道を進むことになった。ただ、その違いをお互いが受け入れられない。トルフィンは何とか違う道を見つけ出したいと思っているが…。

 そんなトルフィンを阻むのがガルム。トルフィン並み、トルフィン以上に強い。やることに全く隙がない。頭もいい。徹底的に残忍。とにかく強いやつと戦いたい、という点はトルケルに似ているかもしれない。ガルムに追い詰められていくトルフィン。本当にトルフィンたちがこのヨーム戦士団から逃れて、ギリシアまで行けるのかますます心配になってきました。

 トルフィンが、ついに父・トールズの死の真相を知ることになりました。18巻の最後のようなことはしなかった。でも、自分は元はヴァイキングの戦士で、戦うことが日常だった。この過去を消すというよりは、受け入れて乗り越えるのでしょうか。

 トルケルが、相変らずのトルケルですw理由は何でもいい、戦えるならそれでいい…本当にトルケルも残忍なヤツなのに、どこか憎めないのはこのキャラのせいでしょうか…?

 続きは20巻、発売したばっかりです。早く読みたい!

・18巻:ヴィンランド・サガ 18

【関連リンク】
 幸村誠先生のインタビューがあったので、リンクを貼っておきます。「プラネテス」「ヴィンランド・サガ」の誕生物語、裏話など。
コミックDAYS 編集部ブログ:『プラネテス』は「原稿をなくしたから」生まれた!? 幸村誠インタビュー(1)
コミックDAYS 編集部ブログ:原稿の遅さが「売り」!? 幸村誠インタビュー(2)
コミックDAYS 編集部ブログ:お前の漫画を読みたい人なんて誰ひとりいない!? 幸村誠インタビュー(3)


[PR]
by halca-kaukana057 | 2017-11-22 22:56 | 本・読書

西洋文化に触れた驚き 「遥かなるルネサンス」展

 あちこち出かけているのですが、その記事を書かず…。印象に残ったことを記録しようと思います。

 先日、行ってきたのは、青森県立美術館。このブログでも時々登場する、お気に入りの美術館です。現在開催中の特別展「遥かなるルネサンス展」に行ってきました。

青森県立美術館:遥かなるルネサンス展

 時は信長や秀吉の時代。各地のキリシタン大名のもとで暮らしていた4人のキリシタンの少年たち。1582年、宣教師ヴァリニャーノは、日本人自身の中から、ヨーロッパ文明の語り部となる人物を育成する必要があると考え、その4人の少年たちをイタリアに送り出しました。「天正遣欧少年使節」です。ようやく着いたイタリアで、少年たちが出会った人々、見たであろう風景を、絵画や様々な美術品で辿ります。


f0079085_22153050.jpg

f0079085_22155094.jpg

ああこの建築たまりませんねぇ。
f0079085_22155730.jpg

目玉の「ビア・デ・メディチの肖像」と「伊東マンショの肖像」がでかでかと。「ビア~」は日本初公開、「伊東マンショ~」は長らく行方不明でしたが、2014年に発見された作品。今回もすごいのが来ましたね。

 今、現代、旅行に行って、旅の記録はデジカメや携帯のカメラで簡単に撮影できます。しかし、この時代は絵を描くしかない。日本の芸術とは全く異なる西洋の芸術。南蛮文化は少しは入ってきただろうけど、実際に西洋に行って、その風景や文化、現地の人々に会い話をするのは想像以上のものだったろう。本場の西洋文化、キリスト教のことを学んで、日本に帰ったらそれを伝えるという使命を持ちつつも、初めて触れる西洋文化に、4人の少年たちは何を思っただろう。現代でも、テレビや本、ネットなどで、簡単に海外情報を手に入れることはできるけど、実際に行って観るのとでは違う(海外に行ったことないですが(涙)。それが、この時代だったらどうだろうか…。そんなことを思いながら展覧会を観ました。

 美術品の他に、手紙も展示されています。少年たちが書き残した日本語と、外国語(ラテン語かな?)の手紙も。外国語だって、今でも学ぶのは大変なのに、辞書も少なかっただろうし、勉強は大変だったろう。それでも、手紙はとても達筆で…そんなところからも、この旅路の厳しさを思い知ります。

 当時、イタリアでは、メディチ家が勢力を振るっていました。「ビア~」に描かれている少女・ビアもメディチ家の人。小さいうちに亡くなってしまったそう…。このあたりは、世界史を思い出しながら、でも思い出せずに何だったっけ…と思いながら観ていました。勉強になります。キリスト教に関係するものだけではなく、ギリシア・ローマ神話に関係するものも。このあたりは、星座の神話でもお馴染みなので、興味深く観ました。

 異文化に触れ、異文化を理解するということ。その意味の深さを考えました。
 8年もの長旅の後、少年たちは旅で見たものを、日本の人々に伝えます。そして、キリスト教をさらに学ぶのですが…キリシタン弾圧が強まり、殉教した者、教会から離れその後の足取りがわからなくなった者も。この最後に、旅の厳しさと、この時代の厳しさを感じました。

 久々の大型の展覧会でしたが、いい展覧会でした。

 お土産で、これが気に入りました。
f0079085_22485904.jpg

f0079085_22490450.jpg

少年たちが訪れたフィレンツェの、トスカーナ大公の工房で作られた、テーブルの天板。とても豪華なモザイクです。それをマスキングテープにしました。ノートに貼ってみましたが、雰囲気が変わります。

青森県立美術館:シャガール「アレコ」全4作品完全展示
 青森県立美術館と言えば、シャガール「アレコ」背景画。4幕のうち、1,2,4幕は青森にあります。3幕を保管しているアメリカのフィラデルフィア美術館が長期の改修工事に入ったため、残りの3幕も借用中。2021年までと、まだまだ観られます。「アレコ」背景画は、青森県立美術館が開館した際、全4幕を揃えて展示していました。その迫力に圧倒されたのですが、再び、全4幕を観られて、やっぱり圧倒されました。「アレコ」のドラマティックで悲劇のラストの物語を思いながら、全4幕をひとつずつ追って観られるのは素晴らしいです。まだ観たことのない方は是非とも。

 青森県立美術館は、少し前に「ぼのぼの」展をやっていて、それも観に行きました。普通の特別展とは違う形です。「ぼのぼの」の漫画やアニメは大好きなので、観ていてとても楽しかったです。いがらしみきお先生の「ぼのぼの」を描くメイキング動画もよかった。
[PR]
by halca-kaukana057 | 2017-09-03 23:01 | 旅・お出かけ

四人の交差点

 前回もフィンランド発の本について書きましたが、今回もフィンランドでベストセラーになった小説の日本語版を。フィンランド文学が次々と日本語に翻訳され、日本に紹介され読めるようになるのは嬉しいです。


四人の交差点
トンミ・キンヌネン:著、古市真由美:訳 / 新潮社、新潮クレスト・ブックス / 2016

 フィンランドの北部のある村で、マリアは助産師をしていた。その娘のラハヤは写真技師。ラハヤの息子のヨハンネスの嫁のカーリナはその家に漂う重い空気を変えたかった。ラハヤの夫のオンニは大工で、家を建て大きくしていった。その家には100年の歴史と、暮らしと、重さと、秘密があった。


 この本のあらすじを書けと言われても、ちょっと難しいです。マリアは19世紀末からこの家に住み、助産師として働いていた。それから20世紀末までの、一家・一族、この家にまつわる物語が始まる。4人の視点で物語が語られる。それはどこにでもありそうな家族の姿でもあるし、この家にしかない秘密でもある。

 読んでいて、シベリウスの後期の交響曲(4番以降)を聴いているような気持ちになった。静かで、美しく儚くもあり、重く暗い。家族に何かが起こり、怒ったり怒鳴ったりもするが、その声もそこに残らず、すぐに消えてしまう。楽しいことがあっても、楽天的ではない。根底にあるのは静けさで、森のような、日照時間の短い冬の夜のような暗さである。

 そして、閉鎖的でもある。この家はどんどん建て増しをして大きくなるが、外に開かれていない。この家族だけで終わってしまう。孤独で、何かあっても助けも何もない。フィンランドというと福祉国家で、子育てや介護などが充実しているイメージがあるが、それは明るい部分、いい部分だけを見ていたのかもしれないと思ってしまう。ヘルシンキから遠く離れているのも鍵かもしれない。この作品で描かれる喜びも悲しみも、嘆きもこの家族だけで完結してしまう。奔放に見えるようなラハヤも、やはり閉鎖的な苦しみを抱いている。

 でも、描かれる日常は、どこにでもある日常だ。料理…パンケーキやスープ、サウナ、サマーハウスなど、フィンランドの日常にあるものが、リアリティをもって描かれている。詳しくて、その部分は鮮やかだ。鮮やかなのに、根底はモノクロの雰囲気。

 この家に嫁いできて、家の空気を何とか変えたいと思うヨハンネスの嫁のカーリナ。頑固な姑のラハヤに抵抗し、自分の思い描く"家"を作ろうするが…。カーリナとラハヤの関係に、胸が痛む。

 そして、カーリナの方が後の時代だが、最後にラハヤの夫オンニの物語を語るのは理由がある。フィンランド、北欧ならずっと進んでいそうなことだが、解説を読むとそうでもなかった。オンニが、現代に生まれていたら…と思う。オンニが教会の礼拝堂で祈るシーンは、心が痛む。

 物語では、第二次大戦中の継続戦争も鍵となります。フィンランドも第二次大戦の敗戦国。継続戦争中、一般市民はどうしていたのか、出兵した男たちはどうなったのか。これもフィンランドの歴史で現実。フィンランドも紆余曲折あった国なんだなと思う。

 前回の記事の「マッティは今日も憂鬱」では、面白おかしく、自虐ジョークも入れてのフィンランド人が描かれていたが、この「四つの交差点」はもっと生々しい部分でのフィンランドの人々と暮らしと歴史を描いている。フィンランドの静けさと深さと、強さを感じられる物語です。

・過去関連記事:マッティは今日も憂鬱
[PR]
by halca-kaukana057 | 2017-07-01 22:43 | 本・読書

Im ~イム~ 6・7

 漫画を読んでも感想を書けずにいたので、何巻かたまってしまった作品もあり…。まとめて書きます。エジプト神話をモチーフにしたマンガ「イム」の6巻と7巻です。この2巻は続いている部分が多いので、まとめて書いてもいいかもしれない。

Im~イム~(6)

森下 真 / スクウェア・エニックス、ガンガンコミックス/2017



 支部長を助け出したイムたち。羽羽方家でパーティーを開くことに。陽乃芽はイムがエジプトに帰ってしまう前の送別会だと思っていたが、パーティーで、羽羽方父がアメン神官団に事務員として入団することになったこと、それに伴い、陽乃芽も夏休みはエジプトに行くことが決まった。
 そしてエジプトにやって来た一行たち。観光している間、荷物を盗まれ、盗んだ男を追うと、晴吾の攻撃に対して人間離れした能力を使い逃げようとした。そして、蛇のような黒いアザが体中に現れ、死んでしまった。イムは、かつて大神官として"地獄の番人"をしていた時、負の感情に飲まれた者たちにそのアザが現れていたのを何度も見たことがあった。そのアザに何があるのか、コンスが本部から呼んだ、ラトの弟であるワジトユートと共に、黒アザの原因を探りに街へ出たが…

Im~イム~(7)

森下 真 / スクウェア・エニックス、ガンガンコミックス/2017



 8年間もとり憑き、イムによって離れた"マガイ・セクメト"を、精霊(カー)として自分の中に戻した陽乃芽。イムを助けるため、その力で戦うも、魔力を制御しきれず倒れてしまう。ひとまず停戦し、去る新たな敵・ラムセス2世。陽乃芽が何故マガイ・セクメトを精霊(カー)に出来たのか。それには、陽乃芽の母・ひまわりが関係していた。羽羽方父は、ひまわりと出会った時のことをイムたちに語りだす…。


 この6・7巻で急展開です。舞台はエジプトへ。支部長誘拐事件で、浮かび上がったいくつかの謎。支部長にとり憑いていたマガイには、「創世九柱神(エネアド)」が関係している…?エネアドたちは何を考えている…?何かを隠している…?それらの謎を解きに、エジプトへ向かいます。
 エジプトに行くことに関して、イムは故郷を皆に見せられること、羽羽方パパは妻・ひまわりと出会った国を陽乃芽に見せられることを喜んでいる。そんな2人がいい感じです。

 エジプトでは、新キャラも登場。そのひとりが、ラトさんの弟というワジトユート君。上位神官です。まだ少年ながら、かなりの力を持っています(その理由は7巻で明らかになります)。そして、敵方はラムセス2世。クレオパトラの次はラムセス2世!強いけれども、ちょっと変わったところもある敵です。

 一方、ユート君の登場で、陽乃芽にある事実が発覚します。その事実をユート君に突きつけられた6巻の144ページからの陽乃芽の自分を責める気持ちが苦しい。そこからの、陽乃芽の本心が、7巻へと続きます。7巻では陽乃芽ちゃんが表紙。しかもカッコイイ!本編でも強くてカッコイイ!

 7巻では、これまでの伏線、謎が一気に解けます。展開が早くて、読み返さないと理解しきれない。古代エジプトの神々をうまく創作に当てはめていて、面白いです。7巻の読みどころは、若き羽羽方父と妻となるひまわりとの出会い。羽羽方パパがカッコイイ、なかなかのハンサムで、心意気も男前です。陽乃芽を産む時のひまわりさんの決意が、とても強くて…、陽乃芽は強い両親から、強いもの、強い心を受け継いでいるんだなと感じました。

 7巻ではついにアメン神官団の本部へ。更に新キャラが登場します。精霊(カー)を診察する医師の神官・ヘシレさんがなかなかいいキャラです。黒アザを発症するメカニズムも解明されます。エジプト神話を題材にしたファンタジーですが、普通の人間の心理に通じるものがあります。そして本部でまさかのあの人が登場。怒涛の展開でした。8巻が待ち遠しい。陽乃芽ちゃんが…どうなってしまうのか!

 謎めいた部分を持つコンスに関しても、徐々に明らかになっていきます。あのシーンのあれはそういうことだったのか…。よくわからないところが多いけれども、コンスの言うことは筋が通っているし、人間的でもある。イムを思いやってもいる。ただ、これからコンスが無茶をしないか…心配です。

 2巻一緒に書くと、まとまりに欠けます。細かい部分も欠けます。どう書いていいかわからない。下手するとネタバレになってしまう…。漫画の感想は溜めないほうがいいね。負の感情もね。そんな6・7巻でした。

Im ~イム~ 5
[PR]
by halca-kaukana057 | 2017-06-12 22:43 | 本・読書


好奇心のまま「面白い!」と思ったことに突っ込むブログ。興味の対象が無駄に広いのは仕様です。


by 遼 (はるか)

プロフィールを見る

S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31

お知らせ・別サイト

管理人HN:(はるか)
 熱しやすく冷めにくい、何が好きになるかわからない好奇心のかたまり。このブログでは好きなものを、好き放題に語ってます。

プロフィール
*2014.9.5:更新
はてなプロフィール:遼(halca-kaukana)



web拍手を送る


ブログランキングならblogram


はてなブックマーク
Mielenkiintoinen!

気になること、関心のある記事や参考にしたサイトなどのブックマーク集。コメント多め。

◆ピアノ録音置きブログ:Satellite HALCA

☆「はやぶさ2」、小惑星リュウグウ到着!!☆
管理人・遼も小惑星探査機「はやぶさ2」を応援しています。



あかつき特設サイト
JAXA:金星探査機「あかつき」特設サイト

☆祝!「あかつき」は金星の衛星になりました☆
金星軌道上で観測中!

最新の記事

秘密の花園 /『秘密の花園..
at 2018-07-16 22:57
夏の宇宙ゼリー ローソンのリ..
at 2018-07-11 22:09
BBC Proms (プロム..
at 2018-07-10 21:41
ウドウロク
at 2018-07-06 23:07
獣の奏者 外伝 刹那
at 2018-07-03 22:05
無伴奏ソナタ [新訳版]
at 2018-06-30 21:49
はじめまして、リュウグウ 「..
at 2018-06-29 22:14
これがフィンランドの香り? ..
at 2018-06-23 21:07
わたしを離さないで
at 2018-06-16 22:04
6月の宵の三日月と金星
at 2018-06-16 21:04

カテゴリ

はじめにお読みください
プロフィール
本・読書
宇宙・天文
音楽
奏でること・うたうこと
Eテレ・NHK教育テレビ
フィンランド・Suomi/北欧
イラスト・落描き
日常/考えたこと
興味を持ったものいろいろ
旅・お出かけ
information

タグ

以前の記事

2018年 07月
2018年 06月
2018年 05月
2018年 04月
2018年 03月
2018年 02月
2018年 01月
2017年 12月
2017年 11月
2017年 09月
more...

検索