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ウドウロク

 本屋で平積みにされているのを見かけて、この人の本が出ていたんだ!と思わず手にとってしまった本です。


ウドウロク
有働由美子/新潮社、新潮文庫/2018(単行本は2014)

 元(と書くのがちょっと寂しい)NHKアナウンサーの有働由美子さん。アナウンサーの中でも特に好きなアナウンサーです。「おはよう日本」でのニューヨークからの中継、リポートも楽しみでしたし、なんといっても「あさイチ」。番組が始まった頃は慣れずに、NHKがこんな番組を?と思ったものですが、有働さんの人生経験たっぷりの、率直なコメントや井ノ原快彦さん(いのっち)との掛け合いはだんだん好きになりました。番組の途中でニュースが入った時は、落ち着いた声と口調で対応する様はさすがNHKのトップアナウンサーと思ったものです。ちなみに、「あさイチ」は、「無線おじさん」柳澤秀夫さん(やなぎー)の愛する無線のお話(冷たくあしらわれているのが寂しい…もっと聞きたかった)、オヤジギャグの一方で、中東での特派員経験や解説委員としての現代に切り込んだ、かつ思いやりのあるコメントも好きでした。
 その有働さんがエッセイを出版していました。今なら話せることと、NHKを退職されたのが執筆、出版のきっかけかなと思いきや、元々の単行本は2014年に出ている。「おわりに」で書いてある通り、公共放送のアナウンサーがここまで書いたものを出版するのを許してくれたNHKすごい…と思ってしまいました。

 「あさイチ」での飾らないイメージが強いので、有働さんは肝の据わったお姐さんというイメージを持っている。NHKのトップアナウンサーのキャリアウーマン。かっこいいなと思う。そう思いきや、実際は小心者で自信もなくて、でも強く見られたい…そんなところもある。仕事に行きたくない…と思うこともある。「あさイチ」で取り上げられた、有働さんの弱み(と書いていいんだろうか?)と思われているところ…「わき汗」事件、未婚、恋愛下手、お酒好きゆえの失敗、ストレート過ぎて逆効果になってしまう発言などについても、決して下品になりすぎずに読みやすく経緯などが書かれている。夕方のスーパーで買い物する時のレジかごの悩みは、そうだったのか、と思った(有働さんのレジかごを見た親子の会話がかなしい、ひどい)。ニューヨーク勤務の時も、語学堪能で、摩天楼を満喫するように行ったのかと思いきや…。しかも、そのニューヨーク勤務中に心身ボロボロになってしまっていたのはとても辛い。

 誰かとの会話、誰かに助けられた話、お世話になった方のお話も多い。厳しかったお父様の話にはハラハラしたし、優しかったお母様の話にはホロリときてしまう。スタッフや友人、取材相手、共演者にも恵まれていて、それはこの本でうかがえる有働さんのお人柄が引き寄せたものなんだろうなと思った。有働さんがスタッフや後輩、友人相手に率直なことを言っても、受け入れられるのは、その人のことを思っているから。反対に、有働さんが率直なことを言われることもある。「私の個性、私が思う個性」で、「個性」と「素」をどう考えているかの話や、後輩へのアドバイスがいいなと思った。「個性」と「素」の違いは、私もごちゃ混ぜにしていた。これを読んで、自分の言動を振り返ると恥ずかしくなるものもあった。「個性」を売りに出さないとならないアナウンサーという職業だからこそ、生まれた考え方なんだろう。

 有働さんにだって下積みの時代があった。なかなか思うような、やりたい取材をさせてもらえなかったり、ニュースを読む時にデスクや先輩に叱られたり。「報道のアナウンサーには向いていない」と言われたこともある。取材をして、取材相手にとっては当たり前だけど意外な受け答えに、どう答えたらいいか分からなかったこともある。「一般的な」社会の常識だけで報道はできない。そんな苦労が、有働さんの深みを作ったのだと思う。

 有働さんの低くて落ち着いた声が好きです。でも、有働さんご本人は、もっと高くて可愛らしい声だったら良かったのに、と思っているそうだ。そうだったのか。私はいわゆる「女子アナ」の高くてきゃぴきゃぴした女子全開な声が苦手だ。ニュースは論外、バラエティーでもチャンネルを変えたいと思ってしまう。ニュースでも、「あさイチ」のようなざっくばらんな情報番組でも、その落ち着いた声だから品を保てるのだと思う。

 先日感想を書いた「獣の奏者 外伝 刹那」(上橋菜穂子)と合わせて、女性の生き方には様々あると思った本です。単行本にはなかった、NHK退職についても書いてあります。有働さんのこれからを応援したいです。
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by halca-kaukana057 | 2018-07-06 23:07 | 本・読書

わたしを離さないで

 「日の名残り」に続き、ノーベル文学賞受賞がきっかけで読み始めたカズオ・イシグロ氏の作品です。


わたしを離さないで
カズオ・イシグロ:著、土屋政雄:訳/早川書房、ハヤカワepi文庫/2008(単行本は2006)

 イギリスに暮らすキャシーは介護人の仕事をしている。世話をするのは提供者と呼ばれる人たち。それも、ヘールシャムという施設の出身者に限って担当していた。キャシーや、親友のトミーやルースたちが子ども時代を過ごした施設・ヘールシャム。彼女はそこでの日々を思い出していた…。







 読んで、「すごい!!おもしろい!!」と思いました。まずその一言。

 そして、感想を書く…あらすじ書けないよこの作品…?と思ったのが次。上に書いたあらすじが限界です。後はネタバレになってしまうので書けません。訳者あとがきで、イシグロ氏は「ネタバラシOK」と言っていて、何だったら帯に何の物語か書いても構わない、とも言っているそうだ。
 だが、もし、まだこの本を読んでいなくて、この記事を読んで、あらすじは知らないという方は、あらすじを知らない方がいいと思います。あらすじを調べる前に、まず読んで欲しい。こんなことを思った小説は久しぶりです。

 この作品は、ミステリのようでもあるし、SFのようでもある。ディストピア作品ともいえる。これ(キャシーたちの存在)が許される世の中、キャシーたちはどう生きたらいいのか…。そして、キャシーたちの立場にいる当人たちが、自分たちのこと、真実をどれだけ知らされるべきか…。最初は、謎だらけで不思議な物語だなぁと読んでいたら、徐々にキャシーたちがどんな存在なのか、ヘールシャムとはどんなところなのかが明かされていく。残酷で、緊張感はあるが、キャシーたちの「日常」は続いていく。キャシーたちは自分たちの立場を淡々と受け入れてしまう。

 少しおおげさですが、何か不運な出来事、めぐり合わせ、理不尽なこと、つらい出来事、苦しい境遇にあって、「なぜ私がこんな目に」「なぜ私は生きているのか」などと思うことがある。でも、悪いことばかりでもない。根本的な救いはないかもしれないが、その時、心を少しでも軽くしてくれる救いはある。自分の今置かれている状況を受け入れたほうが、うまくいくこともある(でも、この作品のキャシーたちの立場は理不尽に思えるが)。どんな状況に置かれても自分の人生を生きる。生きる権利はある。そう感じました。

 でも、…私がキャシーたちの立場だったら、私は怖くて怖くて仕方ないと思うのだが…。世の中を恨みたくなると思うが…。これで助けられた人は幸せになれるのか、とか、科学とは何か、とか、色々考えてしまいます。もう考える幅が広くて、ショックが大きいです。

 ちなみに、調べてみたら、蜷川幸雄演出で2014年に舞台化、2016年にはTBSでドラマ化(舞台は日本に変更、主演は綾瀬はるか)されていたんですね。全然知りませんでした(テレビドラマには疎い)。DVD借りられるかな?




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by halca-kaukana057 | 2018-06-16 22:04 | 本・読書

四人の交差点

 前回もフィンランド発の本について書きましたが、今回もフィンランドでベストセラーになった小説の日本語版を。フィンランド文学が次々と日本語に翻訳され、日本に紹介され読めるようになるのは嬉しいです。


四人の交差点
トンミ・キンヌネン:著、古市真由美:訳 / 新潮社、新潮クレスト・ブックス / 2016

 フィンランドの北部のある村で、マリアは助産師をしていた。その娘のラハヤは写真技師。ラハヤの息子のヨハンネスの嫁のカーリナはその家に漂う重い空気を変えたかった。ラハヤの夫のオンニは大工で、家を建て大きくしていった。その家には100年の歴史と、暮らしと、重さと、秘密があった。


 この本のあらすじを書けと言われても、ちょっと難しいです。マリアは19世紀末からこの家に住み、助産師として働いていた。それから20世紀末までの、一家・一族、この家にまつわる物語が始まる。4人の視点で物語が語られる。それはどこにでもありそうな家族の姿でもあるし、この家にしかない秘密でもある。

 読んでいて、シベリウスの後期の交響曲(4番以降)を聴いているような気持ちになった。静かで、美しく儚くもあり、重く暗い。家族に何かが起こり、怒ったり怒鳴ったりもするが、その声もそこに残らず、すぐに消えてしまう。楽しいことがあっても、楽天的ではない。根底にあるのは静けさで、森のような、日照時間の短い冬の夜のような暗さである。

 そして、閉鎖的でもある。この家はどんどん建て増しをして大きくなるが、外に開かれていない。この家族だけで終わってしまう。孤独で、何かあっても助けも何もない。フィンランドというと福祉国家で、子育てや介護などが充実しているイメージがあるが、それは明るい部分、いい部分だけを見ていたのかもしれないと思ってしまう。ヘルシンキから遠く離れているのも鍵かもしれない。この作品で描かれる喜びも悲しみも、嘆きもこの家族だけで完結してしまう。奔放に見えるようなラハヤも、やはり閉鎖的な苦しみを抱いている。

 でも、描かれる日常は、どこにでもある日常だ。料理…パンケーキやスープ、サウナ、サマーハウスなど、フィンランドの日常にあるものが、リアリティをもって描かれている。詳しくて、その部分は鮮やかだ。鮮やかなのに、根底はモノクロの雰囲気。

 この家に嫁いできて、家の空気を何とか変えたいと思うヨハンネスの嫁のカーリナ。頑固な姑のラハヤに抵抗し、自分の思い描く"家"を作ろうするが…。カーリナとラハヤの関係に、胸が痛む。

 そして、カーリナの方が後の時代だが、最後にラハヤの夫オンニの物語を語るのは理由がある。フィンランド、北欧ならずっと進んでいそうなことだが、解説を読むとそうでもなかった。オンニが、現代に生まれていたら…と思う。オンニが教会の礼拝堂で祈るシーンは、心が痛む。

 物語では、第二次大戦中の継続戦争も鍵となります。フィンランドも第二次大戦の敗戦国。継続戦争中、一般市民はどうしていたのか、出兵した男たちはどうなったのか。これもフィンランドの歴史で現実。フィンランドも紆余曲折あった国なんだなと思う。

 前回の記事の「マッティは今日も憂鬱」では、面白おかしく、自虐ジョークも入れてのフィンランド人が描かれていたが、この「四つの交差点」はもっと生々しい部分でのフィンランドの人々と暮らしと歴史を描いている。フィンランドの静けさと深さと、強さを感じられる物語です。

・過去関連記事:マッティは今日も憂鬱
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by halca-kaukana057 | 2017-07-01 22:43 | 本・読書

星の案内人 4 [完結]

 ずっと読んだ本の感想書いていませんね…。少しずつ書いていけたらと思います(諦めてない)。

 プラネタリウム天文漫画「星の案内人」、3巻の発売から随分経ってからの4巻が出ました。そして、完結です…。なんと…。


星の案内人 4
上村五十鈴 / 芳文社・芳文社コミックス/2016

 ある日、トキオは不思議な雰囲気の青年と出会う。旅人のような雰囲気で、カメラを持っていた。おじいさんのプラネタリウム「小宇宙」にいると、その青年・チハルが訪ねてくる。チハルはカメラマンで、かつておじいさんの家・小宇宙に居候していたことがある。チハルはおじいさんと出会った頃、チハルの世界は真っ暗だった。


 4巻で登場し、4巻の鍵となる人物、チハルさんの登場です。子どもの頃、心優しく優秀な兄を不慮の事故で亡くしてしまう。事故と兄の死は自分のせいだ、自分が死ねばよかったと、自分を責めるチハル。学生時代はグレた生活をしていたが、そのグループで違和感を覚え、さまよい、おじいさんに出会った。何も聞かず、食事や寝床、服やお風呂を用意してくれたおじいさん。おじいさんの心のあたたかさに触れ、おじいさんと生活することに。そして、おじいさんとの天文や自然に関する会話から、自分が生きていていいと思うようになる。

 チハルさんは、「ムーミン」のスナフキンのような人。でも、過去にとても重いものを背負い、おじいさんに救われた。いや、おじいさんはひとつのきっかけであって、チハルさんの「生きたい」という気持ちを引き出したのかな。スナフキンのような言動は、おじいさんの影響です。おじいさんがもっと若くて、もう少し静かな人なら、チハルさんのようになったかもしれない…。

 このチハルさんが、トキオくんを動かします。27・28話、トキオくんも、おじいさんの心のあたたかさに触れ、おじいさんとの交流や星の話から、自分自身を認められるようになった。でも、もしおじいさんがいなくなったら…。生きること、死ぬこととはどういうことか。ひとりになるとはどういうことか。トキオくんの不安を、おじいさんのプラネタリウムと星の話、そしてチハルさんが優しく支えます。

 24話のトキオくんやコータのクラスメイトのスエツグくん、25話の謎の美女、26話のナノハちゃんの友達のしのちゃん。初期のオムニバスが戻ってきたようなこのあたりでも、チハルさんとトキオくんの話でも、そして最終話でも、この漫画は宇宙と人間の関わりを、科学の側からも、神話や文学・芸術の側からも教えてくれる。どちらも、人間が「宇宙のことをもっと知りたい、宇宙にもっと近づきたい」と思って、観測や研究を重ね、歴史の中で物語や作品がつくられてきた。プラネタリウムもそのひとつと言える。宇宙や星の姿や謎が少しずつ解明されるなかで、人は同時に宇宙に生きることとは何かという問いを映す。どう生きたらいいのか。辛いことや悩みがあって、ふと夜空を見上げて星空に見入ってしまうのも、そんな思いの投影だろう。

 25話で、おじいさんの奥さんについて語られたり、29話でおじいさんがどんな風にプラネタリウムをつくっていったか簡単な説明があったけれど、おじいさんはかなり苦労してきたんだと思う。でも、そう思わせない。表に出さない。全て肯定している。やって来た人は誰であれ拒まず、おじいさん流に心あたたかく迎え入れる。そんなおじいさんだからこそ語ることのできる星の話があり、このプラネタリウム「小宇宙」はおじいさんで生を受けているのだと思う。

 最終話(前後編)。トキオくんも、アスカちゃんも、皆、またひとつ成長します。トキオくんのラスト、志村さんに言った言葉がかっこよかった。でも、その後、「小宇宙」に来ていた人たちがどうなったかは語られません。でもプラネタリウム「小宇宙」はある。中に入れば、おじいさんが食べ物や飲み物とともに迎え入れてくれて、プラネタリウムを見せて星の話をしてくれる。そんな場所が、日本のどこかにあって欲しいなぁと思うラストでした。

 登場する人々が、色んな過去・現在を抱えていたり(過去や現在に問題を抱えていない人なんていないと思う)、最初は反発していたり。でも、心の奥底にはあたたかいものを持っている。それを引き出してくれるおじいさんとプラネタリウム。宇宙のことも学べて、心もあたたかくなる、素敵な漫画でした。ありがとうございました!!
 また好きな天文漫画が終わってしまった…(涙

 カバーを外した表紙のおまけマンガで、トキオくんがヴァイオリンで演奏していた曲のひとつが判明しました。クライスラー:作曲、「プニャーニの様式による前奏曲とアレグロ」のアレグロ。この曲です。
Itzhak Perlman-Pugnani Kreisler-Preludium and Allegro
 パールマンのヴァイオリンでどうぞ。この曲の後半部分、2分24秒辺りからです。トキオくん、こんな曲を弾けるんだ…!!すごい。この曲、知りませんでした。作者の上村先生はクラシックがお好きなのかなぁ?

・3巻感想:星の案内人 3
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by halca-kaukana057 | 2017-03-07 22:30 | 本・読書

大人になるっておもしろい?

 図書館の本棚を何気なく見ていると、時々ふと気になる本に出会います。この本は以前感想を読んで、それが頭の片隅にあった本。気になったので読んでみました。


大人になるっておもしろい?
清水真砂子/岩波ジュニア新書・岩波書店/2015

 10代の若い人たちに向けた「どう生きるか」を問う本です。でも、大人が読んでも面白い。寧ろ、大人が読むと忘れていたことや、かつて思ったことがあったけど心の奥底に押し込めていたことを思い出して、ドキリとするところが少なからずあると思いました。10代に限らない、10代特有のものでもないと思います。

 「「かわいい」を疑ってみない?」、「怒れ!怒れ!怒れ!」、「ひとりでいるっていけないこと?」など、10代でぶつかるであろう様々な心の動きを、時には挑発的にぶった切るように、時には古今東西の児童文学や様々なジャンルの本からヒントを引用してわかりやすく語ったり、意外な問題提起をしてみたり…読んでいて飽きません。著者の清水さんは「ゲド戦記」シリーズ他、児童文学を中心に翻訳をされてきた方。また、短大・大学で教鞭もとってらっしゃいます。20代の大学生との授業でのやり取りや、学生達とのふとした会話も取り上げているので、大人が読んでも面白いものになっているのだと思います。

 私は10代、20代のはじめの頃は、そんなに社会や大人に疑問を抱いたり、反抗したりすることはありませんでした。大人の社会に接する機会がほとんど無かったためだと思います。寧ろ、同年代や先輩・後輩と自分自身を比べて、自分の弱さ、不器用さ、頭の悪さ、リーダーシップや行動力のなさなどに落ち込むことが多かった。大学を卒業し社会人となり、この本で語られるような大人や社会に対する疑問や反論が出てきた。今も、あらゆる場面で、自分自身はどう生きるのか、この社会でどう生きるのか…疑問ややるせなさ、憤りを抱き、それらのやり場がなく心の中に溜め込んで苦しんでいることがよくあります。

 そんな私が苦しんでいたことに、この本がそっと、時にはガツンと答えてくれました。時には、反論したくなる箇所もあります。それも若者の新しい文化なんだ、など。「生意気」に。それも、この本に対してだったらいいのかな、と思います。この本はそんな感情を許してくれる気がします。

 どの章も印象深くて、書こうと思うと全部書くことになってしまうのでやめておきます。特に、「怒れ!怒れ!怒れ!」、「明るすぎる渋谷の街で考えたこと」、「心の明け渡しをしていませんか?」、「世界は広く、そして人はなんてゆたかなのだろう」、「動かないでいるって、そんなにダメなこと?」の章は心に強く残りました。「心の明け渡しをしていませんか?」では、何でも話さなくてもいいんだ、と安心しました。最近悩んでいたことにつながりました。「世界は広く~」で、何もかも嫌になり「どうせ」と思った時どうするかの答えはガン!ときました。私ならふて寝してしまうのですが、清水さんの考え方とエネルギーには感服しました。私の考え方・行動のパターンから、真似するのはちょっと難しいかもしれませんが、頭の中に入れておいて思い出すことはしたいです。自分の弱さや傲慢さを自覚するために。

 取り上げた本や映画のまとめもあって、読んでみたい、観てみたい作品も増えました。
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by halca-kaukana057 | 2016-07-03 23:06 | 本・読書

日日平安

 久しぶりに山本周五郎を読みました。時代物をしばらく読んでいなかったので、最初は時代物の雰囲気や言葉遣いに慣れませんでしたが、やはり山本周五郎、物語、人間の生きる世界に引き込んでくれます。


日日平安
山本周五郎/新潮社・新潮文庫

 井坂十郎太は江戸に行く途中、切腹しようとしている菅野平野という男に出会う。菅野の切腹しようとした理由に呆れつつも、何故か井坂は抱えていた藩の騒動を菅野に話す。そして、井坂と菅野はある作戦を立て、藩を救おうとする…「日日平安」他、橋本佐内に死罪を言い渡した井伊直弼と佐内の家族を描いた「城中の霜」、徳川光圀と彼の元にやって来た貧しげな浪人を描いた「水戸梅譜」、他全11編の短編集。

 「城中の霜」、「水戸梅譜」、「日日平安」などの歴史上の武家もの、「嘘アつかねえ」「しじみ河岸」「橋の下」などの人情もの、「屏風はたたまれた」の不思議もの。「末っ子」は下町もので実に滑稽でうまい。どれも読ませます。どんな身分の人も、人間である、ということをしっかりと描く山本周五郎の文章、物語には感服します。「若き日の摂津守」は武家もので不思議ものにも読める。光辰(みつとき)の戦略の巧みさに圧倒されました。

 江戸時代を描いた作品なのですが、どこか現代に通じるものがあるとも感じました。「しじみ河岸」のお絹の嘆きは、介護に疲れた現代人の嘆きと変わらない。胸が締め付けられる。「嘘アつかねえ」の信吉は下流社会に生きる者のような。「橋の下」も。"理由あり"で、橋の下でしか生きられなくなった男。その男の言葉は、現実にあるものだと思う。
「この橋の下には、人間の生活はありません」
「こういうところで寝起きするようになってからの私は、死んだも同然です、橋の上とこことはまったく世界が違いますが、それでも私には橋の上の出来事を見たり聞いたりすることはできます、世間の人たちは乞食に気をかけたりしませんし、もうこちらにも世間的な欲やみえはない、ですからどんなこともそのままに見、そのままに聞くことができます、いいものです、ここから見るけしきは、恋もあやまちも、誇りや怒りや、悲しみや苦しみさえも、いいものにみえます」
(355ページ)


 そしてどの話も、ラストが何とも言えない。ハッピーエンドでもバッドエンドでもない。まだこれから、その人の人生は続いていくのだと思う。たとえ何が起こったとしても。確かにそうだ。生きるということは、ハッピーエンドの小説のようになることはまずない。バッドエンドだったとしても、そこが本当に終わりだろうか。「ほたる放生」のような切ない一区切りはあっても、そこからどうなるのかはわからない。生きるということのひとコマを切り抜いて凝縮させた小説の数々。ひとコマだけだから、小説になるのかもしれない。そのひとコマをうまく見極める山本周五郎。うまい。本当にうまい。

 木村久邇典氏の解説の冒頭で、山本周五郎の言葉が記載されています。
「もし君があと数年たって、私の作品を読返してくれるならば、きっと現在読んで感じたものとは別な広がりを発見してくれるだろう。私の作品にはそれだけのものは含まれていると思うんだ」

 山本周五郎も他の作家の作品を読んでそう感じていたのだろうか。そんな作品を書きたいと常々思っていたのだろうか。何年も前に読んだ作品、そしてこの「日日平安」もまた読み返したい。その時、私はどう感じるだろうか。
 ちなみにこの解説、昭和40年(1965年)のもの。初版の解説から変わっていないのが嬉しい。「本当は単行本で買いたいのだが、私のサラリーではイタいので廉価版の出るまで待ちます」という読者の声も記載されている。全く同じです。私も単行本だと高いし、加筆修正もあると思うので文庫本を待つことが多い。50年前から変わってない!リアルタイムで山本周五郎の作品を読んでいた人々の声も読めて嬉しいです。50年前というと結構前のようで、最近のようで…不思議です。
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by halca-kaukana057 | 2016-02-10 23:39 | 本・読書

ReLIFE 4

 この漫画買ったの、読んだの何月だったっけ…?(オイ)この作品、読んでいると、色々と複雑な気持ちになります…。今年中に感想を書いてしまおう…。

ReLIFE(リライフ) 4
夜宵草/泰文堂・アース・スター・コミックス/2015

 ゴールデンウィーク、新太の部屋で追試対策の勉強会をしていた大神と杏。大神はバイトのために帰り、杏は残って勉強を続ける。が、突然、杏は「新太のことが好きだった」と言い出す。迫る杏を焦りつつも紳士的な態度で説得する新太。そこへ、夜明が部屋にいきなり入ってきた。杏の行動を批判し、杏も夜明のことを「先輩」と呼んでいる。一体…と戸惑う新太。実は、杏もリライフ研究所のスタッフだった。新太は2人に説明するよう毅然とした態度で臨む。
 連休も終わり、再び学校生活。友達のいなかった千鶴は、玲奈と、玲奈と同じバレーボール部の親友ほのかと友達になる。お昼ごはんを一緒に食べるようになり、そこで様々な話もするようになった。新太再び追試の日々。玲奈とほのかは、高校最後のバレーボールの試合に向けて練習をしていた。ほのかはバレーボール部の部長でエース。しかし、新太と同じように追試を受けることになっていた。勉強とバレーボール、どちらもがんばるほのか。しかし、追試が終わった後の練習中、ほのかは立ちくらみを起こし、そばにあったボール入れのかごにつかまり、かごを倒してしまう。かごから転がったボールは、アタック練習をしている玲奈の足元に…。

 3巻の最後からのあらすじです。新太と同じ転入生の杏。以前から怪しい動きをしていましたが、やはりリライフ研究所員でしたか…。夜明と一緒に、リライフ実験のことについて新たな説明をする。リライフ被験者になること。つまり、実験中の1年間の自分に関する記憶が関わった人たち全てから消えてしまうことを悪用するという例もある、と。そして新太を被験者に選んだいきさつも。何故杏も担当ではないのに同じ学校、同じクラスで高校生として暮らしているのか。そのあたりは、まだ裏がありそうです…夜明の「また半分ホントで半分ウソをつきました」(26ページ)。55話で、夜明と杏の2人の会話も気になる。また夜明の1人目の被験者の話も出てきました。新太のリライフ実験は成功させたい。充実した1年間を送って欲しい。2人の意見は一致はしている。が、その1人目の被験者のこと…リライフ実験の被験者は新太ですが、夜明、そして杏も一緒にリライフをしているのかもしれない。

 56話、玲奈とほのかと友達として、一緒にご飯を食べている千鶴。千鶴も少しずつ成長しています。そして話題になったのは、恋。玲奈は大神に恋心を抱いているが、本人は気付いていない。一方、千鶴は新太に…「わかりません」、と。55話では、新太も千鶴を意識するようなことを…。青春ですねぇ。新太は実年齢27歳ですが…いや、20代なんてまだ青春じゃないか、と思ってしまいます…。

 そのほのかと玲奈のもうひとつの青春。バレーボール。2人とも一生懸命練習して強くなっている。元々バレーボールは強く、エースのほのかの陰口を言い合っている後輩を、ビシッと論破する玲奈がカッコイイ。玲奈はほのかの努力を認め、憧れ、ほのかも玲奈を信頼し、努力している。とても素敵な友情です。学生時代ならではだなぁ。しかし、そんな2人に事件が。練習中に玲奈が足をくじいてしまう。ほのかが体調不良で立ちくらみを起こし、ボール入れのカゴを倒してしまう。転がったボールがアタック練習中の玲奈の足元に転がり…玲奈は転倒。試合にはギリギリ間に合うかどうか。玲奈にケガをさせてしまったと自分を責めるほのか。ケガがギリギリ治ってもその間練習できないなら試合に出てもうまくプレーできない。ほのかみたいに才能はない。努力してやっと。だから無理。ほのかとは違う…玲奈…2、3巻と同じような状況になってしまっています。

 ほのかは才能はあっても偉ぶらない、努力家で、他の部員よりも懸命に練習していることを玲奈はわかっているのに…つい言ってしまったんですね…。本当に玲奈は救われない、辛い状況にばかり立たされていて、読んでいて辛くなります。玲奈と同じように、飛びぬけた才能はない、努力することしかできない、学生時代、そう思って勉強も他のことでもそうやってきました。玲奈の悔しさ、強がりなところ、素直になれないところ…わかります。同じような経験を思い出してしまいます…。

 再び自分をどんどん追い詰めていく玲奈。ほのかとの友情にもヒビが。玲奈は足の怪我を誰にも話さないようにしている。仲が良かった2人の変化をおかしいと思う千鶴。ほのかの幼馴染の犬飼と朝地も、ほのかの変化に気付いている。新太も玲奈の行動がいつもと違うと気付く。いい加減、玲奈は報われて欲しい。こんなにがんばっているのだから、もっとラクに生きてもいいと思う。続きは連載を読んでわかってはいるのですが、スマホやPCの画面で読むのと、紙の本で読むのとは違います。前のページをすぐに読み返せる。やっぱり本は紙がいいなと思います。

・3巻:ReLIFE 3
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by halca-kaukana057 | 2015-12-30 22:57 | 本・読書

目に見えないもの

 ノーベル賞受賞式あたりにこの記事を書きたかったのだが、大幅に遅れてしまった。


目に見えないもの
湯川秀樹/講談社・講談社学術文庫/1976

 今年のノーベル物理学賞を受賞された梶田隆章先生。ニュートリノ振動、ニュートリノに質量がある、という研究。素粒子物理学は日本のお家芸とも言われる分野。それを切り拓き、日本人初のノーベル物理学賞を受賞した湯川秀樹博士。湯川博士の本を読むのは「旅人 ある物理学者の回想」以来です。

 前半は、湯川博士の物理学講座のような、物質とは何か、原子、分子、そして中間子とは何かという話。今読むと、ここから更に素粒子物理学に繋がっていって…と思えるのですが、書かれたのは昭和18年、20年…まだ戦時中。そんな時代に、湯川博士は「目に見えない」物質の根源の理論を考え、研究していた。もし、現代の理論物理学、素粒子物理学の最先端の話を湯川博士が聞いたら、どんな反応をするだろう…。今回の梶田先生のノーベル物理学賞の受賞に何を思うだろう。喜ぶだろうか。そんなことを思いながら読みました。

 後半は、湯川博士の生い立ちや、科学や自然などに関するエッセイ。エッセイというより、「随筆」「随想」と言った方がぴったりくる。二人の父、研究生活。中間子理論の研究については、日本の素粒子物理学黎明期をリードした坂田昌一博士の名前も出てくる。2008年にノーベル物理学賞を受賞した小林誠先生、益川敏英先生も坂田博士の弟子であることを真っ先に思い出した。湯川博士や坂田博士がいたからこそ、今の素粒子物理学があるのだな、と実感する。

 以前「旅人~」を読んだ時、静かで物寂しいと感じ、そう書いた。第3部の随筆・随想の部分は、詩人のような趣もある。ひとつの事柄に対して、静かに、深く、考えをめぐらせる。静謐な言葉に、湯川博士だけでなく、寺田寅彦や中谷宇吉郎など優れた科学者は文章も美しいと感じる。特に、「未来」と「日食」という短い文章が気に入った。感情という科学では捉えきれないもの、記憶、そして未来という不確かなものを、じっと見つめている。その中で、「科学」は何ができるか。可能性であり、希望である、と。科学に対して、研究することに対して、そして人間に対してとても真摯な方だったのだなと思う。

 時々、今の科学の礎を築いてきた科学者たちの言葉に触れたくなる。そんな本のひとつに、この「目に見えないもの」も入れたい。

・過去関連記事:旅人 ある物理学者の回想
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by halca-kaukana057 | 2015-12-27 22:16 | 本・読書

星の案内人 3

 今度は買って読んでから時間が経たないうちに感想を書こうと思います。天文・プラネタリウム・星見漫画「星の案内人」第3巻です。


星の案内人 3
上村五十鈴/芳文社・芳文社コミックス/2015

 "おじいさん"の私設プラネタリウム「小宇宙」。「小宇宙」の常連のトキオは、ある日学校で「ヴァイオリンを弾けるって本当?」と噂になる。トキオは人前ではヴァイオリンを弾けなくなっていたので、噂されても困る。トキオがヴァイオリンを弾くことを知っていて、学校で噂になる…言ったのはコータだ。そう思ったトキオがいつものように「小宇宙」に行くと、コータがいた。更に、「小宇宙」にはいつものように常連の人々が集まって盛り上がっている…コータにイライラしていたトキオは、「ここはプラネタリウムで飲み食いするところじゃない!!」と言い、出て行ってしまう。ひとりになったトキオは、初めて「小宇宙」に来た時のことを思い出す…。

 3巻はトキオ君がメインです。1巻、最初の頃は、「小宇宙」にいるのはおじいさんとトキオだけだった。それが、何らかのきっかけで偶然訪れ、おじいさんのプラネタリウムに魅せられ、今のように賑やかな「小宇宙」になった。おじいさんとトキオ、「小宇宙」とトキオがどう出会ったのか、過去のお話がついに語られます。両親と離れ、フミおばさんの家で暮らすようになったトキオ。ヴァイオリンも弾けなくなり、失意の中にいたトキオが、ある日いつもと違う道を歩いて、「小宇宙」にたどり着いた。おじいさんに出会い、プラネタリウムを見せてもらい、宇宙の話を聞く。それから、「小宇宙」に通うようになったが、トキオ以外に誰も来ない。その後、人々が集うようになった。おじいさんとトキオだけの「小宇宙」でも、人々が集うようになった「小宇宙」でも、トキオが願うことは同じ…。

 「小宇宙」に集う人々は、自分のことも考えているけれども、それ以上に他者のことを考えている。心の奥に何かを抱えていて、日々もがき、生きづらさを感じている。それは、人を思う優しさを持っているからじゃないだろうか。あのやさぐれ小説家の志村さんも(志村さんについては後ほどまた)。心に傷を抱えているからこそ、人の痛みも優しさもより強く感じられる。ただ、時々素直になれないだけ。トキオも、コータも。この15・16話で、ちっぽけだったトキオの新たな"宇宙"が生まれ、始まった。「宇宙」という言葉の由来は、空間と時間両方の広がりを意味している(ざっくり過ぎる解説ですみません…話すとかなり長くなります…もっと詳しく知りたい方は、資料はありますので検索してみてください)。そういえば、音楽も、空間と時間に関係しているような。

 あと、2巻も読み返してみて気がつきました。トキオやフミおばさんは「ヴァイオリン」と、おじいさんやコータたちは「バイオリン」と話し、表記されている。音楽や楽器に対しての考え方やとらえ方がこの一言でわかってしまう。凄い…書き分けている…!!感激しました。あと、トキオやコータが通う田舎の学校では、ヴァイオリンなんて珍しい楽器。特別視されるのも無理はない。トキオ君のヴァイオリン演奏はかなりの腕前だったと伺えます。何を弾いていたのだろう?やはりバッハか。ベートーヴェンも弾いてそう。

 17・18話では、瀬尾さんがかつて勤めていた会社の後輩・小野崎さんが登場。これまたかなりのひねくれ者…やっぱり、色々と抱えているのですが…。ひねくれ者と言えば、志村さん。志村さんの指摘が鋭い。一方で、おじいさんも小野崎さんに対して、おじいさんのやり方で迫ります。おじいさん、一癖二癖ある「小宇宙」に集う人々を何だかんだ言って説得させてしまう…一番のツワモノです…。
 太陽系の微妙なバランス。木星の"役割"。ちょうど今、日没後の西の空に木星が見えていますが、木星がもし無かったら、あの木星が違う動きをしていたら…と思うと恐ろしくなります。太陽系であれ、銀河や銀河団、宇宙全体をどんな力がどう作用していて、今のこの宇宙が成り立っているのか。そこまで考えてしまいます。本当に宇宙は壮大です。だからこそ惹かれます。

 19話は、2巻の13・14話で登場した犬のクロと、クロと仲が良かった少女・ナノハちゃん、そして行方不明になっていたクロとナノハちゃんをクロの家まで送っていった瀬尾さんの友人・千田さんのお話。14話ではさらっと取り上げられていた部分に、こんな物語があったとは。
 この19話のタイトルが「スーパームーン」…。これ、天文用語じゃない…。最近ネットで取り上げられるようになった言葉…おじいさんよく知っていたなぁ…。でも読んでみると、「スーパームーン」という言葉だけ借りて、あとは天文から外れてない。問題ない、よかった。同じ満月でも、月の楕円軌道の地球に近い点(近地点)と遠い点(遠地点)での大きさと明るさは異なっている。それを、ナノハちゃんから見た千田さんに当てはめた。地球から見える月のように。ナノハちゃんと千田さんは今後も出てくるはず。ナノハちゃん、がんばれ!

 さて、トキオ君にとって、寄り添ってくれる存在だったけど、今は辛い存在であるヴァイオリン。15・16話でトキオ君の新しい「宇宙」が始まりましたが、20・21話でついに…。新しい「宇宙」が始まっても、星が生まれるまでは時間がかかる。生みの苦しみを味わうトキオ。そんなトキオに志村さんの言葉が突き刺さるけれども的を得ている。
(トキオ)ぼくはどうせ何をやったってだめなんだ。
(志村)今のそのトキオ君は何をやったってダメだね
いっぱいになったコップに水を注ぐにはどうしたらいいと思う
というよりそんなコップ大事にする価値ある?壊しちゃえばいいと思わない?
(144ページ)

 トキオにとってのいっぱい水が入っているコップ…かつての「ヴァイオリンを演奏していたトキオ」に戻ろうとするのではなく、新しい星が生まれたトキオへ。"生まれ変わった"トキオの表情がとても清々しい!一方の「小宇宙」。トキオやコータの担任の先生と、校長先生。校長先生も、若き日の失敗から、新しい「宇宙」が始まり、星が生まれた。いっぱい水が入っているコップを壊し、新しいコップを手に入れた。

 思えば、新しい星が生まれるためには、超新星爆発を起こした星の残骸の塵やガスが再び重力によって集まり、新たな星雲となり星が生まれる。何かが始まるためには、何かが終わる必要がある。トキオも校長先生も、心の中で終わりを告げた星の残骸から、新しい星が生まれ、再び輝きだしているのだろう。この3巻で一番印象に残っている部分。私も、かつての自分、いっぱい水が入っているコップにこだわっている。こだわりながら、新しい何かを探してつかもうとしている。これじゃ何もつかめない、生まれないな。読んでいてようやくわかった気がする。
 
 世界各地の星にまつわる神話や伝承は、星空をよく見ていた古来の人々の観察眼から生まれたものだとわかる。この漫画は、星にまつわる神話や伝承を、ギリシアだけでない世界各地のものから、そして様々な視点から取り上げていて、作者さんはよく勉強されているんだなとわかる。その上で、人間の物語にも当てはめてくる。星空には、人間の生き様が、心が映る。

 21話のラストは涙腺緩みます。新しい一歩を踏み出したトキオ。さぁ、どこへ行こう。これからが楽しみです。

 おまけ漫画も面白い。本編ではほとんど出番が無かったフミおばさんが…。そして、ギリシア神話のゼウスの見方も変わりました。小野崎さんはまた出てくるかな。志村さんとのひねくれ者対決がこれからどう進むのか、気になります。

・2巻感想:星の案内人 2
 最初はオムニバスのような感じだったのに、すっかり「物語」になっているのが感慨深いです。
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by halca-kaukana057 | 2015-07-10 22:37 | 本・読書

青い光が見えたから 16歳のフィンランド留学記

 かなり前に出て、フィンランド関係で読みたいと思っていたが読めずにいた本。ようやく読めました。


青い光が見えたから 16歳のフィンランド留学記
高橋絵里香/講談社/2007


 小学生の時に読んだ「ムーミン」シリーズがきっかけでフィンランドに興味を持った筆者。いつしか「フィンランドに行きたい。フィンランドで暮らしてみたい。フィンランドの学校に通いたい」と思うようになった。高校生になったらフィンランドの学校に留学する、と目標を立てた。しかし、中学生になり、上級生下級生の上下関係が厳しく、先生は絶対であり、体罰や脅しもあることに疑問を持つようになった。親しくなった先生にも裏切られ、いつしか皆と同じ、自分を押し殺し、他者の顔色を伺いビクビクしながら暮らすようになった。フィンランドへ留学することも諦めていたが、中学2年の時に下見とフィンランドへ家族で旅行し、受け入れてくれそうな学校を探す。見つかったのはロヴァニエミのリュセオンプイスト高校。留学といっても、1年間ではなく3年間。入学して、卒業するまで。留学への壁は厚い。フィンランドの滞在許可が下りるか。フィンランド語も満足にできないのに留学できるのか。フィンランドの高校の卒業試験はとても難しく、突破できるのか…。精神的に不安定になりながらも、やっぱりフィンランドの高校に行きたい。ホストファミリーも無事に見つかり、滞在許可が下り、中学を卒業した筆者は、フィンランドへ旅立った…。


 この本が出た頃、フィンランドの教育が注目されていたのだったっけ?よく覚えていない。フィンランドの教育はいい、日本の学校との比較はあまりしないように書きます。日本の学校でも、フィンランドほどではないが自由でおおらかな校則・校風の学校はある。あくまで、高橋さんが体験したフィンランドでの高校生活について書きます。

 きっかけなどは異なるが、フィンランドに興味を持っていて、フィンランドに行ってみたいと思っている…私も同じだ。フィンランドに行くなら、できるだけゆっくり滞在して、フィンランドの人々と触れ合ったり、森と湖の自然を満喫しながら、私がフィンランドに興味をもつきっかけになったシベリウスの作品を聴きたい、と思っている。だが、私がそんなことを思うようになったのは社会人になってから。仕事もある、生活費から旅行資金を繰り出すのはなかなか難しい。体調面でも不安がある。ゆっくりとフィンランドに滞在する…少なくとも2週間…時間も取れない。もしかしたら、行けないままかもしれない。届かないまま、憧れのままで終わるかもしれない。そう思いながら、シベリウスやフィンランドの音楽を聴いたり、「ムーミン」シリーズを読んだり、フィンランドの写真をネットで探してみたり…。

 この本を読んで、若いっていいなとまず思った。エネルギーがある。窮屈な中学校、日本から飛び出したい。1年間の交換留学じゃ短い、とフィンランドの高校に留学というよりは入学することを目指す。精神的に不安定になりながらも、それでもフィンランドに行きたい!!とひとつひとつ厚い壁を乗り越えていく。若さもあるし、両親の理解と支援が何よりも心強い。恵まれている。学校で先生に反対されても、両親は理解して背中を押してくれる。いいなぁと、正直羨ましく思った。

 そして入学。フィンランドの高校は単位制。移民や留学生のための外国人のためのフィンランド語の授業もある。本ではさらっと書いてあるが、実際、筆者がフィンランド語をマスターするのはとても大変だったのだろう。フィンランド語は名詞も動詞も格変化が多くとても難しい。しかも、日本語で書かれたフィンランド語の本は今は少しは増えてきたが、筆者がフィンランドに渡った2000年ごろはほんの少ししかなかったはず。フィンランドで筆者が買ったのは、フィン英・英フィン辞書。ストレートに母国語でマスターできない難しさは相当のものだったろう。だが、間違えてもいいからフィンランド語をマスターして、国語の読書感想文を発表したり、試験も受ける。試験はレポート記述式のような形で、最初はほとんど何も書けなかった。その試験は0点でも、成績は…試験の結果だけじゃない。高校の先生も、友達も、高橋さんの努力する姿、前向きに学ぼうとする姿勢を評価し、ほんの少しのことでも誉めてくれる。間違っていることや足りないことははっきり言うが、いいところもちゃんと見る。子どもも大人もそんな考え方が出来ていて、それで学校が成り立っていていいなと思う。

 フィンランドの人たちに日本のことを紹介することも何度かあった。日本語、食べ物、文化…。普段でも、外国にいく時には特に、日本のことをちゃんと紹介出来るようにしておきたい。
 高橋さんがフィンランドで迎えたクリスマスも印象的。ロヴァニエミはサンタクロースが住んでいる村がある町としても有名。クリスマス前には、世界中にプレゼントを配りに出発するサンタさんのニュースを観たことがある。フィンランド人にとってクリスマスは、家族で過ごす大事な日。日本のようなわいわい賑やかなパーティーは1ヶ月前に済ませておくそうだ。フィンランドにも一応ワイワイ騒ぐクリスマスパーティーもあることは初めて知った。そして、この頃はフィンランドは暗く寒さの厳しい季節。ロヴァニエミは北の方の町なので、日中はほとんど真っ暗。気温もマイナス30度を下回る。厳しい自然の中だからこそ、よりクリスマスの暖かさが際立つのだろう。

 勉強は難しいが、高橋さんはフィンランドで閉ざした心を徐々に開いてゆく。厳しい上下関係も、体罰や脅しをする先生もいない。先生は親しみを込めてファーストネームで呼び(寧ろ呼ばれないと親しみをもたれていない証拠なのだそうだ)、髪を染めたりピアスも開けていい。高橋さんも髪を染め、ピアスも開けた。日本では先生は絶対だし、校則も厳しく、ピアスは禁止されていると言うと、理解できない、と。私がもし何故禁止されているのかと聞かれたら「風紀を乱すから。日本ではピアスは好ましくないもの、学校や大人、社会への反抗とみなされるから」と説明するだろうが、これで理解されるだろうか。
 そして、フィンランドに来た頃はフィンランドの人々から見れば、高橋さんはとても暗い表情をしていたという。シャイな日本人、では説明しきれないほどの。1年も経たないうちに、表情も、服装も明るくなった、と。3年では元々得意なドラムを生かして友達とバンドを組み、学校で演奏もした。「自分の居場所」と言えばいいのだろうか。自分を素直に表現できる環境。人も場も受け入れてくれる。高橋さんにとってフィンランドはそんな場だった。自分を押し殺し、苦しんだ中学とは全く異なる世界。そんな環境に出会えた…というよりも、自分で切り拓いて見つけたことに、いいなぁと思いながら読んでいた。

 フィンランドの高校は、3年と決まっていない。学びたいことの進度・深度や自分のペースによって、3年半や4年の人も少なくない。高橋さんも4年で卒業することを目指す。卒業するための最大の難関…卒業試験。これは学校ごとではなく、フィンランドの国全体で行われるもの。卒業できるかどうかは国が決める。試験も長文の記述式のものがほとんどで、試験時間は1教科最大で6時間。厳しく徹底しているというか、丁寧だなと思った。高校生ひとりひとりの答案を読んで、採点して、相対評価で成績・合否を出す。フィンランドは日本よりも人口が少ないけれど、それでも大変なことだろう。高校で何を学んだか、どれだけ学んだか、国が見守っているという印象を受けた。

 その卒業試験前の最後の登校日の「アビの日」が凄い。ここで鬱憤を晴らして、厳しい試験に臨むのか…。

 フィンランド語が満足にできなかった高橋さんは、フィンランドに来る前に卒業試験に合格するのは無理だと学校では思われていた。しかし、信じて挑戦し努力していれば、道は拓ける。味方してくれる。試験の成績発表の最後あたりは胸が熱くなった。
 最初から最後まで、「いいなぁ」という思いで読んでいた。実際はもっともっと大変だったはず。この本には書ききれないことが沢山あったはず。それでも、フィンランドという環境は高橋さんに合っていたからこそ、苦労も乗り越えて、挑戦し努力し続けて、ここまで来ることができた。そして挑戦することから遠ざかっていた私は、読んだ後、「私はどうしたい?」「何がやりたい?」「難しそう?でもやってみたい?」と自分自身に問いかけている。

 この本、文庫化しないのが不思議である。出版社も講談社だし、様々な選定図書にも選ばれているし、文庫化して、中学生や高校生、若い人にもっと読んでほしいと思うのだが…。
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by halca-kaukana057 | 2015-07-02 23:10 | 本・読書


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